筆頭10柱編⑪ お城の人との話し合い
本日は改めてお城にやってきた。
お城の重鎮の方にウヨーリの教えの有用性を知らしめるために!
ヴィクトリアさんがきちんと仕事をしてくれたのだ。
ヴィクトリアさんから、ルビーフォルンの領地政策のことをお城の人にそれとなく話を通してもらい、その中で興味を持ってくれたお人がいて、本日お話しする機会をいただいた。
お会いする前にお手紙でやり取りを少しさせてもらったけれど、誠実そうな印象の方で好印象である。
お名前は、アルベール=ヨルサヘヤ様という方で、なんと魔法使い様だ。
あまりお城の内部のことは、色々とベールに包まれて、詳しくは調べられなかったけれど、結構城内では発言権のあるお方だとヴィクトリアさんが言っていた。
そんな方が、私の話に興味を示してくれたなんて緊張するけど、せっかくの機会、しっかりやらなければ。
そして現在は、城内で待機中。
なんだかんだで正念場というか、今後のための大事なファーストインプレッション!
格好も新しいドレスを仕立てたり、気合もはいっている。
なんとなくちゃんとした格好をしていると、ちゃんとしなくちゃって気になってくるし!
私が気合をいれていると、待機していた部屋の扉が開いた。
「君がルビーフォルン商会の、リョウ=ルビーフォルン殿だろうか?」
低音の渋みのある声に呼ばれてそちらに目を向けると、長い黒髪を後ろに縛った長身の男の人がいた。
お城の案内人かと思ったけれど、使用人にしては格好がきちんとし過ぎている。
きている服の仕立ても良くて高級そうだ。
これはただの案内人じゃない雰囲気。
というか、なんだか、クロードさんに似ている。髪の長いクロードさんだ。
そんなに髪の毛伸ばして……イメチェンですか?
いや、そんなことないよね、あそこまでいきなり伸びるわけないし……かつら?
どなただろうと思って、ちょっと惑いながらも、もしかしたら、本日お会いする予定のお城のお偉いさんの可能性もあるので、姿勢を正した。
そして内心の動揺を隠しながら、「はい、リョウ=ルビーフォルンと申します」って答えると、声をかけてきた相手が微笑んだ。
「突然声をかけてすまない。私は、アルベール=ヨルサヘヤ。本日、貴女を呼び出した者だよ」
柔らかな声色でそう言われて、やっとこの渋イケメンの正体が判明した。
ルビーフォルンの領地政策に興味を持ち、理解を示してくれた魔法使い様だ。
まさかの待合室で待っていたら、いきなり本人登場とは。
普通、使用人に案内させて落ち着いた部屋で、初めましてな流れよね?
ていうか、この、黒い髪に黄緑色の瞳に、しかもクロードさんとそっくりな容貌、もしかしてアルベール様って……。
「初めまして、本日はどうぞよろしくおねがいします。あの、失礼ですが、アルベール様って、レインフォレスト領にご関係のあるお方、でいらっしゃいますか?」
私が失礼を承知でそう尋ねると、アルベールさんは、柔らかく微笑んで頷いた。
「ああ、そうだよ。ハハ、実は君のことは、アイリーンやクロードから色々聞いていて、良く知っているんだ。こうしてあえて嬉しいよ。私はクロードやアイリーンの父だ。それに君のよく知っているアランの祖父にあたる」
アランの祖父!? ええ!? 若くない!?どう見てもクロードさんと同年代のように見えるけれど祖父!?
あ、そうか、魔法使いは老けにくいから……。うらやましすぎる!
それにしてもアランの家系ってすごい。
だって、アランのお母さんにあたるアイリーンさんは領主、父のカーディンさんは前王のご子息、叔父のクロードさんは大商人、そしてお祖父様がお城の重鎮らしいし、そういえばゲスリーも一応親族だ……アランって根っからのお坊っちゃまだよね。
ちょっと驚きながらも淑女の礼をとった。
「いつもレインフォレスト領の皆々様には大変お世話になっております」
「いや、そうかしこまらずともいい。孫の友人ならば、私にとっては孫のようなものだ。いてもたってもいられずここまで来てしまった」
そう言って、微笑む姿は、確かに孫を大切に思うご老人のような雰囲気だった。
しかも、いてもたってもいられず自ら足を運んでくれるなんて、なんだかちょっとアランっぽさを感じる。
「ありがとうございます。いつもアラン様には良くしていただいております」
そしてここでふと思い出した。
そういえば、アランには、アランのお爺様にお会いしたいですーと、前々からお願いしていて、アランがお爺様にお手紙を送って、お会いする機会を作ろうと頑張ってくれていたのを知ってる。
でも、先日、進捗を聞いたらダメそうな雰囲気だったのだけど、もしかして、これサプライズ?
実は、アランの頑張りのおかげで、アルベールさんは私に興味を持って会うことにしたのだろうか?
