筆頭10柱編② 慰労会の発案者
三日連続更新の3日目!
いつも最新話から読まれている方はお気を付けくださいね!
そして、昨日、おかげさまで転生少女の履歴書4巻が無事に発売されました!
いつもありがとうございます!
「シルバさん、私、知り合いから聞いたんですけど、国が慰労会なるものを開くみたいですね」
私は、目の前のお肉をナイフとフォークで切り分けながら、そう何気ない感じでシルバさんに尋ねた。
アズールさんのお父様、シルバさんとは結構頻繁に会う。
アズールさんと一緒に食事をしたいと言ってくるので、アズールさんも一緒に連れてきて、3人でお食事会をするのだ。
その時に色々ギルドのことや商談のことも話せるので、私にとっては結構ありがたい時間。
今日もアランからもらった特ダネ情報をもとにシルバさんの考えを聞き出そうと会話をする。
「ほう、もう耳に入っているのか。まだ国の上層部しか知らないはずだが」
とか言ってるけど、シルバさんだって当然のように知ってるじゃないですかー!
マジシルバさん怖い。
「慰労会では、各領地の領主様を強制的に招くようですね」
「らしいねぇ」
とシルバさんはのんきに答えて手元のお酒を揺らして口に含む。
その緩慢な動きをじれったく感じながら睨むように見つめる。
「それって……誰の考えですか?」
「うん? 誰のというのはどういう意味だろうか。国からのお達しだ。王族が決めたのだろう? もしくはそれに近しい役職を持つ魔法使い様だ」
「本当にそうですか?」
私が真剣にそう聞くと、シルバさんはブハっと吹き出して声を上げて笑った。
ちょっと! こちとら真剣に聞いてるのに!!
「いやー君は正直者だねぇ。こんな真っ向から聞かれるとは思わなかった。やはりまだ成人していない子供といったところか」
馬鹿にされてる!
私は口を尖らせた。
「別に咎めてるわけじゃない。それが君の美徳でもあるが……だが、商人としてはどうだろうなぁ」
そういって含むように笑った後、シルバさんは再び口を開いた。
「だが、まあいい。真っ向から聞いた君の勇気と誠実さと若さに免じて、私も正直に言おう。君の考えている通りのことだろうと思う。そう、これは商人ギルドの発案だ」
やっぱり!
アランから慰労会のことを聞いて、私はすこし疑問に思った。
魔物の災害で国がとった行動のおかげで確かに各領地の国への忠誠心は薄れている。特にグエンナーシスには、何か含みすら感じる行動に出てる
さすがに国だって警戒しているはずだ
だから、国は領主強制召喚の慰労会で、グエンナーシスのそしてほかの領地の忠誠心を試そうとしている。そこまではわかる。
だけど、領主全員集合にするメリットがあまりにも薄い。
確かにグエンナーシス領だけでなく、他の領地だって少なからず反発する気持ちは芽生えているはずで、慰労会で褒賞を出したりして、その気持ちを慰めようという打算があるのはわかる。
でも、グエンナーシス領の事は、個別で対応すればいいところを他の領地全員集合にするメリットが弱い。
もしグエンナーシス領に叛意があるというのなら、他の領主たちとの接触は避けさせるべきだと思う。
だってあの時の災厄に対する対応で不満を持っているのはグエンナーシス領だけじゃない。
どの領地だって、多かれ少なかれ不満は持っている。だから私なら絶対に接触させたくない。
でも、今回のようにわざわざ同時に全員集合。
領主の中には強制的に集まらせるということに対して不快感を抱くものだっているはずだ。
もっとうまくやれる方法はあるはずなのに、国がわざわざそういう政策を打ったのは、そういう政策を打たせた誰かがいる。
きっとその誰かにとってこの政策の方が利益が生まれるんだ。
領主を王都に集めて一番得をするのは誰か。
王都に領主という大消費者がやってくることで、一番得をするのは王都に居をかまえる商人だ。
領主が王都に召集されたとなれば団体さんでの大移動になる。
領主に付き従う小間使いに護衛の騎士に御者。
移動の途中でたくさんのお金を落とすし、慰労会のためにしばらく王都に滞在しなければならない。
その間の洋服は?食事は? 住まいは? 嗜好品は?
たくさんの人、たくさんの消費。
慰労会を開くことで、一番得するのは商人、そしてその中でも王都の経済を支配している筆頭10柱の大商人。
「商人ギルドの筆頭10柱になれば国政にも口が出せると聞いてはいましたけど……そんな大きな政策にまで口を出せるなんて……」
「言っただろう。この国が貨幣制度で経済が回っている限り我々商人を軽んじられるものはいないと。それに、昨年の大雨の災厄で、今の王は大変お心を弱らせている。……どこかの女狐の下っ端が御しやすそうにしておるわ」
と最後の方は何故か忌々しそうにそうシルバさんは吐き捨てた。
どこかの女狐の下っ端……?
