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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第三部 転生少女の救済期

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帰省の旅編⑤ それぞれの道へ

 村には一晩だけ泊めてもらって、早々に学園勢は自領に向かって進み続けた。

 村の人たちは、もう少しいてもらいたそうな顔をしていたけれど……ゆっくりしていられない。


 一心不乱に進み続け、そしてとうとうアラン率いるレインフォレストの団体も、枝分かれの段階に差し掛かった。

 私はこれから一度レインフォレストにある大きめな街に寄って、御者を雇い入れようという魂胆なので、アラン達にちょっとだけ一緒についていくことになる。だから私もここで枝分かれ。

 というか、もう最南端の領地であるグエンナーシス領の団体と分かれるだけなんだけど。結構グエンナーシス領の一団の規模が大きかったので、あそこと別れると、本流から枝分かれした感は強い。


 学園勢の集団下校の列からは離脱することになり、それに合わせて、わざわざカテリーナ嬢とサロメ、それにシャルちゃんが、自領の団体から離れて、挨拶に来てくれた。


「お見送りに来てくれるなんて思ってなかったです。ありがとうございます」

「当然よ、友達だもの」

 そう言ってカテリーナ嬢が腰に手を当てて、胸を張ってる。サロメ嬢も隣でいつもの色っぽい笑顔で笑っている。


「リョウ様、必ずまた学園で会いましょう……!」

 そう言って、泣きそうな顔を隠すように勢いよく私の胸の中に飛び込んできたシャルちゃんを抱きとめた。


「はい、必ず」

 私とシャルちゃんが別れを惜しんでる横で、カテリーナ嬢が腰に手を当てたまま、アランに顔を向けた。


「アランさん。リョウさんを頼むわよ」

「わかってる」

「アランさんだから心配なんですけど」

「なんでだよ!?」

「冗談よ。あなたは同学年で、唯一私と張り合えた魔法使いなんですから、信用してるわ」

 そう言って、不敵な笑みを浮かべたカテリーナ嬢は、アランの肩を叩いた。


「……お前達も、無事でいろよ」

 アランもそう言って笑顔を向けた。

 あの二人って、魔法の授業だとライバル的な立ち位置だったのかな。

 

 もうしばらく別れを惜しんでいたかったけれど、でもずっとそうするわけにも行かない。

 急いで、自領に戻らなくちゃいけないのだから。


 最後に、また改めて学園で会うことを約束し合って、私たちは、別々の道へと進んだのだった。


 その後、馬車の中で、ちょっと寂しくなってしんみりしていると、コウお母さんが、私に肩を寄せてきた。私はその肩に寄りかかる。


「リョウちゃん、いいお友達がいっぱいできてたのね。アタシ嬉しい」

 コウお母さんが、そう言って、肩にもたれかかる私の頭を撫でた。

 私は馬車の中で、コウお母さんの肩にもたれながら、少しだけ泣いた。


----------------


 しばらく馬車で過ごしたり、出てくる魔物に対処したりしていると、大きな街にたどり着いた。

 ここは、レインフォレストにある街で、人身紹介所がある。

  こちらの大きな街で、体力のある馬を調達し、人身紹介所で、二人ほど御者係として人を雇い入れる予定だ。

 雇い入れるっていうか、買うってことになるわけだけど。

 まさか、私が人を買うことになるとは思わなかったけれど、やっぱりどうしても御者はほしい。

 私とコウお母さんが護衛のように馬に乗って魔物に警戒しつつ並走し、馬車に積んだものを守るという隊列を組むためには、馬車を操縦してくれる御者が必要不可欠。


 なぜか、レインフォレストに配属された王国騎士が今は御者をしてくれているけれど。

 どうしよう。彼女、さりげなくついてきてくれないだろうか……。

 そう思って、今後の予定はどうなんだね? ええ? と、道中コウお母さんと揉み手で迫ったけれども、なぜか怯えてしまいぶるぶる震わせて、何も答えてくれなかったので、多分ルビーフォルンには行く気がないのだと思われる。辛い。


