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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第四部 転生少女の独立期

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商会長編⑫ リョウの野望

 学園の再開予定日を目前にして、なんと休学期間が延長することに決まった。


 予定日に合わせて、王都に戻ってきた生徒達にとっては、衝撃だったけれど、こうなるんじゃないかという気がしていた。


 生徒達の一部が、まだ王都に戻ってきていないのだ。


 その戻ってきていない一部の生徒というのが、グエンナーシス領の生徒全員。


 つまり、シャルちゃんや、サロメ嬢やカテリーナ嬢もまだ王都に戻ってきていない!


 友達の再会を楽しみにしていた身としては辛い。

 でも少し前に、彼女たちが私宛に手紙を送ってくれていて、そのおかげで無事であることが分かったので、今は幾分気持ちも落ち着いたけれども。


 お手紙の中では、シャルちゃんもカテリーナ嬢もサロメ嬢も特に怪我もなく無事であることと、グエンナーシス領は、魔物の災害に対する復興が遅れていて、まだ学生達を学園に戻せないということが書かれていた。


 無事の手紙が来るまでは、待てども待てどもシャルちゃん達が王都に戻ってこないので、どんどん悪い想像をしてしまっていた。

 まだ会えないのは寂しいけれど、無事ならいい。無事なら、また会えるもの。


 マッチを配給している関係上、それぞれの領地の現状をできる限り把握しようとしていたけれど、グエンナーシス領は、確かに、少し他の領地と比べて、回復するのが遅かった気はする。

 でも致命的というほどではない。きっとすぐに王都に、来てくれるはずだ。



 ということで、まだ学園が再開しないので、今日も、朝からジョシュアさんがいる王都にあるルビーフォルン商会のところに向かう。

 ジョシュアさんから、私がチェックしなければならない大量の書類を受け取って、私が不在の時に決められないでいた大きな取引に関する事柄を確認していく。


 ジョシュアさんには、私がルビーフォルンにいる間は、私の代理としてある程度の采配を任せてはいたけれども、なかなかうまく運営してくれていて、しかも新店舗の候補まで探してくれていた。 

 というか私がオッケイを出せばオープンできるぐらいまで下準備してくれていたのだ。

 ジョシュアさんに感謝しながら、店舗も増やして、酒場は以前よりも繁盛している。


 というかジョシュアさん、すごい。私がチェックするものしないものの線引きがすごいうまい。超助かる。

 これからは、私、マジで商業活動に力を入れていく予定だったので、ジョシュアさんの存在が本当に心強い。


 新学期が始まるまでは、毎日酒場に通って、頑張ろう。

 今後は酒場の運営だけじゃなく、こっちでも多少はマッチの作成販売も検討しているし、そのほか蒸留した新商品も取り扱うつもりだ。体一つじゃ足りない……。


「リョウさんは、なんだか、前よりも仕事熱心というか、姿勢が変わりましたね。でもあまり根を詰めるとよくないわ」


 一心不乱に書類に目を通す私にジョシュアさんの奥様であるメリスさんがそんな風に声をかけてお茶を持ってきてくれた。


「そうであります、リョウ殿は働き過ぎであります」

 メリスさんの言葉に私の隣に控えていたアズールさんもそう言って頷いた。


 実は、ルビーフォルンから連れてきたアズールさんは、今はジョシュアさんの酒場の一室に住まわせてもらっている。

 もともとは宿屋だったので、部屋が少しだけ余っているのだ。

 アズールさんは、そこで護衛の仕事についてもらった。


 最近、酒場で酔った勢いで狼藉を働く者がいるらしく、アズールさんがいてくれて安心だ。

 なんてったって、うちのアズールさんは、まだピクピク動く魔物の死骸を袋に詰めることができるほどの度胸がありますからね。

 そんじょそこらの酔っ払いなんて、彼女にとっては恐るるに足らず!


 私はそんなことを考えながら、メリスさんから紅茶を受け取り、微笑む。

 