「アルベール様、もしかして、こうしてお会いするお時間をいただけたのって、アラン様からのお手紙をお読みになって、というのもあるのでしょうか?」
私が、子分に感謝しながらそう聞くと、アルベールさんは不思議そうな顔をして、首を傾げた。
「アランの手紙……? いや、私は純粋に、君の領地経営案に興味があって、そうしたら、以前からアイリーン達が話している少女からの提案だと分かって、それで……」
と、答えたアルベールさんは、ハッと何かに気付いたような顔で、固まった。
そして「あー、なるほど、そういうことか」と言って、アルベールさんは、ハハハと笑った。
一体なにが、なるほどなのだろうと、戸惑いつつ見守っていると、アルベールさんが申し訳なさそうに私の顔を見て微笑んだ。
「すまない。確かに、アランから最近会ってもらいたい人がいるという手紙をもらってはいた。君のことだと気づかず、そのまま流してしまっていたのだよ。アランときたら、まるで恋人を紹介するような文章を書くものだから、そういうのはアイリーンに言いなさいと何度か返事はしていたんだが……。友人に私を会わせたかっただけだったのか。私の勘違いだったみたいだ。すまないことをしてしまったな」
そう言って、面白そうに笑うアルベールさんにつられて、私も、「まあ、アラン様ったら、ふふふ」とお上品に笑ったけれども、一体アランはどんな内容の手紙を書いたんだ……。
そして一通りふふふと笑ったあと、アルベール様は、別の部屋に案内してくれた。
城で使っている客間らしく、何気に壁が分厚い。
大事な話をするときに使う部屋っぽい。
内装も落ち着いた色で統一されている。
私は勧められた席に腰を掛けてアルベールさんと向かい合った。
そしてさっそく本題に入る。
ウヨーリの教えの有用性、農民にある程度の知識をつけさせることの利点、どうやって魔物の災害をルビーフォルンが乗り越えたか……。
そこからはさすが国の重鎮らしく、きりりとした顔で、私の話を聞いたり、質問をしてくれたりしてくれる。
もともと興味を持ってくれたというだけあって、アルベールさん的にはこのウヨーリの教えに関しては寛容な雰囲気だ。
アランとかクロードさんに似てるっていう雰囲気もあって、私も結構リラックスして臨めたし話し合いは順調。
話が一区切りついたところで、私は思い切ってアルベールさんに質問をしてみた。
「正直、どう思いますか? 特に、農民の皆さんにある程度生活についての知識をつけさせることについては……?」
「私はいいと思っている。むしろ、彼らには、知識という力をつけてもらわないと国は回らないのかもしれない。……先の大雨における災害で、思い知ったよ。国の弱さが出てしまった。魔法使いの数は年々減っていっている。もう昔のままの価値観ではだめなのだろうな。以前から、アイリーンやクロードから、そう、言われてはいたんだ。魔法に頼り切ろうとする私の考えは古いと。だが、愚かな私は、あの災害を目の当たりにするまで、そのことを受け入れられなかった」
そう苦々しくつぶやいたアルベールさんの顔には憂いがある。
こんな時にミーハーな気持ちで申し訳ないけれど、渋くて、イケメンだ。
「ところで、ここまでのものを農民に広げるには、時間と手間がかかると思うんだが、ルビーフォルンではどうしたのだろうか?」
あ、ミーハーな気持ちでいたら、あまり聞かれたくないことを聞かれてしまった。
いや、でも、いつかは聞かれることだし話さなくちゃいけないことだ。
それに今なら反応もいいし、チャンスかもしれない。
「農民の方々の間で、勝手に物語にして広めてくれていたんです」
「物語……?」
「はい。魔法使いのような奇跡の力を使える人が、物語の中心で。その物語の中に教訓としての知識や、話を取り入れて、それを口頭で語り合いながら、広まっていきました」
と答えて、何もやましいことはありませんという感じでにっこり笑う。
「なるほど、物語にしてか。口伝ということだな。確かに文字を読めないものばかりなのだから、その方法が良いのだろう。なかなか面白い。わかった、この話は私が責任をもって預かろう」
と言って、アルベールさんも穏やかに微笑み、私が持ってきた書類をまとめた。
そろそろ時間的にも話し合い終了のころ合い。
物語の部分を深く突っ込まれずにほっとした。
だって、深く突っ込まれてさすがにウヨーリの話をするのはまだ早い。
もう少し私が権力を手に入れて、国政にもっと口を出せるぐらいにならないと。
せめて、正式な筆頭十柱になって、私を早々にないがしろにできないぐらいの立場になれば、少し強引にでもいい方向に話を持って行けるはずだ。
そして、私が正式に商人ギルド筆頭十柱になるのは、もうすぐだ。
私が固い決意をすると、おもむろに、アルベールさんが口を開いた。
「それと一つ聞きたいことがあるのだが……」
「はい、な、なんでしょう……?」
当たり障りのない質問でお願いします!
「君に、婚約者のような将来を約束した人はいるだろうか?」
唐突な質問にぽかんとなりながらも「いえ、婚約者はいませんが」と答えた。
するとアルベールさんは、満足そうに頷いて、「そうか」とつぶやいて、私をお城の外まで自ら見送ってくれた。
一体最後の質問は何の意味があったんだろう?
まあ、いっか。思いのほかにいい感じに話し合いがうまくいったし。
これならもっと早い段階で、目的を達成できるかもしれない!









