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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第四部 転生少女の独立期
169/304

商会長編③ ストライキ怖い

 商会の方に力を入れると決めてからは、変わらず忙しい日々。


 マッチやお酒の生産、管理、材料の調達や流通を広げるために他領の商人の情報などを仕入れ、馬車を手配し、安全に運べる順路を確認し……。


 やることが多すぎて本当に目まぐるしい日々を送っていると、あっという間に、学園に戻る時期が近づいていた。


 そして私は、現在、自分の執務室で、アズールさんと睨みあっている。

 死んだことにしてくれと言い張るアズールさんは、健気にもフルメイルの鎧を着て顔を隠しつつ私の護衛兼秘書的な仕事をしてくれているのだけれど……。

 それにしても、あの鎧、すごく重そう。


「リョウ殿! ですから、私のことは死んだことにしてくださいって言ってるじゃないですか!」

 アズールさんが、語気を荒らげてそう私に進言する。

 フルメイルの兜のせいで顔は見えないけれど、おそらく怒った顔をしてるに違いない。


「ダメです。やっぱりそんなことできないし……アズールさんが生きてるってことが、暴かれた時の方が危険です」


 死んだことにしてもらう予定になっていたアズールさんだけど、私はそんなことしてもらう気はさらさらなかった。

 だいたい、そんなのうまくいく気がしない。

 流通を増やすために色々な商人の情報を集めていたけれど、アズールさんのご実家の商家はかなりやばいことがわかった。


 アズールさんのお父さんは、王都にある商人ギルドの筆頭10柱に名を連ねる大商人。

 商人ギルドの筆頭10柱とは、商人ギルドに所属する商爵もちの商人の中でも、ずば抜けて影響力が大きい大商人が選ばれる。

 つまり、この国で最も偉い商人トップ10という感じなのだ。


 10柱ともなれば、商爵という準貴族ながら国に何か意見を物申すことも可能だという噂もあるので、アズールさんのお父さんは、商人業界内だけでなく国全体で見ても影響力が大きい人。


 そんな大商人を前に、その娘が死んでしまったと報告するのも怖いし、あと隠し通せる気がしない。

 アズールさんは兜で顔隠してるから大丈夫とか思ってるみたいだけれど、さすがにそれだけではごまかされないと思う、うん。


「絶対だめであります! リョウ殿は私の父の性格をしらないからそう言えるのです! 私が、ルビーフォルンの騎士になるって聞いたら……どうなるか!」


「どうなるかわかりませんし、その時はその時で対策を考えますから」

 私が断固として、拒絶するとアズールさんは、一瞬たじろいでからコウお母さんの方にすがりついた。


「コーキ殿からも何か言ってください。コーキ殿の言うことならリョウ殿も聞いてくれるはず!」

「アズールちゃん、あきらめなさい。リョウちゃんは結構頑固だから、もう今更何を言っても無駄よ」

「そうですよ、アズールさん。あきらめが肝心です」


 私とコウお母さんがそう言うと、アズールさんは「そんなー」と言いながらうなだれた。


 しかしまだあきらめきれないらしいアズールさんが再び顔を上げた。


「でも、絶対に、父は私の様子を見にルビーフォルンに偵察を送ってきますよ! もしかしたら本人が直接乗り込んでくるやもしれません! いいんですか!?」


「来たらいいじゃないですか」

 ていうか、死亡報告したって来ると思う……。


「でも! そうすると、リョウ殿が隠そうとしていることが暴かれるかもしれません……! ウヨーリ教のことや、リョウ殿の、あの、力のこととか……。私の口から洩れたりする可能性だってあるんですよ!?」

 と言ってアズールさんが青い顔をした。


「大丈夫ですよ。だって、アズールさんは何があっても絶対に、私の力のことは言わないですもん。アズールさんが、自分を死んだことにしてもいいから傍にいたいって言ってくれたときに、もう大丈夫だって思ったんです。私、アズールさんのこと、信用しています」


 私がそういうと、アズールさんは、固まった。

 そしておもむろに、顔を隠すために装着していた兜をとる。

 顔を赤くさせて口を半開きにさせたアズールさんの顔が露わになって、その目に涙が溜まっていく。


「そんな! リョウ殿! そんな風に言われると、私……!」


 そう言って、今にも泣きだしそうなアズールさんが鼻をズズズとすすった。


「だから、もう、いいんです。……それに、ウヨーリ教のことが他領に知られる前に廃止しようという試みも保留になりましたし」

 そう言いながら、今までの苦労を思い出して思わずため息をついた。


 一度、ウヨーリ教を伯爵令嬢の権限でもって、廃止しようかなって悩んでいたところで、どうやら私のその考えがどこかにばれたらしく、領民から猛反発を食らった。


 ひっそりと祈ることすらも禁止するとは横暴ぞ! 許さぬぞ! こればっかりは許さんぞ!


