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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第三部 転生少女の救済期

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帰還した領主の養女編⑫ 後悔

区切りのいいところまでだと、長くなりそうだったので、2回に分けます!

今回のお話の続きは、今日か、遅くとも明日の朝には更新予定。

しゃらくせぇ!こちとら2話分まとめて読みたいんじゃい! というおまとめ読み希望の方は、少々時間をおいて読みはじめていただければと思います。






 コウお母さんに抱えられながら、地面に何度か体を打ち付けて転がった。

 とまったところで、顔をあげて、状況を確認する。

 コウお母さんの苦しそうな顔、荒い息遣い。

 コウお母さんの脇腹より上のあたりが、赤く汚れていた。

 これ、血? どうして、血が……。


「リョ、リョウちゃん、後ろ……魔物が、まだ……」

 コウお母さんの口からうめき声のような声が聞こえる。

 私は動揺しながらも言われたまま後ろを見ると、さっき倒したと思った魔物が、ほとんど切り落とされた首をブラブラさせながら、両手両足を動かしてフラフラと立ち上がろうとしていた。

 そして魔物の右手の爪をみて、硬直した。そこは赤黒く濡れていて、コウお母さんが、着ていた服の切れ端が絡まっていた。

 その時やっと理解した。あの死にぞこないの魔物が、その太い鉤爪で私を攻撃しようとしていたのだ。そして、それをコウお母さんが、かばった。


「と、とどめ、を……!」

 と言って、自ら起き上がってとどめを刺しに行きそうなコウお母さんに向かって「私がやりますから!」と言って止める。


 でも、ま、まずは、止血……。そう、止血をしないと……。

 そう思って、服の布を裂いて、傷の深さを確認するために、コウお母さんの脇腹に手をあてた時、服の布ごと私の手を掴んだコウお母さんが、自分で自分の傷口に布をあてた。


「アタシのことはいいから、魔物を……はやく!」

 コウお母さんにそう言われて、私はビクッとなって、かろうじて頷くと、魔物の方に向かった。


 私は混乱しながらも、力を増やす呪文を唱え、まだ完全には起き上がれないでじたばたしている魔物の両手両足の腱を素早く切り落とす。

 魔物はフラフラだし、呪文の力があれば、それほど大変な作業ではない。

 でも、さっき一瞬見えた、コウお母さんの脇腹の傷が、頭から離れなくて……自分の動きがものすごく緩慢に感じて、焦る。息をするのが、苦しい。


 私は、なんとか魔物の動きを封じると、震える足でコウお母さんのもとに戻った。

 傷の状態を、見なくちゃ。あの魔物の爪は鋭くて、とても大きかった。


 コウお母さんは仰向けの体勢で、傷口を自ら布で押さえている。ぐったりしているけど、息をしている、上下に動いている。

 でも、血は止まっていない。コウお母さんの服に血の染みを広げている。


「コウお母さん、傷を見せてください! 早く!」


 コウお母さんが押さえている手をどける。

 運良く小さい傷かも知れない。コウお母さんのことだから、かろうじて避けているかもしれない。

 それにさっきだって、魔物を自分で止めを刺しに行こうとしていたぐらいだし、さっき私が一瞬見たものは、見間違いか何かで……。


 震える手つきで、コウお母さんの手をどけて、傷口を確認した。


 傷口を見て、言葉を失った。

 傷口が……大きすぎる

 確実に、内蔵もやられている。


 どう考えても、今手元にある治療道具でどうにかなる傷じゃなかった。

 また服を裂いて、止血のために傷口を押さえる。コウお母さんが苦しそうに呻く。


 でも、私にはわかっていた。こんなことしたって、血は止まらない。あの傷は大きすぎる。


 考えなくちゃ。どうしたら、助かる。止血の処置をしても、あの傷は……もう、どうにもすることができない。それに、早くしないと、血が出すぎている。


 魔法だ。魔法じゃないと、助からない。


「コウお母さん! 呪文! 呪文を唱えられそうですか! 私が前見せた治癒魔法です!」

「ごめ、ん、リョウちゃ……まだ、呪文、唱えられそうにないわ……」

「私が、今から呪文を言うのでそれを復唱してみてください! 」

 私は呪文を唱える。コウお母さんは、どうにか最初の二文字だけ言って、その後口をつまらせた。そして、コウお母さんはかろうじて首を振る。

「ダメね……。言えそうに、ない、わ……」

 私がコウお母さんに魔法のことを打ち明けてから、それほど日数は経っていない。

 通常の魔法の場合だと、どんなに相性が良くても呪文を会得するには半年ほどかかると聞いた。

 それに、ずっとバタバタしていたから、魔法を覚える時間だってなかった。


 もっと、前から。もっと前から私がコウお母さんに魔法のことを打ち明けていれば……。

 ああ、でも、今はそんなこと考えても仕方がない。他にやり方を考えないと、他……。

「だ、だいじょうぶ、です、私が絶対助けますから! だから!」


 けれど、いい考えが浮かばなかった。

 でも考える時間すらもったいなくて、私は片っ端から呪文を唱える。


 全部、全部、言うんだ。他人を治す呪文だって、絶対にあるはずなんだ。今まで発動したことはないけど、絶対にあるはず! 私は無我夢中で、短歌を片っ端から、コウお母さんの傷が治るように願いながら唱える……。

 今まで成功したことはないけど、でも、もうそれにすがるしかない!


