商会長編⑬ アズールさんのお父様
3日連続更新の一日目!
ということで、転生少女の履歴書4巻の発売日は明日となりましたっ!
ドキドキする!
いつも皆さまありがとうございます!
明日も更新できますように……!
「アズールさん、もう、ぐずぐずしてないでいきますよ!」
「しかし、リョウどのー! 本当に行くでありますか? やめた方がいいでありますよ!」
アズールさんは当日になっても諦めきれないようで、私がアズールさんのお父様に会いに行くのを止めようとしている。
「もう先ぶれは送ってるので、いまさらです」
「本当に、でも、本当にいいのでありますか!? もうどうなっても知らないでありますよ!!」
ちょっとアズールさん怯え過ぎじゃない!? そんなに恐いの!?
なんかちょっとビビる。
でも、10柱のお一人だし、アズールさんを雇い入れる許可ももらわないといけないから、きちんと挨拶しないと。
……なんか緊張してきた。まるで、お嫁さんの実家に挨拶に行って結婚の許可を貰いに行く時の心境なんだけど。
どうしよう、私の服装大丈夫かな!?おかしくない!?
と思ってアズールさんの方を見たら、未だ未練がましくフルメイルの鎧を着こもうとしていたので、強制的に脱がせてきちんとした服を着せた。
アズールさんしっかりしよう! こういうご両親への挨拶っていうのはね、二人の協力あってこそだと思うの!
そして、ご挨拶のお土産としてルビーフォルンのお酒最高品質セットを片手に、未だぐずぐずしているアズールさんを引きずるようにして、馬車で向かうことしばらく、遠くからでもわかるような大豪邸が見えてきた、
どうやらあれがアズールさんのお家らしい。
屋敷の前に着くと、すでに使用人の皆さんがお待ちくださっていたみたいで、あれよあれよという間に、屋敷に案内され、ものすっごい豪華な客間に案内された。
やはり、商爵を持っている大商人、というだけじゃなく、いっぱしの商人ならば誰もが加入する商人ギルドなるところのトップテンに君臨するほどの商人界のボスであられる。
私もマッチの製造などで一躍有名人にはなってきてはいるけれど、年季が違う。
ふかふかすぎる絨毯やソファに内心ビクビクしながら待っていると、私を呼び出した、アズール様のお父様であり、大商人シルバ=クーゲンデル商爵様がいらっしゃった。
髪の毛がだいぶ後退しているけれども、凛々しい顔つきのおじさまだ。
私は立ち上がり礼をとる。
目線をあげると、シルバ商爵はものすっごく驚いた顔をして立っていた。
私が少し戸惑うように顔を傾けると、はっとしたように顔を上げた。
「ああ、すまない。思ったよりも若いもので、戸惑った。噂では学生だと聞いていたが、本当だったとは」
そういったクーゲンデル商爵は、一度咳払いすると姿勢を正した。
「私はアズールの父親でもあり、クーゲンデル商会の商会長シルバ=クーゲンデルだ」
そう言いながら握手を求めてきたので、シルバさんの手を握った。
「はじめまして。ルビーフォルン商会の商会長リョウ=ルビーフォルンと申します。このたびはお忙しいところ、ご挨拶の機会をいただき誠にありがとうございます」
「いや、そんなにかしこまらなくてもいい。アズールを連れてきてほしいとこちらが勝手にお呼び出ししたのだ。むしろ礼を述べるのは私の方だ。感謝する。それに、結構な手土産も頂きありがたい。私はルビーフォルンのお酒が好物でね。どうぞ、楽にしてくれ」
そう言ってシルバさんは改めて席を勧めてくれる。
おや、思ったよりも普通な気がする? 顔はちょっといかついけれども……。
でも、アズールさんが怯えるほどでもないような。
ちゃんと真っ当に筋は通してくれそうな人だ。
そして私がありがたくシルバさんが勧めてくれた席に座ったところで、予想外のことが起こった。
6人掛けぐらいの大きなテーブルで私とアズールさんが、下座に並んでいたわけだけども、何故かシルバさんは、私達と並ぶ形で、アズールさんの隣の席に座った。
え? なんでそっちに今座ったの? ふつう私の向かい側の席だよね?
戸惑いながら、シルバさんの方をみると、さっきまでいかつい顔をしていたシルバさんは、眉毛をハの字にして、唇を尖らせ情けない顔をしてアズールさんを見ていた。
「アズールちゃん! どうして、勝手な行動しちゃうの? レインフォレストまでの護衛だって聞いていたのに、ルビーフォルンまで行っちゃったって聞いた父様がどれだけ心配したかわかる? レインフォレスト領までだって、もう父様心配で心配でしょうがなかったのに、ルビーフォルンまで行っちゃうんだもん! もう、お兄ちゃんたちと一緒に、心配して仕事も身が入らないぐらいだったんだよ?」
そう言って、シルバさんは、さらに唇を尖らせ……世に言うアヒル口みたいなことをして、上目遣いでアズールさんを見上げていた。
あ、あれ?
