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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第2部 転生少女の青春期

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魔物襲来編① わたしにできることは

 アラン達と一緒に周辺を気にしながらも、急いで、校舎の中に入った。

 裏口に入るとドッジボールのために集まっていた生徒達がいて、私達が無事に戻ってくると歓声をあげて喜んでくれる。


 一旦意識のない人達を校舎内で寝かせて、助けに行ったほうがいいかもしれないと迷っていたらしい。


 既に、さっきの魔物の糞みたいなので眠らされた状態の生徒以外は特に外傷もなく無事なことを確認すると、大急ぎでみんなで講堂に向かうことにした。


 当初、眠らされている人もいるので保健室へという話もあったけれど、先ほどの校長先生のアナウンスを聞く限りだと、先生方が他の生徒も集めて講堂にいるみたいだったので、とりあえず講堂へ。


 先頭にはアラン、後ろにはカテリーナという魔法の授業でもトップクラスの実力を持つらしい二人に、危険な先頭としんがりをおねがいすることになった。もちろんリッツ大先生も中央で目を光らせてくれてる。完璧な陣形である。


 だって、あの校長のアナウンスだと、外だけじゃなくて、校舎の中にも魔物が侵入している可能性があるように思える。

 私も周りを気にしながらも駆け足で向かうと、特に魔物に遭遇することなく、講堂についた。


 講堂の扉の前には、門番のように構えている騎士科の先生がいて、私達に気づくと扉を開けて中に入れてくれた。

 中に入ると、たくさんの生徒達が溢れかえっていて、ざっと見た感じだと、大きな怪我をした生徒はいないけど、下級生の中には怖くて泣いている生徒もいる。


 とりあえず、治療科の先生を探さないと。眠っている人たちの対処法を知っているかもしれない。


「早くみんな中に入って。魔物に気づかれるわ!」


 そう言ってせかすように、私たちを中に入れて、扉をしめたのはショートカットの女の先生だ。

 確か治療科の先生!


「先生! あの、外で魔物に襲われて、魔物が放つピンク色の糞みたいなものからでる香りをかいだら、生徒達が眠ったみたいに倒れてしまったんです!」

「わかったわ。あの扉の部屋にその子達を運んで。怪我人はそこに集めているの」


 先生の話を聞いてとりあえずドッジボールプレイヤー軍団は、怪我人を抱えて先生が指定してきた部屋に入ると、中は結構がらんとしていた。

 床にたぶんベッド代わりの布を敷いているけれど、寝ている人はいない。角のスペースで、自分で足や腕の擦り傷のようなものに薬を塗っている生徒がちらほらといるぐらいだった。



「今のところ、講堂に集まった子達に大きな怪我をした人はいないの。逃げるときにこけて足をすりむいちゃうぐらい。ほら、治療科の生徒達は私の手伝いよ! まず、この子達を寝かせる敷布が足りないわね。用意して」


 先生が指示を出すと、治療科の生徒達は、ハイ! と元気よく返事をしてわたわたと動き始めた。

 倒れた生徒を運んでいた騎士科の生徒達は、とりあえず空いてる寝床に眠っている生徒を寝かせる。

 で、どうなんです? 先生! うちの子達は大丈夫なんです!?


 先生は、眠っている生徒の脈を測ったり、瞼を押し上げて眼を観察したりしてから、うなづいた


「大丈夫。ただ眠らされているだけよ。しばらくすれば起きるわ」


 生徒達を運んできたドッジボールプレイヤー軍団は、先生のその言葉に安堵の息を吐いた。

 よかった。やっぱり眠ってるだけだったんだ。


「そういえばリョウも、あのピンク色のモヤ、結構吸い込んでたろ? 大丈夫なのか?」


「うん、多分、大丈夫かと。まだ少しぼーっとはしてますけど。意識を手放す前に、何か刺激を与えると眠らずに済むみたいです」

 アランに心配された私は、そう答えて、ポケットからセージのハーブを取り出して、振った。この辛いハーブを噛んだのよって、大丈夫だとわかるように笑顔付きで。


「あら、辛い薬草を噛んだのね。それはいい対処よ。だけど、眠りを誘う毒のようなものはまだ体の中に残ってるはず。あなたもここでゆっくりしたほうがいいわ」

「そうだな!」

 治療科の先生の言葉にアランが大きくうなづくと、多分私のためにいそいそと布を敷き始めた。


 うーん、確かに、頭がボーッとするし……休みたい。少し気が抜けたら、余計に頭がぼーっとしてきた。

 このまま眠りたい。けど、でも、何か引っかかる。何が……。ボーッとしてきて、頭がよく回らない。


 でも、私、何かを見落としている……。ものすごく大切なこと、私にとっての大事なことを!

