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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第一部 転生少女の幼少期
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小間使い編③-お屋敷に到着-

私が目覚めてから二日ほどして、私たちは大きなお屋敷についた。


コの字型の大きなお屋敷と、奥に3棟ぐらい別棟がみえる。


貴族のお屋敷というからには、繁華街の中心部にあるのかと思ったが、思ったよりもひっそりしたところに建てられていた。


屋敷の周りは森のように生い茂った木々に囲われ、その外は畑だ。

 

豊かな田園風景を横目で見ながらついたのがこちらのお屋敷だった。



屋敷自体は石造りの城みたいな建物で、普通、石造りの建物は石と石の間につなぎ目みたいなものがあるのだが、この建物にはつなぎ目なんかない、家を作るために、大きな石をくりぬいたような感じだ。


おそらく魔法のなぞ技術の賜物であろう。


ここまで来る間に町のようなところもすこし通ったが、そこの建物も基本なぞ技術だった。



「意外と、のどかなところですね」


「そうかい? でも、人が暮らすところはやっぱり静かなところがいいしね。他の貴族もみんなこんなものだよ。まあ、王都にすんでいる貴族は違うけれどね」


 そう答えたクロードさんは、やっと実家に到着したので安心したのだろう、馬車の中ではやつれ顔だったが、今は満面の笑みだ。


 先ほどまで乗っていた馬車は現在御者のスミスさんが、どこかに運んでいる。


 クロードさんは、腕をまわしたり首をまわしたりして、体をほぐした後、くたびれた洋服を手でパンパンとたたく。


クロードさんは、ワイシャツに黒のベストにズボンといういでたちで、多少パンパンすると見れなくもないぐらいには整った。


 私も、念のため、服を整える。といっても、ガリガリ村で着ていた裾がびろびろのTシャツみたいなワンピースなので、どう整えても、整えきれない感じだけども念のため。


髪の毛も手ぐしで整えようとしたが、伸ばし放題の髪の毛は私のへその辺りまでそのメデューサのような髪を広げている。

手ぐしでどうにかなるようなものではなかった。


 お互いの準備が整ったのを見計らってクロードさんがベルを鳴らし、扉からメイドさんみたいな若い女性が現れた。


クロードさんとは顔見知りのようで、「クロード様、お帰りなさいませ」といった挨拶をした後に恭しくお辞儀をして屋敷の中へとすすみ、客間に案内された。


 その間、私の存在は無視だ。


 このメイドらしき女性と目も合わない。やだ、上流階級のメイドってこわい。


 私とまったく目をあわさないので、メイドさんには私は見えないのでは、むしろ私は見えざるものなのではと、妄想しかけていたが、飲み物を私の分まで用意してくれたので、どうやら目には見えているようだ。


 それにしても、この用意してくれたものは紅茶! うん、このかぐわしい香、間違いない。この世界にも紅茶があるんですね。いい発見です。


農村にいたころは、ヨモギ茶とか、野草でなんちゃってハーブティーを飲んでいたが、やっぱり、紅茶もいいよねー。


「リョウ、この飲み物は、子どもには少し苦いかもしれないけれど、この砂糖を溶かすと甘くなっておいしいよ」


 ポチャリ。クロードさんは私のカップに角砂糖をひとつ落とした。


 おいおい、私が無糖派だったら、どうするんだ。


 まあ、私は甘党なので、ありがたくいただきますが。むしろ後2,3個いただきたいですが。


「甘くておいしいです、クロード様。ありがとうございます」


 私が紅茶を飲んでからお礼を言うと、クロードさんは私の頭をなでて、満足そうにうなづいた。この人は基本的に優しい。


ただの子ども好きなのか、ロリコンなのかの判別が難しいが。


それにしても、この屋敷の感じ、ガリガリ村と違いすぎる。


カップも陶器で、スプーンはおそらく銀製だ。色鮮やかな花がガラスでできた花瓶でいけられ、それに窓ガラスがある! 陶器やガラス製品がこの異世界にあるとは、ガリガリ村のときは思いもしなかった。


