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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第一部 転生少女の幼少期

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小間使い編⑤-決闘、みたいなもの-

「なに強がってんだ! そんな汚い格好で、部屋に入ってくるな! ひじょうしき、なんだぞ!」

 

 ずぶぬれの私を前にやった当の本人がこの言い様である。

 いやいや、君の仕業ですからね、この小汚さは。数秒前の私はいままでの人生でもっとも清潔な私でしたからね。


「ご安心を、坊ちゃま。私が部屋に入ったときは綺麗でしたので、非常識には該当いたしません」


 私はきっぱりと言ってやった。


「なんだよ、難しい言葉つかって・・・・・・地味顔のくせに調子にのってるな! 俺のほうがすごいんだからな! 魔法使いなんだから!」


 地味顔のくせにって・・・・・・このガキ! 地味な顔も今のうちだけだし、美人になるに違いないし、むしろいままでの話の流れと地味な顔であることはまったく関係ないんだからね! このガキ。


「存じております、坊ちゃま。ところで、お部屋が汚れてらっしゃるので、掃除をいたしましょう。掃除の使用人を呼んできれいにさせますので、お外に行きませんか? 本日は大変いいお天気でございます」


「うるさい、地味顔! お前の指図なんか受けない!」


 またしても、こやつ、地味顔とゆうたな。


 子どもってこんなにイラつくものなのか・・・・・・。いや、しかし落ち着け、私。


 仏の顔も3度までという言葉もある。子どもの言うことだ、大目に見よう。


「アラン、どうしていつも新しい使用人がくると噛み付くんだい? それに自分で汚したものは自分できれいにしないといけないよ」


 先ほどまでおろおろしていたカインが、すこし落ち着きを取り戻した様子で弟に諭していた。


 うむ、出来た8歳だ。褒めてつかわす。


「カイン兄様! だってこいつ生意気なんだ!」


「いいから、ごめんなさいして、お部屋の掃除をしなさい!」


「・・・・・・わかったよ、カイン兄様」


 どうやらアランというクソガキはなんだかんだ兄には逆らえないようで、あからさまに不本意です! といった、顔をしながらも了承した。


 おやおや、謝ってくれるんですね。しからば私も鬼ではありません。地味顔とのたまった件は、快く許そうではないか。


「でも、あやまらない! するのは、お部屋の掃除だけ!」


 謝らないんかい! 私の期待を返して。ていうか、この泥水でびしょびしょな部屋の掃除を5歳児でやるっていうのは、なかなかに過酷なのではなかろうか?

 

 しかし、私の心配事は杞憂だった。


 おもむろに床に手を置いたクソガキアランが、何事かぶつくさと呪文らしいことを言ったかと思うと、先ほど床に撒き散らした泥水が見事に消えた。


 そういえばこのクソガキアランは魔法使いだった。


 おそらく突如として現れたこの泥水は魔法のお力なのだろう。


 便利すぎる。吸引力が落ちない掃除機なんか目じゃないぐらいのお掃除機能。一家に一魔法使いほしい。


 しかしクソガキアランよ、君はひとつ見逃しているところがある。お気づきか?


「アラン様、私も現在、絶賛ずぶぬれ中でございます。私もさっぱりしていただけませんか?」


 精一杯の笑顔でお願いしてみた。5歳児、渾身の笑顔。


「ハッ、地味顔にはそれがお似合いだ」


 ・・・・・・


「な、なんだよ! その反抗的な目は! 逆らう気か!」


 おっといけない、子ども相手にむきになるところだった。ビークール、ビークール。


 危うく視線で子どもを射殺すところだった。


「アラン! かわいそうだよ。まだ、アランと同じ年くらいの女の子じゃないか」


 あらやだ、さすがカイン坊ちゃま、素敵! フェミニスト! イケメン8歳児!


