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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第2部 転生少女の青春期
127/304

魔物襲来編⑭ みんながいるこの場所に

 領地へ帰ることを決めた学園の生徒たちが、慌ただしく領地へ帰るための準備を始めて学園がまたバタバタしてきた。

 もちろん私も帰郷組なので、いそいそと用意をする。

 残り少ないマッチを自分の分も確保しつつ旅立つ生徒に分配し、それと一緒に煙玉も作って分配した。

 道中、魔物を見つけたら、煙玉に火をつけて、合図を送れるように。

 些細なことだけど、すこしでも、魔物からの危険を回避できたらいいな。


 準備が終わったので、いざ出発と行きたかったけれども、学園から王都に降りる玄関口が、大変込み合っていて、外に出るのも順番待ち。学園の外では、荷物を積んだ馬車が並んでいる。

 とりあえず、比較的空いている北門からリッツ君が出発すると聞いて、お見送りにきていた。


 学園勢からは、想像よりもたくさんの人数の生徒たちが、領地に戻ることを決めている。

 ルビーフォルン以外の領地なら、魔法使いの生徒が必ずいる。その魔法使いの生徒を中心にして、一つの団体を作って、一緒に領地に戻る段取りになっている領地が多い。

 やはり、何かあった時に魔法使いがいるのといないのでは、安全度が違うからね。

 リッツ君は北東にあるゴルバテンドール出身の魔法使い。一緒に帰る予定の同じ領地出身の生徒達も既に用意を整え終わったので、本日早々に出発だ。


「この中だと、僕だけ王都よりも北方面の領地だし、皆とはしばらくお別れだね」

 リッツ君がちょっと寂しそうにそう言った。

 ルビーフォルンやレインフォレスト、カテリーナ達のグエンナーシス領は王都より南に位置してる。

 特にグエンナーシス領なんて最南端だ。

 私達南方面チームは、途中まで同じ道のりで進む予定。

 けれども、北方面出身のリッツ大先生は一足先にここでお別れだ。


「リッツ、しっかりやれよ」

「アランもね」


 そう言って、男同士の友情なのか、がっしりと握手を交わし合う二人。

 まあ、リッツ大先生なら、大丈夫。なんて言っても空気を読むことに関しては、私たちの中で飛び抜けた才能を持つリッツ大先生だもの。


 リッツ大先生は、アランと固い握手を交わし終わって、カテリーナ嬢達グエンナーシス領の三人衆に向き合う。

「カテリーナたちは、いつ出発するの?」


「今日中には出るわ。でも、まだ、グエンナーシス領までは遠いから、持っていくものが多くて、準備に手間取ってるのよ」

 そう言って、疲れた顔でカテリーナ嬢がため息を付いた。出発前からお疲れなご様子。


 その様子を気遣わしげにみていたサロメ嬢が、私のほうに向き直った。

「リョウさんはどうするの? その、城の騎士がルビーフォルンには行きたくないって言って、ついてきてくれないんでしょう? 大丈夫?」

 ちょっといいづらそうにしながらもサロメ嬢が聞いてくれた。


 そう。なんとルビーフォルンという魔法使いのいない領地には、お城の騎士の皆様は興味がないというかビビっていらっしゃるようで、一緒についてきてくれないみたいなんです。

 ただ、馬車は貸してくれるらしいんだけど……。せめて御者さんもつけてほしい。


「ルビーフォルンはレインフォレストと隣の領地なので、途中までアランの一団と一緒に行かせてもらう予定です。レインフォレストで、御者だけでも雇って、そのままルビーフォルンに帰ろうかなと」


 うん、雇えればだけど……。最悪、私とコウお母さんでの二人旅だ……。


「そうなの……。じゃあ、ルビーフォルンに帰る生徒は、リョウさんお一人?」


「はい。ルビーフォルン出身の生徒の中には一緒に帰りたいという話をする子もいたのですが、状況もわからないので、一旦私だけ先に行くことにしました。途中まではアラン達のご厄介になるので、あまりたくさんの人数で押しかけるわけにも行きませんし」


 私の話をうんうん頷きながら聞いてくれたカテリーナ嬢が、すこし神妙な顔をして下を向くと、意を決したように顔をあげる。


「もしよろしかったら、わたくしに、ルビーフォルン邸まで送らせて。グエンナーシス領もルビーフォルンとは、隣同士だもの。しかも通り道だわ」

 そう言って、私のことを心配してくれるカテリーナ嬢の目が真剣で、すこし嬉しかった。

 

「ありがとうございます。でも、通り道とは言いますけれど、ルビーフォルン邸まで寄るとなると、やはり遠回りになってしまいます。カテリーナさんは、グエンナーシス領の魔法使い。カテリーナ様の助けを待っている人のために、寄り道せずにまっすぐ帰ってあげてください」

