小間使い編⑦-カイン坊ちゃまの気持ち-
「ていやー!」
というクソガキアランの元気な声が、屋敷の近くの空き地に響いていた。
私はカイン坊ちゃまと一緒に、剣術を指導してくれている騎士先生とアランのチャンバラを見守っている。
私に決闘で負けたアランは、まあ悔しかったのだろう。剣術を習い始めた。
カインはもともと習っていたので、アランもそのままその先生に指導してもらうことになったのだ。
前世で剣道や薙刀などを嗜んできた私が見た感じ、なかなかアランには剣術の才能があるようにみえる。まだ習いたてだし、まだ体もできてない5歳児なのになかなかいい動きをする。5歳児の割りにというレベルだけれども。基礎が出来てないし。
先ほどまで剣術の指導でしごかれていたカイン坊ちゃまをみると、アランの動きに満足そうにうなづいていた。
私が見たところ、カイン坊ちゃまは剣術の天才だ。指導していた騎士先生をあわやというところまで追い込んでいた。
「アランはすごいな。魔法も使えて、剣術まで強くなったら、僕の出る幕はなくなってしまうかもしれない」
先ほどまでは満足気だったのに、そうつぶやいて、今度は少しうつむいてしまった。
「そんなことございませんよ。私が今までのご様子を拝見いたしましたところ、剣術において、カイン様は間違いなく天才かと。他の授業でも物覚えがよいですし、顔もいいし、性格も良いです。将来はご婦人方がカイン様の取り合いになるように思いますよ」
うん、間違いない。
しかし私の励ましは逆効果だったのか、もっと顔をうつむかせてしまった。
「いや、アランは魔法使いだから、伴侶になる女性は選び放題だと思うけれど、僕は魔法使いじゃないから・・・・・・むしろ魔法使いの女性を探すのに一苦労すると思う。現在のレインフォレスト管轄の魔法使いには僕と近い年齢の女の魔法使いが生まれていないし・・・・・・」
あ、そうかしまった。この世界、魔法使い絶対主義だったんだった。
適当な励ましをしてしまって、すみません。しかし、謝ったら逆に傷つきそう。繊細な8歳児の対処法がしりたい。
「・・・・・・でも、クロード叔父様みたいな生活もいいかなって、最近は思い始めてて」
「クロード様のような生活? 商人になりたいということですか? 」
「いや、僕は騎士になるつもり。武功を立てれば騎士でも、騎士爵という準貴族の爵位がもらえるし。まあ、名ばかりの名誉爵だけど。騎士爵としてこの地に住んで、アランを助けていけたらなって。そして魔法使いとか関係なく好きな女性と結婚するのも良いかもしれないって思えてきたんだ。まあ、まだクロード叔父様は結婚してないけど」
おお、よかった。私が何か言う前に、自然回復してくれた。
自動回復付とは、さすが出来たお兄様です。
「さようでございますか。素敵だと思いますよ。それにしても、カイン様は本当に、クソガキ、おっと失礼、アラン様のことを大事に思っていらっしゃるんですね」
「うん、やっぱり家族だし」
「家族、と言うだけで、クソガキでも、おっと失礼、人を愛せることは素晴らしいことです。」
私が、思わずクソガキと口を滑らせてしまったことがおかしかったらしく、カイン坊ちゃまはクスクスと笑った。
「それに、僕が生まれたとき、魔法使いじゃなかったことでだいぶ家の人たちをがっかりさせて、なんか申し訳ない気持ちのまま過ごしてて。そしたら、アランが生まれて、魔法使いだってわかってなんかホッとした、というのもある」
正直、この世界において、魔法使いに生まれなかった貴族の子どもがどんな感情を抱くのか、あまり想像がつかない。ただ、きっと辛い思いをしたのだろうと思う。
ガリガリ村で、魔法使いかもしれないと言われて、期待されて、そして結果駄目だった時、期待にこたえられない自分が苦しくて、恥ずかしくて、どうにも出来なくて。
そのときの気持ちと一緒なのだろうか。
そんな気持ちを生まれたときから抱き続けていたカイン坊ちゃまが、こんなにステキに優しいイケメンに成長できたなんて、本当にすごい。
私なんて、売られてから、心がやさぐれてやさぐれて。思わずいたいけな5歳児に対して「クソガキ」呼ばわりしてしまうほど心が荒れているというのに。
「やっぱり、リョウには隠せないな。リョウに見つめられると全て見透かされそうな気がしてくる」
と、尊敬のまなざしで見つめていたら、カイン坊ちゃまが照れたようにはにかんで頭をかいた。
しかし、私に見つめると全てを見透かすようなチート機能は持ち合わせておりませんよ、カイン坊ちゃま。
「実は、そんなきれいごとだけじゃなくて、もっとドロドロした気持ちに苛まれて、弟を嫌いになったときもある。でも、アランはアランでいろんな期待を受けて大変そうで、しかも感情表現がすごく不器用で、お父様やお母様もそばにいられない時期だったから・・・・・・僕を頼ってきてくれて。そんな姿を見たら、守ってあげなきゃって思ったんだ。やっぱりかわいい弟だもの」
そういって、カイン坊ちゃまは穏やかに微笑んだ。
その笑顔をみたら、マル兄ちゃんの笑顔が脳裏を掠めた。
あまり思い出さないようにしていた。
兄弟たちは元気にやっているだろか。
ガリガリ村のみんなは私がいなくてもきちんと畑を耕せているだろうか。
「リョウ? どうしたの?」
「あ、すみません、なんでもありません。あまりにも素敵なお話だったので、えっと、余韻に浸っておりました。カイン様みたいなお兄様がいらっしゃってアラン様は幸せ者ですね」
うふふ、と笑って、ごまかしたところで、ちょうど良いところにクソガキアランの剣術指導が終わったようだ。
カイン様がパッとアランのほうに足を向けて、なかなかやるじゃないか、と褒めていた。カインお兄様にはかなわないけれど、とか何とか言いつつ、まんざらでもない様子のクソガキが笑っている。
「ところで、お兄様は先ほどから何やらリョウとお話していたみたいですけれど、どんな話をしていたのです?」
アランが5歳児らしく無邪気な笑顔で聞いていた。
ちょっと、困ったような笑顔を私に向けて、どうしようかという顔をしていたので、いいお話を聞かせてくれたお礼に私が答えてあげることにした。
「アラン様にはまだ早い大人の会話です。それより、今日は、町に行きたいんですけれど、手配してくださいませんか?」
「な! なんだよ! 大人の会話って! リョウも俺と同じ年だろ! しかも当たり前のように命令しやがって!」
「アラン様、親分が子分に命令をするのは当然のことでございます。そして子分が親分の言うことを聞くのは自然の摂理でございます」
私は、既に剣術指導の騎士先生がいなくなり、大人の目がないことを確認して、自然の摂理、当然の法則を教えてあげた。
「クッ! いつかギャフンと言わせてみせるからな、リョウ!」
そんな捨て台詞をはいて、アランは、屋敷にいる使用人を探しに行った。外に出るには護衛とかいろいろと準備がいるから声をかけなきゃならない。
うむ、しっかりと私が与えた仕事をまっとうしたまえ、子分よ。