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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第四部 転生少女の独立期

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商会長編⑥ いざ、レインフォレスト邸へ

 私はとうとう、ルビーフォルンを出発した。まず向かうのはレインフォレスト領。作成を依頼していた蒸留器を引き取りに行く。


 私とコウお母さんが同じ馬車に乗り、アズールさんは、馬を並走し、護衛任務に当たってくれている。もちろんアズールさん以外にも護衛はいて、後ろには荷馬車も追随しているので、私にしては珍しく結構な大所帯だ。

 落ち着いてきたとは言っても魔物の危険性が全くないとは言えないしね。


 そんな大所帯パーティーでレインフォレスト伯爵邸を目指して数日。

 やっと目的地のお屋敷が見えてきた。

 私の以前勤めていた職場、レインフォレスト伯爵邸である。


「なあ、リョウ、いいじゃねえかよ、俺も一緒に王都に連れてってくれよー」


 屋敷が見えてきたところで、私とコウお母さんが乗っている馬車の御者をしているシュウ兄ちゃんが、そう懇願するように私に訴えかけてきた。


 王都に一緒に行くぞって宣言してきたシュウ兄ちゃんだったけれど、シュウ兄ちゃんのような自由人を王都に放ったらいけない気がしたし、絶対私が面倒みることになるに違いないって思って、断固反対した。


 シュウ兄ちゃんは、王都まではいかず、レインフォレスト邸に連れて行ったら、蒸留器をルビーフォルンへ運ぶため引き返すという素晴らしいお役目を差し上げている。


 本当はレインフォレストにも連れていくつもりはなかったんだけど、シュウ兄ちゃんが『ほら、あのカイルってやつにも会いてぇし、王都連れてけよ!』っていうもんだから、じゃあ、カイン様には会わせてあげるってことで、レインフォレストまで連れていくことになった。

 まあ、カイルじゃなくて、カイン様ですけどね!

 私はいまだに、再会したときに、『キョウか!?』と名前間違えられたことは忘れておりません。

 私は、そう言うの結構根に持つタイプです!


「なあ、なあ、リョウ、いいじゃねぇかよー! 俺も王都にー!」


「シュウ兄ちゃん、ちゃんと前を見てください。危ないですよ。それと、シュウ兄ちゃんは、これから大事なものをルビーフォルンに運んでもらう仕事があるので、王都には連れてきません」


「いいじゃねぇかよ、そんなの他の奴に運ばせればさー」


「ダメですよ。だいたいシュウ兄ちゃんが王都に行ったって住むところないじゃないですか。私は寮に帰るし……」


「王都に行けば、どうにかなるだろ、王都だぞ!?」

 その王都に対する信頼何なのだろう。

 田舎から上京してきた感が半端ない。


 王都の治安はいいけれど、それでも行くところに行けば悪い人のたまり場のようなものはある。いつかシュウ兄ちゃんがカモられそうで怖い。そして、絶対割を食うのは私な気がする。


「あーら、シュウ君、アタシの部屋に泊まってもいいのよ? 一緒にすんじゃう?」


「……い、いや、ダイジョウブ、デス」

 コウお母さんの一言にあのシュウ兄ちゃんが怖気付いた。

 さすがコウお母さんである。


「リョウ!」

 馬車の外から懐かしい声が聞こえて、慌てて声がした方へと顔を向ける。

 レインフォレストの屋敷の方から、アランがこちらに駆けてくるのが目に入った。


 外に出て私を待ってくれていたのだろうか!


「お、なんだあいつ、リョウの知り合いか?」

 とシュウ兄ちゃんが言っている言葉に頷いた。


「はい、友達なんです。シュウ兄ちゃん、少し馬車の速度落としてもらってもいいですか?」とお願いすると、シュウ兄ちゃんが、「はいよー」と答えて馬車の速度を少し落としてくれた。


 まったく、アランったら、馬車の前を走るなんて危ないですよ!


 と思いながらも、私も嬉しくて馬車に乗り出してこちらに駆けてくるアランに手を振った。

 そして私の隣で座っているコウお母さんの方に振り返る。


「コウお母さん、私、先に馬車降りてもいいですか?」

「どうぞ。アタシはこのままシュウ君と馬車を置かせてもらえるところまで行ってるわね」

 と笑顔のコウお母さんの許可を貰ったので、アランが近くまで来てくれたのを見ながら、飛び降りるような形で「アラン!」と呼びながら馬車を降りた。


 馬車が減速しているとはいえ、浮かれて飛び降りるのはダメ絶対。


 私ならば華麗に着地できると信じていたんだけども、最近の私は商会関係の事務仕事が多くて運動不足、飛び降りた際の勢いを殺しきれずに、バランスを崩してしまった。


 バランスが崩れて、そのままアランに体当たりをかましてしまった私を、アランが慌てて抱きとめる。


「お、おい! 飛び降りるとか、危ないだろ」


「あ、ありがとう。でも、馬車がまだ走ってるのに駆けてくるのも、危ないと思いますけど!」

 と言いながら、体勢を整えて改めてアランの顔を見上げた。


 アランだ!

