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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第三部 転生少女の救済期

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帰省の旅編① 赤い煙は魔物のサイン

 大名行列みたいに、貴族のお子様たちが乗っている馬車が、長蛇の列で進む様子はなかなかに圧巻。

 馬車一台に、ルビーフォルンへ持っていく荷物を全て積んで、コウお母さんと私で、御者台に座る二人旅だけれども、周りにたくさん他領の馬車がいるので、結構わいわいと賑わっている。


 本当なら、私の馬車にも、王国からの護衛騎士がつくはずだったのに、なんていうか、案の定というか、ルビーフォルンの馬車の道中を守ろうという気概のある騎士がいなかったので、こうやって集団下校のような形になって正直助かった。

 だって、私とコウお母さん二人だけで、魔物が徘徊する道中を帰るのはさすがにキツイもの。


 でも、自領へ向けて進んでいくに連れ、どんどんみんなも自分の領地の方角に枝別れしていく感じだから、そうなったらいよいよ私とコウお母さんの二人旅である。こわい。

 というか普通に考えて、二人旅は無理なので、ルビーフォルンの手前の領地、レインフォレストで新たに人を雇う予定でいる。雇える人が居るかはわからないけれども……。けど、雇えなかったら……。


「いや、さすがにそれは厳しいですよね!」

 今後の予定をコウお母さんと相談している最中、思わず声を荒らげてしまった。しかし、コウお母さんも同じ気持ちのようで、深く頷いている。

「そうねぇ。いっそのこと、馬車は捨てて、二人で馬に乗っていく? 荷物がない分、早いし、魔物に会う確率も減るし、襲われても馬の速さを利用して逃げ切れる可能性もあるわよ」

「うーん、でも、荷物、結構大事なものが入ってるんですよね。できればもっていきたい」

「そうよねぇ」

 コウお母さんが、そう言ったタイミングで、馬車の外が少し騒がしくなった。馬車の窓から顔をのぞかせると、隊列の前方のほうで、青い空に赤い煙が上がっている。

 あの煙は私が念のためにと各馬車に乗ってる生徒たちに渡した色つきの煙玉。赤い煙玉は、魔物に襲われてることを示す。


「赤い煙です。 魔物が出たみたいですね。コウお母さん、私、行ってきます!」

「まって、リョウちゃん、一人で行かせられないわよ! アタシも行くわ!」 

「え、でもそうすると、御者する人が……」

 なんといっても不人気領地ランキングナンバーワンのルビーフォルン。護衛役に立候補する騎士がおらぬがゆえに、御者すら自分たちで行う有様である。

 こ、これでも私、伯爵令嬢なんだけど……。


「ひとりでなんて行かせられないわよ! ……あっ! ちょっと、そこのアナタ! こっちきて!」

 コウお母さんはそう言いながら、ちょっと先のほうで、馬に乗っている騎士を呼びかける。

 青みがかった黒髪をポーニーテールにしている女性の騎士だ。

 私の前の馬車団体は、レインフォレスト領の人たち。何個か先の馬車にはアランたちが乗ってる馬車もある。だから、そこで並走するように馬にまたがってる騎士風の格好の人は、レインフォレストの生徒を護衛する役目を持った王国騎士のはずだ。


「そうそう! そこのア・ナ・タ! ちょっとこっち来てくれないかしらー?」

 と、いつもよりくねくねと動いて、王国騎士を誘い出すコウお母さん。

 対する呼ばれた騎士は、いきなりくねくねと話しかけられて、びっくりした顔でこちらを見た。ルビーフォルンの人が何用だろうかと、顔が完全におびえている。くねくねに怯えてるわけではない。多分。


