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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第三部 転生少女の救済期
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転章Ⅰ グローリア=ルビーフォルン

 いつからか、自分の力を疎ましく感じていた。

 兄はこの力を素晴らしいものだと力説していたけれど、私は兄が必死になって話せば話すほど、いらない力なんじゃないかと思えてならなかった。


 だから私はこの力をなかったことにして、植物精霊魔法を覚えた。

 そうしてやっと、私は必要とされる魔法使いになれた。


 そう、なれたのに……。


「どうして、私を止めようとするの!? あなただけならまだしも、ガラテアまで!」


 私はそう怒鳴り散らしながら、目の前の扉に手を掛けようと進む。

 でも思ったように進まない。それもそのはず、私は夫に羽交い締めにされていたし、足には娘がへばりついていた。


「お母様! 何度言ったら分かるんですか! 外にでて何をしようというんです!?」

 足元で、もごもごと責めるように問いかける娘をきっと睨みつけた。


「当然、魔法を使うんです! あの大雨で、田畑がダメになったと聞いたわ! それにセキ様方がいらした南には、魔物が出たと聞いてますっ! せめて私の魔法で、田畑を蘇らせて、安心させなければ!」


 私を後ろから羽交い締めしている主人からも荒い声が上がる。

「ダメだ! グローリア! 君は、魔法を使うとすぐに体を悪くする! 魔物はセキたちで何とかすると連絡も入っているし、田畑の件は私に任せてくれ!」


「いいえっ! 信じられません! あなたは、今までこのことを私に黙っていましたっ!」

「君に言うと、こうなるから言えなかったんだっ!」

 夫に怒鳴るようにそう言われて、私は扉を前にしてとうとう力尽きた。腕をばたりと下ろす。

 つい1年ぐらい前まではベッドにいることのほうが多い生活だった。

 大人二人を相手に無理を通せるわけがなかった。


 夫に引きずられるようにしながら、ベッドまで戻される。

 娘も、シーツを綺麗に整えて、私をベッドに連れて行かれるのを手伝っていた。


 まあ憎らしい。ふたりの息はぴったりってところなのかしら。

 私は不満そうに鼻を鳴らすと、ベッドに無理やり腰掛けさせられた私の隣に夫が座る。


「グローリア、耐えてくれ。君に魔法を使わせるわけにはいかない。せっかくここまで回復したんだ。また魔法を使って寝たきりに戻って欲しくない」


「……あなたは、私が死んだらルビーフォルンを統治できないからそういうのだわ」

 そう思わず呟いてから、すぐに後悔した。そんなこと、言ってはいけなかった。

 心配になって、夫の顔を見たが、「それもある。でも、それだけじゃない。君が大事なんだ」と言って、いつもの温和な笑顔を向けてくれて思わずホッと胸をなでおろした。


 夫は代々ルビーフォルンを治める領主の家系に生まれたが、魔法使いではなかった。

 領地を治めるためには、爵位が必要で、それを得るためには魔法使いと結婚するしかなかった。

 そして、夫は、植物精霊魔法の使いすぎで体が弱り、元いた領地に見捨てられた私と結婚した。 

 政略結婚のようなものだった。でも、夫は、私を愛してくれた。大事にしてくれている。

 夫が、無理をしようとする私を止めるのが、爵位を剥奪される理由だけじゃないのは、私が十分に分かっていた。


「ごめんなさい。あなた」


「いいさ。それにさっきの君の暴れっぷりには惚れ直した。随分とたくましくなったんだね。うれしいよ、グローリア」


 そう言って、夫は、膝に置いていた私の手を握った。


「……ねえ、あなた、でも、私、魔法使いなのよ? こんな時に、ベッドの上なんて……辛い」

 そう言いながら、昔のことを思い出した。


 私は魔法使いだったけれど、火魔法の適性しかなかった。

 他の魔法は相性が悪くて、呪文を見るだけで眩暈がした。

 火魔法しか使えない私にどこにも居場所がないように感じられた。それに兄も、私と同じ状態だった。みんなが私たち兄妹のことを使えない魔法使いだと罵っているような気さえした。


 だから、血反吐を吐くような努力をして、植物精霊魔法を手に入れた。

 そして、やっと必要とされた。

 でも、それは束の間で、私に残ったのは弱った自分の体だった。


「グローリア、私のために、耐えてくれ」

 そういった夫の目を見つめた。

 その真摯な瞳に、夫のために耐えることを誓いたい気持ちもあった。でもそれ以上に、夫が領民のことを気にかけているのを知っていた。大雨で潰れた畑があると聞いて、南の結界が破れたと聞いて、本当は、気が気でないはずなのを、私はよく知っていた。

 あなたのために、この領地のために、力を使いたい。

 ここはやっと手に入れた居場所なのだから。


 ふと、兄のことを思い出した。兄は今頃どうしているだろう。まだ、火魔法にこだわっているのだろうか。私が捨てたあの力を。

 私は、植物魔法を覚えてからというもの、火魔法を使っていない。なかったことにしたかった。

 夫も私が火魔法を使えることを知らないだろう。

 でも、それでいい。どうせ、使い道などないし、私は、必要とされる魔法使いでありたかった。


 ……やっぱり、このまま何もしないでベッドの上で寝ているなんてこと、私にはできない。私には、魔法がある。家族や領地のために、なにかしたい。そのための力を持っているのだから。



今回、文字数が少ないので、明日もう一話更新予定です!

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