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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第2部 転生少女の青春期
121/304

魔物襲来編⑧ 一緒に

 2日講堂で寝泊りをした。

 その間、おもに、トーマス大教頭先生の大活躍で、学園内の魔物退治は順調だった。

 しかも、学園には、魔法使いの生徒たちがいるし、剣術を学んでる騎士科の生徒もいる。力を合わせれば、危なげなく魔物を退けることができた。

 それに、私も含めて、他の生徒の子達も、ちょっとずつ戦うことに慣れてきたのもでかい。

 空を飛ぶ魔物ばかりなので、弓が使える生徒を中心に、魔法使いの生徒と一緒に射撃攻撃を行ったりした。

 弓も矢も魔法使いのファンタスティク効果で大量生産。

 ちょっとばかし、火をつければ火矢にもなって、効果倍増。

 魔物を退治して、ちょっとずつ結界の効果範囲を増やしていってセーフゾーンの生活圏も増えていく。


 けれども、だからといって、魔物が完全にいなくなったわけではない。

 まだ、セーフゾーン以外の廊下を歩けば、いつの間にか魔物がいたりするし、校庭とか見晴らしのいいところにいくと、襲われたりする。

 綻びた結界から、まだ魔物が抜け出していて、新しい魔物がこっちに来ているみたいで、元をどうにかしないと埒があかない状況だった。

 

 王城からの連絡はあれから、幾度かあった。

 城を攻めてきた魔物には、ヘンリー王弟の華麗なる活躍によって、ほぼ殲滅できたらしい。

 そして、一部のお城の魔法使いと騎士の方々で魔物討伐隊を編成して、結界の修繕をするため、魔の森へ。残りは王都を襲っている魔物に対応しているとか。


 王都の被害については、学園や王城に魔物が集中したおかげで、その周辺の住宅区の被害は少ないらしいけれど、外側に近い南西の住宅区に何匹か魔物が降り立ったという話もある。


 コウお母さんは学園・王城周辺に住んでるので、比較的被害の少ない地域。

 少しばかり安心はしたけれども、まだ無事かどうかを確認できていないので、不安は残る。

 同じように王都にご両親が住んでいるシャルちゃんも、その報告に顔を青くさせていたけれど、きっと大丈夫ですよって明るく声をかけてもらった。

 私としたことが、思ったよりも不安な気持ちが顔に出ていたみたい。

 同じように不安なはずなのに、シャルちゃんに気を使わせてしまった。

 私もシャルちゃんに倣って、明るく振舞う。

 ここで、くよくよしたって、どうしようもないもの。


 ある程度、外の状況が城からの連絡で多少はわかったけれど、それでも、情報不足な感じは否めない。

 学園内での魔物については落ち着いて対応できる仕組みが整ってきたのもあって、外の様子を見に行く部隊を用意して、外にいかせるのはどうかという話になった。

 けれども、王城からは、援護が来るまでしのいで欲しいと言われてるから、このまま現状維持がいいのではという意見もあって、派遣部隊はまだ出せそうにない。

 突然大量の魔物が襲ってくる可能性もあるのだから、わざわざ外に出るのはいかがなものかということらしい。


 魔物襲来の当日よりも落ち着きつつも、でもやっぱり緊張に包まれた学園。

 そして、三日目の早朝、私は固い決意でもって、こっそりと身支度を整えた。


 私、お外へいく!

 だって、もう我慢できない。コウお母さんが心配だよ!

 コウお母さんは、強いもの、大丈夫! って言い聞かせて私にしては、結構おとなしく我慢して待ってみたけれども! 無理無理、もう無理。

 

 外の様子を見に行く部隊に志願していたけれども、保守派の数が多くて、話し合いで外に繰り出すのは、まだ少し後になりそう。

 私だって、穏便に外に出る段取りを整える努力はしたんだよ。

 そう、私はやるだけのことはやった。でもダメだった。

 もう、強行突破しかない!

 私、外、出る!