 私は嫌な予感を感じて、重たいまぶたを開けて、改めて講堂の中を見渡した。


 シャルちゃんだ!

 シャルちゃんがいない!


「先生! シャルロット嬢は知りませんか!?」


 講堂を見渡しても、シャルちゃんの姿を見つけられなかった。


「講堂に来ていないの……? 講堂には、校舎や校庭にいる子の避難場所として生徒を集めているの。寮に戻っていたら、寮の談話室に避難してるかもしれないわ」


「寮には戻っていない、と思います。今日、途中で体調を悪くして保健室で寝ていたんです……!」


「そうしたら、まだ保健室で寝ている可能性が……あるわね」


 それやばいんじゃないの!? だって、今、魔物がやってきてるんでしょ!?

いかなきゃ! ボーッとしてる場合じゃない!


「待って! 講堂から出てはだめよ。今学園内は他の先生が見回りに出ている。その子も大丈夫よ」


 でも! けど! 心配だ……。

 でも、私が行くことでむしろ先生方の足手まといになる?

 こっそり魔法が使えると言っても、まだ、自分の怪我を治せる魔法しか分かっていない。


 行くか行かまいか、ボーッとした頭で考えていると、現在仮保健室となっているこの部屋に慌ただしく人が駆け込んできた。


「大変だ! カートン先生が魔物にやられた! 治療を頼む!」

 商業科の先生が、人を抱えながらそう言うと、布が敷かれた目の前の床に怪我人を寝かせた。


 怪我人は、左足の太ももと、右肩のところから出血していいるのが、赤くしみた服を見てすぐにわかった。

 結構な大怪我だ


「ゆ、油断してしまった。止血だけしてくれたら、いい。まだ学園内には魔物がいる。い、いかなく、ては……」

 苦しそうにうめき声を出しながらもそう声を出した先生は、確か魔法使いの先生だ。


 魔法使いの先生の怪我は、講堂にいる生徒にまでも衝撃を与えた。

 だって、彼は、魔法使いなのだから。

 怪我した魔法使いの先生と一緒にやってきた校長先生も深刻な顔をしている。


 もちろん、私も。

 だって、魔法使いは魔物に対抗できる戦力だ。今この学校に、魔法使いの先生は何人いる? 城からも近いからすぐに援軍魔法使いが来てくれるだろうか?

 いや、むしろ、たぶんきっと、魔物が襲ってきてるのは学園だけじゃないはず。王都全体?

 そしたら、お城の援軍は当てにできないのでは?


「校長先生、光の精霊魔法で王城との連絡が取れました!」

 一人の生徒、おそらく5年生の精霊使いの生徒がそう言いながら、校長先生の方にかけてきた。


「城にいる人からの連絡によると、魔物は王都にも侵入しているみたいです! それで、城の騎士や魔法使いは王都への魔物の対処と、地上におりて結界のあるところまで行かれるみたいで、それで、その、学園のほうは……ある程度の魔法使いや騎士がいるのだから、しばらく自分たちでしのいで欲しいって!」


「な、なんだと! 学園の方にきた魔物の数は伝えたとのか!? 確認できただけでも10匹以上はいるんだぞ! 」

「伝えましたけど、それ以降連絡がきてません!」

 

 講堂が一瞬静かになる。誰も言葉を発せずにいた。


 魔物は10匹以上。あのカラスみたいな魔物を倒すのも、アランやカテリーナの力を借りてやっとだったのに。そんな魔物がまだまだいる。


 お城の人は、王都の魔物を退治するために王都へ、そしておそらく壊された結界を直すために下に降りた。それは必要なことだ。そこに回す人手を割いてまで、学園にきて欲しいなんて言えない。


 それに、王都にも、魔物が……。

 王都には……コウお母さんもいる!それに、酒場で働いてくれてる従業員のみんなは……。


 助けにいかないと……!


 頭がボーッとして、体が少しふらついてきた。

 それでも私は足を進めて、外に出ようと扉に向かう。

 フラフラと歩く私の手を誰かに掴まれた。

 振り向くと、アランだった。


「どこいくんだよ」

「だって、いかないと、コウお母さんに、それにシャルちゃんも、それに、王都の人達も心配だし……!」

 アランにそう言いながら、私は今から何をすればいいのか、上手くイメージできていなかった。シャルちゃんを助けたい、でもコウお母さんのところにも行きたい。

 けどその二つの目的は、両立できるものじゃない。


「あなたは一般生徒でしょ? 魔法使いでもないのに、外に出ようだなんて、やめなさい」

 すぐ近くで、カートン先生の足や肩の止血を始めていた治療科の先生が、私に厳しい目をむけてきた。


 そうだ、確かに、そう。

 魔法使いじゃない私に、何ができる?

