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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第四部 転生少女の独立期
182/304

筆頭10柱編③ 続々集合!シルバさん一家


「アズールさーん! おかえりなさーい!」


 私は甘い声で、ルビーフォルン商会に帰ってきたアズールさんを出迎えた。

 ささ、どうぞどうぞ、と商会の客間にアズールさんをお迎えし、大きなソファに座ってもらうようにエスコートする。


 可愛い花柄の薄手のドレスを着たアズールさんは、私に勧められるがままげっそりとした顔で、ソファに座った。


「お疲れさまでした! あ、これ、お茶ですよ。疲れを癒す甘い薬草茶です!」

 そう言って、お茶を出すと、アズールさんは一口飲んでハアと、ため息を吐いてから口を開いた。


「リョウ殿ー、ひどいでありますよー。疲れたであります……」


「すみません! でも、ありがとうございました!」

 今日は、アズールさんとシルバさんのお出かけの日だった。

 女の子らしい服を着たかわいいアズールちゃんと出かけたい! というシルバさんの要望に応える形で、アズールさんがいつも着ないような女性らしい服装にしてもらったりもした。

 本当に、お疲れ様です!

 ありがとうございます!


 私は改めて心からの感謝を伝えると、アズールさんに向き合う。


「それで、シルバさんとはどのような話を……?」


「あ! そうであります! リョウ殿! 朗報ですよ! なんと、リョウ殿の筆頭10柱入りが果たせそうであります! 今度の商人ギルドの筆頭の会合に行けるそうであります!」


「ええ!? 本当ですか!?」


 予想外の回答が返ってきて、思わず奇声を上げてしまった!


 だって、早っ! 想像以上に早い!


「後程、父から、書状で詳しいことは送るっていってたであります!」


 マジか……! 展開早すぎない!?

 会合に行けるってことは、え、もう、10柱入りできちゃう……?

 いや、今のルビーフォルン商会の勢いなら、行けるだろうとは思っていたけれども……早すぎるような。

 とりあえず、後から届く書状を確認しよう。

 

 私ははやる心をどうにか落ち着かせて、アズールさんの顔を見た。


「アズールさん、そんな良いお話しまで持って帰ってきてくれて、本当にありがとうございます! あ、で、その、他にはどんな話がありましたか……?」


「ハハ、そういえば、リョウ殿は、この機に父上が私にルビーフォルン商会のことを根掘り葉掘り聞いてくるに違いないって言っていたでありますね。でも、大丈夫であります! それほどルビーフォルン商会のことも聞いてこなかったであります!」


「え? そうだったんですか?」


 あれ、予想外。


 シルバさんが、アズールさんとのお出かけ権で、私の筆頭10柱入りの打診を請け負ってくれたのは、本当に、アズールさん可愛さだけだったのかな。


 私はてっきり、ルビーフォルン商会の内情を探って来るだろうと思ったし、多少商会の情報が漏れるのも覚悟で、アズールさんとのデート権を提案した。

 だって、アズールさんは、私と一緒にいることが多いから、ルビーフォルン商会の内情に詳しい。


 私の商会はなんだかんだで、知名度もあるし、勢いもある。色々な商会から探りのようなものを入れられているところが正直ある。


 シルバさんが、私にアズールさんを託したのも、アズールさんという肉親から何かしら情報を掴むためというのもあるのかなと思ってたんだけど。


 本当にただの親バカ疑惑が……。


「具体的に、どんな話をされたんです?」


「普通に食事がおいしいとか、後は、そうでありますね、どんなにリョウ殿が素晴らしいかってことも話したであります! リョウ殿は治療師にもなり得る知識を持っているとか、魔法使いの友人達も多いとか、でも女の子らしく草花も好きみたいで、最近色々な植物や樹木を集めているとか、そういう話をしたであります!」


