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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第三部 転生少女の救済期

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神殺しの剣と魔物編④ 親分と神殺しの剣 

今週は今回更新分含めて、三話更新してますので、いつも最新話から読んでいる方は、お気を付けください!

 突然現れた親分達は、もう一本の魔物の腕を切り落とすと、魔物の首のあたりに突き刺さったままの剣を引き抜いた。

 四肢をなくして甲羅の部分だけになって動けなくなった魔物は、ただの岩みたいなものになった。


「親分!」


 私はそう言って、溝を越えて親分達の近くに駆け寄った。

 あと少しで触れる、という距離で親分の顔を見上げる。近くで見ても、やっぱり親分だった。


 親分と目が合った。

 親分は手についた血を服で拭いて、口の右側の口角をあげて目を少しだけ細める。

 そして私の頭を撫でた。

 上機嫌の親分がよくやる仕草だった。


「ずいぶんでかくなったじゃねえか」

 その泣く子が黙るような低い声も、親分の、懐かしい声だ……!


「親分! 本物の、親分だ! 親分! ありがとうございます、さっき魔物から守ってくれて! それに、クワマルのアニキにガイさんも! ルビーフォルンに戻ってきたんですか!? 一緒に居られるんですよね!?」

 私は、久しぶりの親分のなでなでに嬉しくなって、ほぼ奇声みたいな声でそう言ってから、コウお母さんの方を振り向く。


 きっと、コウお母さんも喜んでるはずだ!


「コウお母さん! 親分ですよ! 親分!」

 と言って、コウお母さんの顔を見る。

 当然そこには、親分の帰りを喜んでいるコウお母さんが……いると思っていた。

 でも実際は、顔が強張って、緊張した様子である一点を見つめている。


「ど、どうしたんですか?」

 そう言いながら、コウお母さんの視線の先を見た。

 視線の先は親分が持っている剣に注がれていた。さっきの魔物との戦闘で、赤く濡れている。


 そういえば……あの剣……魔法が効かない魔物を、突き刺していた。

 そして首を落として……。

 ということは……。


 親分の登場に舞い上がっていた私は、初めてその事実に気付いて、頭が真っ白になった。

 そして、コウお母さんが口を開く。


「久しぶり、アレク。会えて嬉しいわ。それにさっきは助けてくれて、感謝してる。けど、その剣はいったいどうしたの?」


コウお母さんから落ち着いているけれど、ちょっと緊張したような声が聞こえた。


「神殺しの剣だ。……俺たちはとうとう一つ目の目的を果たした」


 神殺しの剣。本当に?

 でもあの魔物を切り捨てた。魔法が効かない魔物の首を。


「……そんなものを作って、どうするつもり? ルビーフォルンは、飢えずに生きていられるようになってきてる!  もうこんなもの……わざわざ掻き乱すようなことをしなくたって!」

 コウお母さんの、真剣な声に、思わずコウお母さんの顔を見たけれど、すぐに親分の鋭い声がして、そちらに視線を向ける。


「ハッ! さっきまで魔物に殺されそうになってたやつの言うことじゃねぇな。多少暮らしやすくなったからといって、根本を変えなきゃ意味がねぇ。また同じことの繰り返しだ。国が、王族が、俺たちにしてきたことを忘れたのか? 魔物が結界から出ちまったこの現状に、何かしてくれたか? 魔物を倒すための騎士団や魔法使いを派遣してくれたか?」


