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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第2部 転生少女の青春期

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呪文の謎編⑬ 大雨と久しぶりの晴天

 しばらく雨が続いて、毎年の恒例イベントである法力流しが延期になった。

 そろそろ雨、どうにかならんかな。

経営する酒場を3店舗こっそり増やしたけれども、連日の雨で売れ行きがあんまりよくない。それになにより、ルビーフォルンが心配だ。

 まあでも、お酒造のほうは、魔法で作っていることもあって、それほど雨による影響もないから大丈夫っぽい話は手紙で聞いてるから、領地に壊滅的な打撃になることはないとは思うけれども……。


 他の生徒達も、法力流しが延期になって、かなりストレスが溜まってるご様子。と言うかどっちかと言うと、ドッジボールができないことがストレスになってるみたいだけど。

 でも、私とかはもう4年生で、もうちょっとしたら最高学年なんだから、そろそろドッジボールから卒業しよう。とか言ってもたまの晴の日には、私もドッジボールしちゃうんですけどね! 楽しい!


 そろそろドッジボール競技人数も増えてきたし、大会でも開催しちゃうかね! とか思っても、この雨だと、それも難しいかも。とりあえず企画だけでも考えとこ。ボーっとしてると、嫌なことばかり考えちゃうし。


 あ、それよりもそろそろ教頭室行かなきゃ。そろそろ取引の時間だ。

 私は、放課後一人こっそり学校の奥地にある教頭室に、赴くと、コンコンココンコンというあらかじめ決められたリズムでノックをする。すると、中から、教頭が屈むような姿勢でゆっくり扉を開けると、私を中に招き入れた。

 中に入って二人でよし、始めようかと言わんばかりに頷くと、早速取引が開始された。


「リョウ君、今週の分の呪文の紙だ」

「あ、はい、いつもご苦労様です」

 教頭室では、毎週恒例の秘密の取引がこっそりと行なわれいる。私は教頭から例のブツ、生徒達の呪文の覚え書きを受け取ると、パラパラとめくる。

 うーん、新しい呪文はなさそう。


 私の手元には、既に完全に近い呪文書が作られているけれども、出来れば、呪文の効果がどういうものか知りたいと言う気持ちもあって、引き続き生徒達の覚書のメモを教頭からもらいうけている。新しい呪文の発見があるかもしれないし、たまに、生徒がそのメモに魔法のコツみたいなものも書いてあったりするしね。

 とはいっても生徒達が書いてくれる呪文は、私が唱えても魔法が発動しない呪文だから、重要度は低いのだけど。けどどういう魔法があるのかっていうのが分かるのは、なかなか参考になる。

 でも、もうここ最近はずっと、生徒達が書いてくれる呪文を見ても新しい呪文の効果が分かるわけでもなく、これといった発見もない。しばらく様子をみて、そろそろこの教頭とのやり取りは終わってもいいかな。


 教頭の様子をチラリと見ると、彼はそわそわと私の反応を待っている。まあ、落ち着きたまえ、マッチ箱は逃げませんよ。

 今度の長期休みで、ルビーフォルンに帰ったらバッシュさんにマッチの作り方を伝授して、人を雇ってたくさん作ってもらえるようにしよう。手紙に、材料を用意してもらえるようにお願いしなくちゃ。

 マッチはちょっと間違うと火薬みたいな感じで危険だから、販売自体を渋ってる部分はあったけれど、やっぱり便利だし、領地の発展のためにもメリットの方が多いもんね。


「はい、今週の分です。あ、それと、いつも言ってますが、絶対に濡らさないでくださいよ! 最近雨が多いから気をつけてください」

「ああ、分かってる。防水性のあるカバンの中に厳重に保管しているから安心してくれ」

 そう言って、自慢げに、なんだかすごくごついカバンを見せてくる教頭先生。なんか気のせいかもしれないけど、マッチと呪文が書かれた紙のやり取りをするようになってから、七三の私への態度が軟化してきたような気がする。