 アズール殿は満面の笑みでそう答えた。


 おや? と思って、私はアズールさんに本日シルバさんとお話しした内容を細かーく確認する。

 そしてアズールさんから、今日のお話しの内容を聞き出して、はっきりした。

 なるほど。ばっちり、シルバさん私の商会の動向を聞いてきてるぞ。


 おそらく、私の普段の生活の内容や興味を示したものを聞いて、私が植物などを使って、何かしら研究しているのは、察してしまっただろう。

 私が興味を持っている植物が、香りが強い植物ばかりだとシルバさんに勘付かれたら、香水事業に手を出そうとしているというところまで気づかれるかもしれない。

 私の友人にレインフォレスト出身のアラン魔法使いがいると分かって、何かしら調べて、蒸留器にまでたどり着くかな……。


 うん、アズールさん、気づいてないかもだけど、ばっちり商会のこと聞かれてるよ。

 まあ、でも、それぐらいのことが知られたとしても、許容範囲内。

 むしろ、これで、筆頭10柱の会合に参加できるなら願ってもない感じだ!


「アズールさん、今日は本当にありがとうございました!」

 私が、改めてお礼を言うと、アズールさんは、照れたように「お役に立てたのなら、何よりであります!」と答えてくれた。


 いやー、本当にアズールさんには感謝。


 けれど、もうアズールさんを犠牲にして、シルバさんに頼み事をするのは、控えよう、うん。

 今回漏れた情報は、許容範囲内だけれども、全部が全部漏れてもいい情報ばかりじゃないからね……うん。


-------------------



 とうとう商人ギルドの筆頭10柱の初顔合わせの日がやってきた。


 アズールさんとルビーフォルン商会のささやかな内部事情という尊い犠牲のもと、まさかこうもあっさり商人ギルドの筆頭10柱の会合に参加できるなんて!


