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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第三部 転生少女の救済期
146/304

帰還した領主の養女編⑥ スルスル村ファイヤー

タイトルに「旧題:ハイスペック女子高生の異世界転生」を消しました!

なんだかスッキリした見た目に!

今後ともハイスペックな元女子高生が活躍する「転生少女の履歴書」をよろしくお願いします!

「ブラン、楽にしてくれて構いません。ところで、この村の様子は一体……村人が見えないようですか?」

 恭しく膝をついて頭を下げたチョビ髭のブラン氏に向かって、グローリア奥様がそういうと、ブラン氏は膝を突いたまま返事を返す。

「村人は聖窟せいくつに、避難してもらっています。ただ、食糧の問題もありますので、食べ物の調達も兼ねて村の男どもと一緒に村の様子を見にきているのです。今のところ村に降りている魔物は小物ばかり。村の者は、小さな魔物でしたら、対応する術を心得ておりますので、今のところは、それでなんとかしのいでおりました」

「セイクツ? それに村の者が、魔物に対抗する術を心得ている、というのは、初めて聞きました。 開拓村の村民に、騎士の訓練を受けたものがいるのですか?」

「いえ、そのような本格的なものではございませんが、以前より領主様からの方針で、農民に獣狩りを教えておりました。もとは獣害を退けるための手段だったと聞いておりますが、思いのほかに村に馴染み、山際の村ではそれ以降狩りが生活の一部となっております。獣を狩るのと同じ要領で、魔物を退治してもらっているのです。小物の魔物ばかりなので、獣と大差ないのも幸いでした。先程も村で、ちょうど小物の魔物を排除しておりました」

 ブランさんがそう言うと、アズールさんが慌てたように前に出てきた。

「村にいたのでありますか?」

「ああ、あなた様は先ほどの方! 先程は失礼いたしました。馬のヒヅメのような大きな音がして、慌ててその場を離れたのです。とうとう大きな魔物がでたのかと思ったものですから。しばらく様子をみて、人だとわかった時には、すでにその場を去っておいででしたので声が届かず。失礼しました」


 アズールさんはさっき村に人はいなかったと言っていたけれど、行き違いというか隠れられていたということだったようだ。

 それにしても、まさか数年前に施した獣害対策が、こんなところでこんな効果を発揮してくれるとは思わなかった。けど、武器はどうしてるんだろう……?

「ということは、あの犬のような魔物の首を狩ったのはブランさんですか? 鋭利な刃物で切られていたようなんですが……それとも村人も剣を持っているのでしょうか?」

 私が横から口を挟むと、ブランさんは少し残念な顔をして首を振った。

「あの魔物は、私が切りました。村人が持つ武器は、農具です。それか狩りの時に使う簡単な弓矢に、先を尖らせた木の枝。基本的には、村人が魔物を弱らせ、私が仕留めるという流れで行っています。私の他にも剣のような武器を持つ者がいれば、この村に住み着く魔物を一掃出来たかもしれませんが、開拓村にそれらの配給はされませんので……」。

 ああ、やっぱりそうだよね。ここにアランがいれば、手っ取り早く剣を作ってもらえるのに……。いや、今はいない人のことを考えてもしょうがない。

 それにさっきブランさんが、『この村に住み着く魔物』というようなことを言っていた。

 もしかして、小物の魔物はここら辺で徒党でも組んでるんだろうか。

 そんなことを考えていた時に、視界の端に何か素早いものが動いているのが見えた。

 犬の形に似たそれは、さっきアズールさんが持ってきた死骸と似ている。

 一瞬こちらに攻撃を仕掛けてくるのかと思いきや、そのまま突っ切って、背の高い草が生い茂った草むらに入っていってしまった。


「くっ、やはり、まだまだいるか……」

ブランさんが苦々しくそうつぶやくのを聞いて、「あれは……?」と聞くと、ブランさんが、草むらを睨みながら、口を開いた。

「この村周辺に降りてきた魔物です。小さくてそれほど強くはないのですが、その分数が多く素早い。倒そうとしてもああやって、草むらの中に隠れてしまい逃げられてしまう」

 さっき私が引っかかった『この村に住み着く魔物』というのは、あの魔物たちのことか。

 魔物のくせに、似たような見た目の魔物が獣のように集団行動をするとは。それじゃほかの獣と変わらないじゃないか。

 ただ見た目が相変わらず、なんというかただれてるっていうか、なんかグロイので魔物だってすぐにわかるけど、うん。

 それにしても、確かにあの草むらは厄介だ。確かにあの魔物は小物だけど、草むらに入ってしまうとお手上げ。草むらの中まで追いかけていけば、こちらの視界が悪くなるし、動きにくいので、逆に魔物に襲われてしまう。

 

「ちなみに、あの草むらって、雑草ですか?」

「いえ、元は畑です。中には陸稲はあるでしょうが、荒らされてからは放置しているため雑草の方が多いでしょう」

 あ、なら、試しに少し燃やしてもらおう。


「奥様! あの草むら燃やして欲しいんですけど、できますか?」


「えっ! あの畑を!? 作物があるのでしょう?」

「畑といってももう荒れた畑です。あの状態なら、どちらにしろ耕し直す必要がありますし」と言ったあとに、ブランさんに視線を向けて、「燃やしても問題ないですよね?」と確認すると頷いてくれた。

けれどもグローリア奥様は渋い顔。

「で、でも……作物を、燃やすなんて……」

 今まで体に無理をしてでも、植物精霊魔法を使っていた奥様としては何やら、抵抗感があるみたいだ。

「燃やしたほうが、畑にとってもいいです。残った灰がいい栄養分になって、次に植える作物が元気に育ちます。それに……魔物の巣のようになっているかもしれない今の状態はどうにかしないといけません」

私がそう説得すると、奥様はゆっくりと頷いた。

「そうね、わかったわ。リョウさんの言うことは常に正しかった。……マッチを!」

 奥様が、そう言いながらマッチを所望した。

 いや、私の言うことは常に正しいわけではないけれども!

