帰省の旅編② コウお母さんの優しさ
号外!号外!
転生少女の履歴書の2巻の発売が決まりました!(パフパフ
詳しい内容は、あとがき・活動報告にて!
「リョウちゃん! どうして、あんな無茶な戦い方するのよ! もう! 命がいくつあっても足りない!」
「いや、無茶じゃなくて、アレです、あの、いけるという確信のもと……」
「だまんなさい」
「はい」
ただいま、 ガツンとコウお母さんに怒られ中。
さっき魔物と戦闘した時に、結構分厚い鱗に覆われた魔物で、弓とかの武器が通らなくて、近くに魔法使いもいなかったから、一人で倒そうと、ギッリギリまで弓を引き絞って、魔物が目の前に来るのを待ってから矢を放った。至近距離の弓矢攻撃はそいつの脳天を貫いて、動きがにぶくなったところで、口元に剣を噛ませて、動きを封じ、他の生徒たちに、剣を刺してもらって、魔物を倒したという出来事があった。
私は、いけると思って、そうしたんだけど、それは人から見ると、無謀にも魔物に接近して、自分から魔物の牙に噛まれにいったように見えたらしい。
魔物を倒したー! ふぃー! という達成感に浸っていたところ、馬に乗ったコウお母さまが、ものすごい形相で私を見下ろしていた。
視線で射殺されるかと思った。コウお母さまマジ怖い。
いや、全然、噛まれようと思って、つっ込んだわけじゃないんだけど。噛ませるのは剣だけのつもりだったけれども。
でも、たとえもし、腕が噛まれていたとしても、治癒魔法があるからと思って、思い切った行動をしたわけでは……。わけではないとは、ちょっと、言い切れないところはあるけれども……。
コウお母さんは、そんな私の行動にカンカンだった。
今回のことだけじゃなく、今までの戦い方も捨て身過ぎるというご意見で、現在、私は馬車に連れ戻されて、お叱りタイムとなった次第です。
コウお母さん怖い。
「もともとね、アタシは、領地に戻るのは、正直反対よ。危険すぎるもの。でも、リョウちゃんはどうしても戻りたいみたいだし、その気持ちもわかる。それにアタシもバッシュのこともあるし、心配だから、一緒に戻ろうと思った。でも、危険があれば首を突っ込んで、こんな無茶な戦い方ばかりするようなら、王都に連れ戻すわよ! 問答無用で!」
「そ、それは困ります!」
私はすがりつくように懇願するが、コウお母さんの鋭い視線は緩まない。
今はまだ、かろうじてオネエ言葉だけど、本気で怒ると男言葉に戻る。そうなったら、もうやばい、それだけはやばい。
二人きりの馬車の中が、妙な緊張感に包まれた。
「……リョウちゃん、何があったの? リョウちゃんは前から無茶するところはあった。でも、最近は度を越してるわ」
なんでも、お見通しなコウお母さんが、何か勘づき始めていらっしゃる、気がする。
私はおもわず下を向く。
いうべきか言わざるべきか……治癒魔法のことを。
そのことを伝えれば、私が多少無理してしまったことも、多めに見てくれる、かもしれない。すくなくともこのままだと、王都に連れ戻される可能性が……。
でも……。
「話してくれないと、アタシ、リョウちゃんを守れない」
そう言って、コウお母さんは、私の肩に手を置いた。
再び顔を上げると、コウお母さんの真剣な顔だ。
目をそらせない。
でも、治癒魔法のことを言ったら、コウお母さんはどう思うだろう? それに、危険なことに巻き込んじゃうかもしれない。だって、国の隠し事なのだから。だから、言わない方が、コウお母さんのためだ。
ここは、素直に謝って、とりあえずもう無茶しませんと言えば、旅だって続けられるはず。
それに、王都に戻るのだって命がけだ。ここまで、結界を修復しながら、出てきた魔物を倒しながら来てるから、戻る道中で魔物に遭遇する可能性は低いかもしれないけれど、でも、それでも100%安全な道のりというわけでもない。コウお母さんだって、そう思ってるはず。
うん。ここは素直に謝って、事なきを得よう。
これからは無茶な行動は極力抑えるようにして、治癒魔法のことは秘密にして……それで……。
でも、言葉が出てこなかった。
『ごめんなさい。今度から気をつける。もう危ない真似はしない』
ただそれだけ言えばいいはずなのに、言葉にならない。
目の前には真剣な顔のコウお母さん。嘘みたいなもの、言えるわけない。私を心配して、くれてるんだ。
それに私だって。私だって……もう、本当は……。
「コウお母さん……」
やっと、コウお母さんの名前だけ呼ぶことができた。
口にするだけで、心強く感じる。
そう、私は……。
私は、正直、治癒魔法のことを考えると、気が重くなる。
魔物に襲われて、領地が心配なことも辛いけど、それと同じぐらい、治癒魔法のことを隠してることが、辛い。そして、怖かった。
国が隠してるかもしれないことを、自分だけが知ってるかもしれないということが、怖い。
最初、魔法のことを知った時は喜んだ。
すごいことを見つけたって、好奇心もあって、ワクワクして、色々試してみた。
でも、それは長く続かなかった。
知ってしまったことが、怖くなった。
誰かに知られてしまうんじゃとビクビクしていた。
意味がわかっていない魔法の呪文を唱えるのだって、怖かった。
何も、効果が出てないように見えるけれど、本当は、恐ろしいことが自分の体に起こってるんじゃないかって、そう思うと、夜もあまり眠ることができなかった。
なにより、誰にもそのことを言えなくて、気持ちを誰にも分かってもらえないことが辛かった。
国に知られると怖くて、誰にも知られたくないのに、でも、誰ともこの気持ちを共有できないことが、何よりも、ものすごく、辛かった。
それに、もしこの秘密が、親しい人達に知られたら、私を見る目が変わってしまうんじゃないかと想像するのも怖かった。
みんな、今までと同じように私のことを見てくれるだろうか?
