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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第2部 転生少女の青春期

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呪文の謎編⑮ 空飛ぶ魔物の襲撃 後編

 アランに火のついたマッチを渡して、せかすと、アランは早口言葉のように呪文を唱えた。


 ゴオオウ! という音と供に、火炎放射器みたいにまっすぐ炎が魔物のほうに飛んでいく。

 けど、あの魔物には当たらずにアラン産の火炎放射は力尽きて、掻き消えた。


「ダメだ。俺の火魔法じゃ……相手が遠すぎで、途中で火が消える」


 マジか。

 なら、唐辛子爆弾を魔物の周囲に風魔法で舞わせるのはどうかな。唐辛子爆弾の粉が舞っているところにまで火が届けば、粉が導火線のようになって、魔物に炎の攻撃が当たるかも。

 私はカバンの中の唐辛子爆弾の数を確かめた。残り二つ。……これだと、少なすぎる気がする。


「ちなみにアラン。風魔法を操りながら、火を放てますか?」

「……できない。俺は水と土魔法が得意で、ほかの魔法は、使えるけれど同時に使えるほど器用に魔力を操れない。リッツならできるかもしれないが……」

 な、なんと。

 火魔法得意なリッツ君、カムバック! 

 けど、怪我人を抱えたリッツ大先生率いる先頭集団は、結構先に進んでおられた。おお、もうすぐで本校舎の裏口まできてるじゃないか!


 魔物は、もう完全にソッチの方は気が回ってないようで、私達の方だけ見てる。眠り薬みたいなピンクの糞を、あちらの団体さんに飛ばすのをやめて、こちらにばかり飛ばそうとしている。けど、こちらに飛ばそうとしてくれる分には、カテリーナ嬢がうまいこと風で遠くに飛ばしてくれていて被害もない。囮としては大成功だ。


 ひとまず、怪我人を抱えた生徒達が本校舎までたどり着くことが出来れば、当初の目的は達成される。後は、あの魔物を私達でどうにか倒すだけだ。うん、まあそれだけとか言って、それがめちゃくちゃ大変そうなんだけれども。


 魔物に視線を戻すと、カテリーナ嬢の風の魔法に当たって怯みながらも、私達に近寄ったり、遠ざかったりと円を描くように動いている。

 少し、風の魔法に対する耐性が上がっているような……どんどん怯み方が甘くなっている気がする。いや、違う。風の魔法が魔物が上空にいるときほど威力が弱いから、その時の怯み方が甘いんだ。ちょっとだけ学習能力のありそうなあの魔物、それに気づいて遠くまで行ってから、助走をつけてこちらに滑空して攻撃してくるかもしれない。勢いによっては、カテリーナ嬢の風の魔法の威力では防げないかも……。


 リッツ君が護衛する生徒の集団は、すでに裏口にたどり着いていた。意識のない生徒達を優先して、中に入れているようだ。


 よし、ここらが勝負時、かもしれない。

 改めて、上空の魔物を観察する。普通の鳥と比べたら比較にならないくらいでかい。高さは、尾っぽを入れて2mぐらい、だろうか。翼を広げた状態だと、横幅が4、5m、いやもっとありそう……。顔は、人間の顔というか、白髪を振り乱した老婆みたいな顔をしている。老婆の顔に見えるからか、飛んでいる時もやけにしんどそうに見えるし、唐辛子爆弾のおかげで鼻水流しているし、今までの動きを見てもあまり早く動ける魔物ではなさそうな印象。

 

「すみません、提案があります。カテリーナ様はそのままで聞いてください。このまま風魔法で怯ませ続けても、あの魔物は倒せそうにないと思います。他の生徒は無事本校舎に着きました。もうまわりのことまで気を配らなくてもいいので、勝負を仕掛けましょう。アイツを私達の近くまで呼び寄せ、その時に一斉に攻撃を仕掛けたいと思います。ですが、アイツを近くに呼び寄せるというのは、アイツが滑空して攻撃を仕掛けてくる時ぐらいだろうと思います。それを避けながら、攻撃をするという流れになるんですけれど……」


