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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第三部 転生少女の救済期
158/304

帰還した領主の養女編⑱ ルビーフォルンの希望

いつも読んでくださってありがとうございます!

転生少女の履歴書3 が今月11月30日に発売が決まりました!

ありがとうございます!

詳しくは、あとがき&活動報告にて!





 私が、白い布を羽織ったような格好で部屋に入ると、周りの人が、息を飲むような音が聞こえた。


 そりゃあ突然、真っ白な感じの人が来たら驚くだろう。私は、あまり反応を返さずまっすぐ、リュウキさんのところに向かう。

 近くにいたセキさんやアズールさんは私の正体に気づいたようだったけれど、私は人差し指を口のあたりに持ってきて、秘密にしてくださいというポーズを取る。


 そして、そのままリュウキさんのそばに膝をつき、手に持っていた短剣で、自分の指を傷つけた。

 人差し指と中指の腹の部分から私の赤い血がふつふつと浮き上がり、流れた。


 私はそのまま指をリュウキさんの額に当てる。


「キミガタメ ヲシカラザリシ イノチサエ ナガクモガナト オモヒケルカナ」


 呪文を唱えると、まず自分の周りにオーラのようなものが見え、そして、私の血を伝って行くように私の指が触れたあたりから、少しずつリュウキさんの体にもオーラが纏われていく。

 心の中で、傷の癒しを祈った。

 するとリュウキさんに覆われていたオーラが傷口の方に集約して強く輝くと、リュウキさんが突然の痛みに驚いたように体をビクっと動かして、苦しそうに息を吐いた。

 セキさんが慌てて私に何か言おうとしていたのをコウお母さんがとめてくれる。

 私は、リュウキさんの傷口を覆っている包帯を空いている片手で解いて、傷の治り具合を確認した。

 傷周辺の筋肉がまるで心臓のようにドクンドクンと躍動している。そしてその躍動に合わせて、傷口が小さくなってきていた。

 傷口が治っていくのと同時に、皮膚の膿んでいるような、腐ったような部分が、かさぶたのように剥がれてきている。


 セキさん達含む、それを見ていた人達が驚いた顔で凝視しているのが分かる。


 そして綺麗にリュウキさんの傷がなくなると、今までの痛そうに苦しむ声が止まり、安らかな寝息が聞こえてきた

 念のため脈や心臓の音を確認するが、問題なさそうだった。

 どうやら成功したらしい。コウお母さんの時は、初めてだったし、色々精神的にまいったこともあって、かなり疲れたけれど、今はそれほどでもない。まだまだ全然いけそうだ。


 私は、驚いて動けないでいるセキさん達のことは無視して、重症の患者を見つけて同じように膝をおり、額に血が流れている人差し指と中指をつけ、また呪文を唱えることにした。


 どこからともなく、ウヨーリ様……という声がかすかに聞こえてきた。

 私はその声に、反応もしなければ、否定もしない。

 そう思いたいなら、そう思ってもいい。そのために白っぽい布をまとって、なんだか神聖すぎる感じにしたんだから。


 けれども、今のところ不思議なぐらい村人たちが大人しい。誰も私に話しかけたり、顔を覗こうとしている人がいない。床に額をつけている村人ばかりだ。

 ウヨーリ様の素顔を見たりすると神聖すぎるあまり失明するらしいという話もあったからだろうか。

 そんなことを一瞬思って、私は呪文に集中することにした。



とりあえず、重症患者の傷を数人魔法で治したあたりで、めまいがしてきた。

貧血になったように体がフラフラしてくる。そのことにいち早く気づいたコウお母さんが、私を抱えながら、布で新しく仕切りを作ってもらった奥の部屋に連れて行ってもらった。部屋と言っても、土の床に布を敷いたような簡素なものだけれど。