もしかしたら、気味悪がられるかもしれないし、誰かが国に私を売り渡すかもしれないと……大切な人を疑ってしまいそうな自分を想像するのも嫌だった。
もう、本当は全部嫌だった。
こんなこと、知らなければ良かったのにって思うほどに……。
だから本当は、色々実験をして、魔法のことを解明したほうがいいと、わかってるのに。
有益な魔法でみんなのためになるかもしれないと、わかってはいるのに、ノロノロと後回しにしてしまっていた。
私が答えがでなくて固まっていると、コウお母さんが微笑んだ。
「大丈夫。何があっても、アタシはリョウちゃんの味方よ」
コウお母さんが穏やかな声が聞こえて、目が熱くなってきた。
「……でも、コウお母さんも、この話をきいたら、後悔するかも。それに、すごく困ると思う。すっごい怖い思いをするかも知れないし、聞かなきゃよかったって思って、それでコウお母さんは、私のことを嫌いに」
「なるわけないでしょ! もーう! リョウちゃんはアタシのことをなめすぎよ。失礼しちゃうわー」
そう言って、いつもの大好きな笑顔を向けてくれた。
「リョウちゃんが、一人で辛い思いをしてる方が、アタシは辛いわ」
視界が滲んだ。
だって、優しい。コウお母さんは優しすぎるよ。
コウお母さん、そんなこと言うと私、本当に、いっちゃうよ……。
だって、私は、もう、限界だった。
重くて重くて仕方がなくて、誰かに……コウお母さんに知ってもらいたい。
コウお母さんなら、言っても大丈夫だって信じられる。
それに、例えコウお母さんに伝えたことで、たくさんの人に知れ渡ることになっても、私は、きっと後悔なんかしない。
御者の席までは聞こえないように、嗚咽と一緒に小さな声を上げる。
「……あのね、私、あの、魔法を見つけちゃった。私たちでも使えるかもしれない魔法を……みつけちゃった」
それから、ポロポロこぼれる涙と一緒に、語った。
学校で魔法使いじゃない自分でも使える魔法を見つけたこと、その効果が自分にしか発動しないこと、たぶん国はこの魔法のことを隠していること……すごく怖いと感じていること。
コウお母さんは、その間なにも言わずに、私の頭を撫でてくれていた。
私の話は泣きながらで、まとまらない考えをただ吐き出してるような感じで、どうして治癒魔法の呪文を知っているのかの説明が、うまくできないこともあって、支離滅裂、だと思う。
でもコウお母さんは、深く追求するようなことは言わずに、ずっと黙って聞いてくれていた。
私が一通り話し終わってすすり泣く声だけになると、コウお母さんは私の頭を抱えて胸に押しつける。
「リョウちゃん、辛かったわね……言ってくれてありがとう」
コウお母さんの優しい声に安心して、私はまた涙を落とした。
その言葉が、ずっと、欲しかった。
辛かったねって、えらいねって、小さい子に言うみたいに優しく、受け止めてもらいたかった。
どうして、コウお母さんはいつも私が欲しがる言葉をくれるのだろう。
その夜は、泣きつかれたこともあって、久しぶりに熟睡することができた。
まえがきでも書きましたが、転生少女の履歴書2巻の発売が決まりました!
発売日は6月30日です。
2巻が出せたのも、ほんと、読んでくれる方がいてくれたからこそ!
皆様から頂ける感想や評価などを励みに頑張れました。
ありがとうございます!感謝しかない。
私「あれ? おかしいな、目が悪くなったのかもしれない。もう、感謝しか見えないんだ!」
という感じです。
本当にありがとうございます!
web版・書籍版共々、これからもよろしくお願いいたします。