 それを皆でできるかどうか……と、ちょっと迷って、私が言葉をとめてしまうと、カテリーナとアランが、力強く頷いて私のことを見てくれていた。


「分かったわ。それがいいのね。やりましょう」

 カテリーナ嬢が、魔物に視線を向けて風魔法を放ちながら、私のほうにそう返してくれる。


「大丈夫よ、私は騎士科で、しかも結構強いの。反射神経とかには自信があるわ。カテリーナもまとめて守る」

「俺だって、小さい頃から剣の修行もしてるから余裕だぞ」

 サロメ嬢も、アランもそう言ってくれる。

 みんなの言葉に、顔つきに、私は改めて覚悟を固めた。


「ありがとうございます。まず、アランは、私とサロメさんに剣を作ってくれますか? それと、カテリーナ様には、このあと、風魔法を打つのをやめてもらいますけれど、その際に、あの魔物が、またあのピンクの糞を放ってくるだろうと思いますので、その攻撃がきたら、弾き飛ばせるように魔法の準備はしていてください。サロメさんは、おそらく一番に狙われるだろうカテリーナ様を守ることに集中してください。直接攻撃がきたら、反撃のことは考えず、二人で攻撃に当たらないように逃げることに徹してください。魔物に対する攻撃は、私とアランでやります」


 皆でちょっとした打ち合わせを終えると、カテリーナ嬢が、攻撃に転じないように魔物を怯ませ続けていた風魔法を打つのをやめた。

 突然、止まった攻撃に、魔物が怪しがりながら私達の上空の空をぐるりと飛んでいる。さり気なく、糞を飛ばしながら。あの魔物、どんだけ糞でるんだろう。


 想像よりも動いてこないな。


「結構慎重ですね。この分だと、私の攻撃が届く範囲にまでは、降りてこないかもしれないです。少しだけ、低空飛行をして、糞を飛ばしにくる程度かも。そうなったら、中距離攻撃手段を持つアランが頼りですからね」


「お、おう」

 私が無駄にアランに期待をかけて焦らせていると、魔物の動きが変わった。

 グルグル飛び回るのをやめて。私たちから距離を置くと見せかけて、そのまま上空から下降して私達に向かってきている。


 きた!


 さっきまで風魔法で攻撃してきたのが、カテリーナ嬢だと分かっている魔物が、カテリーナ嬢に向かってきている。しかも直前の読みどおり、糞を落としてきながら。落としてくる糞に対しては、打ち合わせどおり、カテリーナ嬢が風魔法で吹き飛ばしてくれる。そして、魔法の使用に集中して避けるのがおろそかになるカテリーナ嬢に向かって魔物は体当たりを決めようとするが、それはカテリーナ嬢を守る騎士であるサロメ嬢

が、庇うように身体ごと倒して、魔物の攻撃を避けることに成功する。


 そのままカテリーナ嬢への攻撃をミスった魔物の目の前には、先ほどアランが魔法で作った土の壁。突然せり上がってきた土の壁に思い切り顔をぶつけた魔物は、その場で転倒した。


 そこで私がすこしだけ駆け寄ったところで、またあの甘い臭いがした。あいつ、懲りもせず倒れながら糞をしてるらしい。

「皆は近づかないで! また眠りを誘うなにかを出してます! 風で臭いを飛ばして!」

 その後、ゴウっと風が吹いて、甘い臭いはしなくなるけれど、私は、少し吸ってしまった。また頭がボーっとしそうになって、急いで、カバンからセージの葉をだして、口の中に入れた。ものすごく口の中がスーッとする、涙が出るほど辛いハーブだ。

 コウお母さんが薬の調合でたまに使うハーブ。私も、使う薬や美容グッズは自分で作るので、いくつかハーブを持ち歩いている。

 口の中に広がるセージの刺激のお陰で、どうにか眠りにつくことを堪えると、そのままの距離を保って、魔物の胴体に向かって剣を投げつける。翼の辺りに命中して、多分、もうおそらく飛べそうにない。


 でもあの魔物には、眠りを誘うという攻撃手段が残ってる……。


 私は改めてマッチを擦った。

「アラン、火の魔法でアイツを燃やしてください」

 アランは、分かった、って言って、マッチを受け取ると呪文を唱えて、マッチから火炎放射みたいな火を出して、魔物にぶつけた。今度は距離も近いので、威力の高い火炎放射が魔物を襲う。


