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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第三部 転生少女の救済期
145/304

帰還した領主の養女編⑤ 謎を呼ぶスルスル村

 南側探索部隊のメンバーは、私とコウお母さん、アズールさんにグローリアさん。そして屋敷にいた騎士達数名。

 アズールさんに御者をお願いするつもりだったのだけど、あまり乗馬が得意でないという騎士見習いがお一人いたので、その人がおもに御者係。

 馬車は一台で、他はみんな馬に乗って並走するような感じで進む。


 本当は、馬車をもう一台手配したかったけれども、もう一台手配する人的余裕も、時間的余裕もなかったので、荷が積んである馬車に我らがグローリア奥様も同席という感じである。

 なれない馬車の旅で、しかも荷物と一緒とかいう感じなので、心配だったけれど、奥様は弱音一つ吐かずに凛々しくいらっしゃった。

 それに、奥様は出発前に少しだけ騎乗の練習までしていたようで、騎士に背中を支えられるような形での二人乗りなら、問題なくできるらしい。

 もし魔物が出た時も、馬車の中で魔法を唱えるより、視界の広い馬上のほうがやりやすいだろうからと、練習してくれていたとか。

 なんて素敵な奥様なんだ。

 最初、般若のような奥様見たときは、驚いたけれども、基本的には領民のことを一番に考えるとても献身的な奥様。

 これはバッシュさんじゃなくても、惚れてまう。マッチ持たせたら鬼嫁に豹変するけれども……。

 そんなバッシュさん含む屋敷居残り組には、マッチの生産作業をお願いした。無職のシュウ兄ちゃんも無事その職に就くことができたけれども、ちゃんと、大人しく言うことを聞いて働いてくれているかどうか……妹は心配です。


 すでに、屋敷から出発して、数日経過していたけれども、私達旅の一行は、領の西側にある南へ下る大きな道をチョイスして順調に南下していた。

 魔の森が近い西側も結界が綻びている可能性がある地域だったので、ついでに西側付近の村の様子を確認するため、その道を選んだのだ。

 けれども、今のところ連れてきた騎士を早馬で近くの村に様子を見に行かせても、特に魔物に襲われている様子はない。


 魔物がいきなり道中襲って来ることもないし、西側は大丈夫そうかなと思ったところで、運良く先行して回っていた腐死精霊使いの一団と合流した。

 話を聞いたところ、今のところ結界の綻びは、見当たらないとのこと。

 話し合いの末に、腐死精霊使いの一団は、そのまま魔の森付近の結界の総点検を行い、私達は、予定通りルビーフォルン領地の南側にそのまま向かうことになった。

 おそらく西側は大丈夫そう。

 川の上流にある村の田んぼ化計画は進んでいなかったから心配だったけれど、川下の村には田んぼが作られていたので、増水を防ぎ、川が氾濫せずに済んだ可能性が高い。

 あとは、もう気になるのは南だけだ。

 近くの村の状況を把握するため、左右に出していた早馬偵察隊を前方に集中させる。


 途中で近くの村の様子を確認しながら、南の山地地帯へまっすぐへ向かっていくと、とうとう魔物出現の報告が上がっていた地域周辺にたどり着いた。

 すでに屋敷を出てから、何日も経過している。

 正直、体力的にも精神的にも、疲労が見え隠れの私。忘れがちだが、私はそういえば10代前半のピッチピチの少女なのだ。

 たまにこっそり回復魔法を唱えて、なんとか凌ぐけれども精神的な疲労感までは回復しないようで、馬に乗りながらウトウトしていたところに、慌ただしい馬のヒヅメの音が聞こえてくる。

 ハッとして音のした方に顔を向けると、馬に乗ってかけてくるアズールさんの姿が見えた。


 領地の巡回にまでついてきてくれたありがたい王国騎士のアズールさんは、偵察係。

 そのありがたいアズールさんには、ここから少し離れたところにあるスルスル村の様子を先行して見に行ってもらっていた。


「どうしたんですか?」

 そう言いながらも嫌な予感がする。村を先行して見に行ってもらっているのに、慌ただしい様子で帰ってきたということは、もう答えは一つしかない。


「スルスル村が荒らされています!」

「村人は!?」

「村はもぬけの殻で……私が見た限りでは、村人は見つけられませんでした。上手く避難できたのか……もしくは…‥」

 そう言って、アズールさんは言葉を濁した。


「争ったような形跡は? 魔物は見ましたか?」


「村の中には、いくつか血の跡のようなものはありました。そして……」


 と言って、アズールさんは馬の後ろに括りつけていた麻袋の荷物を持ち上げる。

 下の方が赤黒く変色していた。おそらく血だ。

 突然のグロ展開な予感に、『え……』と脳内で固まっていると、アズールさんは「大丈夫です!」と言って笑った。


「人の首とかではありません。魔物の死骸です。村に落ちておりました!」

 魔物の死骸!? ていうか、アズールさん大丈夫です!って笑顔だけど、どちらにしろグロイと思うんだけども……。

 まじまじと血の染みた麻袋を見る。


「……他には……人のものが落ちてたりは?」


「私が見たところは、魔物の死骸だけでありました! 魔物の死骸をそのまま放置することもできなかったので、グローリア様に燃やしてもらおうとここまで持ってきたであります!」


