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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第四部 転生少女の独立期
167/304

商会長編 ウヨーリ教徒じゃなければ完璧な人々

 馬車の中で揺られながら、各領地の有力な商会に関する資料を目に通す。


 マッチ含む魔物対策の救援物資を、ルビーフォルン商会の名で各領地の有力な商人に渡して、配給をお願いしているのだけど、中には不正をする輩がいるので、ちゃんと調べないといけない。


 こっちが配送料を払ってお願いしてるのに、渡したマッチを自分達の商会の利益にするために確保したり、利用したり、研究に充てたりする商会がたまにいる。

 もともとマッチを各領地に配ることに関しては、お城からお金を事前にたんまり頂いていたので、金銭的負担はないのだけれども、こっちだって、人手不足の中がんばって、各領地に馬車を飛ばしているっていうのに、不正を働かれたらたまったものじゃない。


 少しでも怪しい動きをした商会とは早々に取引を中止させ、別の商人に声をかけるというのを繰り返して、最近ようやく今後もお付き合いしていきたい商会が絞られてきた。

 中には、配送料金などいらないと言ってマッチを配ることを請け負ってくれる商会もいる。というか、最終的にはそういう商会ばかりが残っていた。


 今までは、お酒の販売とかも含めてクロードさんの商会とだけ取引をしていたけれど、せっかくのいい機会なので、信用のおける商会とは今後も取引を継続していく予定。

 マッチにお酒、そのほか色々、ルビーフォルンの特産品の販路が広がっていっている。


「リョウちゃん、屋敷が見えて来たわよ」

コウお母さんに呼ばれて、資料から目を離し、馬車の窓から顔を出した。


 おお、確かに、いつもおなじみのルビーフォルン邸だ!


 ルビーフォルンの巡回の旅の間、何度か物資の調達もかねて屋敷を往復しているのだけど、毎回ここに来るとなんか帰ってきたって感じがする。


 それに、最近は、タゴサク率いるウヨーリ教徒の盛大なお出迎えはないしね。ふふ。


 ルビーフォルン領の大体の人々は、ウヨーリの正体が私だと知らない。


 でも、タゴサクさんをはじめとしたもともと屋敷にいる人達は、私がウヨーリだと思ってる。

 屋敷の中の人だけならいいけれども、万が一、ウヨーリ=リョウの図式が領内に知れ渡った時が、ものすごく恐ろしかったので、事情を知るタゴサク教徒の方々には、ルビーフォルンの辺境にある温泉地でゆっくり過ごしていただいてるのです。

 タゴサクさんを追いやったことで、ウヨーリの教えが大人しくなれば、一番いいんだけどなぁ。


 まあ、タゴサクさんが、目の届かないところにいるのはそれはそれで恐ろしいけれども……。


 ああ、そういえばあの時のタゴサクさんはすごかったな。

 タゴサクさんの奇行を思い出して、思わず眉をしかめた。


 神殺しの剣のこともあり、亀の魔物を倒し親分と遭遇したあの後すぐに、一度、ルビーフォルンの屋敷に戻ったのだけど、その時のタゴサクさんの出迎え方が……。


『ウヨ……リョウ様ー! ああ、リョウ様ー! リョウ様ー!」』

 と、私の名前を咽び泣きながら連呼したタゴサクさんの顔は涙と鼻水とよだれみたいなものでべとべとだった。

 しかもそのべとべとの顔で、私の足のつま先に顔をこすりつけようとしてきたので、俊敏な動きでもってそれを避けた。


 あの時の私の俊敏さは、もう今年のベストオブ俊敏でしたで賞を差し上げたい。あの時の私グッジョブである。

 しかもそのあと、タゴサクさんは咽び泣きながら、


『神の声がここまで届いたのでございます……。人々を癒す、名前を言うのも恐れ多いあの方の奇跡のお力がこの地にふるわれたと!』とおっしゃって、あの時点ですでに、私が生物魔法を使った件がばれていた。

 タゴサクさんの情報網にマジで戦慄した。


 一応、あれはお薬を処方しただけで奇跡のお力ではないんですよーと伝えてはみたものの、『分かっております、ええ分かっております、わかっておりますとも。このタゴサク、リョウ様のお気持ち、全て分かっております。ささ、まずは屋敷の中に入りましょう。ささ』と言って、私の言葉なんて耳に入らないのか、キラキラした目で私を仰ぎ見るのみである。

 もしかしたら、私の使っている言語とタゴサクさんが使っている言語は、違うのかも知れない。



 私は苦い記憶を、頭をふって追い出していると、私が乗っている馬車の隣を並走してくれているフルメイルを着込んだ護衛の人と目が合った。


「リョウ殿、いかがしたでありますか?」

 突然頭を振り出す私を心配して声をかけてくれたこちらのフルメイルの騎士はアズールさんである。


 死んだことにしてほしいと言ったアズールさんは本気だったみたいで、『死んだはずの自分が生きていたら問題だから、顔を隠すであります!』とか言って、フルメイル騎士になったのである。