私はその布の上で寝かせてもらう。


「大丈夫?」

仕切りの外には聞こえないように、小さな声でそう声をかけてくれた

「大丈夫です。体はだるいですけど……。別に、熱があるわけでもなさそうですし、ただ、なんだかすごく、お腹すきました」

「そう、じゃあ、何か食べるものとってくるわ」

そう言って、布のしきりをめくったところで、コウお母さんは、立ち止まった。

仕切りの先を見てみると、セキさんが立っている。


「入っても、いいか?」

と小さい声で言うと、コウお母さんは中にセキさんを入れた。


そして、寝ている私のそばで膝をついて、顔を青くさせて私を見下ろしている。

コウお母さんは、外に行くか少し迷った様子だけど、一旦残るようでそのままこちら側に残った。


「さっきの、あれは……一体、何なんだ……」

セキさんは、そう途切れ途切れでやっと紡ぎだしたかのように、私に問いかけとも言えないようなつぶやきを落とした。


「魔法、です」

「あんな、魔法は見たこと無い……それに、君は、魔法使いじゃなかった、はずだ」

 困惑しているのか、セキさんはそう言って、両手で顔を押さえた。多少、予想はしていたけれど、あまりのセキさんのうろたえように思わず言葉に詰まる。

 コウお母さんが、気遣わしげに、「セキ……」と名を読んた。

 セキさんは、再び顔をあげる。


「……昔、アニエスにそういう魔法があると聞いたことがある」

「アニエス?」

 あ、たしかアニエスさんって、セキさんの亡くなった奥様だ。王族の、魔法使い……。

「私の妻だった。亡くなってしまったが……。彼女は王族だった」

「セキさん、それ……。アニエス様は、このような魔法についてなんとおっしゃっていたんですか?」

「あまり詳しくは、聞いていない。昔は、生物魔法というものがあったらしいという話だけをきいた。私が何度か聞いても、アニエスはそれ以上のことは話したがらなかった」


「生物、魔法……」

 あの時の、ジロウ兄ちゃんのようだった人が、言っていたのと一緒だ。


「リュウキを助けてもらって、感謝してる。あれでも、私の唯一の息子で、アニエスの忘れ形見だ。だが……あの魔法を使うのは……。あの魔法を使っていることを王族に知られたら……」


「大丈夫です、それも覚悟の上です。この事態が収束したら、農民が魔物に襲われた恐怖で、ウヨーリという架空の人物を作り上げたということにするつもりです。国から何か言われたら、傷を癒す魔法のような力も、農民たちの妄想だということにします」


「そんなに、うまくいくだろうか……」


「わかりません……でも、うまく行かせるしかありません。今のルビーフォルンには、ウヨーリが……希望が必要です」

 私がそう言うと、セキさんは、悩むように、片手を額に当てて唇を噛んだ。

 私はセキさんの様子を見守っていると、彼は再び口を開いた。


「そもそも、どうして、魔法が使えるようになったんだ? 君は、本当に、天上にいると言われている神からの使いなのか?」

 困惑した瞳のセキさんからとんでもない言葉が飛び出してきた。


「ちがいます! 神の使いとかじゃ全然ありません!」

「では、なぜ魔法を……王族ぐらいしか存在することを知らない生物魔法を使えるんだ? それに、君は魔法を使うとき、なにか呪文のようなものを口にしていた。私には、聞き取れない言葉だった。どこで生物魔法の呪文を知ったんだ?」


「セキ、そんな尋問みたいな……」

 とコウお母さんが、私をかばおうとしているのを手で止める。

 魔法を使っていけば、こうやって聞かれるだろうことは覚悟していた。

 そのために、この時のために用意していた言葉もある。

 嘘を言うことになるけれど……でも前世とかの話よりも信憑性もある。


「私が、生物魔法といわれているものの、呪文を知ったのは、偶然です」

「偶然?」

 そんな言葉で、納得する私じゃないぞ、という顔をしたセキさんが、眉をひそめる。

 まあまあ落ち着いて。説明はまだまだ続くからね。


「セキさんは、魔法爵を貰った時に、名字を作りましたよね? 「ナニワヅ」という名字です。それにリュウキさんも、爵位取得後、『ウジカワ』という名字をつけた。魔法爵の方々は、苗字をつけるとき、呪文の一部を切り取って名字とすると聞きました。『ナニワヅ』も『ウジカワ』も、呪文の一部を拝借したんですよね?」


「ああ、確かに、そうだが……?」


「私は、学園にいるときに、その話を聞いて、どうにか呪文を再現することはできないか考えたんです。そして、魔法爵の苗字を集めて、何通りも組み合わせました。本来の目的は、普通の魔法使いの方々が使える呪文をどうにかして覚えることができないかの実験でした。色々と試行錯誤していく中で、偶然、明らかに他と字面を見たときに受ける感触が違うものを見つけました。読めそうで、読めなそうな、字の羅列になったんです。それが、私が唱えた生物魔法の呪文でした」


