帰省の旅編⑧ 仏のカイン様は紳士
転生少女の履歴書2の発売に合わせて行ってました3日間毎日更新の最終日です!
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道中、やっぱり時々魔物に出会ったけれど、こちらには天才剣士のカイン様がいらっしゃるので、ほとんどお一人で荒ぶる魔物たちを鎮圧していた。
さすがである。かっこよすぎるのである。
「あーん、やっぱりカイン君! いいわね! 若い頃のアレクに似てるわ」
ええ!? 親分に!?
全然似てないですけど! 特に顔の辺りが!
だって、親分っていったら、目が合うだけで、人を射殺すほどの強面だったよ!?
「に、似てますかね……」
「似てるわ。主に素敵なところが似てるわ」
な、なるほど。
た、確かにカイン様は素敵貴公子だけれども、と思ってコウお母さんと一緒にカイン様のイケメンぶりを眺めていると、カイン様がいつもの素敵スマイルとともに振り返った。
「リョウ、それにコーキさん。もうすぐでルビーフォルンに入ります。一度手前の町で休みませんか? 馬も走り続けで疲れがたまっている。ルビーフォルンの状況がわからない以上、一度準備を整えた方がいい」
「そう、ですね。では、一度町によりますか。カイン様、案内はお願いできますか?」
「もちろん」
と言って、素敵過ぎるスマイルを再び向けてくれた。
かっこよすぎる。かっこよすぎるんじゃないかね、カイン様!
私とコウお母さんがイケメンスマイルを堪能していると、馬車が近くにつけてきた。
御者席に座る生意気なシュウ兄ちゃんが、呆れた顔を向けている
「リョウ、お前、あいつはやめとけよ。なんかキラキラしすぎてヤバイだろ。お前じゃ相手にならないぞ。上手いこと一緒になれたとしても、あれだ、第三夫人とかだ」
し、失敬な!
「眺めるぐらいいいじゃないですか! だいたいカイン様とは別にそういうのじゃないです」
「いやーでも、本当に、カイン殿はかっこいいですよね。彼はよく城でもヘンリー殿下と一緒にいるんですが、ヘンリー殿下って本当に息を呑むほど美しい顔立ちですけど、その隣にたっても引けをとらないというか、絵になります」
馬車の荷台で休憩中だった王国騎士の人がひょっこり顔をだしてきた。
ゲスリーさんとカイン様、確かに学園でも絵になるお二人だったけど、二人のツーショットより、カイン様単品の方が私は好きです。ノーゲスリー!
それにしても、ゲスリーさんとカイン様のツーショットをよく見かけるということは、まだカイン様につきまとっているのか、ゲスリーさん。
なんだか、あの二人が一緒にいるのってちょっと不安だな……。
「……ヘンリー殿下とカイン様って、どんな感じですか? 仲がいいような感じ、ですか?」
「はい、そのような印象を受けましたよ。特にヘンリー殿下はカイン殿と一緒におられる時は、本当に楽しそうな顔をされてます」
そう、なんだ。一体、ゲスリーはどういうつもりで楽しそうにカイン様と一緒にいるのだろう……あんまり考えたくない。
だってこのまえ学園であった時は、相変わらずのゲス具合だった。カイン様はまだ諦めずに、ゲスリーさんと友達にでもなるつもりでいるんだろうか。
「そうでしたか。それじゃあ、よくカイン様が領地に帰るのをヘンリー殿下はお許しになりましたね」
「やっぱり反対されてたみたいですよ。でも、どうしてもと言って、カイン様はこの旅に同行したという噂であります。変わってますよね。城の方が安全なのに、わざわざ危険な方を選ぶなんて」
アズールさんがそう真面目な顔で言うので、なんだかおかしくなって、思わず笑ってしまった。
「アズールさんだって、わざわざ危険そうなルビーフォルンに同行してくれたじゃないですか。人のこと言えませんよ」
と言うと、彼女は確かに、と呟いて、困ったように笑った。
「でも、ついてきてよかったです。魔法使い様がいなくて、やっぱり不安ではありますが、自分でもできることがあると思えると……なんだか、楽しいです」
そう言って、アズールさんは満足そうに微笑んでいた。
アズールさんが、そんな風に思ってくれていてよかった。ちょっと安心した。
それからカイン様の案内で、町に到着すると宿をとった。
コウお母さんと私とアズールさんが同室で、残りの男性陣で部屋をとる。男女別の部屋割りだ。うん、男女別……。
それにしても、シュウ兄ちゃんを野放しにするのは心配。カイン様に失礼を働かなければいいけど、と思ったけれども、部屋に入ってベッドを見たら、もうどうでもよくなった。
だって、久しぶりのベッド! 暖かい食事! 湯で体もふける! 素敵!