 いや、バッシュさんの奥様であるグローリア様が、アズールさんが生きてること知ってるし、それぐらいの変装なんて正直意味ないのでは? とは思ったけれども、アズールさんはものすごくやる気で私の止める言葉に耳を貸さない。

 

「いえ、なんだか嫌なことを思い出して、思わず頭を振ってしまっただけなので、大丈夫です」

 私はアズールさんにそう答えると、「リョウ殿は、馬車の中でも仕事をするので、体調が心配になるであります。あまり無理はよくないですよ」と気遣ってくれた。


 アズールさん、優しい。

 コウお母さんにもたまに怒られるし、肝に銘じておきます!


「はい、気を付けます」

 私がそう答えると、アズールさんは、満足そうに頷いて、口を開いた。

「それにしても、今回の旅では魔物に遭遇することもなく順調でありましたね」

「そうですね」

 

 うん、確かに、今回は魔物にもあわず、安全な旅だった。

 もう、結界も張りなおしたし、漏れ出た魔物の処分も順調に進んで、ルビーフォルン領内での魔物の被害は落ち着いてきたと言ってもいいかもしれない。

 

 そんなことを考えていると私の乗っている馬車のすぐ後ろについてきている荷馬車から女性達の歓声が聞こえてきた。


「まあ、あれが伯爵様のお屋敷なのねー」

「大きいわー、お掃除大変そう」

「私たちが働く商会もあの建物なのかしら?」


 主に女の人の明るい声が多い。


 領地の立て直しで、様子を見るのと同時に、ルビーフォルン商会で働いてくれる人を探しては、連れてきている。男性もいるけれど、女性の割合が多い。


 何と言っても今のルビーフォルン商会は、販路を急激に広げているところなので、とっても人手不足。

それに領民にとっても、生活のために出稼ぎ先があるのはありがたいようで、たくさんの人が、村を離れてでも働きに出てきてくれる。


 というのも、大雨のせいで、結界が壊れて魔物が出て被害が増えたことももちろん深刻だったけれども、大雨がもたらした災厄は魔物だけではない。

 村によっては雨で畑が全滅しているところもあった。

 そうなると、魔法使いの力で作物を育てられないルビーフォルンの領民が、畑の恵みを得られるまでには時間がかかるわけで、今生活できる分の食料、稼ぎが必要になる。

 

 驚いたことにこの国には、緊急時のために食料を備蓄するという発想があまり一般的じゃない。

 そりゃあ、魔法でいつでもちょちょいで用意できるわけだから、あまり必要なかったのかもしれないけれど。これからはちゃんと備蓄も管理しないとね。


 ということで、今生活するのに必要な食料を得るために、村の畑の立て直しを男性が担い、村の女性や子供達が出稼ぎを希望する村が多かった。


「商会長、よくお戻りで。お疲れ様です」


 屋敷に着くと、カナリアさんというルビーフォルン商会で雇っている人が出迎えてくれて労いの言葉までくれる。

 ちょういい人。

 タゴサクさんだったら、五体投地で咽び泣いてと大変なことになるけれども、今はこうやって爽やかに出迎えてくれる!


「カナリアさん、出迎えありがとうございます。商会に働いてくれる方を連れてきました。私は今からバッシュさんに挨拶をしてくるので、後のことはお任せしても大丈夫ですか?」


「はい、お任せください」

 カナリアさんはそう言って爽やかな笑みを浮かべてくれた。

 ルビーフォルン商会で大々的に人員の募集をした時、一番に娘さんと一緒に商会に入ってくれた方だ。

 年は、40代ぐらい。包容力があって、しっかりしてるし、頼りがいがある。


「皆さん、馬車での長旅ご苦労様でした」

 とカナリアさんが連れてきた人たちに労いの言葉を述べる。

 そして厳かに手を組んだ。


「無事に旅を終えたのもすべて尊きあの方の祝福があればこそ」

 と言って祈り始めたカナリアさんを見て、新しく連れてきた人たちも、先ほどまできゃぴきゃぴしていたというのに、いきなりしっとりと手を組んで祈り始めた。



 ほんと、カナリアさんは、というかルビーフォルン領民の皆さんは、ウヨーリ教徒じゃなければ完璧だった。本当に。


 まあ、タゴサクさんほどの奇行はないので、今のところは私も温かい目で見守っているけれども。


 カナリアさん達が、タゴサク教団みたいになって、私を五体投地で出迎えたり、私の抜け毛とかを集めたり、私の使用済み手洗いの水とかを崇めはじめたりしないように、気をつけなきゃ……。


 私は、一瞬してしまった悪い想像を頭の隅に追いやると、今回連れてきたみんなをカナリアさんに任せて早速コウお母さんと一緒にバッシュさんのところに向うことにした。




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