 顔色もいいし、怪我もなさそう!

 よかった。元気そうでよかった!


 少し、心配してた。だって、結界を修理するために、魔法使いであるアランは多分、魔物が出やすい危険な場所に行ってたはずだから。


 本当に、無事で、良かった。


「アラン、元気そうで、良かった」


「リョウも」


 そう言って、微笑み合うと、何故かアランが、ハッとした顔をして慌てて私と距離を取った。

 というか、突き放してきた。


 ちょ、何、痛いんだけども!


 感動の再会かと思いきや、突然の子分の暴挙に睨みを利かせてみたけれども、問題のアランは、顔を背けて、腕で顔を隠している。


 あれ? ていうか、なんか、アランのくせに、ちょっと背が、高いような……。

 いや、もともと私より背丈大きくなってきてはいたのだけど、久しぶりに見ると改めて背が伸びたなぁって感じが……。

 さっきもアランと目線を合わせた時、見上げるような感じだったし。


「アラン、背が伸びました?」


 私がそう聞くと、何やら落ち着いたらしいアランが、こちらに顔を向けた。


「あ、まあ、う、うん、少し伸びたかな」

 と言ったアラン。

 なんていうか、顔が赤い……?


 え、もしかして、さっきの私の体当たり、結構痛かったのかな……。


「あ、すみません、さっき私がぶつかったところ痛みますか?」


「い、いや、違う。そういうんじゃない。……悪い、突き飛ばして」

「あ、いえ、なんともないなら、別にいいんですけど」


 と答えながら釈然としない気持ちでいたら、「リョウ!」とまた名前を呼ばれてそちらに顔を向けた。


 まあ! あちらに爽やか笑顔でお手を振っていらっしゃるのは、我らがフォロリストのカイン様じゃないですか!


 こちらに駆けてくるカイン様が、軽く腕を広げたので、私はその胸に飛び込み再会の抱擁をした。


「カイン様! ご無事でなによりです! あの後! ルビーフォルン邸まで私を送っていただいた後は、大丈夫でしたか? 問題ありませんでした?」


「大丈夫だったよ。リョウも、元気そうでよかった」


 私とカイン様はひとしきりお互いの無事を喜び微笑み合う。


 手紙で無事にレインフォレストの屋敷についたことは知っていたけれど、こうやって無事な姿を見れてほっとした。

 私を送ってもらったその帰りの道中に何かあったらって思うと辛かった。


 アランもカイン様も笑顔だし、レインフォレスト家は大丈夫そうだなって、カイン様の爽やか笑顔を見ながらほっとしていると、横からぬっとアランが割り込んできた。


「リョウ、お母さま達が待ってるから屋敷の方に行こう」


「あ、はい。アイリーン奥様もお元気ですか? お会いするのすごく楽しみです」


「元気だ。リョウに会えるのを楽しみにしてる。ただ、少し魔物に足をやられて、杖を突いて歩いてるけどな」


「え? 杖を突いて?」

 アランがそんなことを言うので驚きで目を見開いた。

 魔物に足をやられてって……!


「大丈夫だよ、リョウ、そんな心配そうな顔をしなくても。軽い怪我なんだ。治療師の話ではしばらくすれば普段通りに生活できるようになるって言われている」


 頭が真っ白になった私を気遣ってカイン様がフォローしてくれる。


 あ、そうなんだ。それは良かった、けど……。

 知り合いが怪我をしてしまうと、ついつい魔法で治せるかもって思ってしまう。


 これからのことを考えれば、そんなことしてはいけないことだと分かっているのに、治せるのに治そうとしないのがあまりにも無情に感じてちょっと辛い。


 私はアイリーンさんの傷を治してしまいたいという誘惑にも似た気持ちを抑えて、改めてアランに向き直った。


「やっぱり、奥様も一緒に結界の修復に行かれたんですね?」


「まあな。魔法使いの数は少ないから……」

「アランも行ったんでしょう?」

「行った。結界のほころびを直して回って、お母さまとは別行動で動いてた」


 そう言って、少しため息をついたアラン。

 当時のことを思い出したのか、疲れたような顔。


 ……そうだよね。今は元気でも、その時は色々あったよね。


 私だって、ルビーフォルンのみんなを全部が全部を助けてはあげられなかった。

 救えなかった命だって、やっぱり、あった……。


 私の魔法は、死んだ人を生き返らせることはできない。


 どんなに重傷でも、生きていれば治す見込みはあったけれど、もうこと切れている人はどうにもできなかった。


 アランもそういう、どうにもならないものを目の当たりにしたのかもしれない……。


「とりあえず、行こう。クロード叔父様も、なんかすごくリョウに会いたがってた」

 とアランが言った言葉に、クロードさんの読めない商人笑顔を思い出す。


 クロードさんか。そうだよね。

 クロードさんの対応しなくちゃなぁ。

 マッチとか、蒸留器のこととか聞かれるんだろうなぁ。


 私は、クロードさんになんて言おうかなぁなんて考えながら、アラン達と一緒に屋敷へ向かって歩き出した。


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