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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第四部 転生少女の独立期
186/304

筆頭10柱編⑦グエンナーシス勢の帰還

「ということで、学園祭をすることになりました!」


 図書館にアランとリッツ君を集めて私は来るべき日について打ち明ける。

 色々なことを端折りつつも、大雨の災厄で頑張ってくれた貴族様方を労おうという感じの催しが国を挙げて行われることと、その一環として学園もそのお祭りを一緒に盛り上げるべく学園祭を決行することになった旨を伝えた。


「学園祭……?」

 聞きなれない言葉にアランが首をかしげる。


「そうです。以前アランが教えてくれた慰労会、数日の期間にわたって結構盛大に行われるみたいなんです。その期間中は、たくさんの貴族・準貴族の方々が来られる予定ですし、学園の生徒達のことを知ってもらえるいい機会かと思います。それに学園の生徒達は先の魔物襲来の際には、頑張ってもらったので、その労いの意味も兼ねてます。結構予算も下りたので、楽しいものができそうですよ」


「ふーん。それで、具体的に学園祭って何をやるんだ?」

 アランに言われて、私は台本を出した。


「劇をやることになりました! あとせっかくですし、他にも生徒のみんなが楽しめそうな催しもしようかなって思ってます」


 思わず声が弾んだ。

 色々と思惑を秘めた学園祭だけれども、なんだかんだで、友達と学園祭をできるとかそういうの、なんかワクワクしちゃう。

 ただ、できればここにシャルちゃんやカテリーナ嬢達がいてくれたらもっと楽しいだろうけれど……。


 グエンナーシス領の皆は今頃何をしているのだろう。


「劇……? 芝居屋を呼んで観劇するのか?」


 アランが劇に食いついてきて、そんなことを聞いてきたので、私はアランに顔を向けた。


「いえ、観る方ではなくて、劇をする方ですよ」


「え? 俺達の学園での頑張りを労うための催しでもあるんだろう? なんで、俺達が何かやらないといけないんだ?」


 まあ、そう思いますよね。


「深いようで浅い事情があるんですよ……」

 そう、主に大人たちの暗い事情がね……。

 

「でも、皆で力を合わせて何かをするのってこういう機会がないとなかなかないですし、それはそれで面白いかなって思ってもらえれば」

 私がそう説明すると、アランも多少は納得したらしく、「まあ、確かに、劇なんかやったことないしな」と言って頷いてくれた。


 せっかくの機会だし楽しいものだと思ってもらいたい。

 始まりが大人の事情によるものだとしても。


「その学園祭までには、シャルとかグエンナーシス領の皆もこれればいいね」

 リッツ君の言葉に私も深々と頷いた。

「そうですね……」

 本当に、来てくれたら嬉しい。

 久しぶりに会って無事を確認したいし、色々話したいし、できれば、一緒に学園祭を盛り上げていきたかった。


 グエンナーシス領の領主もその慰労会にはもちろん招集をかけているので、そのタイミングでカテリーナ嬢達含むグエンナーシス領の人たちが来てくれる可能性は大いにある。

 グエンナーシス領の領主が、来てくれたら、だけど。


 グエンナーシスの動向は、未だあまり掴めていない。

 慰労会は、まだまだ先。

 時期的には、私たちが学園を卒業するタイミングとほぼ同じぐらいの予定だ。

 

 来てくれるだろうか……。

 それに、もし来なかったら、その時はきっとグエンナーシス領は……。


 私は嫌な想像を頭を振って追い出した。


 まだ、決まったわけじゃない。

 確かに魔物の災害の時の国の対応は最悪だった。

 でも、だからと言って、それでグエンナーシス領が反旗を翻すなんてことは、考えにくいことだと思う。

 勝算がないというか……現実的じゃない。

 だから、大丈夫……。


-----


 とあるタイミングで、七三の校長先生から、学園の生徒たち全員に慰労会が行われるという発表もしてもらって、学園祭実行委員会を発足した。


 なんだかんだで初めての学園祭なるものに、学園の雰囲気が浮ついてきている。

 仲間たちと、何をしようかな、とか劇の準備もしながら、他のイベントごとなんかにも頭をひねらせて忙しく過ごしていたら、彼女たちが学園に帰ってきた。


 そう、カテリーナ嬢が学園に帰ってきたのである!


 帰ってきたカテリーナ嬢達が女子寮の談話室にいると聞きつけた私は、急いでその場に向かった。

 談話室に入ると、きゃあきゃあと女子たちの嬉しそうな声が響いている。

 お久しぶりのカテリーナ嬢が女子寮に帰ってきたので、他の生徒がカテリーナ嬢の周りを取り囲んで無事を喜んでいるのだ。

 カテリーナ嬢の他にも数人、グエンナーシス領の生徒達も帰ってきている!