 まあ、お互い、人には言えないことをしているもの同志、仲良くしようじゃないか精神なのかな。


「どうだ、リョウ君。今日も雨ですでに外は暗くなってきた。ランプに明かりを灯す私の魔法をみていくかね?」

 なんか、すっごくワクワクした顔してそんなことを言ってくる教頭。まあ、魔法を使うところなんて、そうそう見れないし、見せてくれるなら見るけど。

「あ、はい。じゃあ、お願いします」


 私がそう答えると、教頭が今まで見たことがないような笑顔になった。なんか……不気味。


 マッチを一本すって、呪文を唱えると、トーマス教頭は「明るく、暖かく、ランプに火を灯せ」と命令をした。


 うーん、やっぱり精霊使いの場合は、呪文を唱えた後に『命令』のようなものを言うんだよね。私も呪文を唱えるとき、オーラを纏った状態で、色々口に出して言ってはみるけれど、あんまり意味はなさそう。

 第一、唯一魔法の効果が判明している治癒魔法の時も、別に何か言ったりしなくても、傷があることを認識すれば勝手に治しちゃうし。

 それに、実験を繰り返し行ったことで、私が使える魔法の傾向がなんとなく見えてきた。


 私がそんなことを考えている間に、七三教頭の呪文の効果でマッチについた火が大きくなって、なんとビュンビュンと飛ぶように動いて、教頭室にあるランプ全てに火を灯した。


 おお。すごいな。勝手に火が動いた時は、ちょっと怖かったけれど、こんなことができるんだ。部屋が一瞬で明るくなって、しかも心なしか、暖房がついたみたいに、部屋が暖かくなってきてる。なかなか便利な魔法ですな。

 七三を見ると、目をキラキラさせて、私の顔をみている。


 こ、これは完全に私の反応に期待している。『へーすごいですねー』ぐらいのことを言おうと思ったけれど、そんなあっさりした感想じゃ、満足してくれなさそうな雰囲気だ。


「えーっと、その、すごいですね! さすが火魔法です。一瞬で明るく、暖かくなって、雨の日なのにまるで暖かい陽の光に包まれているような……えーっと、最高です!」

 何とか脳みそをフル回転して絞りだした私の言葉に教頭は満足そうに頷いてくれた。

 よ、よかった。満足いただけたみたいで。



---------------


 おー! 今日は久しぶりの晴天! 雲ひとつない! 最近は、本当にずっと雨だったから、青空が嬉しすぎる。昨日、ものすっごい土砂降りの雨だったけど、それで出し切った感じなのかな? 今日は雨の日に出来なかったことをまとめてやろう! 酒場にも顔を出したいし、マッチ作りの材料もまとめ買いして、それに……。


 と色々画策はしていたけれども、ドッジボール男子の『ドッジやろうーぜ!』の呼びかけにまんまと惹かれて、ドッジボールに興じることになりました。

 だって、久しぶりに外で遊びたい。


 それに、他のみんなも同じ気持ちだったらしく、カテリーナ嬢もサロメ嬢、それにアランやリッツ君とかもほとんどみんな参加だ。ただ、シャルちゃんだけ、風邪を引いてしまったようで、授業の途中で保健室へ。ドッジやる前に様子を見に行ったら、ぐっすり眠ってたので、元気だしてねのお手紙だけ残してきた。


 シャルちゃんのことは残念だったけれども、久しぶりの晴天に心躍る! いつもドッジボールしている空き地は、雨でぬかるんでいたけれども、ここは魔法使いの魔法で、すぐさま綺麗にグランド整備したので、問題ありません。


 それにしても今日は、大人数! 久しぶりの晴天だもんね。この数だと、コート二つ作ってやった方がいいかも。

 むしろ念願の大会を……。


 そんなことを考えていたら、さっきまでキラッキラに太陽が輝いて地面を照らしていたのだけど、それが少し、陰った気がして、空を見上げた。


 ん? 何、あれ? 鳥? にしては、でかい、ような……。

 空に、何か鳥的なものが飛んでいるのが見える。

 するとその鳥らしきものからボトッと地面に、何かが落ちてきた。

 私がいるところよりも、ちょっと離れているところに落とされたそれは、鳥の糞? なんだかピンク色してる、あれ、なんか、その糞が落ちたあたりの空気までも若干ピンク色になってるような。