 そりゃあ、送ってくれたら、楽だし、安全だし、超嬉しいけれど……やっぱり、そこまでは、甘えられない。


「そう……そうね。リョウさんのおっしゃるとおりだわ。私が、一番優先して守らなくてはいけないものは、グエンナーシス領、だものね」


 カテリーナ嬢は、そう言うと、一瞬だけ辛そうな顔をしてから、困ったように笑って「ありがとう……」と呟いた。


「こちらこそ、気にかけてくれて、その、ありがとうございます。カテリーナさんも道中気をつけて。まあ、サロメさんとシャルちゃんがいるので、安心してますけど」


 私がそう言うと、カテリーナ嬢の隣に立っていたサロメ嬢が、任せて! とでも言いたげに笑顔でウィンクしてきた。サロメお姉様かっこいい。

 そして目を潤ませた麗しいシャルちゃんが、私の手をとる。

「リョウ様、絶対にご無事で。絶対に、ですよ」

 今にも泣きそうなシャルちゃんの目をみて、笑顔を向けて重ねてくれた手を握り返す。


「大丈夫ですよ。私はそう簡単に死にませんから」

 治癒魔法もあるし。大丈夫、多分。


「やっぱり、寂しくなるわ」

 私とシャルちゃんが別れを惜しんでいると、カテリーナ嬢が、ポツとそうつぶやいた。


「カテリーナ嬢達はまだいいよ。南方面組はしばらくは道中一緒なんだから。僕なんて、早速みんなとお別れだよ」

 そう言って、リッツ君が笑う。

「そうよ、カテリーナ。しかも、グエンナーシス領には、私もシャルロットさんもいるんですから。だから、そんな泣きそうな顔をしないで。ふふ、泣き虫は治らないわね」

 ちょっとからかうような口調でサロメ嬢がそう言うと、カテリーナ嬢が焦ったように声を発した。

「べ、別に泣いてなんかいないわ! 泣き虫でもないもの! ただ、ちょっと、そう、ちょっと、寂しいかなって、そう、思っただけよ! ちょっとだけよ!」

 どうやら、からかわれてるように感じて、照れてるらしい。

 そう言って、元気よくツンデレみたいなことを言ってるカテリーナ嬢の様子を見る限り、寂しくて元気のなかったカテリーナ嬢を元気づけようとするサロメ嬢の計らいだったのかなと思った。

 わたわたと、顔を赤くして、そうおっしゃるカテリーナ嬢のツンデレぶりにほんわかしていると、しばらくはこうやってみんなで話したりすることもできなくなるのかと、しんみりした。

 寂しくなる。

 でも、領地に帰らないわけには行かない。みんなもそうだ。

 私だって、ルビーフォルンに行って、領地の無事を確かめたい。なんか、城の騎士達は、ルビーフォルンはもうだめだろって決め付けてるところあるけれども……希望はある。


 私は、「泣いてなんかいないんだからね!」と言ってプリプリしているカテリーナ嬢の肩に手を置いた。

「大丈夫ですよ。ちょっとの間だけです。また来年、学校で会えます」

 ずっとお別れってわけじゃない。来年の新学期が始まるタイミングで、みんなまた集まる予定だ。

 私の意見に、カテリーナ嬢はプリプリとした動きをピタリととめて、「そうよ、少しの間だけよ。新学期、またみんなに会えるんだわ」と言って、何度か頷くと、突然ちょっと離れたところから「リッツ様ー!」と呼ぶ声が聞こえてきた。

 声のした方をみると、一人の生徒がリッツ君を呼びながら手を振っている。

 どうやらリッツ君の一団はもう出発のようだ。なんだか名残惜しい気分もあるけれど、リッツ君を送り出そうとしたところで「ちょっと待って!」というカテリーナ嬢の声が響いた。


 カテリーナ嬢の方をみると、カバンの中をごそごそして、そこから、綺麗な箱を取り出した。


 カテリーナ嬢は取り出した箱をゆっくりと開けるとその中には薄ピンクの綺麗な貝殻が6枚入っている。


 その一枚をカテリーナが取り出す。つやつやとキレイに輝いていた。

「これはね、私の領地で取れる最高品質の桜貝よ。知ってると思うけれど、我が領地の特産物なの。ちょっと前に取り寄せていたのよ」


 いきなり故郷自慢をし始めたカテリーナ嬢はそう言って、踏ん反りかえった。

 そして、次に何を言うのかなぁと、待っていると、途端に彼女はもじもじして、ちょっと顔を赤くしながら言葉を続ける。


「ほ、ほら、前、わたくしが、サロメから綺麗な貝殻をもらって、ネックレスにしたことを話たら、皆さんとても羨ましそうにしてたでしょ? ですから、皆さんにも作ってあげようと思って、取り寄せたのよ」


