魔物襲来編⑦ 講堂に戻る道のりにて
私は、元気のないアランを引っ張るようにみんなの後を付いていった。講堂へ向かう。
途中で、私達以外の人の足音が聞こえてきた。
少し先の曲がり角を曲がった先から複数の人の足音のように聞こえる。
見回りの先生かな? いや、魔物かもしれない。
私たちは一度、歩みを止めて、曲がってきたやつが、魔物ならいつでも戦えるように待ち構える。
ちょっと緊張しながら待ち構えていたけれど、曲がってきたのは、知ってる人だった。
相変わらず、七三にきっちり分けた髪型に乱れはない。
「トーマス教頭先生!」
「リョウ君! 無事だったか……いや、ボロボロだぞ! どうしたんだ!?」
服を血で汚して尚且つ破いてしまっている私の様子をみて、七三の教頭は、目に見えてうろたえた。
「え! 約束された勝利のリョウ殿、無事ですか!?」
うろたえている七三の後ろから、いくつか知った顔の生徒達が顔を覗かせてきた。
よくドッジボールしてる騎士科の5年生の先輩方だ。
なんで、こんなところで先生達と一緒に?
確か、一緒に講堂に避難したはず。
「魔物と遭遇して戦闘していました。ちなみに傷はありませんのでご心配なく。それより、皆様、どうして?」
私の問いかけには七三先生が答えてくれた。
「その有り様で、無事、なのか? まあ、確かに元気そうだが……。私は、火魔法で魔物を殲滅中だ。それで一緒に魔物討伐に出ていた騎士科の先生が怪我したので、講堂に一度もどったんだ。代わりについてきてくれる先生を探したが、人手不足だったらしく騎士科の生徒が代わりに同行することになった。なんか知らんが、生徒達がやる気でな」
あー。なんか、私たちが講堂出るときに、生徒の皆さんめっちゃやる気出してたもんね。なるほど。
「そうだ、トーマス教頭先生。校庭の水泳の授業で使ってる人工の池に魔物を一匹氷で封じてます。いい感じに止めを刺しておいてください」
「それは、構わないが。こっちに大きな鳥の魔物が来なかったか? それと何匹と戦闘したんだ?」
「大きな鳥というと、氷付けにした方は大きな鳥の魔物でした。その魔物含めて三匹魔物と遭遇してます。ちなみに他の二匹は、皆でどうにか倒しました」
「おお、遭遇してたのか! よく無事でいられたな。あの大きな鳥の魔物はなかなか手ごわい部類の魔物だったはずだぞ。もともと東側で私と戦っていたんだが、手こずって逃げられてしまったんだ」
あの鳥逃げてこっち側に来てたのか。確かに結構上空に飛ぶ魔物だったから、焼き殺すのは大変かもね。
でもどっちかというと、もう一匹の角持ちの魔物のほうが苦労したよ。魔法が効きにくいんだもん。
七三はホッとしたような顔をして、私と一緒に来ていたアラン達の顔を一つ一つ見ていく。
「……あの大きな池を凍らせることができたのは、アラン君だろう。よく封じてくれた」
「えっ、いや、まあ、はい」
突然教頭に褒められたアランが照れるというよりも、びっくりした顔をしている。
「君たちは、はやく講堂に戻りたまえ。既にボロボロだ。休んだほうがいい」
「ありがとうございます。本当はこのままお手伝いしたい気持ちもあるんですが、おっしゃるとおり慣れない戦闘で結構疲れてますので、このまま講堂に行きますね」
「ああ、そうしてくれ。それと、マッチの予備はあるか? あれば講堂で魔法が使える生徒に渡しといて欲しい」
「それはそのつもりです。先生はまだ、大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。このカバンいっぱいに入っているからな!」
そう言って自慢げに手提げかばんを掲げた。
モノすっごい笑顔だ。
「それなら何よりです。あ、ちょっと待ってください。これも持って行ってください」
私はカバンから、ルビーフォルン印のお酒が入った瓶を3本取り出した。
「お酒です。良く燃えます。さっきみんなで倒した魔物は魔法の剣が効きませんでした。火魔法の広がりというか、効果も悪かったです。もしそういう魔物に遭遇したら、お酒をかけて火をつけてください。何もしないよりは、効果があると思います」
「魔法の剣が効かない魔物もいたのか!? よく倒せたな。本来ならそんな魔物が外に出たら大々的に王族が軍を編成して戦いに臨むレベルだ。戦うには特別な剣が必要になるからな。今は非常事態だから、王城に報告したとして特別製の剣を持ってこっちに来てくれる保証なんかはないが……そんな災厄に遭遇して無事でいてくれてよかった」
やっぱり、魔法効かない系の魔物はヤバイ系なのか。いや、ほんと、死ぬかと思いましたよ。あれは。
むしろ私じゃなかったら死んでたよ。ぐっさりいったからね。
あと、シャルちゃんがいなかったらもっと大変だった。やっぱりシャルちゃんすごい。
