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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第三部 転生少女の救済期

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帰省の旅編⑨ ルビーフォルンのとある村にて

 ある程度、お馬さんの手入れがおわったかなーと思ったタイミングでシュウ兄ちゃんが、

「あ、馬の飲み水汲んでくる。もってくるから待ってろよ!」

 と言ってオケをもって馬小屋から出て行った。

 途端に静かになる馬小屋。


「す、すみません。カイン様、うちの兄が無礼で」

「いや、むしろ楽しいよ。城に勤めてると、あんな風に気軽に話しかけられることもなかったし」


 カイン様、どこまでも天使である。ここまで天使すぎると、そのうちマジで羽とかも生えてきそう。

 こんな天使を目の前にしたら、さすがのゲスリーさんも思うところはあるんじゃないかと、願いたい。そばにいるだけで絶対に浄化作用とかあると思うし。


「そういえば、アズールさんから聞いたんですが、ゲス、じゃなくて、ヘンリー様は領地に帰ろうとするカイン様を引きとめたらしいですね」

「ああ、うん……実は、最初はいかないようにっていわれていたんだ。けど、どうにかお願いして、行かせてもらったんだよ。ヘンリー様は、私がここまで頑固だとは思わなかったと言っていたから、少し失望されたかもしれないね」

 カイン様に失望するところが一体どこにあるというだ、ゲスリーめ! あやつめ!

 なんだか、ちょっと落ち込んだ風のカイン様を見ると、なんだかゲスリーに対する怒りがムラムラと……。


「失望されるぐらいがちょうどいいですよ。あの人が私たちに望んでることって、すっごく腹ただしいことなんですから。むしろガツンと言ってやって、少しはまともになったかもしれません」

 ちょっと声を荒らげる私にカイン様は驚いた顔をした後、噴き出すように笑った。


「ハハハハ、リョウは、強いね。うん、確かに、そうかもしれない。そう思うことにするよ」

 何やらカイン様のツボに入ったようで、しばらく笑っていたカイン様が、笑いすぎて目に溜まった涙を拭きながら、私の顔を見た。


「ヘンリー殿下は、近いうちにこの国の王になると思う。周りもそのつもりで動いてる。……ヘンリー殿下には、魔法が使えない平民を、物みたいに扱うような王にはなって欲しくない。このままだと、この国は崩壊する、そんな予感がするんだ。だから、ヘンリー殿下には……痛みに気付けるようになってほしい。少なくとも私が城にいる間は支えていきたい……彼の友人として」

 そういったカイン様のまっすぐな瞳が胸に痛かった。

 カイン様の友人だなんて……ゲスリーにはもったいないよ。本当に、もったいない。


 カイン様の卒業式の日を思い出した。その時も、カイン様はゲスリーのゲス的な部分も知りながら友人でありたいと言っていた。

 あの時と、変わっていないんだね、カイン様は。


「……私も、何かあれば言ってくださいね。お手伝いいたします」


 卒業式の日は、ゲスリーはもう手遅れだと、そう思って、カイン様にこの言葉を言えなかった。

 でも、カイン様みたいな天使が、投げずに諦めずにいるのだもの。もしかしたら、無理なことなんかじゃないのかもしれない。


「ありがとう。リョウ」

  そう答えたカイン様の笑顔はやっぱりいつも通りのエンジェルスマイルだった。



-------------------



 宿屋で一泊してからルビーフォルン行きの一行は、朝早くから出発。

 1日きちんとしたところで寝とまりできただけで、体の調子が全然違う。

 このままルビーフォルンまで突っ走ろう。


 気力体力ともに充実した私たちは、運が良かったのか、魔物に出会うことなくルビーフォルンの境を越えた。

 うん、結構あっさり越えた。というか、心なしか、ルビーフォルンに近づくにつれ、魔物に遭遇する率が減っている気がする。

 これは、もしかして……私の考えていたことがいい方にいったのかもしれない。


 ルビーフォルンに入ったと言っても目的の伯爵邸まではまだある。突っ走るのみ!