思わずベッドの上にダイブ! あ、思ったよりも固い。
まあ、でも、それでも今までと比べたら、最高の寝心地だ!
思いの外に、お馬さんだけじゃなくて、私も疲れていたのかもしれない。
「リョウちゃん、アタシ、アズールちゃんと一緒にちょっと備蓄の買い出し行ってくるわ」
「え!? じゃあ、私も一緒にお手伝いします!」
「大丈夫よ! そんなに重いもの買う予定もないし。そういえばカイン君が、馬の手入れに行くって言ってたから、そっちを手伝ってあげたほうがいいかも」
馬の手入れ! 背中を流したりするのかな。
さすがカイン様、馬のフォローも忘れないお方である。
「わかりました。コウお母さん気をつけて行ってくださいね」
私がそう言うと、コウお母さんは、手を振りながら、部屋から出て行った。
それから、私は、服が汚れてもいいように薄着に着替えて、カイン様のところに向かう。
宿屋の厩に向かうと、軽装のカイン様が、お馬さんに餌やお水を飲ませながらブラッシングしていた。
お馬さんもカイン様のフォロリストぶりに満足そうな顔をしている。
「カイン様、私も手伝います!」
「リョウ、ゆっくりしていていいのに」
「ダメですよ。カイン様が頑張ってるのに、私がぐうたら寝てるわけにはいきませんから。私はどうしましょう? こっちの馬のブラッシングをすればいいですかね?」
「ありがとう、リョウ。じゃあ、お願いしようかな」
カイン様の許可ももらって、別の馬のブラッシングを始めた。
これからも馬車馬の如く働きたまえよ、馬達! 如くっていうか、馬車馬だけれども! と思いながら、熱心にブラッシングしていると、カイン様の視線を感じた。
顔をカイン様に向けると目があった。
「? どうかしましたか?」
「あ、いや、なんでも、その……リョウは馬の扱いにも慣れてるよね。一人で騎乗した時は、少し驚いたよ」
「ルビーフォルンに戻るときに馬に乗ったりしていたので」
「そうなんだ」
と言いながらカイン様は、馬小屋の入り口に引っ掛けていた薄手の上着をとってきた。サイズ的にもカイン様の上着だ。
「少し冷えないかい? これをかけて」
と言って、その上着を私にかけてくれる。
「えっ! でも、上着が汚れちゃいますよ! それに、そこまでまだ寒くないですし」
と言って、かけてくれた上着を返そうとした手をカイン様に止められた。
「着ていて。リョウもそろそろ一人前の淑女だ。どんな時も、きちんとした格好をしておかないといけないよ」
そう言って、改めて上着を私にかけ直してくれた。
そうか、ちょっと……薄着に過ぎたのかもしれない。汚れてもいいようにと思って、薄着できたけれど、人様の前に出てもいい格好ではなかったかも。
前世の世界で言えば、ちょっと丈の短いノンスリーブのワンピースみたいな感じだけど、この国の貴族は基本的に重ね着するし、スカートだって長いものがほとんど。
なんだかちょっと恥ずかしくなって、ありがたく上着を借り受けることにした。
カイン様、紳士。
「おっ! こんなところにいたのか! なんか誰も宿にいねぇから驚いたぞ!」
カイン様の紳士ぶりを心の中で賞賛していると、なんかうるさい声が聞こえてきた。
声のした方を見ると、馬小屋の入り口に短パンだけはいた半裸のシュウ兄ちゃんが生意気な顔をして立っている。
「なんだよー! そういうことやるんだったら俺にも言えよー! 寂しくなったじゃねぇかー! 馬の手入れなら、任せろ。馬の扱いにも俺の右に出るものはいないんだからな!」
そう言って、ズンズン私のところにくると、ブラシを奪って、馬をゴシゴシとブラッシングしていく。
お馬さんが、ちょっと嫌そうに体を震わせて鳴いてるけども、シュウ兄ちゃんは気にしない。
「シュウ兄ちゃん……」
「ありがとう、シュウ君」
パンイチみたいな格好のシュウ兄ちゃんにも優しく対応するカイン様。
やめて、シュウ兄ちゃんったら、カイン様の隣に立たないで! こう、お兄様力の差が浮き彫りになるから! なっちゃうからー!
