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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第三部 転生少女の救済期
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神殺しの剣と魔物編② プロジェクトR-魔を封印せし者達- (前編)

 木によじ登って手作り簡易双眼鏡で遠くにいる魔物の姿を確認。

 大きな甲羅を背負った、亀みたいなのがいる。亀っていうか、遠くからみたらただの巨大な岩にしか見えないけれども。

 リュウキさんの事前情報通り、結界の役割を果たす川の付近に鎮座しており、動く様子はない。

 それにしてもでかくて硬そうで、戦うには面倒そうな魔物だ。


「作戦通り、川を引きましょう。あれは無理そうです。魔物に気づかれないぐらいの距離をあけて、確実に囲って封じていきましょう」


 木からスルスルと降りてそう宣言すると、作戦遂行メンバーは頷いた。


 川下から掘削工事を始めて、魔物をこっそりと囲って、上流にある川の本流まで堀を繋ぐ予定。

 掘削工事が本流まで完了した瞬間、川が一気にドバーっと流れる算段である。

 さすがに川がいっきに流れる時は、音がすごそうなので魔物には気づかれるだろうけれども、今さら気づいたところでもうお前は封印されているっていう感じになる作戦だ。

 この作戦がうまくいけば、魔物と戦闘することなく、楽に魔物を遠ざけることができる。


 作戦の要は我らがルビーフォルンの土木産業代表のセキさん。彼に、大雑把に掘り起こしてもらって、リュウキさんが、魔物がいる側の岸を綺麗に整備していくツーマンセル体制での土木作業になる予定。結界というのは、境界線をきちんと引くことが肝心らしく、対岸を整えないとうまく機能しないらしいので、リュウキさんの丁寧な匠の技が必要不可欠だ。


 早速それぞれ持ち場につくと、私とコウお母さんとアズールさんはスリーマンセルで、魔物の見張り役を始めた。

 万が一、気づかれたら襲われるというリュウキさんの事前情報があるので、魔物が気づくような素振りをしたら、みんなと一緒に逃げ出す所存。


 作戦開始からしばらくして、改めて、木に登って魔物の様子を双眼鏡で見る。

 魔物とはかなり距離を取っているので、セキさん達の作業に全く気付いているそぶりはない。

 魔物は岩のように鎮座している。


 そして少し離れた場所にいる。セキさん達の様子も確認する。

 魔法ってすごい。ほとんど大きな音をもせずにあんなにサクサク土木作業が進むのか、早い。

 もうすぐで魔物を囲うための堀が本流につながるところまで来てる。


 いい感じだ。

 魔物も動かざること山のごとしだし、と思って一息つこうとしたら、魔物がいる方とは別の方向から、何かが素早く走るような足音が聞こえてきた。

 木の上から音のした方を見ると、低木の繁みの中で何かが素早く動いてこちらに向かってきている。


「アズールさん、伏せて!」


 繁みから飛び出した魔物が、アズールさんに向かって体当たりしそうだったので、そう声をかけると、アズールさんは素早く地に伏せ、激突を避けてくれた。

 アズールさんの顔があった場所にその何かが、通り過ぎると、振り返って私たちを睨んできた。


 うさぎのような見た目だけど、手足が熊のように太くて長い。あの継ぎはぎな感じは魔物だろう。顔の右半分がただれている、というか焼け焦げている?


 どちらにしろ、早く対処しなくちゃ。亀に気を取られて、ほかの魔物の警戒を怠っていた。


「アズールさん、大丈夫ですか?」

 そう声をかけながら、木の上から弓矢を放つが、なかなか素早い魔物で、ぴょんぴょんと飛び跳ねて、避けてしまった。

 そんなに大きくないけれど、その分攻撃が当たりにくい。


「大丈夫であります!」

そう言いながらアズールさんは剣を抜いた。

「気をつけてください! また来ます!」

 魔物は、さっきまで弓矢を避けることに徹していたが、アズールさんが起き上がるのを見て、またそっちに向かっていった。


 どうやらあの魔物はアズールさんがお気に入りらしい。


 けど、魔物がアズールさんに向かっていくっていうなら、軌道が分かるから、弓を当てやすい!

 アズールさんの顔めがけて、また体当りするべく飛び跳ねたところを見計らって、矢を放った。

 矢は魔物の顔のあたりに命中して、魔物の体勢が崩れる。

 そして、魔物を迎えていた形のアズールさんが、剣を横になぎ払って、魔物を切り伏せた。

 魔物は血を流して、地に伏せる。


 でも、きちんと止めを刺さなきゃ。魔物は生命力が異常。できれば火で燃やし尽くしたいけど……。

 私は、亀のでかい魔物がいる方を見る。この騒ぎで気付かれないかと少し不安に思ったけれど、気付いた様子はない。

 でも、流石にここで魔物を燃やすために焚き火のようなことをしたら、流石に気づかれる……。


 私は木から降りて、魔物に近寄る。

 私がどうしようかと、迷っていたその一瞬の間に、切り伏せたと思った魔物の目がカッと見開いた。

 そして、大きく口を開く。


「ギャーーーギャーーー!」

 耳をつんざくような魔物の叫び声が聞こえた。

 驚いて一歩下がった私の前に、コウお母さんがきて、その長い脚で、魔物の頭を踏み抜いた。


 魔物の耳障りな声が止まる。


 一瞬の静寂の後に、「リョウちゃん、気づかれたわ」と、 静かに、そしてとても緊張した声でコウお母さんが教えてくれた。


 何に気づかれたかといえば、それはもうあれしかいない。亀の魔物だ。

 そう思って、亀の方に目を向ければ、さっきまでビクともしなかった巨岩が、動いた。動かざること山のごとしだった魔物が動くと、地響きのような空気を震わす音が響く。


 順調だったのに!

