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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第2部 転生少女の青春期

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呪文の謎編⑭ 空飛ぶ魔物の襲撃 前編

 空にいるのが魔物であることに気づいた生徒の数人が、叫び声を出し、騒然となる。一部の生徒が、一番近くの建物である図書館の方に駆け出していった。


「ま、待って! 離れないで!」

 そう、私が声をかけた時に、丁度またあのピンクの糞が駆け出した子達の近く落とされた。

 さっきと同じように、すぐにアランのおかげで、土に埋もれて行ったけれども、恐慌状態の生徒は一瞬出たピンクのモヤを思いっきり吸ってしまったみたいで、バタリと倒れた。


 この光景をみた生徒がまた恐慌状態になるだろうと思われて、誰かが叫びだす前に、腹に力を入れて大声をだす。

「落ち着いて、みんな! ここには、偉大なる魔法使いのカテリーナ様とアランがいるから大丈夫! 倒れた子は、眠ってるだけで命に別状はないから!」


 まだ倒れていない生徒達が私を見た。ここで、私が焦ったり、怖がった顔したらダメだ。必死で余裕そうな笑顔を作り出して、話し続ける。


「身体の大きい子は、倒れている子を抱えて本校舎へ。図書館の方が近いけど、先生に診てもらったほうがいいから、本校舎まで運びたい。少し距離はあるけれど、皆のことは、カテリーナ様とアランが守るから、大丈夫!」


 お二人のビッグネームを借りて、安全であることをアピールすると、すこし生徒達の顔つきが変わった気がする。


 5年生のがたいの大きい、多分騎士科の生徒が「や、約束された勝利のリョウ殿の言うとおりにしよう。騎士科の生徒や体格のいい上級生は、倒れた子を抱えるんだ」と言ってくれて、男子生徒達が中心になって、倒れている子のそばに寄ってくれた。

 

 その間に、またピンクの糞が落とされたが、すぐにまたアランが土の中に埋めてくれて、被害がなく済む。

 それに、どうやらリッツ君が風の精霊魔法で、生徒達がいる辺りを全体的に風で覆うことに成功したらしく、糞が落ちてもはじき飛ばされて生徒のすぐ近くに落ちるということがなくなったみたい。

 すごい。リッツ大先生。さっき生徒たちを落ち着かせるための口上の中にもリッツ大先生のビックネームを出すべきだったか。

 リッツくんの風に守られながら、皆で固まって、動けば、どうにか本校舎まではいけるかもしれない。本校舎まで行けば、先生方もいる。とりあえずそこまでいければ……。

 

 私は人には聞こえないぐらいの小声で、治癒魔術を唱えて、さっき自分で傷つけた太ももの傷を治す。まだ、ピンクのモヤのせいで頭がボーっとするけれど、大丈夫。傷も直して、コレでいつもどおりに動ける私のはずだ。ちょっと眠いけど。


 それにしても、なんで、こんなところに魔物が……空を見上げて魔物の様子を見ながら考える。

 魔物は、上空を行ったりきたりしながら、糞を落としてくる。落とす糞は、リッツ大先生の風魔法にはばまれ、アランによって埋められていくけれども、それでも落としていく。


 魔物は、結界のせいで、ほとんど人がいるところにまでこれないはず。ただ、中には、結界に綻びが出来て、飛び出してしまう魔物もいるらしいから……今回はたまたまできた結界の綻びから?


 と思ったところで思い出した。

 そうだ、魔物の結界は、川だったり、しめ縄のようなものを張り巡らしてるだけだ……。

 ここ最近の雨で、だめになった、のかもしれない。

 結界の仕組みは、正直よく分からない。

 でもほころびがあると結界の機能が失われることもあるという話しだ。もし最近の大雨で、川が氾濫したら? 土砂崩れのようなもので、しめ縄が押し流されてちぎれたりしたら……?

 結界の機能は果たせるのかな……。


 もし万が一、それが原因だとしたら、人がいるところまで降りてきている魔物は、一匹じゃ……。


 そこまで考えたところで、魔物の動きが変わった。糞を落とすことをやめ、ゆっくりと羽ばたきながら、こちらの様子を見ている動きになる。

 糞を落としても、倒れない姿をみて、このままじゃ埒が明かないことに気づいてしまったのだろう。魔物の癖に、それなりの知能は持っているようだ。


 魔物が直接低空飛行で近づいてきたりしたら、嫌だな。直接攻撃に来られたら、リッツくんの風の守りだけじゃ防げない気がする……。

 でも、痺れを切らしたあの魔物が、そういう行動を起こす可能性が高い気がする。嫌なことをされる前に、こちらから何か行動をおこした方がいいかも。


「カテリーナ様、魔物に直接風の魔法を打ち込んで、落としたりすることは出来ますか?」

 移動しながら、魔物の動きを観察しているカテリーナ嬢に問いかける。


「できるかわからないけれど、やってみるわ」

 そう言って、彼女は、空を睨む。


「シラツユニ カゼノフキシク アキノノハ ツラヌキトメヌ タマゾチリケル」

 呪文を唱えると、強い風が魔物に向かって飛んでいったようで、魔物は上空で少し怯んだように、体制を崩した。けれども、落とすところまではいかない。


「難しいわ。ちょっと遠すぎて、威力が落ちる」

 カテリーナ嬢はそう言って、悔しそうな顔をすると、立ち止まった。

 私も、どうしたんだと思って立ち止まる。


「カテリーナ様、立ち止まるとみんなとはぐれちゃいますよ!」

 それに、リッツ君の糞避けの風の守りの外になってしまう。


「でも、もしあの魔物が、直接突進でもしてきたら、リッツの風の精霊魔法じゃ防げないわ。だから私が、魔法を撃ち続けて、あの魔物の気をひく! リョウさんは、大人しくみんなと一緒に行きなさい!」