 とはいっても、正式には10柱に入れたわけじゃない。

 私はまだ学生なので、商爵を得ていないから非公式会員のような感じだ。

 いつか大々的にお知らせして正式なメンバーにしてくれるらしいのだけど、まだその時期ではないらしい。


 けれども今日みたいに会合には参加できるので、話を聞きたい私にとっては、十分な成果だ。

 商人ギルドが国政に対してどのような感じで、絡んでいるのか、どのぐらいの権限があるのか、それを知ることができるいい機会。


 でも、めっちゃ緊張する。


 シルバさんだけで、お腹いっぱいなほどの狸親父だもの。

 他の奴らだって、相当な狸に違いない。

 やはり筆頭10柱ともなれば、どの商会も、かなり大規模で多角的に色々やってる化け物商会だし、私のような小娘が太刀打ちできるかどうか……。


 しかし、何も商人ギルドの10柱は、親父年代ばかりではない。

 若い人もいる。

 いや、若い人とは言っても最年少で24歳らしいので、私と比べて10歳も離れているけれども。


 そしてその私が入る前は最年少だった人こそ、シルバさんのとこの次男のネヴィ氏である。


 狸親父と合流したら、ネヴィさんも一緒にいらして、早速挨拶をした。


 紺に近い黒髪のネヴィさんは、まだ髪の毛もふさふさだし、シルバさんには似てなかった。


「初めてお目にかかります、ルビーフォルン商会の商会長を務めてますリョウ=ルビーフォルンと申します。どうぞよろしくお願いします」


 そう言って淑女の礼をしてから目を合わせると、彼は驚いたように眉を吊り上げていた。


「ああ、すみません。あの勝利の女神とまで言われる商会長が本当に成人前の女性で、驚きました。父から聞いてはいたのですが……失礼。申し訳ありません」

 そう言って、ネヴィさんは頭を下げて、改めて口を開いた。

「私はネヴィ=オーランド。オーランド商会の商会長です。父がお世話になっております。今後は、どうぞ私ともよろしくお願い致します」


 なんだか常に偉そうなシルバさんとは違って、ネヴィさんは物腰が柔らかい。

 よかった。なんだかシルバさんとは違ってまっとうな商人そうだ。


 というか、商人ギルドの筆頭って、今は7人しかいないのに、親族がそのうちの2人を占めてるなんて、シルバさんの陰謀を感じるわ。

 ほんと狸親父恐い。


 あ、違う。二人じゃない……もう一人いる。

 シルバさん一家の長男さんも筆頭に入っているらしいから、三人だ。


 確か、オーガン商会の商会長のグレイさんという方。


 オーガン商会は、王都に複数展開する薬屋の経営や、治療師の派遣とかをほとんど一手に請け負っている大規模な商会で、王都になくてはならない存在だ。

 実は私もコウお母さん特製の薬は効果が高いから、それも販売しようかなとか思ったりもしたけれど、大商会の圧力に負けそうだと思って辞退し、美容関係のものだけを取り扱うことにしたという経緯がある。


「グレイめ、また遅刻か! あいつはいつもなんで遅れてくるんだ!」

 とシルバさんがイライラしたご様子で口走った。

 確かにちょっと予定の時間より遅れている。

 どうやら結構遅刻の常習犯らしい。というか、やっぱり筆頭のうち三人が親族って、完全に陰謀だよね。


 多分、筆頭達の中でも派閥のようなものがあるんだろうな。

 ……それで、シルバさんの口利きで入る私はきっとシルバ派に見られるんじゃないかな。


 というかシルバさんが私の筆頭10柱入りに乗り気だったのって、自分の派閥の割合を増やすためだと思う。


 この狸親父め。という気持ちで狸親父のでっぷりとしたお腹を見つめていると、慌ただしく馬車が近くにとまった。


「やっときたか」

 とシルバさんがいうので、噂のオーガン商会長が!? と思って背筋を伸ばすと、馬車からもっさりきのこみたいな髪型の殿方が出てきた。

 ネヴィさんと同じ髪色だが、髪はぼさぼさでもっさりしている。


「すみません! 遅れてしまい、ました! そ、その、道中で面白いものを見つけて……」


「また移動の途中に他のものに気を取られたのか! こうやって約束の時間に遅れるのは何回目だ。それに今回は身内だけでなく、ルビーフォルン商会の会長も一緒にいるのだぞ」


「す、すみません、父上」


 そう言って、やってきたもっさり頭の彼は、申し訳なさそうに大きな体を縮こませた。

 なんだかかわいそうな感じの殿方だ。


「あ、いえ、私は気にしてませんし、それほど待っていませんよ」

 そう言って、声をかけると、もっさり君は、私を見て、不思議そうな顔をした。


 この子供、誰? みたいなことを言いたそうな顔をしている。


 そうだよね、名乗らないと分からないよね。

 いきなり子供がしゃしゃり出てきたら戸惑いますよね。分かります。


「すみません、申し遅れました。私はルビーフォルン商会の会長を務めておりますリョウ=ルビーフォルンです」

 そう言って、挨拶をするともっさり君は「君が!? あの!? ルビーフォルンの!? マッチを開発し、最近では美容品を売り出している!? あの!?」

 といって、身を引くように驚きを表現した後、今度は前のめりになって私の手を握ってきた。


「わあ、僕、ファンなんですよ! 最近発売されていた『乙女の純愛美容肌油』見させてもらいました! あれは、肌の修復機能を助ける一種の傷薬のような効果で肌荒れを改善されてますよね! 傷薬として、使用しても問題ない効果に、ご婦人方が好まれそうな香り付けをされていて、素晴らしかった。しかしあの匂いのもとがどうやって抽出したのか気になっていたんです! 今まで通りの手法ではあのように新鮮な匂い付けは難しい。何か新しい手法を見つけられたのだとお見受けしますが!?」