……ていうか怖かった。おとなしい子は怒らせちゃダメっていうけど、痛感した。
私絶対にシャルちゃんを怒らせたりしない。うん。
「それでは先生、私たちは講堂に向かいます。先生達も気をつけてください」
お酒の入った瓶を、カバンにしまっている七三の教頭と、その後ろにいる生徒達をみながらそう声をかけると、教頭御一行は先に進んでいった。
「なんかトーマス教頭、少し変わったな。いつもの教頭だったら、氷魔法を使ったって聞いたら、絶対に俺のこと褒めなかったと思う」
しばらく、先生達の背中を見送っていると、アランがつぶやいた。
隣にいたリッツ君も同意とばかりに頷いている。
「僕も驚いた。前だったら、氷魔法使ったって聞いただけで嫌な顔してたよね」
「なんか、性格も丸くなった気がするわ」
「でも最近の授業でもなんか、優しくなってるような気はしてましたよ」
魔法使いの授業でお世話になっている生徒四人が、不思議そうな顔で七三の背中をみていた。
いや、私もね、七三の性格が丸くなったなって思ってたんだよね。
うんうん、やっぱり丸くなったよね。
いや、でも、もしかしたら、マッチを大量に所持していることでの安心感からきてるのかもしれない。
なんせ彼は生粋のマッチ中毒患者。
マッチが切れたら、暴れだす可能性も……。
七三教頭が、髪型も気にせず髪を振り乱して暴れる様子を想像して、震えながら講堂へ向かった。
しばらく進んで講堂の扉が見えてきた。最初に避難したときは、見張りがいたけれど、今はいない。
どうしたんだろう。
鍵でもかけたのかな。不思議に思ってノブに手をかけて扉を開けた。
鍵なんかかかってなくてすんなり開く。
え、どうしたの!? まさか……!?
と最悪な事態を考えたけれど、中を覗いてみれば、生徒たちがわいわいと忙しそうに駆けずり回っている光景だった。
あ、普通だ。
「おお、戻ってこられたのか! よかった! さあ、中に入って。今魔法使いの生徒が魔法でこの部屋に結界を張ってくれてる。魔物は通さない仕組みになってるが、扉が開けっ放しだと効果がないんだ」
入口に立っていた商業科の先生にそう言われて、慌てて中に入って扉を閉めた。
なるほど、結界を張ったから、見張りを無くしたのか。
もーう、驚かさないでよ!
部屋の中に入ると、私達の帰りをみんなが喜んでくれた。
ただ、あんなに血を染みこませた制服をボロボロに着崩した私をみて、顔色を青白くさせてる子もいたけれど、大丈夫、ゾンビとかじゃないよ。
そして、替えの制服を先生がだしてくれたので、そそくさと着替えた。
その間に聞いた話によると、やる気を出してる生徒達で、ぼくたちで学園を魔物から守るんだ運動が起こって、先生の指示に従って自分たちがやれることを行ってるらしい。
具体的に言うと、魔法使い同士で協力して講堂に結界を張ったり、生徒達の中から有志を募って、先生と一緒に学校の見回りやら、食料など必要物資の調達とかに出たりだ。
さっき七三と一緒にいた騎士科の生徒たちもそれで立候補してついて行ったらしい。
ぼくたちわたしたちの学園は自分たちで守るんだ! 的な心意気を感じる。
アランにリッツ君、それにカテリーナ嬢は魔物との戦闘で魔法をたくさん使ったためかなりお疲れ。
講堂に着くなり、横になって今は眠っている。
シャルちゃんは、結界を張っている魔法使いの生徒達と一緒に作業をして、サロメ嬢もそのお手伝いをかって出ていた。
「先生、王都の情報とかってきてたりしますか? 魔物ってどれくらい襲ってきてるんです?」
私もみんなと一緒に頑張ろっぺ! とやる気をだして、治療科の先生のもとで、薬の調合の手伝いをしている時に、一番気になることを聞いた。
「まだ……情報は何も来てないわ」
「そう、ですか」
まだ情報がきてないってことは、まだ王城はバタバタしてるってことなのかな……。
コウお母さん……。
心配だ。早く、コウお母さんの無事を確かめたい……。
でも、今外に出るわけにもいかない。さすがにそこまでの無茶はできない。無茶というか流石に無謀だってわかる。せめて...もうちょっと、落ち着いたら...。
いや、大丈夫、コウお母さんは強いし。王都を襲ってる魔物は少ないはず。それにお城の人が援護に向かってるんだ。
大丈夫、きっと、大丈夫。
私以外にも王都に家族を残して学園に暮らしてる生徒がいる。
シャルちゃんだってそうだ。
でも、シャルちゃんだって、王都にいる両親のことが心配なはずなのに、今は嘆いてなんかない。
他のみんなも悲嘆に暮れずにできることを頑張ってる。
私も、今できることをしよう。
きっと……大丈夫。
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