「こんな・・・・・・お父様やお母様が適当によこした地味顔の使用人なんて、必要ないんだ!」


 といって、なぜか泣きそうになるクソガキアラン。いや、泣きたいのは私だ、ずぶぬれなんだぞ。


「アラン・・・・・・」


 カイン坊ちゃまもアランの肩を抱いて、気遣わしげに名前を呼んだ。


 なにこのホームドラマ。ずぶぬれのまま私置いてけぼりなんですけれど。


 誰か私に気づいて、このままじゃ風邪ひいちゃう。


「仲のよろしい兄弟でございますね」


 とりあえずホームドラマの感想を言ってみた。


「うるさい、使用人のくせにっ! お前は首だからな! わかったらさっさとでてけ!」


 いや、本当に腹立つ。生意気なガキの話なんて、聞き流せば良いことだと頭ではわかっているのに、なんか、いらいらする。更年期かしら。生理も始まっていないのに。


「まあ、アラン様、おかしなことを。私を首にするかどうかを決められるのは奥様でございます。アラン様にはその権限がないかと思われますよ」


 とってもイライラしていた私は、口元に手を持っていき、小指を立てて、オホホホと笑ってみた。


 昼ドラに出てきそうな悪役姑をイメージ。


 するとみるみるとクソガキアランの顔が赤くなっていく。


 え、やだ、私をみてそんなに顔を赤くするなんて、初恋? 私ったらほんと罪作り。


「こいつ! なんて生意気なんだ! 自分から、もうつらいからやめるって言うぐらいコテンパンにしてやるから、勝負しろ! 決闘だ!」


 違った、怒りで顔が赤くなったのか。短気なクソガキだ。


「なっ! アラン! 女の子だぞ!」


 カイン坊ちゃまが必死になって止めるが、どうやら怒りで我を忘れた弟は止められないようだ。


 制止するカイン坊ちゃまの言葉も、「生意気すぎる」みたいなことを言って、却下している。カイン坊ちゃまから同情のまなざしが私に注がれた。


 ていうか、決闘って! 5歳児のくせに!


 もしかして、カードゲームでもやるつもりか? デュエルスタンバイというやつだろうか。


「どちらかが、床にお尻をつけたら負けだ。わかったな? 俺に負けたら、ここから出てって、使用人もやめろ! いいな!」


「ということは、決闘は肉弾戦、ケンカってことですか?」


 デュエルスタンバイではなかったか。


「そうだ、なんでもありの戦いだ。モチロン、魔法もつかっていい。使えればな」


 そしてにやりと笑うクソガキ。


 なるほど、魔法があるからこれだけの自信があるわけですね。


「ちなみに、私が勝ったら何をしてくださるんでしょうか?」


「ふん! お前が勝つことはないと思うが、そのときは子分にでもなんでもなってやる」


 こんなかわいげのない子分はいらないんだけど。


「決闘の場所はここ、この部屋で良いのですか?」


「ここでいい。わざわざ外にでるのも面倒だ」


「ちなみに、先ほどアラン様は、魔法を使うとき、なにか言葉を発しておりましたが、その言葉を発さないと魔法って発動しないんですよね?」


「あたりまえだろ」


 クソガキアランは、何当たり前なこと聞いてるんだっていう顔で答えた。


「そうでしたか。アラン様はまだ幼いのにあの長ったらしいセリフを覚えてらっしゃるんだなと思って、感心しただけですよ。それでは、かしこまりました。決闘、お受けいたしましょう」


「よし! カイン兄様、開始の合図をお願いします」


 カイン坊ちゃまが渋い顔をしながらも、「わかった」といって審判役をすることになった。


 そして私のほうに、本当にいいの? という視線をよこしながら、あまり怪我しないように、僕がストップといったら攻撃はそこでやめてもらうからね、と、安心してとでも言いたげにいった。

 

 手のかかる弟がいると兄も大変ですね。

 

「はじめ!」


 そして開始の合図が部屋に響きわたった。


 私はそれと同時にクソガキの元へ走り出す。


 といっても5歳児の脚力なので、トタトタという感じだが、なんせ距離が4mもないぐらいの距離だ。


 すぐにブツブツ呪文を唱えているクソガキの近くまでいくと、走りながら腰に巻いた泥水でグショグショのエプロンの結び目を解き、そのままそれをアランの顔を目掛けてたたきつけた。


 呪文を唱える途中だったクソガキは、ブルゴファアみたいなうまく息継ぎできなかったスイミング中の少年のような声を発した。


 水分をたくさんまとったエプロンが、うまいこと顔に張り付いて、うまく息が出来てない様子だ。


 私はその隙に彼の後ろに回ると、足を払って、肩を押して、どうにか、しりもちをつかせることに成功した。

 

 勝負はあっけなくついた。


 こんな狭いところで、決闘なんて。わざわざ呪文を唱えなきゃいけない魔法は、不利だろうに、おろかな5歳児よのう。


 どんな便利ですごいものでも必ず短所はあるものだ。自分の短所はキチンと把握せねばならんよ、少年。


 顔に張り付いていたぬれたエプロンを自分の手でとったクソガキアランは、呆然とした顔で私を見上げた。


「それでは子分のアラン様、早速命令ですが、私のぬれて汚れたお洋服や髪をきれいにしてくれますか?」


 私は仁王立ちで見下ろしながら、さっそく簡単な命令を出すことにした。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 魔法使いには肉弾戦。 古事記にもそう書いてあったらいいな。
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