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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第四部 転生少女の独立期

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商会長編⑪ 謁見

 なんとか連絡をとって、さっそくお城にお邪魔することになった。


 わざわざ陛下直々って、何を言われるのだろう……。

 トーマス先生は、マッチの功績について褒めてくれるんじゃないか? とか楽天的なことを言っていたけれど、もし違う話だったら……どうしよう。


 例えば、私が約束された勝利の女神って呼ばれていることについて、非魔法使いのくせに女神などと大層な名前で呼ばれやがって! みたいなことを責められたりする可能性とかある。

 だって、クロードさんの話だと貴族の間でもその名前が知れ渡っているって聞いたし。


 それか、ウ、ウヨーリ教のこととか……。

 王様がどこかでウヨーリ教のことを嗅ぎつけて、釘を刺しに来るような可能性だって、ある!

 ウヨーリの事は、どうにかするつもりだし、どうにかするために考えていることはある。

 でもまだ上手くいく確信が持てない……。


 でも、一番最悪なのは、私が生物魔法を使えるようになっているって気づかれることだよね。

 そうなったら、きっと私命がない気がする……。


 色々最悪な出来事まで想像しながら、王城へ向かう。


 不安しかない私は、コウお母さんに城門の前まで一緒に来てもらった。

 けれど、城門の向こうは私しか入れない。


「なんか変なことされそうになったら、すぐに逃げるのよ!」


 とコウお母さんがすごい剣幕で私にいうので、私も力強く頷いた。


 何かあれば、逃げる。

 脱出用に煙玉も作ってきたし、準備の良いコウお母さんが、なんと馬も用意してくれる。

 王様の出方によっては、私、コウお母さんと王都逃亡の上、山賊生活に戻るかも……。


 さよなら、王都。さよなら、学園のみんな。

 私は、旅立ちます。

 最後にシャルちゃん達グエンナーシスのみんなに会いたかった……。


 なんて感傷に浸りながらお城に入城した。


 お城に入ると、案内係の人に案内されるまま待合室に入った。

 待合室には、思ったよりも人がたくさんいて、ちょっと話を聞いてみると、なんと全員王様とこれから謁見する予定の人たちらしい。順番待ちな感じで、中には私より後ろの順番で会う予定の人もいた。

 結構、王様って、人と会うんだ……。


 なんか意外。魔法使いの王様だから、そうやすやすと会わないのかと思ってた。

 私が呼び出されたのってそれほど珍しいことじゃないのかも……?


 だいたい、王様に生物魔法のことを知られていたとしたら、わざわざ城に呼ばないで、なんか暗殺者とか使って問答無用で殺されるか拉致されるかするはずだ。

 

 やっぱり、トーマス先生が言うように、マッチの功績を讃えるための謁見の線が堅い気がする。

 そう思うと何だか落ち着いてきた。

 

 落ち着いて来たら、陛下ってどんな人なんだろうとか考える余裕が出てきて、嫌なことを思い出した。

 

 陛下ってつまり、ゲスリーさんの腹違いではあるけれども、お兄さんってことだ。

 なんか、嫌だなぁ。


 それに大雨で結界が崩壊してしまった大災害の時の対応は、はっきり言ってお粗末。

 あの時の国の対応で、各領地の貴族たちは国に不信感を持つようになってしまったという話もある。


 色々と考えていると、とうとう王様との謁見の時間が回ってきた……。


 係りの人に呼ばれて、覚悟を決めて、いざ謁見の間へ続く扉の前に立った。


 謁見するときにはマナーがあって、トーマス先生から基本的な謁見マナーは聞いている。

 謁見の間に入ったら、前を向かず、目線は下に向けながら元気なさそうにして王様の御前まで進み、膝をついて礼をするらしい。

 ずっと下を向いてたら、王様の顔見れないんだけど、礼をし終わったら、顔上げても平気なのかな。平気だよね? やっぱり王様がどういう人なのかって気になるし。


 マッチのことで褒められる可能性が高いと踏んで気が大きくなった私は、王様の顔をチラッとでもいいから見ようと決めたところで、謁見の間の扉が開いた。


 私は、作法通り、下を向いて、元気なさそうにして、玉座を前にして膝をついて低頭。

 よし、いざ王様とのご対面!


