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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第三部 転生少女の救済期
153/304

帰還した領主の養女編⑬ 治癒魔法

本日は2回更新しています!(日付が変わってしまったけれども…

いつも最新話からお読みになる方はお気をつけください!





 この、光は……。

 私は、ハッとしてコウお母さんの傷口に視線を向ける。

 光が、傷のあたりに集まっている。


「治して!」

 心の中の言葉が同時に口に出た。

 私の願いに応えるように、より多くの光が傷のあたりに収束していく。

 コウお母さんの体が一度ビクンと動き、小さなうめき声が聞こえる。

 傷に当てた布を取って抉れた傷口を見ると、血が止まっていた。そして中に少しだけ見える筋肉や内臓のようなものが動いている。ドクンドクンと脈動するように動いて、そして、壊れた細胞がその度に少しずつ治ってきている……。


 魔法が発動している……? なぜ。


 コウお母さんの胸に耳を当てて、心臓が鼓動を打っていることを確認する。


 一体何をきっかけにして、呪文が発動した?

 私が唱えた短歌の中に、実際に他人を治す呪文があったということ? すぐに発動しなかったのは、何か理由が?

 いや、もともと、アランとかで実験をした時だって、時間が経過しても呪文は発動しなかった。

 じゃあ、なにかきっかけがあったんだ。

 あの時、私は……。


 コウお母さんが、私の唇についた血を拭ったのを思い出した。


 ……血?


 私が一つの仮説を立てた時に、コウお母さんのまわりを纏うオーラがどんどん薄くなっていく。

 改めて傷口を見たけれども、まだ傷は癒えていない。

 ……魔法の時間切れだ。力を増やす呪文を唱える時も、時間切れが存在する。そういう時はどんどん体を纏うオーラが薄くなっていく。


 今ここで、魔法の効果が切れたら困る。まだ、コウお母さんは、全て治っていない。

 傷口もまだ残っている。魔法が切れた途端にまた大量の血がそこから流れていく。


 私は、また自分の唇を強く噛むと、コウお母さんの左手を持ってその手の甲に私の唇を押し付けた。そして、そのまま、短歌を唱える。どの短歌が治癒の呪文なのか分かっていない。だからさっき唱えた呪文をまた全て唱える。


「キミガタメ ヲシカラザリシ イノチサエ ナガクモガナト オモヒケルカナ」


 7番目の短歌を唱えたとき、コウお母さんを纏っているオーラに変化があらわれた。

 私が唇を押し付けている手の甲にオーラが見えたと思ったら、その光が傷口に向かって移動していく。


 この短歌だ。この短歌が、治癒の呪文。


「全部、治して」

 さっきまで薄かったオーラが、濃く分厚く覆ってどんどん傷口に収束し、治癒魔法が発動した。

 また激しく、傷の周辺の筋肉や皮膚が脈打っている。それに合わせて、コウお母さんから低いうめき声が聞こえた。


 顔を見ると、苦し気に顔をしかめている。


「コウお母さん……!」

 声をかけたが、答えはない。苦しそうなうめき声だけが返ってきた。

 おそらく、痛みだ。治癒中はすごく痛い。


「大丈夫ですから。もうすぐです。直ぐに終わりますから……!」


 そう言って、手を強く握る。


 私が、コウお母さんに声をかけ続けていると、またコウお母さんを纏うオーラが薄くなってきた。

 魔法の時間切れかと思ったけれど、そうじゃない。

 傷口を見ると、そこにあったはずのえぐれたような傷が消えていた。

 恐る恐る傷があったところの血を拭う。綺麗な肌色が見えた。治ってる……。

 そこには、コウお母さんの綺麗な肌。

 痛みで呻いていたコウお母さんのうめき声も聞こえない。

 慌てて、心臓に耳を押し付けた。しっかりと鼓動している。


 助かった? 


「コウお母さん?」

 声をかける。意識はないみたいで反応はない。でも穏やかな息遣いは聞こえてきた。


 手が震えて、足が震えた。

 起き上がって、アズールさんを呼んで、馬車を持ってきてもらって、村まで運んでもらおうと思ったけれど、力が入らない。

 腰を抜かしてしまったみたいだ。


「ハハ、情けない……でも……」


 笑いながらそうつぶやくと、目からまた涙が溢れ出してきた。


 コウお母さんは、生きてる……。

 もう一度コウお母さんが生きてるということを確かめたくて、体に抱きついた。暖かい。脈が動いてる。心臓の音が聞こえる。

 そして、安心したらまた涙が出てきた。

 思わず声が漏れた。獣みたいな私の泣き声。


 私が、わんわん泣いていると、近くに人がやってきた気配がする。視界がぼやけてよくわからないけど、誰かが駆けつけてくれた?

 アズールさんだろうか。私達がなかなか戻ってこないから様子を見に来てくれたのかもしれない。

 あれ、二人、いる? 村の人も来てくれたのかな。視界がぼやけてよく見えない。

 でも、二人いてくれたら、助かる。コウお母さんを運んでもらわないといけないから……。

 私は立てそうにないし、あ、でも、魔物の可能性もある、と思って慌てて目をこすって涙を拭うと改めて誰かがやってくる気配がする方へと目を向けた。


 アズールさんだ! あと、それともう一人。

 村の人じゃない。

 でも魔物ってわけでもなく、私の知ってる人だ。


「セキさん……?」

「リョウ君……それに、兄さん!? 大丈夫なのか!? 血が……」

 そう言って駆け寄ってきたのは、コウお母さんと似たくすんだ赤髪のセキさんだ。

 そして、アズールさんもほとんど泣きながらな様子で私のところに来てくれた。


「リョウどのー! ひどいでありますー! 私、リョウ殿が森に突入していった後、心配で、心配で……! 無事でありますか!?」

 アズールさんは相当心配してくれたようで、涙ながらにすごい勢いで私の無事を確認してくれた。


「はい。私はなんとも、コウお母さんも多分、大丈夫、です。傷は……治りました。ただ、私、腰を抜かしてしまったみたいで、立てそうになくて、すみません、心配をおかけしました。それと、セキ様は、どうして?」

 私がそう疑問をぶつけると、セキさんは心配そうにコウお母さんの顔を見ながら答えた。

「結界の修復で、ここまで回ってきていたのだ。先日、グローリア様と合流し、結界の修復作業をそのままお願いした。魔物が結構な数が漏れ出ているみたいだったから、私は、魔物の処分で回っているところだ。そしたら、煙が見えて、そこに行くとアズール殿がいて、慌てている様子だったから話を聞いてここまできた」


 と言って、セキさんは戸惑った顔で私を見た。


「兄さんに、傷はないようだが、破れた服には血が……一体何が……?」

「……コウお母さんのことは、大丈夫です。あの、もう、結界は?」

「ああ、このあたりの結界は大丈夫だ。ほぼ修復している」

 ほっとした。いや、まだ完全ではないので、落ち着いてはいられないんだけど、でも、結界の修復の話を聞いて、グローリア奥様の無事を聞いて、安心した。

 そしたら、一気に視界がぐらついた。まぶたが重い。

 ものすごく、眠い。


「そう、ですか……良かった……」

 私はそれだけどうにか言うと、そのまま意識を手放した。



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