 いや、特に羨ましそうにした覚えはないんだけど……うん。

 けれども、カテリーナ嬢はどうやら、みんなの為を思って、貝殻を用意してくれたらしい。

 そんなことを照れた様子で話すカテリーナ嬢が、なんとも可愛い。また縦ロールが犬耳に見えてきた。

 隣のサロメ嬢を見れば、まるで、可愛い飼い犬の頑張りを優しく見守る飼い主の顔をしていた。


「アクセサリーとして加工する前にこんなことになってしまったけれど……」

 とカテリーナ嬢は言いながら、みんなに貝殻を一枚一枚渡していく。

 最高品質というだけあって、色ツヤや大きさ、形も本当に綺麗な貝殻だった。


「え、俺、別にネックレス見て羨ましそうな顔なんてして……イテッ!」

 アランがいらんことを言いそうになっていたので、思いっきり足を踏んでおいた。

 よく見ればサロメ嬢がもう片方の足を踏みつけている。


 両足を痛めたアランは、くーと言いながら、屈んで両足の甲のあたりさすった。愚かな子分である。


 私は愚かな子分からカテリーナ嬢へと顔を向けた。

「ありがとう、綺麗な桜貝ですね、もらっていいんですか?」

「か、勘違いしないでよね! あげたわけじゃないのよ! だって、まだアクセサリーとして加工してないわ! これは、預けてるのよ! そ、それで、来年みんなで集まった時に、返してもらうわ。その時、私がアクセサリーとして、加工してあげる! だから、その……だから絶対、みんな、集まるのよ!」


 そう言って、ますます顔を赤くしながらカテリーナ嬢はそう言うとやっぱり照れくさかったのか、フン!って言って、そっぽを向いた。

 なんでいきなり、貝殻渡してきたんだろうとは思ったけれど、なるほど、験担ぎみたいなことをしたかったのか……。


 確かに、危険な旅だ。領地がどういう状況かよくわかっていないし、道中に魔物と遭遇する可能性が……極めて高い。

 約束を欲しく思うカテリーナ嬢の気持ちはわかる。

 わかるけれども、前世の世界ではこういうのをフラグといって……いや、そういうこと考えるのはやめとこう。

 私もせっかくカテリーナ嬢が用意してくれた験担ぎに加担しようじゃないか!


「ふふ、わかりました。それじゃあ、私は新学期がはじまったら、カテリーナ様に貝殻でブローチを作ってもらいますね」

 私がそう言うと、カテリーナ嬢は任せなさいとでも言いたそうに、胸を張る。

 それを面白そうに見ていたサロメ嬢も声を上げた。

「それなら私は、耳飾りを」

 そのやりとりを見た空気の読めるシャルちゃんとリッツくんも流れに乗って、続ける。

「私は、腕輪がいいです」

「僕は、そうだな、タイピンが嬉しいかな」

 そして、みんなでアランの顔を見ると、ようやく何か気づいたようで、すこし目を泳がせてから、自分の髪の毛を見て口を開いた。

「お、俺は、髪結いの紐の装飾にしてもらう」


 みんなでそれぞれ未来の約束をすると笑いあった。


 危険な旅なのは分かってるのに、すごく穏やかな気分だった。今からみんなと離れて、魔物がいるかもしれない外に旅立つだなんて思えない。

 でもみんなならきっと大丈夫と思う気持ちもある。

 校長先生も言っていた。


『魔法が使えるものも、使えないものも関係ない。君たちは、皆、それだけの力を秘めている』


 今までの学園での生活を思い返す。

 アランにストーカーされ、カテリーナ嬢にはフン!ってされ、ゲスリーのゲスさに胸焼けしたり、教頭先生の偉そうな態度にカチンと来たり、散々なこともあった。

 でも、アランとは仲直りして、シャルちゃんやリッツ君という友達にあえて、カテリーナ嬢やサロメ嬢ともいつの間にか気心の知れた仲間になっていた。

 ゲスリーは相変わらずゲスリーだったけれど、トーマス教頭先生はなんだか丸くなった。


 不思議。今まで、全くの他人だった人が、いつの間にか他人じゃなくなってる。

 カテリーナ嬢達や、トーマス先生なんて、仲良くなれないだろうなって思ってたのに。

 最初のイメージと全然違う。

 みんなが変わったんだろうか。それとも私が変わったんだろうか。


 南の方向の空をみた。

 ルビーフォルンへ帰ろう。

 魔法使いの生まれないあの領地へ。

 私にしかできないことがあると思うから。


 そして、必ず戻る。みんながいるこの場所に。







第二部 転生少女の青春期



ということで第二部の学園編は以上です。

お読みいただきありがとうございました!

ここまでかけたのも読んでくださる皆様のおかげです!

本当にありがとうございます!


第三部は、転生少女の救済期的なサブタイトルで考えてます。

そして、すみませんが、次の更新まで2,3週間開ける予定です。

はじまったら、連続更新でスタートダッシュしたいなとは思ってます。

あとで、活動報告でもあとがきかくので、とりあえず以上!


それでは、ありがとうございました!

今後ともよろしくお願いします。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] 第二部 転生少女の青春期… 第二部の学園編は以上… ――ということはもう学園には戻らず中退… 学園のみんなとはもう会うことは無いのか…ちょぴり寂しいw ……それにしても…学園生活の中…
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