女狐。そういえば色々と下調べしたときに、筆頭の中に、一人だけ女性の商爵がいた。
確かブルモンテ商会……。
ブルモンテ商会といえば、以前王様に会いに行った時に、城の魔法使いが噂していた商会だ。
ブルモンテ商会の男に王様が骨抜きにされているとか何とか言っていたような気がするど……。
男って、もしかして、私が王様と謁見したときにその隣にいた綺麗な男の人のことかな?
もしそうだとしたら、王族の、王様のすぐ隣にいるのは、商人ギルドの息のかかった商人っていうことだ。
「あの、筆頭の方々は、そのグエンナーシスのことをどう思っているんですか? そのもし国が懸念している通り、かの領地が、独立をしたいとか言ってきたりしたら」
「まあ、私個人としては、良くはないな。困窮したこの状態で、内乱なんてはじまったら、国はより混乱する。それに私が主に扱っている商品は、国が荒れれば不安定になるものばかりだ。まあ、筆頭の中には、国が荒れたほうが利益が出るような商会もあるから、筆頭10柱の総意としては、分からんがね」
「利益って……そういう問題じゃないと思うんですけど……」
私はシルバさんの話を聞いて、思わず口をとがらせると、シルバさんが声を上げて笑った。
「愛国心に溢れているようだ。結構結構」
そう言ってなんとも楽しそうなシルバの狸親父を私は眉をしかめて睨みつけてみたものの、当のたぬきは余裕そうな顔。
なんか癪にさわる!
私だって愛国心なんかほとんどないけど!
でも!戦争とかになったら本当にいやだ!それにグエンナーシス領はカテリーナ嬢がいるシャルちゃんだって、サロメ嬢だって、ドッジボールに参加してくれたみんながいるのに!
もし、グエンナーシス領の出方によってはみんなと戦わないといけないの?
いや、もしかしたらルビーフォルンは……。
私は、ナイフとフォークをテーブルに置いて、シルバさんを正面に見据える。
私の姿勢が変わったのに気付いたシルバさんも私を見た。
「私を商人ギルドの筆頭10柱に入れてください。口利きするだけでもいいです。実績は少ないですが、現在それぐらいの影響力はあると思います」
私がはっきりとそういうと、シルバの狸親父が、いつもの食えない笑顔を見せる。
「確かに君の商人としての活躍は目覚ましいものがあるね。10柱に、というのも考えられないことじゃない。まあ若すぎるところは難点だが……。だが、君を入れて私にどういうメリットがある? 私が君を10柱に入れるために口聞きをすることで、何を得られる? まあ息子との結婚を考えてくれるならやぶさかではないが」
と、ことあるごとに私とシルバさんの息子と結婚させようとしてくる狸親父を正面に見据えて口を開いた。
「シルバさんの息子さんと結婚する気はありません」
「じゃあ、話にならないな。私が君のいうことを聞く利益がない」
まあ、すーぐそうやって利益のことばかり考えるんだから!
しかし私には奥の手がある。
私はゆっくりと微笑んで口を開いた。
「アズールさんとの1日お出かけ権でどうですか?」
私とシルバさんのやりとりを終始おびえた様子で見守っていたアズールさんがビクッと肩を震わせた。
「リ、リョウどのー?」
とアズールさんは震える声を出して私の方を見る気配を感じる。
ごめん、アズールさん、まじごめん。
私が心の中で、アズールさんに謝っていると、シルバさんは、深く頷いた。
「わかった。それで手を打とう。だが、私が推薦したからと言って、必ず10柱になれるとは限らない。それだけは理解してもらいたい」
「はい、それで構いません」
私はまだ学生で、商爵だってもらえていないけれど、でも、私の今までの実績や勢いを考えれば、行ける、と思う。
マッチや蒸留酒と言った商品は、私の独擅場だし、コウお母さんと協力して、美容用品にも手を出した。なにより私は自分で言うのもアレだけど、国を救った英雄的な感じで人気者らしく知名度がやたら高い。多分、今いる筆頭達より名が知られている。
それに、ここ最近は、魔法使いと懇意にして商売をしていた商会がことごとく力を失ってきているため、商人ギルドの筆頭10柱とか言ってはいるけれども、リョウ調べでは、実際は7人しかいない。
つまり、空きがたくさんあるのだ。
爵位がなくても、シルバさんの推薦があれば、きっといける。
いや、いけなかったとしても、筆頭達と繋がりが持てるだけでもいい。
「ちょ! 私の! 私の許可を得ておりませんけれどもー! リョウどのー!」
と叫ぶアズールさんの横でシルバさんと私はうなずき合い、力強く握手を交わした。
シルバ「だが、まあいい。真っ向から聞いた君の勇気と誠実さと若さに免じて、私も正直に言おう。君の考えている通りのことだろうと思う。そう、転生少女の履歴書4巻は昨日から発売している」
ということで、書籍四巻発売記念の3日連続更新でした!
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