 しばらく、早駆けでルビーフォルンを進んでいると、小さな村が見えてきた。

 通り道にある開拓村の一つだ。

 ……村一面、田んぼが広がっている。畑や田んぼが一部、おそらく雨でダメになっているところが散見できたけれど、パッと見た感じでは、魔物に襲われた様子はない。

 村人も呑気に畑仕事に精を出している。


 私は、どうしても確認したいことがあったので、皆の許可をもらった上でこの村に寄ることにした。


 ちょうど、荒れた畑の中、惚けたような顔で鍬を片手に馬車を見てるお髭のおじさんがいたので、その人に声をかけることにした。


「あの、すみません! ちょっと聞きたいことがあるんですけど、今お時間大丈夫ですか?」

「は! ええ!? わしのことか!?」

「はい、そうです。近況を伺いたいんです」

「近況? なんでそんなもん……ああ、あれか、この前の雨で畑がやられたことの確認か? お嬢ちゃん、お役人かね? そうは見えんが……それにこの村の管理をしてる騎士様が報告で領主様の館に向かってたはずだが、行き違いか?」

「いや、それとはまた別で、ちょっと確認したくて……。あ、畑けっこう被害出てしまったんですか?」

 目の前にある雨に打たれて折れてる作物を見ながらそう問いかけた。

 こちらのおじさんは、この畑の手入れの最中だったみたいだ。


「おう、そりゃあ、もうすごい雨だったからなぁ。特に、ここの畑はだめじゃった。いま手入れしとるがのう。ダメになった畑は、また一から仕切りなおしじゃな……」

 そして、沈痛な面持ちで畑がダメになっているエリアを見渡す。雨で、めちゃくちゃになって、畝なんかも作ってたはずなのに、雨で押し流されたのか潰れてる感じだ。


「じゃが、泥をかぶったやつはダメになったが、田んぼで育ててる稲は無事じゃった。見てわかると思うが、前にな、一部の畑を田んぼっつうのに変えたんじゃが、もう、水が大量に川から流れてきて、水かさがえらいことになっとった。それを見たときは、もうだめかと思ったがのう、なんとか生き残ってくれた。水の中で育つ作物だからかのう……なんにせよ、これだけ稲があれば、飢えで死ぬことだけは免れるだろうて。田んぼっちゅうのに突然変えた時は驚いたが、これのおかげで助かった!  領主様にはよろしくおつたえくだせぇ。これも全て、ウヨー、おっといかん、これは口にしちゃあいけないんじゃった」


 そう言って、口をつぐんだおじさんは、キョロキョロと誰かいないか確認して、慌て始める。

 あれ?  一体このおじさん何を言おうとしたのだろう……。『ウヨー』って……すごい嫌な響きなんだけど。

 で、でも、それよりも、まずは魔物のことを確認しなくちゃ……。


「あの、ちなみに、魔物が降りてきたり、襲ってきたりはしてませんか?」

「ひえ!? 魔物!? そんな物騒なもん降りてくるはずないじゃろ。魔法使い様の結界で守られとるんじゃから」

 と言って、何いきなり変なこと言ってるの? 魔物、出てくるの? と若干不安そうな顔になるおじさん。

 やっぱり、魔物は降りてきてない。


「おじさん、ありがとうございました! あの、魔物のことは気にしないでください。念のための確認です。それでは失礼します」

 そう言って、馬車に戻ることにした。


「ここは山際の村なのに、魔物の被害がないというのは……」

 一緒についてきてくれたカイン様が、不思議そうな顔をしてさっきのおじさんの話に対する疑問をこぼした。

 私は馬車に戻るために歩きながら、

「先日、大雨対策のために、畑を田んぼに変えたんです」と伝えた。

「田んぼ?」

 聞きなれない単語に首をかしげるカイン様に、村に広がる水の張った畑を指す。

「水の中で作物を育てる場所のことです。この水は、川から引っ張っています」

 そう答えたところで、みんなが待機していた馬車に戻ってきた。

 自分の推測が正しいかどうかを確認するために、次の行き先を伝える。

「すみません、時間を取らせました。確認したいことがあるので、今から田んぼの水を引いている川に寄ってもいいですか?」

 突然川に行くという私に、不思議そうな顔をしながらも、みんなは了解してくれた。







おかげさまで、6/30に発売されました転生少女の履歴書2が、重版しました!

たくさんの方にお手に取っていただけたようで、嬉しい限り。

この嬉しさをバネに、webの更新も頑張りますね!

いつもありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] あー、川の水が結界の水だから田んぼが結界になって寄せ付けてないのかな?
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