「ありがとうございます。メリスさん、アズールさん」


 そう言ってメリスさんから頂いた紅茶を一口飲む。

 おいしい。私が甘いの好きなのを知ってくれてて、たくさん砂糖を入れてくれてる。好みの味だ。


 私は、ほっと息をついて、そして再び書類に目を向けた。


「あ、また、そうやって仕事しようとしてる。もう少し休憩したほうがいいと思うのだけれど」

 そう心配そうにメリスさんが声をかけてくれた。


「あと少しなので……。それに色々やりたいことがあるので早く進めてしまいたいんです」

 私がそういうと、メリスさんは眉を下げて、心配そうに私の顔を見る。


「なんだか、本当に心配。あまり無理しないで欲しいわ。そんなに急がなくちゃいけない理由でもあるの?」


 うーん、急がなくちゃいけない理由があるっていうか、まあ、ちょっと考えてることがあって……。


「実は……私、商人ギルドの筆頭10柱になりたくて」


 私が恐る恐るそういうと、メリスさんの目が見開かれた。


「筆頭10柱!? それはすごい目標ね。でもリョウさんならいつかなれるわよ、いまだって、十分に名が知れ渡っているんですもの」

 メリスさんが、そう言ってはくれたけれども、いつかじゃ遅い。


「いつか、じゃなくて、早い段階で、そうなりたくて。だから焦っているっていうのもあります。できれば……学生のうちなりたいんです」

「学生のうちに……? もしそうなったら、きっと最年少記録の更新ね! でも、どうして?」

「商人ギルドの筆頭10柱になれれば、国政にも口を出せると聞いて……」

「まあ、リョウさんは、国政に興味があるの?」

「興味というか……ちょっとルビーフォルン領のことで、思うところがあって」

 とごにょごにょ答えると、メリスさんは深く追求せずに笑顔を私に向けて頭を撫でた。


「リョウさんなら、きっとできることだとは思うけれど、でも、無理はしないでね。リョウさんは女の子なんですから。体を壊すような無理は絶対にしないって私に約束してくれる?」


 ……メリスさんって、なんて優しいんだ!


「はい、体を壊すような無理はしません。約束します」


 私はそう答えて、頷いた。

 それに、私が体を壊すほど働き始めたら、コウお母さんが、無理やり私を止めに来るだろうしね。

 コウお母さんはいつだって、私のことを心配してくれる。

 必死に頑張る私に、栄養ドリンクを作ってくれたり、休むように言ってくれたり……。

 私って人に恵まれてる。優しい人ばっかりだ。


 だから、無理はしない。

 でも、頑張れる範囲のことは頑張っていきたい。

 だって、今の頑張りで、ルビーフォルンと私に大きな影を落としてくるウヨーリ教にけりをつけられるかもしれないんだから!

 いつ国にウヨーリ教のことがばれるかしらと震える日々は卒業したい!


 だからそのために、私は、商人ギルドの筆頭10柱になる。


 そして……ウヨーリ教を国に認めさせる。

 あれを抑えるのは無理だし、もう隠すのは無理。なら、もういっそのこと認めてもらえばいい。


 以前なら、そんなの絶対に無理って思っていたけれど、今の国の現状なら、いける。


 私が、今までウヨーリ教のことが国に知られたらヤバイと思っていた理由は、大きく2つある。


 一つは、ウヨーリとかいう妖しげな者を信奉していること。もう一つは、平民にあまり知識をつけさせないようにしている国の意向に背いていること。


 でも、この大きな二つの問題は、私が、商人ギルドの筆頭10柱になれば、どうにかすることができる。

 だって、今、国は完全に弱っている。

 だいたい、非魔法使いの私が、女神と呼ばれていることに関しても国は容認しているというか認めて喧伝さえしているんだから。

 去年の大雨の災厄で、国の体制が乱れているし、各領地の領主たちからの求心力も薄い。

 国は、今は人気取りに必死だ。


 筆頭10柱は確かに国政にも口を出せると聞いていたけれど、私が思っているよりも影響力があるようだった。

 私が10柱になって、国政にまで口を出せるようになったら、ウヨーリ教の話を自ら国に持ちかける。

 実際に、ウヨーリ教は、魔物の災害の復興に貢献した実績がある。

 今後の領地経営の政策の一部として持ち掛けてもいい。

 ウヨーリ教で広まる知識は確実に国を豊かにする。それは今のルビーフォルンを見れば明らかだ。

 

 平民にあまり知識をつけさせないようにしている現状ではあるけれど、財務の顧問に商人ギルドを据えたり、非魔法使いの私が女神と呼ばれることも容認する今の国になら、食いついてくるはず。


 それでも、一番の問題のウヨーリという謎の輩を民が信奉するのを国が嫌がるようなら、ウヨーリは実は魔法使いだったという設定にして、新たにルビーフォルンに、というか国全体に宣布してもいい。

 それなら、むしろ国は歓迎するはず。


 もともとのウヨーリのモデルが非魔法使いの私だったから、私にとっても危ういところだったけれど、今となってはウヨーリと私は切り離されているし、今のウヨーリは、私とは関係ないただの架空の人物だ。

 国のしたいように設定を変えてもらえばいい。


 もともとウヨーリは、魔法使いであるかもどうかも定かでない謎の存在だし、それが魔法使いだったということにしたところで、ウヨーリ教徒の皆さんはそんなに、気にしない、多分……。