「もう! ほら! 早くきなさいよーう。なんにも怖いことなんかないのよ。ちょっとの間この馬車を御してくれればいいの。その間にあなたのお馬さん借りたいだけよぉ」

 と優しげな声でコウお母さんはおっしゃるけれども、誘われた王国騎士は、まだ、訝しげな表情だ。


 とうとうしびれを切らしたコウお母さんの表情が険しくなる。


「全く意気地がないわねぇ! いいからこっち来なさいよ! ちょっとの間、御者するだけの簡単な仕事よ! ほら、金! 金ならやるわよ!」

 と、ドスの聞いた声で、おっしゃった。

 ヤダ怖い。

 誘われた王国騎士は顔を青くさせて頷くと、馬を降りて御者席に乗ってくれた。


 あれ? ていうかこの騎士さん、前、マッチを作れよー! って、迫ってきたいけ好かないヒゲ野郎の隣にいた騎士だ。レインフォレストの護衛騎士になってたのか。


 コウお母さんが、お金を騎士さんに押し付けるように渡すと、私とコウお母さんで、騎士が乗っていたお馬さんにまたがる。

 コウお母さんと二人乗りでの馬上の人。なんだか久しぶり。


 馬を駆けて、煙が出ているところにつくと、すでに魔物は退治されていた。近くにいた魔法使いの生徒が魔法で倒してくれたらしい。

 炎に包まれている魔物を囲んで、王国騎士含め喜んでる。


 でもまだ油断できない。こうやって、魔物が出てきてるってことは、近くで結界が綻びてる証。他にも魔物がいる可能性が高い。

 私は注意深く周りを見る。左右を見て、ほかに魔物はいないか、空をみて、宙を飛ぶ魔物はいないか……。あとは、と思って下を見たときに気がついた。王国の騎士が油断してアホヅラしているその下の地面が、震えた。

 いや、ひび割れて……きてる?


「そこ、どいて!」

 と言いながら、馬から飛び降りる。そして、何をどくんだ? とポカーンとしてる騎士に体当たりをして、押し倒した。

 痛い。

 けれども間一髪で、騎士がいたあたりから、もぐらのような鋭く太い爪を持った腕が生えてきた。その腕が上にいるものを捉えるように振るわれるが、そこには誰もいないため空を切る。


 そのまま押し倒した騎士から立派な剣を拝借すると、何かがいるっぽい地面に向かって、思いっきり剣を突き出した。

 ギャーだかなんだか、何とも言えない魔物のうめき声が聞こえる。

 けれど、致命傷ではないようで、また地面が少し動いたような気がしたので、剣を突き刺したまま飛び退く。

 さっきまで私がいた場所に、またモグラみたいな手が出てきていた。


「ちょっと!  リョウちゃん!  勝手に飛び出しちゃダメよ!  危ないでしょ!」

 と言ってコウお母さんが、馬に乗りながら私を拾い上げて、またお馬さんに跨らせてくれた。コウお母さんは力持ち。


 そして、その間に魔法使いの生徒が、呪文を使ってくれたらしく、剣が刺さっている地面が盛り上がってきて、ズルズルと大地に押し出されるような形でモグラの魔物が表に出てきた。


 左肩の辺りに剣が刺さっているが、それでも腕を動かして、また地面を掘って隠れようとしているので、その腕の動きを止めるために、私は矢を番えて、モグラの腕の部分に矢を突き刺す。

 ほかの生徒も剣を投げつけたりと、果敢に攻めていく。

 その間に生徒の一人が、すかさずマッチを擦って、魔法使いの生徒に渡すと、炎の魔法をぶつけてくれた。すでにいろんなところを攻撃されて動けなくなっていた魔物はおとなしく炎に包まれて燃えていった。


 よし。

 他にも魔物がいるかもとキョロキョロと見渡す。

 ……魔物の姿や気配は、感じない。

 

 魔物じゃなくて、他の馬車からぞろぞろと、魔物!? 大丈夫か!?とかけてつけてくれる生徒達がきてくれた。

 なんとも頼もしい学園勢。


 結局その後、魔物は現れず。でも、魔物が出たということは、この辺で結界に綻びが出てきている可能性が高い。

 すぐに修復しに行かなくちゃいけないけれど、このまま学園勢の一団の歩みを止めると、その分領地に到着する時間が遅れるというのもあって、今現在魔物が出現したこの地スピーリア公爵領の生徒とその護衛の任を負った王国騎士の人たちが結界の修復に向かってくれた。


 頑張ってね! ご武運を祈ります!


 ほかの領地の生徒たちはこのまま自領に進むわけだけど、こうやって、どんどん、同じ道のりを歩む一団が枝分かれしていくのかなと思うと、ものすごく切ない。


 私はコウお母さんと一緒に、自分の馬車に戻ると、さっき御者をお願いしていた王国騎士が、なんか、御者をこのままやってもいいというようなことを言ってきたので、ありがたくお願いした。


 ちょっとビクビクしてるところはあるけれども、なかなか見所があるじゃないか。

 あのとき、マッチの交渉の際は、失礼なヒゲ野郎と同じ席にいたから、ブラックリストに入れようかと思っていたけれど、ブラックリストには入れないでおこう、うん。





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