 みたいなことを直談判してきた領民達……。

 思いの外に魔物の騒動の被害が少なく、すぐに領民の皆さんの生活を立て直せたのは嬉しいんだけど、良いんだけど、元気ありすぎじゃなかろうか……。


 しかも運が悪いことに、彼らをなだめることに関しては、絶大な効果をもつタゴサク大司教様は、屋敷にいない。


 おのれタゴサク。大事な時にいない奴め。

 まあ、私が辺境に追いやったわけですけれども……。


 そしてこの領民の反発で、一番私を困らせたのはルビーフォルン商会の従業員達だ。

 出稼ぎしたい人を大量募集して、結構な大所帯となったのは良いのだけど、商会長である私が、ウヨーリ教禁止令を推進していると聞きつけた従業員達が、ストライキを起こしてきた。


 口には出せない尊き方の尊さを理解できない商会長のもとでは働けないみたいなことを言ってきたのだ。


 タゴサクさんを追いやって、ウヨーリと私を切り離したことで、まさかこんな事態を招くなんて……。


 ストライキを起こす彼らにとって私はただの領主の養女であり、ウヨーリのモデルとなった人物だとは知らない。 


 いや、領主の養女って結構すごい立場なんだと思いますけどね!

 しかし、尊きウヨーリ様とお比べになると、随分と見劣りがするらしい。


 だから、商会の小娘が、我らが尊きウヨーリ様の教えを禁止するとは何事ぞ! ってな具合で猛反発。

 ちょうこわかった。


 君たちが崇めてるウヨーリとかいうのは私なんですけど!

 という言葉が喉下まで出てきた。

 むしろ、ウヨまでは出た。ウヨ。


 そしてタゴサクさんもいないし、バッシュさんも領民の直談判の対応で忙しく、ストライキは商会長である私が対処しなければならなくなった。


 何とか対応して、結局はウヨーリ教の廃止を保留にしたことで騒動は収まったんだけど……。


 う、あの時の苦い記憶が脳裏によぎって、頭がいたい。


「だから……いいんですよ。ウヨーリ教のことを国に隠すというのはもう無理だと思うので、他の手立てを考えています。なので、アズールさんも旅の準備をしてください。私と一緒に王都に来てもらいます。アズールさんのご家族の方に挨拶と王城の騎士をやめる手続きをしなくてはいけないですからね」


 というと、アズールさんは、ううと唸ってから、ガクッと腕を下げた。

 どうやらやっとあきらめたようだ。


「リョウ殿がそこまで言うのなら、分かりました。……しかし、今から王都に行くのは少し早すぎませんか?」


「レインフォレスト領に新しい蒸留器を作ってもらうように頼んでいるので、一度レインフォレストに寄るつもりなんです。それに王都についたら、いろいろやることもありますし」


「蒸留器……確かリョウ殿が今力をいれてる新商品の蒸留酒を作るための道具でありますね。しかし、蒸留器は、リュウキ様にも作ってもらっていて、いくつか既にルビーフォルンにあるはずですが……レインフォレストの方でも作ってもらうのでありますか?」

 不思議そうにそう問いかけてきたアズールさんを見て頷いた。


「本当は銅でできた大きい蒸留器が欲しかったんです。リュウキ様は、あまり土魔法は得意じゃないみたいで、ガラスでできた中型の蒸留器を作るのが限界みたいでした。あれでは大量生産には向かないので、土魔法の名門であるレインフォレスト領にお願いして、銅製の蒸留器を作ってもらう予定なんです」


「大量生産、ですか。リュウキ様が作ってくれた蒸留器は確かにそこまで大きいものではないですが、たくさん作ってもらったので、大丈夫そうとは思いましたが、もっと必要なのですか?」


「はい。何も蒸留できるのは、お酒だけではないですからね。それに、銅製の蒸留器なら、持ち運びもしやすいので、そのままいくつか王都にも持って行けます」

 そう言いながらリュウキさんやレインフォレストの人に作ってもらったので蒸留器の設計図を思い出す。

 お酒の入った瓶の下に火を焚いて、蒸気を上げさせ、細い管に通しながら冷やすことで、アルコール濃度の高い液体を抽出する仕組みだ。


 そんなに難しい仕組みじゃないからこそ、色々なものに利用できる。


 例えば、植物等から精油を取り出すこともできるだろうし、そうなれば香水とか、薬だって、今までにないものが作れる。というか香水ってなんか女子っぽくていい。


 香水を作るのに必要なアルコールだって自分の商会で取り扱っているわけだし、香水業はうまくいくんじゃないだろうか。それに、化粧品とかも……。


 やだ、どうしよう。

 うまくいけば、私、そのうち美のカリスマとか呼ばれたりしちゃう?

 いやでも、コウお母さんを差し置いて、美のカリスマ呼びはさすがに……でもみんなが勝手に呼ぶのはしょうがないもんなぁ。


「リョウ殿、なんだか悪いことを思いついたような顔をしております」

「べ、別に悪いことなんて考えてませんよ!」

 悪いことには手を染めておりません! 健全です!


 慌ててアズールさんに健全であることをアピールすると、一旦自分を落ち着けるためにコホンと咳をする。


「とりあえず、そういうこともあるので、早めにでて王都に向かいます。商会のことはカナリアさんにお任せする予定です。私がいなくては回らないということも無いですから」

 と私の話の途中でコンコンとノック音が響いた。


 アズールさんが扉の方までいって、何事かのやり取りの後にこちらに戻ってくる。


「リョウ殿、北東の領地に支援物質を運んでもらっていたアリーシャ殿が戻ったようです。他領地の現状をお伝えしたいと」


「わかりました。では入ってもらってください」

 私がそう言うと、アズールさんは、部屋に一人の女性を通してくれた。


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