 でも、何か突っ込んで、気が変わったら大変なので、素早く擦って火が灯ったマッチ棒を渡す。


 マッチの炎を受け取った奥様が呪文を唱えると、炎が草むらに飛んでいき、そこから渦を描くように炎上エリアを広げていく。

 奥様は何度も何度も呪文を唱える。

 気づけばあっという間に。目に入る限りの草むらが全て炎に包まれ、魔物の鳴き声らしきものが、あちらこちらから聞こえてきた。

 想像よりも草むらの中に魔物が隠れていたようだ。

 炎に追われて、草むらから出てきた魔物が数匹いたので弓で射って動きを止めてから始末した。


 あ、ていうか、奥様の炎魔法の範囲、ちょっと……なんというか広すぎなんだけど……?

 と思いながらも必死の形相で呪文を唱える奥様に誰も話しかけられず時は過ぎていった。

 そして、しばらくすると炎は燃やすものをなくして一気に鎮火。少し前までぼうぼうに草が生えていた畑が、今では黒い地面のみ。

 かなり視界がクリアになった。というかクリアになりすぎたような……。


 私的には、試しに目の前の畑だけ、燃やしてくれたらいいかな、と思ったんだけど、その奥の畑もそのまた奥の畑もその隣の畑も、焼畑してくださった。

 マッチ一本で、この威力。ちょう怖い。というか燃やし尽くすスピードの速さがすごい。

 ブランさん達が絶句していて、アホみたいに口を開けていた。



 私は「ゴ、ゴホン」と咳払いをして、注目を自分に集めると、「あの、こうやって、燃やす方が、今後のため、ですから」と言って、すこぶる視界の良くなったスルスル村の状態を説明する。

「そ、そうですね、次、畑を耕す時、すごく楽そう、です」

 と村人の人が言ってくれたので、突然村のほとんどがハゲボウスみたいになったけれども、そこまで気にしてないようだった。うん、よかった。


「それじゃあ、村の人たちが避難している場所まで行こうかしらね。ブランさん、案内お願いできる?」

 と、冷静なコウお母さんが言ってくれて、未だグローリア奥様の火魔法の威力に驚いている様子のブランさんが慌てた様子で顔をあげた。


「は、はい! そうですね! 領主様からの救援が来たと知れば、皆が安心いたします」

 コクコクと、何度も頷いたブランさんが、先程もより一層緊張した様子でグローリアさんにお辞儀をした。

 私たちは、張り切る様子を見せたブランさんに案内されるままに進むと、洞窟のようなところについた。周りには、村の男たちが見張りをしている。

 ブランさんが見張りの人たちに一言二言声をかけてから、洞窟のようなところに入ると、思った以上に中は広くて、たくさんの人がいた。全員スルスル村の住人らしい。

 私たちの姿を見ると、手放しで喜んでくれた。


 屋敷から連れてきた騎士達が、荷馬車に積んだ食料を村人に分け与えている間、私含む伯爵家メインメンバーはブランさん達と一緒に、村の現状の再確認ため、洞窟の中でも比較的綺麗な場所に集まり、腰を下ろす。


 挨拶もそこそこに、早速、村人のまとめ役となっているブランさんから今までのことを伺った。

 大雨の後に、魔物が出てきたことに気づいたブランさんが、馬を走らせてこの村に知らせを送って、一足早く洞窟に避難させることができたらしい。

 ブランさん、なかなかやりおる。


 ただ、全員無傷というわけには行かなかったみたいだけれど……。


 洞窟の奥には、けが人を寝かせているという話を聞いて、私とコウお母さんとで、治療をすることを申し出てた。そういう時のために治療道具も持ち込んでいる。


 一通り村の現状を確認し終わると、グローリアさんが、大きく頷いた。

「思ったよりも、みなが元気そうで安心しました。……けれども、魔物の恐怖から真に解放するためには、元を正さねばなりません。私は結界の修復に向かいます」

 え、まじ? でも、奥様にそんな大変なこと……と考えようとしたけれど、いまいちピンと来なかった。

 奥様の大威力火炎魔法を目の当たりにしている私たちの中には、『奥様をそんな危険なところに行かせるわけにはっ!』と止められる猛者はいない。

 それに私知ってる。グローリアさんが、ああいう凛とした表情で言ったことを反対したりすると、火柱あげて脅し……げふんげふん情熱的に抗議することを知ってる。


「あ、では、私も」

 と、奥様が行くのは止められないならせめて私もと声を上げたところで、グローリアさんに首を振られる。

「リョウさんは、ここでコーキさんと一緒に、怪我をしているものたちの治療を。一部の騎士の方は私と一緒についてきてもらいます」

 そう奥様がおっしゃって、ルビーフォルンから連れてきた騎士が頷いた。

 私は少し考えてからゆっくりと頷く。確かに、グローリアさんが言ったとおり、私はここに残って治療したほうがいいかもしれない。

 けが人はそれなりにいるという話だったし、グローリアさんの火魔法の威力はものすごい。私がいると逆に足手まとい感がある。


「わかりました。マッチを忘れないように。ご武運を」


 そう声をかけると、グローリアさんは、頷いて立ち上がった。

 ついた早々だけれども、もう出発するらしい。

 グローリアさんのこういう行動力のあるところは素直に尊敬できる。今までずっと病気がちだったとは思えないほどのパワフルさだ。

 私はカバンから、マッチを何箱か渡すと、奥様は屋敷から連れてきた騎士を伴って颯爽と洞窟を後にした。




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