 でも、今はとりあえず、逃げよう。


「魔物に気づかれました! 撤退です!」


 少し離れたところで作業をしてもらっていた土木作業員のセキさんとリュウキさんのいるところまで駆けて行ってそう伝えると、二人は苦い顔をして頷く。

 近くに待機させていた馬にまたがると、そのまま全力疾走。


「くそ、あと少しだったのに。なんでこのタイミングで別の魔物なんかが……」

 隣で走っているリュウキさんが悔しそうにそう言っていた。


「すみません。油断してしまいました。でも、大丈夫です。結界の張り直しはいつでもできます。……あの亀の魔物が、あの周辺から動かないのだとしたら……ですけど」

 と言って、走りながら後方を確認すると、亀の魔物はそこに留まる様子もなくずんずんとこちらに進んでいる。


「リュウキさん、あの魔物、ずっとは、ついてこないんですよね?」

 歩みを止める様子のない亀をみて不安がよぎったためリュウキさんに尋ねた。

 リュウキさんは、馬を走らせながら青い顔をして、後方の魔物の様子を見た。


「以前のときは、私たちがある程度離れると、すぐに戻って行ったんですが……」

 なるほど。前回とは状況が違う感じですか……。

 もともとあの場から動かない魔物だという保証はなかったのだから当然だ。今日のあの魔物の気分的には、引き返つもりはないらしい。

 しかもあの亀、動きが遅そうに見えるけれど、もともと体が大きいので一歩がでかい。進むスピードはなかなかのものだ。


「そろそろ魔物には引き返してもらいたいんですけど……その様子がないですね」

出不精だという噂だったから、縄張りの外には出ないのかと思っていたけれども、どうやら、そうでもないらしい。


リュウキさんが、申し訳なそうな顔をした。

「すみません、私が怪我をした時は、本当にすぐ引き返していったので、そういうものなのかと……」


「いえ、リュウキさんに落ち度があったわけではありません。もともと色々と準備不足でした。でも、このままついてくるようなら、村に戻るわけには行きませんね」

 私とリュウキさんの話を聞いて、セキさんが、後ろからものすごい勢いで追いかけてくる亀の魔物を見る。


「あれが、魔法が効かない魔物なのか? 一応、魔法を使ってみてもいいだろうか?」

 魔法が効かない魔物というのが信じられないらしいセキさんの提案に、私は頷く。もしかしたら、効くかもしれないし、魔法が効かないというのがどういうものなのか見たい。


 セキさんは、マッチを擦ると、呪文を一つ唱えて、マッチの小さな火から大きな火球を発生させて魔物にぶつかる。


一瞬炎に包まれたように見えたけれど、まるで吸収されたかのように消えて無くなった。

「本当、みたいだな」

 もともと色白なセキさんの顔色が、さらに青白くなる。

 魔法が効かない魔物の出現というのは、大災害と同じような認識だ。

 それにしてもさっき炎を当てた時の感触。魔法を吸い込むような感じだった。


 それなら、魔法で掘り起こした落とし穴とかは有効なんじゃないかな。

 一度掘り起こしたものを吸い込むとかそういうのはできないだろうし。


「セキ様、リュウキ様! 地面にあの大きな魔物が入るぐらいの落とし穴を作ることはできますか?」


「出来ると思うが……それには、直接地面に触れないとできない。それに、あの大きさが入る穴を掘るとしたら、時間がかかる」


 私の突然の質問に、セキさんが答えてくれた。リュウキさんも「すみません」と言って、できないことを伝えてきた。


 大地に触れて、少し時間もかかるとなると、追いかけられてる今の状況で、作り出すことはできないか……。


「リョウちゃん、このまま真っ直ぐ進めば、村に魔物を案内することになる。一度迂回させてまた結界の周辺まで戻ったほうがいい」

「そうですね。……そうしましょう」

コウお母さんの提案に乗って、魔物を引き付けながら少しずつ道筋を傾けて結界周辺に戻る。

魔物も私たちの後をついてきた。


 さっき途中まで堀りすすめた場所にまで誘い出して、それで、セキさん達に工事の続きをしてもらって、閉じ込めることはできないだろうか……。

 結界は魔物を封じるためのもの。魔物以外の者、つまり私達は普通に通り抜けることができる。

 だから、囮になってその中に誘いだして、中に入ったら川を引いてもらって……魔物だけを閉じ込める。

 そのためには、セキさん達が先回りであの現場に戻って川を引く工事の続きをしてもらい、私たちが囮になって魔物をそこに誘い込む必要がある。

 そしてタイミング良く土木工事で作った堀と川をつなげて結界を作れば、封印できる……。

 でも、大した打ち合わせなしで、やるにはリスクが高すぎないだろうか……。

 タイミングが、難しい。

 

 いや、タイミングならいつでも川を引き込めるような状態になったら、煙玉で合図を送ってもらえば……。

 私は少し逡巡してから口を開いた。


続きは明日、更新予定です!

早ければ、明日の朝には更新したい!

ということで、いつも最新話からお読みになられる方は話数にお気を付けください!


明日は、とうとう書籍版転生少女の履歴書3巻の発売日です!

毎回発売日になるとなんか、緊張する……。

よろしくお願いします!

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