 ええ!? や、それ、囮になるってこと? 危険、なんじゃ、いや、でも……。

 カテリーナ嬢の言ってることは正しい。あの大人数の中にあの魔物が突っ込んできたら、絶対に被害がでる。何人かは人を抱えながらなんだ。咄嗟に避けることもできない。


「カテリーナは基本的に一度言ったことは曲げないわ。私もここに残る。リョウさんは、行って」

 いつの間にかそばにサロメ嬢もきてそう言って私の耳元まで顔を近づける。

「万が一の時は、私がカテリーナを体を張って守る」

 そう小声で耳元でささやくと、彼女も彼女で、カテリーナ嬢と同じように覚悟を固めた顔をした。


「そ、それなら私も一緒に残ります。なにかあったときのために。カテリーナ様は、さっきの風魔法を打ち続けてください。怯んではいるので、打ち続ければ、攻撃に転じる隙を与えずに済むと思います」

「分かってるわ! むしろ打ち落としてやるわよ!」

 やる気満々のカテリーナ嬢が、呪文を口ずさんで、風を打ち続ける。

 どうやら、一度呪文を唱えれば、十数秒間ぐらいは、呪文を唱えずとも、魔法を何度も発動できるらしい。


 少し先を進んでいたアランが、私達がついてきてないことに気づいて、こちらに駆け寄ってきた。


「おい、お前ら、一体……!?」


「私の風魔法で、あの魔物を打ち落としてやるところよ! あなたは、他の奴らと一緒に行って、守ってなさい!」

 そういいながら、カテリーナ嬢は、魔物を睨みながら魔法を打ち続けている。魔物は怯みながらも、カテリーナ嬢の方を向いていて、完全に意識がこちらに向いている。囮としての役目を果たし始めていた。


「あっちには、リッツがついてるし、俺もこっちを手伝う!」


 そういうと、アランは、先に進み続ける生徒達の一団に視線を向けると、視線の先にはリッツ君がいて、リッツ君は頷くとそのまま生徒達と一緒に進んで行った。多分男同士のアイコンタクトで、ここは俺に任せろ見たいな感じになったのだろう。


 アランがいてくれることは、ありがたい。カテリーナ様にもし万が一があった時、魔法使いが二人いることはやっぱりすごく心強いから。


「アランは、上空の敵に対する、攻撃手段はなにかありますか?」


「鉱石を投げて届く範囲なら、剣にして刺すことができるが、今回は遠すぎる。風魔法も使えるけど、カテリーナより威力が落ちるから、打ってもたいした効果にはならないが……」

「じゃあ、風魔法でいってみましょう。つむじ風みたいにして、私の特製唐辛子爆弾を巻き込みつつ魔物に当てることができますか?」

「唐辛子爆弾って、ずっと前に決闘した時に、リョウに食らったあの粉か!? よ、よし、それいいかもしれない」

 一瞬昔の恐怖を思い出したっぽいアランが、びくついた様子で私の提案に賛同してくれると呪文を唱えた。私はカバンから、唐辛子爆弾を取り出して、少し先の地面に放る。入れ物が割れて、そこから舞って出てきた粉をアランがぐるぐるの風を起こして空に上らせていく。


 唐辛子を巻きこんだ赤いつむじ風が、魔物に直撃するが、あまりひるんだ様子がない。カバンから少し遠くまで見える双眼鏡のようなものを取り出して、魔物を観察すると、目と鼻から涙、鼻水を流しながら平然としている。

 いや、少しだけしかめっ面ぐらいにはなってるかもしれない。あ、くしゃみした! ……しかし、平然としている。

 というか、カテリーナ嬢の風魔法のほうが、魔物的には厄介らしく、そちらの対応に追われて、多分私とアランが赤いつむじ風を近くで巻き起こしたことに気がついてさえおられない。

 

うん、ダメだあまり効果がなさそうだ。鳥は空中に舞うほこりや砂から目を守るためにものすごく湿らせるという話しを聞いたことがある。あの魔物は、ホコリとかゴミとかには強いのかもしれない。


「ダメですね。あんまり効果なさそうです」

「……これもあまり、得意じゃないが、火種があれば火を放てる」

 私が、私達の必殺技、赤いつむじ風が効かなかったことを報告すると、アランが恐る恐るそう提案してきた。

 おお、火! いいじゃない! それに火種なら私いいものをもってるよ!

 カバンから、マッチを取り出して火を灯す。


「え? 何だそれ! 火!? どうやって!?」


「今はそれよりも、この火で魔法を使ってアイツにぶつけてください!」

「わ、分かった!」


 私は火のついたマッチ棒をアランに押し付けるように渡した。


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― 新着の感想 ―
[良い点] おおっと、ここでマッチの有用性が!!
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