なにこの格差社会、ひどすぎる。もしかして機械製品もあったりして・・・・・・。


するとバタバタと部屋の外から騒がしい音が聞こえたかと思うと、ばたんと大きな音で扉が開いた。


 そこには、クロードさんと同じ、黒髪、黄緑色の瞳の気の強そうな美しい女性が立っていた。


「お兄様! 何をしていたんですか! 突然いなくなって!」


そして怒鳴った。美人が怒るとめっちゃ怖い。


「アイリーン、心配かけたね。そんなに怒らないでおくれ」


そういって、クロードさんは立ち上がって、久しぶりに再会した妹に感動の抱擁をしようとしたが、アイリーン氏の容赦ない、右手の張り手によって防がれた。 


 よろめくクロードさんは、「オフゥ」といううめき声とともに、数歩後ずさる。


「もう! ごまかさないでください! クロードお兄様! 何をしにいかれたんですか? こっちは忙しくって、猫の手も借りたいぐらいだったのに、ご存知でしょう!」


 あははは、これは参ったうちの女王さまがお怒りのようだ、みたいな軽口をたたきながら、クロードさんは、二人のやり取りをイスから立って眺めていた私に近づいてきた。


 やめて、私を巻き込むのはやめて。


「この子を買うためにね、兄上の領地まで行っていたんだ! いやー疲れたよ」


 そういって、クロードさんは私の肩に手を乗せて、まるで楯のように、ぐいっとアイリーンさんの前まで私を押し出した。


巻き込まれた。


アイリーンさんと目があう。なにこの子?という感じで、私を下から上まで見た後に、少し首をかしげた。かわいい。


 クロードさんからの事前情報によるとこのアイリーンさんは二人の息子がいるということだが、ぜんぜんそう見えない。十代の少女のような見た目だ。


「ガリガリ村のリョウといいます。宜しくお願いいたします」

 無難に挨拶をしてみた。


「ねえ、何、このみすぼらしい子。・・・・・・・まさか、魔法使い?」


 アイリーンさんの顔があからさまに期待で輝いた。


「いや、魔法使いではない」


 そしてアイリーンさんの顔はあからさまに失望の色にそまった。わかりやすい人だな。

 

 ていうかどこもかしこも、魔法使いだったら何だって言うんですか! 勝手に期待したり失望したり、失礼しちゃう!


「魔法使いでもない、こんな小汚い子を買うために、まさかあそこまでいったの?」


 アイリーンさんは私の存在を無視して、クロードさんと話し始めた。


 メイドさんも無視するし、この屋敷における私の無視率が高い。


「すごく利発な子、いや、天才だよ! 馬車の帰り道に一度本を音読してあげたらもう文字も書けるようになった! それになによりなんと今話題の千歯こきの発明者なんだ!」


「そんなもの信じられません。私の息子と同じぐらいの年の子じゃありませんか!」


「そうそう、そうなんだよ。ちょうど同じ年頃だから、しばらくアラン達の話し相手とか小間使いとしてここにおいてほしいんだ。私は、帰りながら仕入れた商品をおろしたり、今後の事業について商会の人と話し合いたいから、あまりかまってあげられそうにないしね」


「いやです。こんな小汚い子」


 な! 失礼な! 私だってちゃんとすればちゃんとするんだぞ!


「そういわないでアイリーン。気難しい私の甥っ子が、雇った話し相手や小間使いをいじめてすぐにやめさせてしまうと、悩んでいたじゃないか。この子なら大丈夫だよ。君のためを思っていっているんだよ」


 ていうか、アイリーンさんの息子さん、その話をきくと、性格悪そうなんですけど、勝手に大丈夫とか言わないでほしいんですけれど。


 そして、クロードさんは柔和な笑顔を向けたまま、アイリーンさんの肩に手をおいた。


 なんか、胡散臭く感じるのは、私の心が汚れているからでしょうか・・・・・・。

 

「・・・・・・まあ! お兄様! 私のことを思ってなのね! それなら、そうね、わかったわ。雇ってみましょう」


 そういって二人の兄妹はひしっと感動の抱擁を行なった。


 その際、クロードさんがどさくさにまぎれて、甥っ子たちは今家庭教師を雇っていると思うけれど、その授業にこの子も参加させてほしい、小間使いだし、アイリーンのためだし、とかなんとか言って了解をもらっていた。


 買った商品(私)に無料で英才教育をほどこそうと画策するとは・・・・・・クロードさんはやはりやり手だった。

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