さ、さっきまでの厳しい様子のシルバさんはどこ? この人だれ?
頭が真っ白になって固まっている私のことなど気にせずシルバさんは話し続ける。
「さすがの父様だって、呪われたルビーフォルンには息のかかった者はいないし、アズールちゃんの無事を確認できなくて心配で心配で もうね、父様、怒った腹いせに、3つぐらい商会買収しちゃったんだからね!」
ストレスで買い物しちゃうOLみたいなこと言ってきたけど、買い物の規模がでかすぎるんだけど。3つほど商会を買収って、恐いんだけど。
「父上!! もうそういうのはやめてくださいって言ってるじゃないですか! 私はもう成人して独立しているんですよ!」
「何言ってるんだ!アズールちゃんは私にとってはずっと子供だよ!」
そう情けない顔でのたまうシルバさんにアズールさんは盛大なため息をこぼした。
親子の会話をいくつか聞いてやっと頭の中が少し整理された私コホンと一つ咳ばらいをする。
「あ、あのシルバ様、その、それで、アズールさんを我がルビーフォルン商会の護衛として雇いたいわけなんですけど、その件は……」
私がそう切り出すと、シルバさんは突然キリッとした顔をした。
「ああ、その件か。もちろんだめだ」
「な! 父上!」
速攻で反対したシルバさんに、アズールさんが、反論しようとしたが、シルバさんはそんなアズールさんを見て、にまりと笑った。
「嘘だよー! アズールちゃん! 怒った顔も本当にかわいい! 流石我が子! 天使!」
「ち、ちちうえー!」
そう言って、何やらやり取りを始める親子二人。
そして私はまた蚊帳の外に追いやられた。
え?どういうこと?
私、どうすればいいの?
あ、でも、さっき『嘘だよー』って言ったわけだから、アズールさんをルビーフォルン商会においてもいいってことだよね?
なんだろうこのアウェー感、すごいな。
「しかし、本当に良かった! アズールちゃんが、無事の連絡を貰った時は、嬉しくて思わず5つほど商会を買収してしまったよ」
そう言ってニマニマと笑うシルバさんは、どうやらショックでも嬉しくてもとりあえず買収する系らしい。
こわい。さすが商人ギルドの10柱に名を連ねるだけはある。とりあえず買収する系商会とかすこぶる怖い。
「もし、アズールの身に何かあったら、ただじゃ置かないところだった……」
そう言って、突然暗い声をあげたシルバさんを見て、正直に打ち明けて本当によかったと心から思った。
マジで、本当に良かった……、と私がしみじみと思っていると、またキリッとした顔を変えてシルバさんが、私の方を見た。
「私のかわいいアズールちゃんをルビーフォルン商会に迎えたいという気持ちはわかった。アズールちゃんはこうと決めたら、なかなか聞かない芯のしっかりした娘なのだ。本当はいやだが了承しよう。本当はいやだが」
本当はいやだって二回ほど言った!
私が、なんて答えるべきが戸惑っていると、シルバさんは話を続ける。
「だが、条件がある。アズールちゃんはルビーフォルン領での騎士ではなく、あくまでも君の商会の護衛として所属させてもらいたい。できれば、商会の名前も変えたほうがなおいいとは思うが」
そう言って、威厳ある口ぶりでシルバさんはそう言って、頷くシルバさん。
なんか、アズールさんを前にした時の情けない顔とのギャップで戸惑う。
というか、商会の名前を変えたほうがいいっていうのは……。
「もともと私の商会に入っていただく予定でしたので、問題ありませんが……どうして商会の名前すらも変えた方が都合がいいと思うのですか? ルビーフォルンの醜聞を気にされているようでしたら、もう問題ないかと。以前は呪われた領地と言われ敬遠されていましたが、マッチの販促事業で、随分と印象がよくなったはずです」
私がそう答えると、シルバさんは、微かに首を横に振った。
「私は今までのルビーフォルンの印象を気にしているわけではないよ。……今、この国の情勢は動いてきている。今までにない大きなうねりだ」
「それはどういう意味……でしょうか?」
戸惑いながら、そうどうにか質問をした私に、シルバさんは、僅かに微笑みながら口を開いた。
「君はまだ学生だったね? もうすぐ、休学期間が終わる。おそらく君はその時に異変の一つに気付くはずだ」
異変の一つ……?