 どうやって、攻撃したらいい?

 さっき魔物を倒せたのも、アラン達、魔法使いがいたから……。


 それに頭がボーッとする。

 心配そうに私のことを見てるアランと目があった。


 その時改めて私は思った。

 アランは、魔法使いだ。

 もう、任せてしまえばいいんじゃないか。アラン含む魔法使いの人たちに。

 だって、この世界には魔法使いがいる。

 こんな時に、いやこんな時だから気づいた。

 私は、魔法使いがなんだってんだと思いながらも、心のそこで魔法使いを頼りにしてる。彼らがどうせ助けてくれる、なんとかしてくれるって、そう思う気持ちがある。

 そう、魔法使いさえいれば……あー、頭がボーッとする。このまま、ボーッとしたままなにもかも委ねて眠ってしまいたい。


 でも……。

 それは違う。

 もう違うんだ。

 近くには、怪我した魔法使いの先生がいる。


 でも、魔法使いの人口は少なくて、もう彼らに頼るだけでどうにかなるなんて思ってはいけない。


 それに、私にも魔法がある。まだ、自分の傷を癒すことしかできないけど……。


「あ! 新しく城から連絡が入りました。映し出します!」


 そう言って、精霊使いらしい5年の先輩は、呪文を唱えた。

 すると、私たちの眼の前が淡く光り、ゆらゆらと揺れると少し不安定な感じで、文字のようなものが映し出された。

 校長先生がその文字を読み、明らかにがっくりと肩を落とした。


「城からの援護は期待できない。向こうも向こうで、数十匹の魔物に襲われて混乱しているらしい」


「数十匹、ですか!?」

「どうやら、飛行できる魔物はより高い場所にあるものを襲う傾向があるみたいだ。城と学園、この二箇所に魔物が集中して襲っているらしい。こちらにいる魔物は十数匹ぐらいかと思ったが、もっと学園に魔物が集まってくる可能性はある……」


 飛行できる魔物……。そうだ、王都は平地より高い場所に作られている。だから襲ってくる魔物は飛行できる魔物だけだ。それでも、こんなにたくさんの魔物が来てる。

 地上は、どうなっているんだろう。もしかしてルビーフォルンも?

 ほとんど魔法使いのいないルビーフォルンに、魔物なんて……!


 それに、そんなにたくさんの魔物がこっちに来てるとしたら、シャルちゃんが心配だ。でも、王都にはコウお母さんが……。魔物が、学園や王城に集まってるといっても、王都に降りる魔物がいないわけじゃないはず。

 私、どうすれば……。

 だめだ、頭がボーッとして、よく働かない。


 治癒の魔法が、他人にも使えたら、今倒れてる魔法使いの先生の傷も治すことができたかもしれないのに!

 今は一生懸命治療科の先生が、手当をしているけれど、太ももの傷が深い。しばらくは満足に歩くことも難しいかも。


 今、私にできることは……。


 二回目の城からの報告に講堂内はざわついている。お城からの援護は期待できないと聞いて、不安が広がっている。

 下級生のすすり泣く声も聞こえる。


「ごめん、アラン私、ちょっと気分が悪いから、隅の方で少し休みます」

 そう言って、掴まれていたアランの手を振り払う。

 アランは、引き続き心配そうな目で私を見たけど、私はどうにか笑顔を作って隅の方に歩いた。

 そこで、わたしは呪文を唱える。誰にも、聞こえないように、小さな声で。


 まだ効果が分かっていないじんわりと温かくなる呪文のリストを脳内に思い浮かべて、それを上から唱えていく。

 わたしのこのボーッとする体に意識を向けながら。


「オモイワビ サテモイノチハ アルモノヲ ウキニタマエヌハ ナミダナリケリ」


 そして脳内リストの上から5番目の短歌、呪文を唱えた時に、変化があった。

 体全体を覆っている淡い光が一瞬大きく光って、そして手足の末端から、その光がどんどん体の中心へ。胸のあたりに収束していく。

 光が収束しきったところで、吐き気がきた。吐き気というか、体の中に異物があるような……。


 口元を押さえながらゲホゲホっと咳をすると、手のひらには血が付いていた。

 その血には、まだ少し、魔法のオーラのようなものに覆われて光っている。

 さっき咳と一緒に自分で吐き出したものに違いない。


 咳で血が出たのに、むしろ気分はいい。さっきまでの眠気がない。

 悪いものを全部吐き出したような感じがする。


 多分、さっきの呪文が、解毒魔法のようなもの。


 頭が、スッキリしてきた。



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