「そんなことが……可能なのか?」

 セキさんは驚いた様子で、そう疑問形でいってはいるけれど、私に投げかけた疑問ではなく、自分に問いかけて考えるような感じだった。あと、もうひと押し。


「可能かどうかと言われたら、可能だったんでしょうね。実際にそうやって見つけたんです。まあ、運が良かっただけのことかもしれませんが。もともと魔法使いの皆さんが使っている呪文も、なにか似たようなリズムを持つ言葉の羅列なんじゃないですか?」


「確かに、呪文は……発声文字数が同じようなものが多いし、似たような語感がある……」


 セキさんは、そういながら、顎に手を置いて、私が言ったことを一言一言考えるように頷く。


「呪文については、我々も、まだ何も分かっていない。魔法使いの中でも、読める呪文と、読めない呪文が分かれていて、検証ができなかったのもあるが……。確かに、名の組み合わせで、呪文を見つけ出すことは出来るのかもしれない……」


 セキさんはそう言って、最後にかすかに頷いた。

 どうやら、納得してくれたみたいだ。

 いや、実際は、魔法爵の苗字の組み合わせで多分呪文できないと思うけど。そこまで同じ単語を使った短歌はそうないと思うけれども。


 ……ごめんね。

 だって、前世の話とかしたら、もっとセキさんを混乱させちゃうと思うし、それこそなんか頭おかしい人にされて、最終的に、天上の御使い様にされそうな気もする。私は断じて、天上の御使い様じゃない。


「尋問するような聞き方をしてすまなかった。……私は君に感謝している。息子の命の恩人だ。だからこそ、これから君を守る上で、知っておきたかったんだ」


「守る?」

「さっきも言ったが、生物魔法を知っていることが王族に知られたら……。アニエスの反応を見る限り、あまりいいことが起こるとは思えない。できれば、生物魔法を使う者がいるという噂が広まらないのが一番だが……」


「ありがとうございます。コウお母さんにセキさんにも気にかけてくださるなら、安心です。それに……ウヨーリ様というのは、陽のもとでその名を口にすると口がただれるらしいし、姿を見たものは目がつぶれるらしいので、思ったよりも広がらないかもしれません。今のところは、そう、祈ります」


 祈る、というのは、とっても他人任せだけど、でも、こればっかりは祈るしかない。今の私がしなくちゃいけないことは、この魔物の騒動を早く収めて、領地を落ち着かせること。そのためにはウヨーリが必要で、魔法の力も必要。

 改めてウヨーリ教を抑えるのは全てが終わった後だ。密教っぽい雰囲気のあるウヨーリ教だ。領地が落ち着くまでは、その噂も王都にまでは届かない、はず。

 それに、万が一、王族に知られても、農民の戯言だと言い切ってみせる。


 ぐぎゅーーーー。


 あっ! いやだ!


 私は自分のお腹を押さえた。なんで、こんな時にお腹鳴るんだ。いや、でもさっきからお腹すいていたけれども!


 私のお腹の音を聞いたコウお母さんたちは、少し顔をほころばせた。


「あ、そうだった! アタシ食料持ってくるところだったのよー。セキ、あんたも一緒に来なさい。他にも、馬車から色々運び込みたい荷物があるのよ」

「ああ、わかった。リョウ君すまない。私が、長話をしてしまったばかりに」


「い、いえ。大丈夫、です」

 お腹の音を聞かれて恥ずかしくって顔を上げられない。だって、私、淑女だもの。

 自分のお腹を睨みつける、もう、人前で音を鳴らすなんて。しかも盛大に!

 お腹を睨む私の頭上で、そんな私を見てなのか、コウお母さんとセキさんの笑い声が聞こえてきた。




次回は転章を挟んでから、次の章へ行く予定です!

次の章は、かなり短めで、5話ぐらい……それで第3部も終了の予定。

もうしばらくお付き合いくださいませ!


そして重大報告! 


おかげさまで、転生少女の履歴書の3巻が今月30日に発売が決まりました!

11月30日発売です!


応援、ご購入等してくださった方、誠にありがとうございました!

無事に3巻が発売できたのも読んでくださる皆様のおかげです!

感謝!

今回もたくさん加筆して、めっちゃ分厚いです…。

筋トレにも最適!素晴らしい筋肉はあなたのもの!

本日から、アマゾンで予約がはじまっています!

今後ともよろしくお願い致します。

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