帰省の旅編⑦ シュウ兄ちゃん
明日、転生少女の履歴書2巻の発売日なので、3日間毎日更新して発売祝いパーティーや!!
というまえがきを前回更新時に、入れようと思って、入れ忘れました。すみません。
唐突に連続更新パーティーを勝手ながら始めております。
ということで、昨日も更新して、今日も更新して、明日も更新予定なので、話数にお気をつけください。
よろしくお願いします。
主にアズールさんとシュウ兄ちゃんが馬車係。彼ら以外は、馬にまたがって並走して護衛的なことを請け負う布陣で進む計画ではあったのだけれど、最初だけ私とシュウ兄ちゃんが馬車係に任命された。
コウお母さんが、「久しぶりに故郷の話もしたいでしょ?」と言って気を利かせてくれたおかげである。
正直、シュウ兄ちゃんに色々聞きたいこともあったから、ありがたくシュウ兄ちゃんと一緒に荷物を抱えた馬車の御者席に座らせてもらった。
手綱はシュウ兄ちゃんが握ってくれている。
御者の腕前を早々に確認しておこうという魂胆だった。
『俺の右に出るものはいない』とかいうセリフがなんか胡散臭くてちょっとばかし疑っていたけれども、普通に手綱を引けていたので安心。ただ、多分右に出るものは大勢いると思う。そこまで特出してうまいわけじゃないと思う、うん。
「えっと、シュウ兄ちゃ……シュウ兄さんはいつ村を出たんですか?」
「1年ぐらい前かな。ていうか、なんだよ、『シュウ兄さん』って。いいとこの子ぶりやがって。小さい頃みたいに、気軽に呼べよ。お前、俺のこと、心の中で、大好きなおにいちゃんって呼んでただろ?」
「ううん、呼んでない。じゃあ、昔みたいにシュウ兄ちゃんって呼ぶ」
私は即答でそう答えたけれども、シュウ兄ちゃんは、遠慮することないってのによーって言って、照れくさそうに鼻をかいた。
いや別に遠慮してないからね。そんな風に呼んだことないからね。心の中の呼び方ってなるとむしろ『鼻クソ小僧』とかになっちゃうからね。
私はなんか残念なものを見るような目で兄を見つめた。
確かに、小さい頃からちょっと、生意気そうな雰囲気ではあったけれども、まさかここまで残念な感じに成長していたとは。
私の面倒をよく見てくれた優しい兄のマル兄ちゃんの行く末が気になってくる。
マル兄ちゃんだけはあのまま健やかに育って欲しい。
「ガリガリ村って、どんな感じでした……?」
「んー? ガリガリ村……俺の昔の庭か。まあ、とりあえず、畑耕してたよ」
「うん、畑耕してるのは、知ってる」
大雑把過ぎません? うちのお兄さん大雑把過ぎません?
畑耕してるのは知ってるよ。さすがに耕してるだろうなって思ってはいたよ。
私はそういうのが聞きたいわけじゃないのよ。
ごほんと咳払いする。これは会話を私がリードするしかあるまい。
「みんな、元気ですか? あ、それとジロウ兄ちゃん、私が売られてすぐにどこかに行っちゃったって聞いたんですけど……戻ってきたりしました?」
「みんな元気だよ。ジロウ兄ちゃんは、戻ってねぇな」
「そうですか……」
ジロウ兄ちゃん、本当に、どこ行っちゃったんだろう……。
「まあ、そうがっかりするなよ。大丈夫だろ。どうにかなるさ」
「うん……」
「ところで、お前こそ、今まで何やってたんだ?」
あーそういえば私のこと全然話してなかった。どこから話そうか……。かいつまんで最初から話すか。
「最初は、レインフォレストの貴族の家で小間使いとして買われたんですけれど、その後さらに人攫いにあって、流れ流れてルビーフォルンの伯爵家の養女にしてもらったんです。それで、今まで学校に行かせてもらってたんですけど、大雨で結界が崩れたから、その救援で学園から飛び出した次第です」
かなりかいつまんで話したんだけど、シュウ兄ちゃんは、よくわかってなさそうな顔をで、首を傾げた。
「ふーん? つまりお前は、元気に暮らしてたけど、今はすごい大変なことになったってことだな?」