 魔物に一度火がつくと、カテリーナ嬢が臭いを飛ばすために、風を吹かせていることもあって、身体全体に火が回っていった。

 魔物から「ギャーーーッ! ギャーーーーッ!」と、ちょっと人間っぽい声の断末魔が聞こえてくる。

 顔が老婆で、鳴き声まで人間っぽいとか、ちょっと、やりづらい……。

 でも、そんなやりづらいからって、容赦できるような余裕は私達にはない。

 みんな、ギャアギャア鳴いてる魔物が燃えている様子を黙って見つめることしか出来なかった。

 そして、魔物の声が聞こえなくなると、カテリーナ嬢も思い出したように、呪文を唱える。すると少し魔物を燃やしている火の勢いが増して、一気に魔物が崩れていった。


 火の中に、魔物の形がなくなったのを確認して、アランと、カテリーナ嬢は呪文を唱えるのをやめ、少し小ぶりな火になると、アランが水の魔法で火を消した。

 残ったのは、灰だけだった。


 ……魔物、倒した。

 魔物を見るのは3回目だ。一度は山賊だったときに、お母さんの姿に化けて出てきた魔物に襲われた。2回目は、1年生の時の法力流しで、魔物に出会った。2回目の時は、カイン様が剣で腕を切り落としてくれて、ヘンリーが、あっという間に魔法で倒してくれた。私も、コインを投げつけはしたけれど……。

 今回みたいに、真っ向勝負で、剣なんか持って、魔物と対峙したのは。始めてだ。正直、すごく怖かった。

 そして、もし、私の読みどおりなら、もしかしたら魔物は……。


「みんな! 無事だった!? その灰……魔物倒したの!?」

 声のしたほうを見ると、リッツ君がぜえぜえいって膝に手を置きながらそう言ってくれた。生徒達を校舎まで送り届けて、いつの間にかここまで戻ってきてくれたみたいだ。


 ここまで心配してきてくれたリッツ君に何か声をかけようとして、まだ口の中にセージの葉を噛んでいることに気づいた。スッとした刺激が口の中で痛くて、ペッと吐き出す。

 口の中すっごいスースーする。うーんでも、やっぱりまだ頭がボーっとするな。あの魔物を倒したら、都合よく眠気作用がなくなるなんてことはないらしい。


「ええ、倒したのよ。もちろん。私がいるのだから、当然ですわ!」

 私が、セージに気を取られていたら、カテリーナ嬢がリッツ君に応えてくれた。さっきまで、ちょっと顔色が悪かったカテリーナ嬢。いまもちょっと青白いけれど、あんな強気発言できるぐらいには、魔物ショックからは回復したらしい。


「カテリーナ、魔物の攻撃を躱すためとは言っても、思い切り突き飛ばしちゃったわ。怪我はない?」

「大丈夫よ、サロメ。それに、あの、ありがとう。サロメがいるから、私……。サロメが守ってくれるってわかってたから、私は呪文に集中、できたのだもの」

 カテリーナ嬢を心配してサロメ嬢が話しかけると、さっきまでちょっとばかし青白い顔をしていたカテリーナ嬢が途端に顔を赤くさせてもじもじしている。

 そんな様子のカテリーナ嬢に優しい笑顔を向けながら、サロメ嬢が彼女の頭を撫でて「カテリーナの風魔法で助かったわ」と褒めていて、仲の良い姉妹、というか、ご主人様とペットみた……いや、このことは思わないでおこう。

 こういうことを一度でも想像しちゃうと、カテリーナ嬢の縦ロールが、犬耳みたいに見えてきちゃうからね、うん。あ、だめだもう想像しちゃった。

 

 なんだかリッツ君がきてくれたお陰なのか、張り詰めていた空気が柔らかくなって、いつも通りの雰囲気が漂ってきた。


 でも、なんだか、まだ怖い。すごく嫌な予感が、する。


 ふと、アランの方を見ると、アランも浮かない顔をしていた。

「でも、なんで、魔物なんか……」

 アランがそうつぶやいた瞬間に、自然の風じゃない、人工めいた風が吹いた。

 この風、知ってる。コレは魔法の風だ。声を届かせてくれる、魔法。すると耳に声が響いた。


『緊急事態発生。学園に複数の魔物が侵入中。学内にいる生徒は講堂に避難せよ。繰り返す。緊急事態発生。学園に複数の魔物が侵入中―――』


 声の主は校長先生だ。おそらく風魔法で学園内に声を響かせている。魔法の風は、私が一番懸念したことを的確に報告してくれた。


 学園に複数の魔物が侵入中。ああ、やっぱりそうなんだ。学園にきている魔物は一匹だけじゃない。

 大雨で、結界が、壊されたんだ。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] うわぁ、やっばい。どんだけの数の魔物が解き放たれたんだろ?
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