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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第四部 転生少女の独立期
175/304

商会長編⑨ クロードさんとの商談

 アイリーン奥様やカーディンさん、チーラちゃんとも楽しくお話ししたりして、歓迎パーティーが終わりを迎えようとしたころ、クロードさんが笑顔を浮かべて私の方にやってきた。 


 とうとうお出ましになりましたか。

 そろそろ来る頃だと思っておりましたよ。


 私達は、無言で頷き合うと、いそいそとパーティー会場を後にした。


 クロードさんに案内されるがまま、屋敷を出て、倉庫のような大きな建物に入る。


 そして私はそこで例のブツ、蒸留器を拝見したのだった。


「すごい!」

 目の前には、燭台の明かりをキラキラと反射してなんとも美しい銅製の蒸留器があった。


 滑らかな仕上がりのそれに触れる。そして、それぞれの部品の継ぎ目のようなところを見る。


「これって、ちゃんと、分解できるようになってるんですよね?」

 私がそう確認すると、クロードさんが大きく頷いて、蒸留器の管のようになっているところをつかんで力を入れた。

 パコっと思ったよりも大きめの音が鳴って、蒸留器の管の一部が取れる。

 よし! きちんと分解もできる!

「私がお願いした通りの出来です! ありがとうございます!」


 リュウキさんに作ってもらう蒸留器は、ガラス製ってことで、なにかとちょっと不便だったので銅製のものが欲しかった。

 ガラス製の蒸留器を馬車に乗せて移動とかも壊れそうで怖かったし。銅製なら、丈夫だし、分解して持ち運べる。そう、王都にも蒸留器を持って行きたかったのだ! その意味も込めて銅製の蒸留器! すごい! さすがものづくり魔法使いアイリーン様!


「アイリーン様に改めてお礼を申し上げないと……」

 と感極まりながら、そうこぼすとクロードさんが「いや、これを作ったのはアイリーンじゃなくて、アラン君だよ」と教えてくれた。


 まじで!?

 アランが!?


「アイリーンでも、少し大きくて複雑な形だったから難しかったんだ。そうしたら、アラン君が自分でやってみるって言ってくれてね」


 え? それって、アランの方がアイリーン奥様よりも魔法の腕がよろしいということ?


 思わず驚いてクロードさんの暢気な顔を見上げる。


「アラン君は、すごいよね。土魔法の名門であるレインフォレスト家の血筋を濃く受け継いだというか……たぶん歴代のなかでもかなり優秀な魔術師なんじゃないかな。いやー、アラン君が当主になってからもレインフォレスト領は安泰だね」


 と言ってクロード様はふむふむと頷いて、蒸留器の出来栄えを讃えていた。


 アラン、クロードさんにここまで言わせるとは……本当にすごい。

 学園でも、魔法の腕前がかなり優秀だって噂で聞いていたけれど、学生のなかではというような意味合いかと思ったら、大人も含めても優秀なのか……。


 私、このまま子分扱いしてて大丈夫かな。そのうち反乱してこないかな……。

 反乱の子分におびえながらも、アランに改めてお礼を言うことを誓っていると

 クロードさんが「とりあえず、立ち話もなんだから座ろうじゃないか」といって、部屋の隅に置いてあったテーブル席に移動した。


 どっこらしょと二人で、そのテーブルに席を降ろすと早速クロードさんが口を開いた。


「飲み物の用意がなくてすまないが、そう長く時間をかけるつもりはないよ。早速話をすすめよう。まずは、マッチのこと。こちらとしては、マッチを作るための準備はできてる。必要なのはその製法だけだ。マッチのレシピを買いたい」


 クロードさんのその言葉に、思わず目をみはる。


 早い。展開が早い。最初の一言で、もう商談が終わりそうだった。

 いや、まあ、早いことに越したことない。ちょっとびっくりしたけれど。


 もともと、マッチについては、ルビーフォルン商会以外でも作ってもらったほうがいいかもしれないとは思っていた。どう考えてもルビーフォルン商会だけでは、需要に対する供給が追いつかない。

 クロードさんはそれをわかった上で切り出している。


 でも、マッチのレシピは、危険だからなぁ……。

 それに、レインフォレスト領で同じものが作れるってなったら、ライバル企業みたいになっちゃうんじゃないの?