 私は喜び勇んで、目立つドリル髪の彼女のもとに向かおうとしたけれど、意外と人混みが……と思って躊躇していたら、私がきていたことに気付いた生徒達が、「リョウ様よ!」と言って道を作ってくれた。


 まるで、モーゼの奇跡のように、人の波が割れると、カテリーナ嬢と私の間に障害物が一切なくなる。

 なんというか、あれなんだよね、新学期はじまってからというもの、私の扱いがね、もうなんかすごいことになってるんだよね。

 勝利の女神とか呼ばれて、きゃあきゃあ騒がれている。


 あまりな過剰反応に引きながらも、まあせっかくだし、カテリーナ嬢と話したいしってことで、大人しくつくられたモーゼの道を歩いてカテリーナ嬢の前にきた。


「カテリーナ様……よかった。またお会いできて。学園に戻ってきてくださるなら前触れを出してくれればよかったのに!」

「ごめんなさい。慌ただしくこちらに戻ったものだから、余裕もなかったのよ。でもこうやってリョウさんの元気な姿を見れて良かったわ」

 そうお互いに声をかけて、無事を確かめあうように再会の抱擁をした。


 あ、なんか、カテリーナ様、少し痩せた?

 それに髪の毛の艶だって、前ほどじゃない。


 やっぱり、色々、大変だったよね……。

 でも、また会えた。戻ってきてくれた!

 嬉しい。思わず目に涙が滲む。

 良かった。本当に良かった!


 私はますます彼女を抱く腕に力を入れた。


 私達は、一通り無事を確認すると、体を離した。

 そして、周りに少しだけ視線を向けてから、カテリーナ嬢に問いかける。


「シャルちゃんやサロメさんも戻ってきたんですか?」

 今ちらっと見た感じだと、談話室にいるグエンナーシス領の生徒達の中にシャルちゃんとサロメ嬢はいない。

 私の問いかけに、カテリーナ嬢は少し顔を暗くして、首を横に振る。


「まだ領地がバタバタしていて……一部の人はこちらにこれなかったの。でも、シャルロットさんはそのうち戻ってくるわ」

「シャルちゃんが!? それは嬉しい、ですけど……」

 と最初こそシャルちゃんにまた会えると思って嬉しく思ったけれど、カテリーナ嬢の顔色は優れない。

 というかシャルちゃんは戻ってくるって言ってくれたのに、サロメさんの戻りを言ってくれないのって……。


「カテリーナ様、サロメさんは?」


 私は恐る恐る、震えそうな声で聞いた。

 彼女に何か、あったのだろうか。


「大丈夫、サロメも、無事よ。ただ、学園には、戻れない、と思う……」

「学園に、戻れない?」


 私がそう聞いたタイミングで、「カテリーナ様、そろそろ」となんか冷たい感じの口調で話を遮られた。

 このモーゼの奇跡を体得している私の話を遮る生徒がいるなんて!

 と思って声のした方を見ると、見慣れない鎧を着た大人の人だった。

 顔まで兜で隠した重そうな鎧。生徒じゃないのは明らかだ。そんな人がカテリーナ嬢の周りに数人いて、鎧には、グエンナーシス伯爵家の紋が刻まれている。


「わかっているわ。部屋に戻ればいいのでしょう!」

 いらだったようなカテリーナ嬢の声に驚いて、カテリーナ嬢の方に顔を向けると、彼女は何故か悔しそうな顔で下を見ていた。


「カテリーナ様、彼らは……?」


「……護衛よ」

 そうカテリーナ嬢はぽつりとつぶやく。

 護衛が寮の中まで……?


 色々と腑に落ちないでいると、カテリーナ嬢は顔を上げた。

 そしてそのまま「リョウさん、また後でね」とカテリーナ嬢に言われて、私は大人しく頷いた。

 なんか有無を言わせない雰囲気があった。


 カテリーナ嬢の無事な顔を見れて安心したけれど、なんだか釈然としない。

 そんな気持ちのまま、私は、鎧を着た人達と一緒に談話室から出ていくカテリーナ嬢達の背中を見送った。

 カテリーナ嬢の背中が寂しそうに見えた。


 しばらく、あの鎧の護衛という人達について考えてから、私も談話室を出た。

 私がいると、談話室の中がモーゼのままだし。


 あの護衛と言われていた人たち、一体なんなのだろう。

 本当に、護衛……? なんのための?