 カバンの中を最終チェック。

 弓矢にナイフにマッチ、それにお酒に煙玉に、唐辛子爆弾、双眼鏡、それと……。

 

 それと……。


 アランやシャルちゃん達の顔が浮かんだ。

 私が、このまま黙って外に行こうとしたら、みんなはなんて思うだろう……。


 もし私が、逆の立場で、友達が勝手に外へ行こうとしたら、私は、きっとすごく心配して、悲しくて、怒るかもしれない。

 でも、やっぱり、私はいますぐコウお母さんに会いたい。無事だと確かめたい。

 みんなに、声をかける……? 

 声をかければ止められるかも、もしかしたら、私と一緒に外に行くという話しになるかもしれない。けど、それは私のわがままにみんなを危険に巻き込むことと一緒だ。


 私がコウお母さんのところに行きたいのは、私のただのわがままだ。シャルちゃんのために保健室へ行ったときとは違う。

 みんなにとってもシャルちゃんは友達だったから、みんなで危険を冒して講堂から飛び出した。

 でも、今回のは違う。私の、わがまま……。


 みんなを巻き込んで、いいのだろうか。

 それに私には治癒能力がある。自分ひとりなら……。


 決心がにぶる。

 昔の私なら、こんなことで悩んだりしなかったような気がする。


 なんだか自分が弱くなった気がした。

 何がどう弱くなったのかわからないけれど、今までこんな風に迷うことなんてなかった……。

 コウお母さんや友達から、いろんなことを学んで、私は少しづつでも大人になってきていると思っていたのに。

 

 それとも大人になるというのは、弱くなるということなのかな……。


 私は改めてカバンの中に必要だと思うものが入っていることを確認すると、迷いを振り払うように首を振った。


 一度、鐘つき塔に行こう。授業の始まりと終わりを告げる鐘がある場所。校舎の中では一番高い場所だ。

 七三教頭の功績で、この見晴らしの良い高台にも結界は施されてセーフゾーン。

 まずはこの鐘つき塔の高台から、双眼鏡で外の状況チェックして、とくに問題なく学園の外に出られそうかということを確認して、またみんなに声を掛けるべきかどうかを考えよう。


 私はそう決意して、校舎内で一番高いところへ向かう。

 

 忍び足で進んで、目的地に到着すると、高台のてっぺん、鐘がブラブラ揺れてる横で静かに双眼鏡を装着する。

 朝日が昇り始めた時間で、まだ外は薄暗い。でも、このぐらいの光があれば大丈夫。


「リョウ!」

 という乱暴な声ともに肩を叩かれた。

 びっくりした私は思わず、振り向きざまに私に声をかけてきた何者かに向かって蹴りを入れてしまったのだけれども、突然話しかけてくるのが悪いと思う!


「アラン! いきなり声を掛けるのはやめてください!」

 相変わらず忍び寄る能力がマスタークラスなアランが、私に蹴られたお腹を抱えてうずくまっていた。


 やばい、すごく痛そう。も、もしかして、男の人の大事な部分にあたってしまったのだろうか……ご、ごめん。

 で、でも、突然忍び寄ってきて声を掛けるから!


「あ、大丈夫ですか? アランったら、突然淑女に声を掛けるのはいかがなものかと思いますよ」

 私は殊勝な態度でそう声をかけ直して、手を差し出した。


 アランがちょっと恨めしそうな顔をしながらも私の手をとって「淑女……」とつぶやきつつおもむろに起き上がる。

 まだ痛そうに、私に蹴られた箇所を片方の手で押さえてるんだけど、その場所が完全に、男の子の大事なところだった。


 なんてこった……私ってやつは! そこにあたっていたのね。わざとじゃないのよ。

 心の中で猛省しながら、「あ、ごめんね」とペコリと頭を下げておいた。


「そ、それより! リ、リョウ!」

 まだ痛そうな顔をしているアランが、毅然とした態度を作ろうとしている様子で、そう声をかけてきた。


「な、なんですか?」


「こんなところで、カバンをパンパンにして、何しようとしてるんだよ!」

「な、何って別に……外の綺麗な空気を、吸いに……」

「目が泳いでるぞ!」

 アランのくせに鋭いやつめ!