 少し迷いを見せる私に「今秘密にしたところで、いつかは製法も暴かれる。世に出す以上、それは避けられないことだ」と説得にかかってきた。


「それは、確かに、そうですが……販売権はどうなります? 商品の値段などの決定権はどのように?」

「商品の値段や販売ルートなどは基本的にそちらに任せるよ。私は商品を作り、ルビーフォルン商会に卸すだけだ」


 ええ!? それって、それでいいの!?


 あのクロードさんが考えるにしては、なんというか、親切じゃない?

 クロードさんのことだし、マッチの製法さえ手に入ってしまえばこっちのものとばかりに、大量生産して、自分たちで売りさばいて利益にしそうなものだけど……。


 そして価格競争に負けたルビーフォルンのマッチが売れなくなって……みたいな妄想に震えながらも「な、なにか条件があるんですよね?」というと、クロードさんが吹き出して笑った。


「そんなに警戒しなくても大丈夫だ。まあ、私もね、自分たちで作れるようになったら、それはそれでいいかとも思ったが、マッチに関しては、ルビーフォルン商会が売ったほうが売れる。私のレインフォレスト商会の名前じゃ売れないだろうしね。ほら、リョウ君とこの商会は、勝利の女神とか言われて、王都や貴族の間じゃすごい騒ぎらしいじゃないか。マッチも勝利の女神のマッチだから売れるんだよ」


「え?そんなにすごい騒ぎなんですか?……貴族の中で?」

 え、貴族って、魔法使いとかでしょう?


「そうだよ。学園にいる子供たちは貴族だからね。彼らが頑張って宣伝してくれたみたいだ。そのおかげで、ルビーフォルン商会の名はとどまるところを知らないよ。いーなぁ、無料で宣伝してくれる人がいるなんてありがたいよ」


 なんて、羨ましそうに言っているけれど、なにそれこわい。

 約束された勝利の女神とか呼ばれているのが、貴族も知ってるってことは王族とかも知ってる?

 え、私、大丈夫なの?


 クロードさんの話を聞く限り、いい意味で広まっているっぽいけれど、でもこの国は魔法使い至上主義で、私は魔法使いじゃないよ?

 思わず眉を寄せていると、倉庫の扉がガラガラと音を立てて開かれた。


「あら、本当にリョウちゃんこんなところにいた!」

 そう言って扉から入ってきたのはコウお母さん。


 コウお母さんは、とことこと私のところにくると、少しかがんで視線を合わせてきた。

「お願いしていた蒸留器を見に来てたのね? それなら一言声をかけてくれたらよかったのにー。姿が見えないから、少し心配しちゃったわ」

「あ、ごめんなさい! 少しだけだからと思って……」

 と謝っていると、コウお母さんが、私の鼻に人差し指を置いて、からかうように笑った。

 良かった、本気で怒ってはいないみたい。お酒の力もあって上機嫌なコウお母さんにほっと安心する。


「それにしてもコウお母さん私がここにいるってよくわかりましたね?」


「アイリーン奥様に教えてもらったのよ。ここに連れてこられているんじゃないかって」


 と言ってコウお母さんは、クロードさんのほうを見た。あんまり穏やかな感じの目線ではないけれども、クロードさんはいつもの商人スマイルで受け流している。


 コウお母さんは、私が、一度クロードさんと、その、結婚されそうになったことを知っているので、あまりいい感情を抱いていないところが、正直ある。


「クロード様、うちのリョウちゃんを二人きりでどこかに連れて行こうとするのは困りますー。嫁入り前の女の子なんですからー」

 となんだか凄みのある笑顔でコウお母さんが言うと、クロードさんも負けじと微笑んだ。


「ハハハ、これは商人同士の交渉ですから、そんな怪しいものじゃないんですけどねぇ。まあ、もしなにか悪いうわさが広がってお嫁に行きづらくなってしまったら、私が責任を取りますから大丈夫ですよ」


 おい、さりげなくクロードの奴は何を言ってるんだ。責任は取らなくてよろしい!