 そんなことを考えながら、部屋から出て、ふと廊下の窓から外を見ると、女子寮の周りに男子生徒達が何人か集まっているのが目に入った。

 グエンナーシス領の子たちが戻ってきたのを聞いた男子生徒達が、様子を伺っているらしい。


 あ、リッツ君とアランの姿が見える。

 二人も心配してきてくれたのかもしれない。


 よし、二人のもとに行こう。


 私はこっそり窓から女子寮を抜け出し、回り道してアラン達がいた方へ向かう。

 別に正面玄関から出ても良かったんだけど、それだとかなり目立ちそうだし、また確実にモーゼられるので、こっそり。


 しかし、裏から回ってきたのは正解だったみたい。

 思ったよりもたくさんの男子生徒が女子寮の前にいる。

 ちょっと圧倒されていると、アランが手を上げて、こちらに歩いてくるのが見えた。


「リョウ!」

 アランが、私に向かってそう声をかけると、一瞬にして私とアランの間にまたしても、モーゼの奇跡が……。

『リョウ様とアラン様のお通りだ!』

 みたいな声が聞こえる……。

 こっそり裏から回ってきた意味がなくなった。

 みんな、気遣い過ぎだよ。そんなにモーゼしなくても合流できたよ。


 若干周りの俊敏な動きに私が引いている中、アランはモーゼの奇跡なんか気にせず私の方にやってきた。

「リョウ! どうだった? カテリーナ達の様子。元気だったか?」

 やっぱり、アラン達も心配してこっちに来てくれたんだね。

 私は、微笑んで頷いた。


「元気そうでした。とりあえず、立ち話もなんですし、場所を移動しましょう」

 なんとなく、人目もあって、一部の生徒の安全が分からない状況で、このままアランと私の会話が聞こえてしまうのもいらぬ憶測を生みそうで場所替えを提案した。


 すると気の利くリッツ君が、食堂のテラスに行こうと言ってくれてそこに移動する。

 もちろん私たちが移動するとなれば、モーゼの奇跡が……。


 私達は、人波を割りながら、食堂のテラスに向かいその中でも個室の部屋へと着席した。


 そわそわしているアランは、じれったそうに「それで、カテリーナ達は、無事だったんだな!?」と聞いてきた。


 まあまあ、落ち着きたまえアラン氏。

 アランは結構友達思いというか、熱いところがある。

 さすが義侠心溢れる我が子分だ。

 私はゆっくりと頷いた。


「ええ、カテリーナ嬢は、ちょっとやつれてはいましたけれど、無事です。それにシャルちゃんもそのうちこちらにくると」

 私がそういうとリッツ君が「シャルも帰ってくるんだね!」と嬉しそうな声を上げた。


 私はその言葉に笑顔で頷いて、すこし眉を下げた。

「ただ、サロメさんが、学園には戻らないかもって。無事ではあるらしいんですけど」


「サロメ嬢が……? そう、なんだ。どうしてだろう」

 リッツ君が顔を曇らせてそう言ってきたので、「私もまだ理由は聞けてないんです」と言って三人でため息を吐いた。

 出来れば皆と一緒に無事を祝いたかった。

 桜貝の誓いのみんなで……。


「もしかしたら、サロメ自身に何もなくても、両親に何か、あったのかもしれない」

 アランがそう暗い声で呟いた。


「ご両親に?」


「ああ、学園は、貴族や準貴族の子供でないと通えない。サロメは騎士爵の娘だったはずだ。万が一爵位を持つ方の親に何かあれば、もうサロメは学園に通う権利がなくなる」


 ……そうか。そういうこともあるのか。

 それに、騎士爵を持つってことは、魔物が出た時に前線に立たされていてもおかしくない。

 何かあってもおかしくない立場だ。


「ねえ、二人は、カテリーナ嬢からもらった桜貝、今持ってる?」

 リッツ君がそう言って、胸ポケットから、ハンカチを取り出した。

 ハンカチを広げると、そこには綺麗なピンク色の桜貝。

 自分の故郷を守るため、それぞれの領地に帰るとき、皆で無事を約束した桜貝だ。

 皆で無事に再会したら、カテリーナ嬢にアクセサリーとして、この桜貝を加工してもらう約束。

 もちろん持ってるって意味も込めて、私もアランも、桜貝を取り出して、手のひらに載せた。


「この誓いは、皆がそろってからカテリーナ嬢にお願いしよう。シャルに、サロメ、皆がそろってからだ」

 リッツ君がそんなことを言ってくれて、アランが頷いた。


「皆生きてるんだ。生きていれば、必ず会える。それに、もし、サロメが学園に戻れなくなったとしても、その時は、俺たちの方からグエンナーシス領に行けばいい」

 

 そうだ、アランの言う通り。もし学園に戻れない理由があるのだとしたら、こちらから行けばいい。それだけのことだ。

 新たに誓いを立てるかのようにに、私達三人は手のひらに置いた桜貝を握りしめた。


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