 お願い……! 助けて……!


 祈るような気持ちでひたすら、呪文を唱えていく。

 お母さんの傷が治る呪文、呪文、呪文。

 でも、どの短歌を唱えても、傷は治らないし、むしろ血がどんどん流れていく。

 呪文を唱えたときに発するオーラのようなものは私の体の周りだけ。


 なんで、なんで、なんで、なんで。

 嫌だ、嫌だ、嫌だ。


 私、コウお母さんと気まずいままで、それに私、なんて言った……?

 わからず屋だって、言って、私、あんな生意気なこと言って、コウお母さんを心配させて怒らせて、それで、謝らないで、調子に乗って……。

 最後になんかしたくない、絶対にしない。


 ひたすら覚えている短歌を唱えていくと、とうとう他人への治癒魔法の可能性のある短歌を全て唱えきってしまった。

 でも、やっぱり治癒魔法は発動しない。

 どうすればいい。次は何をすれば。何をすればコウお母さんが、助かる。

 止血のために傷に当てた布がまた真っ赤になっていく。どれぐらい血を流してしまっただろうか……。

 えぐれたコウお母さんの脇腹を思い出した。


「どうして! どうしてかばったりしたんですか! 私は、私は……!」

 もう口に出す短歌がなくなって、今度口から出てきたのはコウお母さんを責める言葉だった。

 そんなこと言うつもりなんかなかったのに、私、バカ、でも、だって、とまらなくて、いやだ、このままは嫌だ!


「だって、アタシは、リョウちゃんのお母さん、なんだから……」


「私、嫌だ。コウお母さんがいなくなったら、生きていけないよ! ダメだよ! 嫌だよ、私、嫌だよ!」                                                                                           

「ほら、リョウちゃ……そんな顔したら可愛い顔が、台無し、よ。リョウちゃん、なら、大丈夫、だから」


「大丈夫なんかじゃない! 私、コウお母さんがいないと……」

 言葉にならなかった。嗚咽が漏れそうで、こらえる。

 泣いたら、だめだ。ここで泣いたら、もう助からないのだと、そう、認めてしまうような気がして……。


「唇、血が、出てる。強く口を噛みすぎ……だめよ。そんな、顔し、ちゃ……」

 そう言って、コウお母さんは、弱々しく右手を私の頬に触れる。

 口の中が血の味がする。唇を強くかみすぎて、血を流してるらしい。でもそんなことに構っている暇なんてない。

 冷たい。コウお母さんの手が、すごく、冷たくて……。


「いやだ、いやだいやだいやだ。コウお母さん、ダメだよ、そんなの、いやだよ!」

 とうとうこらえていた涙がこぼれ落ちる。泣いたって、叫んだってどうにもならない、でも、それでも叫ばずにいられない。どうすればいい。考えなきゃ、考えて、考えて……。

「ほら、唇、いた、そう。ダメよ。噛んじゃ」

 コウお母さんの親指が私の唇の血を拭うように触れる。


「こんなの、どうだっていい! 大変なのはコウお母さんだよ! コウお母さん、私が悪かったの! お願いだから、いかないでよ。ごめんなさいって、言うから! 何度も言うし、もうこれからは、いい子にする! コウお母さんのいうことはなんでも聞くし、生意気なことだって言わないし、いっぱいお手伝いだってするし! 私、嫌だ……。いかないで、私、コウお母さんのこと大好きなの! コウお母さんがいなくなったら私、生きていけない……」


「リョウちゃんは、大丈夫、よ。……あ、りがとう。私も、だい、すき……」


 かすれた弱々しい声が聞こえた。力をなくしたように私の頬から落ちようとしていたコウお母さんの手を掴む。


「コウお母さん……!」

 コウお母さんのまぶたがゆっくりと閉じていくのが、涙で滲んだ視界で微かに見えた。


「嫌だ! 嘘だよ! こんなの嘘だ。なんで、私は、だって……!」

 そう言って、コウお母さんの手を強く握る。大きな涙がこぼれて、涙で滲んでいた視界が少しだけはっきりしてきて、そして、異変に気づいた。


 コウお母さんの体が、光って……る?

 コウお母さんの体の周りが薄く光っている。まるで、呪文を唱えたとき、私の周りにオーラをまとう時みたいに……。




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