 私たちは、返す言葉が見つからなかった。

 国の対応に不満がないわけがない。

 でも……。


「親分は、戦争でも、するつもり、なんですか……?」

 私は、親分を見上げて、どうにか、か細い声で、それだけを問いかけた。

 そうかもしれないと思っていたけれど、でも結局はそんなことしないだろうって、私はどこかで楽観視していた。

 作物をたくさん実らせて、生活をより豊かにしていけば、争う理由もなくなって、きっと親分は帰ってくるって、そう、信じていた。


「もうこの国はとっくに終わってる。……俺は、ただそれを分からせるだけだ」


 親分の目に迷いがなかった。


 一瞬の静寂の中で、慌しくこちらに向かって駆けてくる足音と、馬の蹄のような音も聞こえてきた。


 音のするところに体を向けて構えていると、分厚い毛皮に覆われた大型犬のようなものが草むらからこちらに駆け出してきた。おそらく魔物だ。こんな時に……。


 親分も気づいて剣を握り直す。

 けれど、魔物がこっちに来る前に飛んできた炎の塊が魔物にぶつかって、叫び声のようなものをあげて火だるまになってあたりを転がった。


 これは……。

 私は炎の塊が飛んできた方角を見る。


 馬に跨った騎士風の格好をした人たちと、その中心にいる前髪を七三に分けた女性を見て、息を飲んだ。


「グ、グローリア様」

グローリア様が、馬にまたがって驚いた顔で私達を見下ろしている。結構お疲れの様子で、額には七三に分けた前髪が汗で張り付いていた。


 そういえば、グローリア様は、魔物の残党処理で、私たちのいる東側に進んでいたんだった。

さっきの魔物たちは、グローリアさんに追われてきていたのか。

 もしかしたら、亀の魔物に気づかれるきっかけになったウサギのような魔物も追い立てられてきていたのかもしれない。

 突然のグローリア様との再会に一瞬驚いて、そして、今はそれどころじゃないことを思い出す。


「グローリア? ああ、聞いたことあるぞ。バッシュの妻だな。こいつは運がいい。バッシュに直接渡す手間が省けた……おい、クワマル、アレを持ってこい」

 ランプの火を使って、あのでかい魔物を燃やそうとしていたクワマルのアニキに向かって、親分がそう言うと、アニキは背に何か重そうなものを載せている馬を連れてきた。カチカチという金属がぶつかり合う音が聞こえる。


 親分の存在に驚いているグローリアさんのことなど気にせず、親分は飄々とした様子で、 馬が背負っている荷物の紐を解きはじめた。


「あなたは……?」

 というグローリアさんの質問に親分は答えずに、馬に背負わせていた荷物を解くと、乱暴に中身を下に落とす。

 ガシャンと、やはり金属のぶつかり合うような、重そうな音が聞こえた。


 そして包んでいた布が解けて中身が露わになる。

 鞘に入った剣のようなものが数本地面に転がっていた。


「全部、神殺しの剣だ。魔物退治にでも使うんだな。まあ、なぜかこっちの領地は、不思議なほどに被害がすくねぇが……」


 これ全部、神殺しの剣……?


 それはきっと、親分の言う通り、魔物退治に使える。ルビーフォルンを助けるのに大いに役立つ剣だ。

 でも、私は恐ろしかった。

 だって、こんな貴重な剣を数本でも譲ることができるということは……親分は神殺しの剣を量産できるようになったということなのでは?


「親分……!」


 私が何かを言おうとして言葉が続かない。その間に、親分は私から離れて既に背を向けて馬に乗ろうとしていた。


「俺がルビーフォルンに来たのは、この剣を届けるためだ。もう用はねぇ。行くぞ」


「ええ!? 親分、俺、このバカでかい魔物燃やすのに必死で、全然コウのアネキやリョウと話せてないんすけ……いや、なんでもないっす」


 馬にまたがった親分にクワマルのアニキが不満を口にするが、親分のひと睨みで黙った。


「あいつらとは、もう住む世界が違う。さっさと行くぞ」


「ま、待ちなさい! あなた方は何者なの!?」


 グローリアさんが、そう声を荒らげるが、親分たちは背を向けたまま反応を返さない。


「待って! 待ってよ、親分! 行かないでよ!」

 何をいえばいいのかわからない。

 戦争でもする気の親分を止めたいけれど、何をいっても親分の気持ちを変えられないとわかっていた。

 親分のやろうとしていることが、全部悪いことだと言えなくて、親分の言いたいことや気持ちが、少なからずわかってしまう私がいた。


 だから、ただ、『行かないで』と、それだけしか言えなくて……。


 私は必死になって声をかけて、騎乗している親分に近づく、すると遮るように、親分は何か酒のようなものを撒いた。そして、松明を落とすと、私と親分の間に、炎の壁のようなものができて、私は、その熱で後ろに少し引いた。


「わりぃな」


 親分の声を微かに聞こえた。

 そう思った時には、もう、親分たちは馬をかけてずっと先に進んでいた。




皆様のおかげで転生少女の履歴書3巻が無事に発売日を迎えることができました。

ありがとうございます!

「もう転生少女の履歴書3巻は、とっくに発売してる。……俺は、ただそれを分からせるだけだ」

と、親分も申してまして(申してません)、今週は、書籍版発売記念ということで、3話更新してます。

最新話からお読みになっている方はお気を付けください!

次回の更新は、いつも通りな感じで、来週の金曜日になると思います。

今後ともよろしくおねがいします!

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