「そう、ですか。ちなみに、その、よくここまで、もってきましたね、その……死骸」

 私が、一番最初に思ったことを言うと、何やら褒められたと思ったようで、アズールさんはモノすっごい笑顔になった。


「はい! なんだか、この旅についてきて自分、強くなったような気がするであります!」

 お、おう。私もそう思うよ。アズールさん、たくましくなったね……。

 最初、魔物が出た時なんか、ブルブル震えていた様子だったはずなのに。

 そういえばルビーフォルン領に入るまでには、結構魔物と遭遇する機会も多くて、途中からは、魔物が出ても動じる様子がなくなっていたアズールさん。

 魔物に慣れすぎて、麻袋に死骸を詰められるほどになろうとは。


「リョウちゃん、どうしたの?」

と言って、馬車の後方を馬で並走していたコウお母さんが近くまで来てくれた。


 先ほど、アズールさんから聞いた話を説明すると、心配そうに眉を寄せて、「人がいないっていうのは気になるわね……」と呟く。


 確かに、人っ子一人いないというスルスル村は気になる。しかも、魔物の死骸はあるのに、人の死体のようなものはないというのが余計に……。


「とりあえず、グローリアちゃんを呼んでくるわね」

 と言って、コウお母さんは、馬車の方へと下がっていった。


 私はそれを「お願いします」と言って見送って、改めてアズールさんが持つ血の染みた麻袋を見る。

 せっかく現地の魔物の死骸があるということなので、どういう死に方をしているのか、確認したほうがいいかもしれない。

 正直確認したくないけれども。


「アズールさん、グローリア様に燃やしてもらう前に、それ、見せてもらってもいいですか? 他にもなにか分かることがあるかもしれません」


「よ、よろしいんでありますか? その、汚いですよ?」

 アズールさんが、ちょっとびっくりしながらそう聞いてきた。

 汚いのは分かってるよ。むしろアズールさんこそ、ほんとよく持ってこれたよね! って大きな声で叫びたいぐらいなんだよ。

 

「なんとか、大丈夫です。ちなみに魔物の姿って人型ですか?」

「いいえ、狼のようなかたちです」

 よかった、動物っぽかったら、より大丈夫。山暮らしで良かった。


「わかりました。麻袋ください」

 私は馬から降りて、アズールさんから麻袋を受け取ると口紐を解いて、中身を地面に広げる。


 毛のない犬みたいなものに角やら牙が生えた魔物の頭と胴体だった。首と体が綺麗にぱっくり切断されている。そんな状態なのに、生きているようで、紐で結ばれている手足がもぞもぞと動いていた。


 さすが、魔物。生命力半端ない。


「それにしても傷口が新しいですね。手足を紐で結んだのはアズールさんが?」 


「はい。見つけた時には、首が切断された状態で、手足ばたばた動かしてました。このまま放置するのも危険な気がして、紐で結んで持ってきたんです!」


 そうでしたか。

 そこまでしていただいて、アズールさん、す、すごいね。

 心なしかアズールさんが、自慢気な顔をしている気がする。

 私は、なんて声を掛けるか迷って、曖昧に微笑んで頷くと、アズールさんは褒めてもらった犬みたいに嬉しそうな顔をした。


 それにしてもこの切り口、綺麗すぎる。すくなくとも、村人がもっているような農具でどうにかできる傷じゃない。

 きちんとした剣でスパッといったような感じだ。


「スルスル村って、誰か常駐の騎士職の人がいましたか?」


「この村にいるわけではありませんが、たしかこの近くに騎士職のものを派遣していたと思います」


 ルビーフォルンの屋敷から連れてきた騎士の一人がそう答えた。


 なるほど、もしその人が、指揮をとってくれているとしたら……村人は上手く避難できているのかもしれない。そして、村人を避難させた上で、魔物を定期的に狩りに出ていたのかも……。


「まだ近くに村の人がいるかもしれません。急いでスルスル村に向かいましょう!」


 魔物の残骸は、大火魔法使いグローリア様が、盛大に燃やし尽くした後、スルスル村に向けて、できる限りダッシュで向かった。



 村につくと、アズールさんが言ったように人がいなくて静かだった。

 畑は雨で崩れたまま。手入れなんかをされてる様子はない。


 それでも、村の奥に入ると、人の気配を感じた。というか、人が出てきた。3人ほど。


 一番体つきががっしりしているちょび髭の男性が、先頭をあるいて、馬車の前にやってきた。


「領主様の救援でございますか!?」

 彼の切羽詰ったような顔から、必死な声が聞こえてくる。


 彼の問いかけに、馬車からグローリアさんが、降りてきた。

 我が一団の唯一の魔法使いであり、領主の奥様だ。

 ここまで強行軍できたけれども、疲れなんかを見せずどうどうとした出で立ちだった。


「ええ、そうです。私は、グローリア。ルビーフォルンの領主であり、魔法使いです」

「おお! ありがたい! 魔法使い様でいらっしゃいましたか!? このような辺境の村にまで……! しかもお早い救援だ! 先日村の若者を領主様のお屋敷に走らせたのですが、こんなに早く来てくださるとは!」

 どうやら、村の人を領主屋敷に向かわせたらしい。といってもそのお知らせを受けて、ここまで来たわけではないので、行き違いだけれども。


「あ、申し遅れました! それがしは、この一帯の村をまとめるように言われております騎士職のブランと申します」


 そう言って、ブランと名乗ったちょび髭氏は恭しく頭を下げた。


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