 人身紹介所で、御者を、しかもルビーフォルンという呪われた領地へ向かうことを了承してくれる人が居るかどうか……。こればっかりは、行ってみないとわからない。


「ここが、レインフォレストで一番でかい街、リーンザルトだ。人身紹介所もある」

 アランが街の紹介も兼ねてお別れの挨拶に来てくれた。

 私はここで、人手を雇ってルビーフォルンへ向かうけれども、アランたち、レインフォレストの一団は、これからアイリーンさんが住まう伯爵邸に向かうことになっている。

 ここでお別れだ。


「本当に、御者二名だけ雇って、ルビーフォルンに行くつもりなのか?」

 心配そうにそう声をかけてくれたアランに私は頷く。

 私の隣にいたコウお母さんが、そんな私をみて肩をすくめた。


「ごめんね、アラン君。この子、頑固なところがあるのよ。あんまり無茶しないように、アタシも見張ってるし、安心して」

 そう言って、コウお母さんはアランにウィンクを投げかけるけれども、アランの不安そうな顔は消えない。



「うちの屋敷にまで寄ってもらうことにはなるけど、そこにいる騎士職の奴らに声を掛けることもできる。リョウのことを知ってる奴も多いし、俺が声をかければ一緒にいってくれると思う」


 アランが、小さい声でそう提案してくれた。


 その話はめちゃくちゃありがたいけれども! けれども! ほんと喉から手が出るほどありがたいけれども! だって、ここまで来るのに魔物がどれだけ出現したことか!

 しかも魔法使いが極端に少ないルビーフォルン。結界のほころびがあったとしても、直せる人が少ないから……。もしほころびが一つでもあると、結構わらわらと……魔物が蔓延っているんじゃないか疑惑まである……。すこしでも身を守るための力がほしい。


 でも、アランの甘い提案に乗るわけには行かない。

 レインフォレストの騎士は、レインフォレストの騎士だ。ここだって、無傷というわけじゃないんだから……。その戦力を他領地にもらっていくのはできないし、それに何より、自分の領地を守りたいのに、いきなりルビーフォルンにいけと言われたら辛いと思う。しかもルビーフォルンだし……。


「いいえ、レインフォレストの騎士は自領を守るべきです。それに、ルビーフォルンまでは、あまり休まず走らせて向かう予定なので、機動力を生かすためにもあまりゾロゾロと人を雇い入れるより身軽な感じにしたいですし。人が少ないほうが、魔物にも気づかれにくいでしょうから」

「……そうか」

 とつぶやいて、アランは、少し渋い顔をした。何か言おうとして、でも言えないでいるような、顔。


「だめだ……俺、多分、伯爵とか領主とか、向いてない。やっぱり行かせたくないって気持ちが、残る……」


「……子分が親分の心配するなんて、10年早いですよ。私は大丈夫です、それよりもアランこそ、うっかりドジして、レインフォレストの皆さんに迷惑をかけないように。アイリーン奥様の力になってあげてください。ここは、私にとっても大切な人がたくさんいる。……アランが守ってあげてください」

 私はそう言ってみたけれど、アランの顔に迷いは消えない。思いつめてるように下を向く。


 さっきまでずっと無言で、やり取りを見守っていたカイン様が、アランの肩に手を置いた。


「アラン……。私が責任持って、リョウをルビーフォルン邸に届ける。それでどうだろう?」

「カイン兄様……」

 ゆっくりとアランはカインお兄様を見上げる。

 私も驚きを伴いながらカイン様を見る。

 そして慌てて口を開いた。

「で、でも、そんなこと! 申し訳ないです!」

 カイン様は超優秀な戦士……超戦士だ。それをお借りするのは申し訳無さ過ぎる!


「アランの魔法は、レインフォレストで絶対に必要だ。けれど、アランがこんな精神状態じゃ、きっと集中できないだろう。だから、アランの憂いをとってあげたい。それが結局は、レインフォレストのためになる。リョウ、だから、私はついていくよ。アランもそれなら安心だろう?」

 アランはそう問いかけられて、驚きの表情で、固まった。

  けれども、しばらくして、私とカイン様を交互に見た後に、頷いた。


「カイン兄様、リョウをよろしくお願いします」


 どうにか絞り出したような声で、アランはそういった。

 それを見て、少し笑顔を作ったカイン様がアランの頭を撫でる。

「任せて、アラン。だから、アランもここを、私たちの領地のことを頼むよ」


 相も変わらず仲の良い兄弟だった。

 そんな二人を引き裂くような私で、もうしわけないけれども、ほんとに余裕がないから、カイン様が一緒に来てくれることは、正直、かなり助かる。

 それに、これはレインフォレスト領のためでもあると言われると、なんだか私が断わることのできない雰囲気だ。

 そこまで織り込み済みの発言だとしたら、カイン様のフォロリストレベルは神の領域にまで達しているかもしれない。


「……すみません、ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます」

 私は、他にかける言葉が思いつかなくて、最大の感謝を伝えるためにそういって、深く頭を下げた。



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