「ちょっと、クロードさん、何言ってるんですか。ほんと、責任取るとかほんとやめてください。それよりも、先程の商談の話ですが、その、お受けします。あとで、書面で詳しく詰めていきましょう」


 私がそういうとクロードさんはうんうんと頷いた。


「あら、本当に商談の話してたのね? やだ、アタシ邪魔だったかしら?」


「全然問題ありません! 今までコウお母さんが邪魔だった(ためし)は一度もありません! それよりも、コウお母さんも蒸留器見ていきませんか? すごい出来ですよ。アランが作ってくれたんです!」


 と言って、クロードさんとの商談は中断し、再び蒸留器をコウお母さんと見る。


 王都に持って帰る蒸留器は、多分コウお母さんが一番使うと思う。


 香水を作るのにも、薬を作るのにも、コウお母さんの治療師としての力が必要不可欠だからね。


 私は改めて使い方や、仕組みなんかをコウお母さんに話す。

 王都に行ったら、蒸留器は新しいものを作るために使うつもり。

 マッチや蒸留酒のことはルビーフォルン領に残した商会の人に託しているし。

 さっきまでのクロードさんとの商談のこともきちんと書面にしたためて、ルビーフォルンに送らないと。


「ふーむ、どうやら、リョウは、コーキ殿と一緒にまた何やら新しいものを作る予定のようだねぇ」

 と興味津々な様子でクロードさんが話に混ざってきた。


 ふふふ。まあそうだけれども、でもこれは企業秘密!


「さあ、どうでしょうか」

「ハハ、リョウも商人っぽくなってきたね。まあ、王都か……実はもう少ししたら、私も王都に商会を置こうかと思っているんだ」


「え?そうなのですか?」

「おそらくね。多分これから、王都は、いや王国中が、すごいことになると思うよ」

「すごいこと、ですか?」

「おや、知らないのかい? この前の大雨の災厄で、国庫の資金が心もとなかった国が、商人ギルドの筆頭達にお金を工面してもらったんだ。そしてなんと彼らを国政の……財務の顧問にすえた」

 えっ!? 本当に!?

 それって……だって、商人ギルドって、全員、非魔法使い、でしょう?


 財務の顧問って、財務って……。

 結構、国の中でも重要な部門だと思うけれど……。


「それって、非魔法使いが国政に関わるようになるってこと?」


 私の隣にいたコウお母さんが、私が思っていたことと全く同じことを聞いてくれた。

 先程まで、楽しそうに蒸留器を見ていたコウお母さんとは違って、真剣な顔だ。ていうか、多分私も同じような顔になっている。

 だって、そんなの、信じられないっていうか……。


 しかし、クロードさんはニンマリと微笑んだ。


「そう、そういうことになる! ほら、面白そうだろう?」

 クロードさんのその言葉を聞いて、色々なことが脳裏を駆け巡った。


 あの、魔法使い至上主義の国が変わってきている?


 私は、クロードさんの言葉に、なんとかゆっくりと頷いた。





5月に入ったら菖蒲湯に入りたすぎて、新作を勢いで書きました。

お風呂を楽しむお話です!

忙しさでシャワーで済ませがちな昨今ですが、少しでもお風呂スキーが増えてくれたら、嬉しい…。


女勇者はお風呂を嗜む

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よろしくお願いします!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 国が良くなってきてる??? [気になる点] けど次代の王がアレだしなぁ……
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