せめて上着着て、上着。なんでパンイチみたいな格好してんだ。
今さっき、薄着過ぎることをカイン様にたしなめられた私なのよ! その兄まで、パンイチの姿をさらした日には、もうなんていうか、私、いたたまれないよ!
私たちのお里が知れてよ! 既に知られてるけど!
「なんだよ、リョウ、じろじろみて。なんだ、お兄ちゃんの体に男でも感じたか?」
と言って得意げな顔をしてきた。
違うわ! ガリガリ村出身の貧相な体にこれっぽっちも興味はないわ!
「もう! シュウ兄ちゃんは変なこと言ってないで、服着てくださいよ!」
「なんでだよ。馬の世話してんのに、服着たら汚れるじゃねぇか」
や、やだ、ちょっと似てる。汚れてもいいように薄着をしてきた私とちょっと思考回路が似てる。
これが兄妹の絆だというの!?
いや、でも 汚れてもいいように半裸という思考回路ではなかった。私はちゃんと服をきた!
だめよ! シュウ兄ちゃんは年齢的にもうすでに一人前のはずなんだから、それなりの格好をしないといけないのよ!
しかし、私に慎みを教えてくれたカイン様は、男の半裸は許せるようで、私とシュウ兄ちゃんのやり取りを見て、おかしそうに笑うぐらいで、特に何も言ってこなかった。
「二人は、本当に兄妹なんだね。見た目もだけど、色々似てるし、それに息が合ってる」
ちょ! カイン様、いきなり何を言い出すの! やめて! 全然似てないよ! 多少見た目は似てるところあるけれど、性格とか全然でしょう!?
「そういや、カインも弟と妹がいるんだろ? どんなやつなんだ?」
「ちょっと、シュウ兄ちゃん! カイン様のこと呼び捨てで呼ぶなんて!」
「ハハ、いいよ。好きに呼んでもらって構わないし、私もシュウってよんでもいいかな?」
「おう! いいぞ! 遠慮すんな」
そう言って、カイン様の肩をバンバン叩いてる。
シュウ兄ちゃんマジヤバイ。お優しいカイン様だから許されるけれども!
カイン様じゃなかったらもうコッテンパンだよ!
やっぱり早死にしそうなシュウ兄ちゃんをどうにかせねば……。
「私の弟と妹もすごくかわいいよ。それに、すごいんだ。アランも、チーラも、魔法がつかえる」
「え! お前の弟妹って魔法使い様なのかよ。ということはお前って貴族?」
何、今更、ヤベー奴に気軽に話しかけちまった! みたいな顔してるのシュウ兄ちゃん。
最初、私が紹介した時に色々説明したよね!?
「いや、もともとは貴族……伯爵家に生まれたけれど、今は貴族じゃないよ。15歳になった時に、ぬけたんだ」
しかし、特に気分を害した様子もなくカイン様はシュウ兄ちゃんというアホに優しく諭す。仏か。仏なのかカイン様は。
ほっとしたような顔をしたシュウ兄ちゃんは、「なんだよーそういうことは早く言えよー」みたいなやりとりをしてご機嫌だ。
本当にすみません、うちの兄が、本当に。
私は心の中で仏のカイン様に許しを請いながら、厩の藁を集めたりといった作業に徹することにした。