 すると、そのピンク色のもやが立ち込めているあたりにいた生徒達が倒れた。

 え? と思っているうちにそのピンクのもやが少しずつ私の方にも近づいてきているのか、独特の甘い臭いが……。


 一瞬意識が遠くなるような感覚がした。何これ、頭がくらくらする。ものすごく、眠い。何か、眠気覚ましを……。

 私はコレはヤバイと思って、咄嗟にスカートの下に装備していたナイフを握って、そのまま脚に軽く刺す。


 その痛みのお陰で何とか、意識がはっきりしてきた。でも、まわりはピンク色のもやが立ち込めてきている。多分このもやがヤバイ。私は、極力息を吸わないようにハンカチを口もとに押さえてその場から離れるために駆け出す。前を見ると少し離れた先にいたカテリーナ嬢が、生徒達が倒れている様子をみて戸惑っているのが見えた。


「カテリーナ様、風の魔法で、ピンクのもやを吹き飛ばしてください!」

 私がそう叫ぶと、ちょっと驚いた顔をしたカテリーナ嬢が、慌てた様子で呪文を唱える。

 ピンクのもやがカテリーナ嬢のところまでいったら、おしまいだ。

 

 ブオっと、先方から、ものすごく強い風が吹いた。おそらくカテリーナ嬢の魔法だ。間に合った。

 とりあえず回りのピンクのもやは消えた。後ろを振り返ると、数人の生徒達が倒れている。私の周りのピンクのもやは消えたけれど、でも、ピンク色の糞みたいな奴から、またピンクのもやが生まれてきているようだった。

 あれをどうにかしないと、と思っていたところで、そのピンクの糞的なものが土の中に埋まって、その上に土がかぶさった。

 横を向くと、すぐ側で、アランが地面に手をついている。おそらくアランの土魔法で、ピンクの糞みたいなやつを埋めてくれたんだ、と理解して、カテリーナ嬢に視線を送ると、彼女は再度風魔法で新たに発生したピンクのもやを吹き飛ばしてくれた。

 外から見た感じでは、もうピンクのもやはなさそうだ、と判断し、倒れている子達の元に駆け寄る。

 生徒の一人に声をかけ、脈拍とかを確認すると、ただ意識がないだけで、眠っているような感じに見えた。とりあえず、命に別状はなさそうだけど……一体、何が……。

 私もあのピンクのモヤを少し吸ってしまったからか、また頭がボーっとしてきた。油断すると眠ってしまいそうだ。アレは眠り薬か何かの成分?


「意識を失っているだけに思うんですけど、先生に診てもらわないと。手が空いてる人は、保健室まで運ぶのを手伝ってもらえますか?」


 と言った後に、また空が影って、ボタッと音をさせてピンクの糞が落ちてきた。咄嗟に息を止める。


 結構近い、ヤバイ! と思ったけれども、その糞はすぐさま土の中に埋もれ、突風が吹いて、少し発生していたピンクのモヤを吹き飛ばしてくれた。

 どうやら、アランやカテリーナ嬢が対応してくれたようだ。


 それにしても、このピンクの糞は、と思って、改めて空を見上げる。

 鳥のようなものがいる、眩しくてよく見えないが、我慢してみてみると、鳥、じゃない、鳥っぽい何かが空を飛んでいる。


 顔が……人の顔になっている黒い大きなカラス、に見えた。


 あの異形、間違いない……。


「ま、魔物だ!」

 と叫ぶ生徒の声が聞こえた。




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― 新着の感想 ―
[気になる点] ええー、なにこの魔物……攻撃方法が酷い……
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