 私の手を握りこみ、思いのほかに近くにきてマシンガントークをされるので、思わず後ずさりしてしまったけれど、何とか「は、はい。そうです、ね」と答えて頷く。


「グレイ、淑女に対して、突然それはさすがに無礼だろう! まだ名乗ってもいないのだぞ!」

 そんなやり取りを見ていたシルバさんが、また声を荒らげると、グレイさんは、握りこんでいた私の手をパッと放した。

「あ! すみません! その、本当に、すみません! 私はグレイ、です。グレイ=オーガン。オーガン治療商会の商会長です」

 顔を赤らめながら、また体を縮こませた。


 いや、いいです。そんなに、慌てなくても大丈夫です。ちょっと驚いたけれど。


 というか反応とかを見る限り、気持ちを素直に表現してしまう感じなのかな。

 とても狸親父から生まれた子狸だとは思えない素直具合だ。


「先ほども言ったが、グレイは私の息子だ。こいつは、治療爵をもっている。王都の薬の販売、治療師の派遣といったものを主に行っている」


 うん、知ってますよ。オーガン系列の薬店は、コウお母さんのライバルだからね。

 いや、ライバルというのはちょっとおこがましいか。

 コウお母さんは小さな薬屋だけど、オーガン商会はいくつも店舗を抱えてるもんね。規模が違い過ぎる。


「まったく、シャキッとしたらどうだグレイ。この少女は将来お前と結婚するかもしれないんだぞ!」

 と突然シルバさんがのたまった。


 おいおい何を言ってるんだね、シルバ氏!


 グレイさんの方を見れば目を見開いて驚いて、『まだ子供ですよ!?』とでも言いたそうな戸惑いの視線を、私に向けたりシルバさんに向けたりと行ったり来たりしている。


 よかった。グレイさんが常識人で良かった。


 グレイさんの反応にほっとしつつも、シルバさんに向かって声を荒げる。


「もう! シルバさんまたその話! 私はシルバさんのところの息子さんと結婚する気はありませんって何度も言ってるじゃないですか!」

「いいじゃないか。悪い話じゃない。私にとって」


 シルバさんにとってはね!?

 そんなやり取りをにこやかに眺めていたネヴィさんが満面の笑みを作った。


「グレイ兄さんと結婚しないのなら、私と結婚するのはいかがでしょうか?」


 と突然のたまうネヴィさん。

 何をいきなり……。さっきまで物腰柔らかな好青年だと思っていたのに……。


「しかし、ネヴィ、お前にはすでにメリッサが……」


「ああ、彼女とは離婚します。ルビーフォルン商会長とつながった方が、今後のことを考えると良さそうです。メリッサもわかってくれるでしょう。リョウさん、どうですか?」


 え、どうですかって……。


「あ、あの、離婚ということは、すでにネヴィさんはご結婚を?」

 私が恐る恐るそう伺うと、ネヴィさんは柔らかく微笑んで頷いた。


「ええ、結婚しています。しかしあなたと縁を築くためならば離婚いたしますよ」

 と満面の笑みで言い放った。


 こいつはやばい。


 さすが、狸親父の息子である。

 私は戸惑いながらシルバさんを見ると、あのシルバさんすら、『こいつはやばい』という顔をして固まっていたので、ネヴィさんはシルバさん以上にやばいのかもしれない。


「あ、いえ、私はまだ結婚する気がないので、すみませんが」

 と冷静に言い放つと、ネヴィさんは、「それは残念ですね」と言って微笑んだ。


 怖い、商人って怖い。

 まともな好青年だと思っていたのに。


「あ、それよりも、早く議事場に行きましょう。もうそろそろ時間になります!」

「ああ、そうだな! 急ごう! 急いだ方がいい!」

 何ともいたたまれない空気になったので、私が声をかけると、シルバさんも私の提案にのってくれて、私たちはいそいそと連なって、商人ギルドの筆頭達の会合が行われる議事堂の中へと進んだ。






5月31日に発売しました転生少女の履歴書4巻が、なんと! 

発売して三日で重版しましたっ!!

いつも応援ありがとうございます!(感謝!


4巻は加筆いっぱいして、マジ頑張ったので、

売れ行きが好調のようで、安心しました……!

5巻も頑張りたい……!


今後とも、書籍版、web版ともどもよろしくお願いしますっ!

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― 新着の感想 ―
[一言] 清濁併せ持つの濁具合 0=グレイ<<リョウ<<<<シルバ<<ヤバい壁<<ネヴィ
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