 どうやら痛みが引いたようで、偉そうな顔をしたアランが、子分は親分の身勝手な行動は許さんぞ、みたいな貫禄で手を組んでいる。


「外に……コーキさんのところに行くつもりなんだろ?」


 アランが、私を責めるように、そう言った。

 子分の不穏な雰囲気に、どうしようかと言葉を探していると、アランはそのまま続ける。


「なんで、声かけないんだよ」

 その言葉に怒りが込められているのは、さすがの私にも伝わった。

 子分はご立腹だ。今までにないくらい。

 そしてアランがこんな顔をする時は、大抵私が悪い。


「俺が、弱いからか? 頼りにならないから、リョウは、俺を置いていくのか?」

 アランが、さっきまでの怒った顔を歪ませて、泣きそうな顔になる。


 アランと学園に来てから気まずい思いをしていた時を思い出した。

 久しぶりに学園で出会ったアランは、ストーカーと化していたけれど、それは私が、私のことを心配してくれる人なんていないと思い込んで、残された人の気持ちを考えないようにしていたから……。


 そうだ、私、あの時、気づいたじゃないか。

 私が何も言わないで、去っていったら、きっと残された人は悲しむ。もう、私には、私のことで、悲しんでくれる人がいるんだ。私はそのことを知ってる……。

 

 そうだよね。怒るよね。私も、もしアランが、勝手に外に行こうとしたら、怒るもの。


「アラン、ごめん、その……」

 と言って、一度口を閉じた。『だって、コウお母さんのところに行きたいのは、ただの私のわがままだし……』という言い訳のような言葉が口から出そうだったら。

 そんな言い訳みたいなの、きっとアランは聞きたくない。アランが心配してるのはそんなことじゃないんだから。


「その、ここで外の様子を見たら、みんなに声を掛けるところだったんですよ」

 顔を上げて笑顔を作ると、そう言った。

 うん、嘘はいってない。若干迷ってる感じはあったけれども、うん。声を掛けることも考えていました!


「それに……アランのこと、弱いなんて思ってない」

 私が最後にそう付け足すと、アランは、面食らったような顔をした後に、ちょっと照れくさそうな顔をした。


「な、なんだよ。そうだったんなら、もっと早く言えよ! まったく、リョウのそういうところは悪いところだぞ! それと、俺だけじゃなくて、黙って行ったりしたらサロメとかカテリーナとか、リッツも、それにシャルロットがものすごく怒るからな!」

 アランが照れた勢いで他の奴らも心配するんだからなって、他の子の名前も引き合いに出してきた。 

 そうだね。きっとみんなにも、ものすごく怒られる気がする。

 シャルちゃんは怒ると怖いって、先日学んだばかりなのに。

 私はまだ腐って死にたくない、うん。


 それに勝手に一人で行ったら、一人で飛び出していった私を、多分コウお母さんも怒る。


 コウお母さん……。やっぱり、はやく外に行きたい。


「危険なのはわかってるんだけど、でも、私どうしても外の様子を見に行きたい」

 そこで一度言葉を止めた。その次の言葉を言うのは、少し勇気がいることに思えたから。

 巻き込んでしまう。私のわがままに。

 でも、私だって、もし逆の立場なら、きっとこういってもらいたい。


「あの、アラン……私と一緒に来てくれる?」

 勇気を振り絞って言った言葉に、アランは大きく頷いて私の顔を見る。


「そんなのあたりま……え!?」

「え!?」

 いきなり、当たり前の『え』の部分だけ強調してどうしたのかと思ったけれど、アランが、私じゃなくて私の後ろの空をみて驚いている様子だと気づいて、振り返った。

「うわ」

 思わず呻いた。

 魔の森がある方角から、空を飛ぶ黒い点が、鳥の群れのようになってこっちに来ている。

 本当に鳥の群れならいいのに、と思うけれど……。

 私は双眼鏡を持ち上げた。

 双眼鏡で覗いても、遠くて詳しい容姿は確認できなかったが、大きさや大体の形などからいって、あの群れが魔物の群れだとわかった。


 私とアランは顔を見合わせて、頷くと、生徒達がまだ眠っているであろう場所まで最悪なお知らせを届けに向かった。


活動報告に、小話を載せました!


■アランが熱にうなされた勢いで、リョウに普段は言えない要望をいう話■

※学園に魔物が襲来する前ぐらいの時期


です。

お手すきな際に、ぜひ!


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