 前世の世界だって、時代をさかのぼれば権力者の手によって、教義というものは改竄されたりしていたはずだ。


 ウヨーリ教徒にとっても、国が自分達の信じてるものを認めてもらえたら嬉しいはず。

 今でこそ、口にすれば爛れるなんて言われてこそこそしているけれど、国が認めてくれたら、堂々と話したっていい。


 自分が信じているものを堂々と外で話せないウヨーリ教徒さん達は、結構ストレスをためていらっしゃる様子だったし、概ね受け入れてくれると思う。


 そう、思うけれど……ウヨーリを魔法使いにする教義改竄は、やっぱり奥の手、かな。


 今までウヨーリに関しては、いつも私の予想の斜め上をついてきた。


 もう油断しない!


 教義の改竄は慎重に行こう。


 教義をすこーし変えて、国から広めてもらうってなったら、多分大方の人はそのまま受け入れるだろうけれど、絶対に受け入れない人というのが出てくる。

 それでいくつか宗派のようなものが別れたりするかもしれない。それはそれで面倒そう……。


 とりあえずは、国にウヨーリ教徒のことを知ってもらい、使える! と思ってもらうことが先決だ。

 そのために商人ギルドの筆頭10柱になる。


 ……本当なら、バッシュさんに協力してもらいたいし、すでに領主という権力を持つバッシュさんが動いた方が早いのだけど、バッシュさんの目的がまだわかっていないうちはアテに出来ない。


 私が自分の手で権力というか、国政にも関われるぐらいの力を手に入れないと。

 成人すれば本当にただの平民になってしまう私が、国政にまで影響力を及ぼすためには、商人ギルドの10柱になる他ないから。



「でも、商人10柱って本当にすごいのよ。なんの口聞きもなく、なるのは難しいかも……」


 自分の思考に耽っていたっていたら、メリスさんのその言葉が聞こえて、私はわずかに頷く。


「大丈夫です。実は、商人ギルド10柱の一人と、ちょっとした伝手があって、今度お話を伺う予定なんです」

 

 私のその話を聞いたアズールさんが、嫌そうな顔をした。


「リョウ殿、その伝手は、もしかしたらリョウ殿に破滅をもたらすかもしれませんよ! 今からでも遅くないであります。明日の面会は取りやめましょう! そうしましょう!」

 と私を止めようとするアズールさん。


 そう、伝手っていうか、アズールさんとのことで、商人ギルドの10柱の1人と早速明日会うことになっているのだ。

 アズールさんのお父様は何をかくそうその商人ギルド筆頭10柱。


 アズールさんの実家に、アズールさんがルビーフォルン商会の護衛に着くことになりましたー! という内容のお手紙を送ったところ、アズールさんのお父様から挨拶に来なさいというお返事が返ってきて、こちらとしても望むところという気持ちでお受けした。


「もう約束しましたし、私にも目的があることですから」

 と私が答えるとアズールさんは苦々しい顔をする。


 ていうか、自分の家族に会いに行くっていうのに、このアズールさんの怯えようがなんとも怖い。めっちゃビビる。

 そんなに怖いのだろうか。

 どんなご両親なんだろう……。でも商人ギルドの筆頭10柱に名を連ねているわけだし、やっぱり恐いお方なのだろうか。


 筆頭10柱の一人と面談はすでに明日に迫っている。

 ちょっと緊張してきた。







いつも、ブクマや評価ありがとうございます!

何と先日ブクマが20000の大台を突破しました…!

嬉しいです!いつもありがとうございます!


活動報告にも書きましたが、5月31日に書籍版『転生少女の履歴書4巻』の発売とブクマ二万件越えを記念して、5/30、5/31、6/1で三日間連続更新をする予定です。

いつも最新話から読む方は来週はお気を付けくださいね!


あと、最新の活動報告で、徹●の部屋みたいな感じで、リョウが主要キャラをゲストとして呼んで、紹介したりしたら楽しいんじゃないか!?という、変な思いつきでとりあえず書いてみた『リョウの部屋』というものをですね、載せました……。


メタ的な感じで、本編とはノリも違うので、気になる方だけ、ちらりと見ていただけたらと思います。


それでは、

いつもありがとうございます!


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― 新着の感想 ―
[一言] "ウヨーリは自身が使うものを(治す方法)魔法の一種であると気付いた" てな感じにしたら反発少ないと思うけど、、、過激派ってのがなぁ
[気になる点] 将来、元祖ウヨーリ教vsウヨーリ国教の宗教戦争起きそう 元祖というか神聖?聖教?
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