多分よくわかってなさそうだ。私がかいつまんだ話を、さらにかいつまんでまとめたシュウ兄ちゃん。まあでも、うん、そんな感じでいいや。
「あー、はい、そんな感じです。ちなみに、一緒にいるカイン様は、レインフォレスト伯爵家の御令息ですし、もう一人の鎧を着込んでる女の人は、王国騎士の人で、なかなかの身分なんですから、あんまり失礼なことしないでくださいね」
「任せておけよ。失礼なことをしないことに関しては、俺の右に出るものはいないぜ」
そう言って、サムズアップして得意げにしてるけど、完全に信用ならない。
ジト目で見つめていたけれど、そんな私の視線には気づかずそのまま会話を続ける。
「まあ、でも、ルビーフォルンに行くのはちょうどいい。村長のところの息子のタゴサクっていうの覚えてるか? あいつ、ルビーフォルンで偉くなってるみたいなんだ。だから、タゴサクさんのところにいって、仕事もらおうと思ってたんだ」
う、うん。それはいい考えかもしれないけれど、どっちかというとタゴサクさんより立場的には私の方が偉いからね。伯爵家の養女だからね。
やっぱりさっき私が話したことほとんど理解してないようである。
「たぶん、ルビーフォルンに行けば仕事たくさんあると思いますよ。人手が足りないぐらいでしたし……魔物が出てきてるので、今はどうなっているかわかりませんが」
「え!? 魔物が!? 今そんなことになってんのかよ!?」
「知らないで、ついてきたんですか!? 人身紹介所は魔物に対する護衛集めで、大盛況だったじゃないですか」
「あーそうだったか? なんか騒がしいとは思ったけど、俺の取り合いかと思ってた。なにせ手綱使いとして俺の右に出るものはいないからな」
そ、そっか。
なんかシュウ兄ちゃんってすごいや。すごい人生が楽しそう。
私がうちのお兄ちゃんマジポジティブとか思って、若干呆れた目で見ていると、コウお母さんが、馬を馬車に寄せてきた。
「リョウちゃん近くにまた街があるみたいだけど、寄っていく? それともこのまま進む?」
「このまま進みます。夜もこのまま寝ずに。馬車で一人は休めるので、順番に休憩しながら進みたいです」
「わかったわ」
そう言って、コウお母さんは先頭を走ってくれてるカイン様に声をかけにまた馬を駆けていった。
「なあ、お前、あいつのことお母さんとか呼んでるけど、あれおじ……いって! なにいきなり足踏むんだよ!」
「ちょっと! いまおじさんって呼びそうになりましたよね!? コウお母さんに聞かれたら殺されますよ! 命は大事にしてください!」
「つっても、だって、あれ、男だろ!?」
「コウお母さんはコウお母さんなんです。それ以上でもそれ以下でもありません。この話は命に関わります」
危ない。よくしつけておかないと。出会って早々、兄と死別しそうだ。
「ふーん、コウ”お母さん”ね。まあ、お前って、ガキの時から、親に構って欲しそうな態度とってたもんな……」
と、シュウ兄ちゃんがなんともないような顔でそんな事を言ってきた。
え、私って、小さい頃、兄からそんな風に思われていたのか。
鼻くそ小僧だった兄にも私の内心がバレバレ疑惑に驚いていると、シュウ兄ちゃんは、いきなりこっちを向いてニッと笑う。
「いまが幸せそうでよかったよ」
「うん……」
シュウ兄ちゃん……鼻くそにしか興味ないと思ってたのに、結構気にかけてくれてたのかな。
「ちなみに、ガリガリ村のお父さんとお母さんって……?」
「家で寝てる。まだお前を売った金が残ってるみてえだ」
「そう、ですか……」
変な沈黙が流れた。別にそれを聞いて何か思うわけでもないけれど、うん。なんとなく、うん。
そのあとは、ガリガリ村のことはほとんど話さずに、これからのことや私の学校でのことだったり、ルビーフォルンのことを話して過ごした。
 