私は寮に戻ってから、出会った学園の生徒たちの顔を思い出した。
異変……私にも、少し心当たりが、ある。
シルバさんはどこまで知っていて、どこまで先のことを読んでいるのだろう……。
これが、商人ギルドの筆頭10柱か……。
私は思い切って顔を上げて、シルバさんを見上げた。
「あの、商人ギルドの筆頭が、財務の顧問になったと聞きました。筆頭10柱になれば、国政にも口出しができるということですか?」
「ほう。そこに食いつくとは、なかなかの野心家のようだ」
そう言って含み笑いをするシルバさんを見る。
何を考えているのか、分からないけど、なんか腹の立つ狸親父って感じだった。
アズールさんの前ではアヒル口なのに。アヒル親父なのに。
「本当に、商人ギルド筆頭10柱になれば、国政にも関われるのですか?」
私は同じ質問をすると、シルバさんは、面白そうに私を見下ろした。
「この国は貨幣制度で成り立っている。金というのは恐ろしい。時には人の心すらも変える力を持つ。貨幣の流れを支配しているのは我々だ。国が我々を軽んじることができるだろうか。それに……」
と言って、シルバさんが声を落とした。私は少し身をかがめる。
「もうこの国は、ギリギリなのだ。魔法使い様の数が少なくなってきているにもかかわらず、昔からの魔法頼りの制度にしがみついているのだから、それも当然のこと。国はやっとそのことに気づき始めたんだよ。そう、我々には、変革が必要なのだ」
少し怖いぐらいの鋭い目を向けられて、私は思わず息が止まった。
変革……。
親分の顔を思い出した。そして神殺しの剣を。
この人は、いや、商人ギルドは、アレク親分とは違う形で、国を変えようとしているということだろうか……。
私はゴクリと唾を飲み込んだ。私が思っている以上に、商人ギルドは力があるかもしれない。
「わかりました。ありがとうございます。……またお会いしていただくことは可能ですか?」
「もちろん。私も君の商会には注目しているんだ。蒸留酒に、マッチ……あれらも一種の革命だよ。また君になら時間を作っても良い。次回は商取引の話をしよう」
そのあと私とシルバさんは次回の予定を決めてその日はお開きとなった。
「父上、相変わらずだったであります……」
と帰りの馬車でアズールさんが愚痴っていた。
小さいころからあんな溺愛な感じだったのか。
でも、アズールさんがものすっごくビビってた程でもなかったような気もするけれど。いや、いろんな意味で怖かったけれどね。いろんな意味で。
でも、アズールさんの怯えようを見ると、まるで私殺されるんじゃないかってぐらいだったから、そういう感じではなかったのにはホッとした。
「まあ、親というものはあんな感じなのではないですか? やっぱりいつまでたっても子供は子供っていうか……」
コウお母さんも私に対しては、子供扱いというか、あんな感じの時もある。
まあ、私はまだまだ子供だし、子供の特権をギリギリまで行使して甘え倒すつもりなので、そのままで構わないけれども。
「でも父上は、度を過ぎてるんですよ。私が学生の時、騎士科だったんですが、稽古で傷を負っていたのをみたら、傷を負わせた生徒たちの家を取り潰そうとしたりして、あの時は肝を冷やしたであります。
それから友達はいなくなりましたし……」
そう言って昔を思い出したアズールさんが重い溜息を吐いた。
え? 稽古で負った傷で、家を取り潰す!?
わざとじゃなくて授業の一環だし……しかも騎士科だし……。
なんと恐ろしい……。
これぞ、モンスターペアレント。
「父上は、リョウ殿のことを結構気に入ってるようでした。あんな風に穏やかに話すのは珍しいであります」
「あれ、穏やかな方だったんですか?」
「はい、すごく穏やかだし、機嫌も良かったであります。何かあれば豹変するところもありますが……正直に打ち明けて良かったかもしれないでありますね」
そう言って、アズールさんは満面の笑みを見せてくれたけれど、なにそれ超こわいんですけど。
何かあって、突然シルバさんが豹変したら、私の商会も買収されちゃう……。
いやそんな簡単に買収できるほど小さい規模じゃないつもりだけど、でも、き、気をつけよう。
アズール父「もう我々は、ギリギリなのだ。魔法使い様の数が少なくなってきているにもかかわらず、昔からの魔法頼りの制度にしがみついているのだから、それも当然のこと。そう、我々には、転生少女の履歴書4巻が必要なのだ」
ということで、転生少女の履歴書4巻、明日発売日です!
もしかしたら、地域によっては今日置いてあるかもしれません。
ギリギリな人は本屋さんへ!