 と顔をちょろっと上げてみたけれども、王様のお顔は見れなかった。

 私が膝をついているところよりも小高い場所には御簾みすがかかっていて、その向こうに王様がいるらしいのだけど、御簾があるからお姿は見えない。


 代わりに御簾の隣にものすっごく綺麗な男の人がいて、色々お話ししてくれた。

 そしてあっという間に、謁見は終わった。


 前置きとか、建前とか色々あって長い話だったけれど、要約すれば、『王の命を受けて行ったマッチの配給業務誠にあっぱれ。勝利の女神とまで称された活躍に王は大変満足しておられる! 褒賞を遣わす!』的なことを言っていた。


 私も『ハハー、ありがたくー』みたいな感じでありがたく褒賞を受け取って終わった。

 あっけなかった。

 待ち時間のほうが長かった。

 それに結局王様のお顔を見れなかった。声も聞こえなかったし、あれじゃあ、王様いてもいなくても一緒な気がする。


 私は、謁見する前、この呼び出しの目的を、マッチのことの褒賞か、勝利の女神と呼ばれてることの非難か、ウヨーリ教か、生物魔法かって予測していたけれど、どうやら全部ハズレだったみたい。


 一見すると、マッチの功績を褒める謁見だけれど、城側が目的としていたことは、私が行ったマッチの配給を『国がやった』ということにすることだった。

 『王の命令でやった』と強調する単語がものすっごい多かったし、『我ら王国の指示で行ったマッチの配給』という感じではっきりと言っていた。


 マッチの配給は、確かに、国からお金を貰っていたけれど、もともとはマッチを城に届けるだけの仕事だったのを、各領地に配ったのは私の判断でやっただけで、命令でやったわけじゃないんだけどね。


 たぶん、あの大雨の災厄での城の対応で、各方面からの非難が凄いから、私がやったことは城からの命令でやった、つまり国の対応なのだ、ということにしてポイントを稼ぎたいのだと思う


 まあ、私としては、国がやったことになろうがどうなろうがどうでもいいことなので、褒賞も貰えるし良いのだけど。

 こんなせこい真似するんだったら、あの時もうちょっとマシな対応をすればよかったのに……。


 王都や城のことしか考えずに、魔法使いを手放そうとしないから、こんなせこい真似しなくちゃいけないほど面倒なことになるんじゃないか。

 

 まあ何はともあれ、無事に終わって良かった。

 色々悪い想像もしてしまったけれど、私の気にしすぎだった。


 それに、国は非魔法使いの私が、勝利の女神だとか大層な名で呼ばれていることを知ったうえで、容認している。ていうか、『勝利の女神と呼ばれる活躍真にあっぱれ』みたいなことも言ってたし、推奨してさえいる。


 このことを知れたのは、ものすっごい収穫だ。

 国は今、魔法使い至上主義の価値観を守ることよりも、地方貴族、領主達のご機嫌を伺うことに必死になっている。


 緊張から解放されて、ウキウキ気分で城門で待つコウお母さんのところに行こうとしたら、城の中庭の回廊の途中で、男の人二人が会話してるのが目に入った。

 聞くつもりはなかったのだけれど、声が結構大きいので会話が耳に入ってきた。


「陛下に謁見したらブルモンテ商会の男が隣にいて偉そうにしていたよ。まるで自分が王にでもなったような態度だった。魔法も使えない低能が、あのお綺麗な顔で陛下を骨抜きにしているという噂は本当みたいだな。だいたい、先の結界の崩壊の災厄の事後処理を、商人ギルドの奴らに頼ったというのが、許せん」

「まったくだ。陛下は何をお考えなのか。あのような非魔法使いに大きい顔をさせて……。ブルモンテ商会だけでなく商人ギルドの筆頭達の図々しさよ。我ら魔法使いあっての国だというのに、最近の国策の大半はあいつらが口を出してきていると聞くぞ」

「非魔法使いの分際で、偉そうに……」


 どうやらお城の魔法使いのようだ。偶然聞こえてきた会話だけれど、興味が沸いて、すれ違いざま耳をダンボにして話を聞いていると、魔法が使えない奴らがうるさい的な話をずっとしている。


 私は素知らぬ顔で通り過ぎて、コウお母さんが待つ城門まで歩いた。


「大丈夫だった?」


 と心配そうに声をかけてくれたコウお母さんに、ただマッチの配給を王の命でやっていたってことにしてもらいたいだけだったと伝える。


「まったくそれだけのために呼び出すなんて、嫌になるわねー」

 なんて言いながらホッとした顔をしたコウお母さんが、私の頭を撫でる。


「緊張しましたけれど、でも、来た甲斐がありました!」

 私が明るい声でそう言うと、コウお母さんは不思議そうに首を傾げた。


「思ったよりも、私、国に対しての影響力があるのかもしれません! それに今のこの状況なら、ウヨーリ教のことをどうにかできると思います……!」


 長年の胸のつっかえがとれる算段がついて、思わず拳を握りしめてそう宣言した。





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