呪文の謎編⑪ 異世界の中心で愛を叫ぶ子分は許さない
アランのお陰で、私は、無事にコウお母さんと仲直り……というか、ごめんなさいできた。
変なこと言ってごめんなさいって、大好きだって伝えて、王都に来た時に、コウお母さんのことを悪く言われたのが、忘れられなくて、自分でも気づかないぐらい気にしてたことを伝えた。
コウお母さんは、私が説明する前から、そこらへんのことはすでに分かってくれていて、やっぱりさすがのコウお母さんだった。
私がごめんなさいしてから、数日経過してるけれど、コウお母さんはオネェ口調を封印するのをやめた。私が、もう大丈夫だからって伝えたから。何かを言われても、私にとってコウお母さんは世界で一番だもの。知らない人が何かを言ったって、平気。ちょっと、嫌な気持ちになったりするかもしれないけれど、失礼な奴にはなかなか取れない油汚れを擦り付けるぐらいのイタズラをすればスッキリする程度だ。
コウお母さんが、オネェ口調を封印してくれていたのは、全部、私のためだった。私が、嫌な思いをしないようにって……。
私が、コウお母さんのもとに親分を連れ戻すんだって、そうやって、一生懸命コウお母さんを支えようとしても、結局は、私はコウお母さんに支えられてばかりだ。かなわない。
「コウお母さん、いつも、ありがとう」
コウお母さんと二人で夕食を堪能した後のゆったりタイムに、私が突然そう言うと、コウお母さんは笑って「どうしたの突然? リョウちゃんもいつもありがとう」って言ってくるけれど、正直、私がコウお母さんに寄せる感謝の気持ちはものッすッごいよ。前世分含まれてるからね。
たまに、本当にコウお母さんが、すごすぎて、私が作り出した幻なんかじゃないのかと思うよ。
幻。
……え、本当に幻じゃないよね? じゃないよね?
「コウお母さんって、生きてますよね!?」
「え? それは、もちろん、生きてるわよ? どうしたのリョウちゃん?」
久しぶりに食後二人でゆったりしている空間が幸せすぎて、コウお母さん幻説が浮上したけれど、よかった。幻じゃない。
念のため、コウお母さんの脈拍も測ってみたけれど異常なし。
「リョウちゃんて、本当に、たまに突拍子もないわよねー。まあ、そこも可愛いけど。あ、そういえば、最近アラン君こなくなったわね」
「あー、そう、ですね。明日、誘ってみます!」
ここ最近、アランが、私とコウお母さんに気を使っているのか、一緒に夕食をするのを遠慮しているようだった。でも、もう仲直りは終わったし、アランを招待してあげないとね。こうやって、気づけたのも、アランのお陰なんだし……。
そういえばアランって、私のこと、なんていうか……好き、なんだろうか。
あの時、アランが「傷ついてもいい」みたいなこと言われて、もしやこやつ私に惚れてる? って一瞬思った私だけれども、あれ以降の学校生活ではアランはいつもどおりだ。変わったところはない。
アランが私に惚れてるとか何とかは私の気のせいにしたい。
いや、まあ、好いてくれてるのは知ってるし、私も好きだけど、それも親分子分での感情って言うか、友情みたいな感じのはず。
だいたい、あのクソガキだったアランに限ってそんな好きだとかまさか。であった瞬間、泥水かけてきた彼だよ?
まあ、しかし、確かに、私はかわいい。だって、コウお母さんは私のこと可愛いって言ってくれるし、どんな服着ても「リョウちゃんは何着ても可愛いから似合うわよーう」って言われているのだから、私が可愛いことはコウお母さんのお墨付きなんだし、絶対だ。
で、でもあのアランだよ? まだね、まだ他の男の子からの好意ならわかる。なんていっても、毎日リョウちゃんかわいいーってコウお母さんに言われてる私だもの、おそらく雰囲気で多少誤魔化してるところはあるけれども、相当可愛い私だ。そこらへんの男子が私のことが好きだと言ってファンクラブがあっても納得である。なにせコウお母さんのお墨付きなんだから。
けど、アランは……だって、アランの前での私は基本的に、こう、なんというか、親分面してるって言うか、まあ、実際親分だし……。私が男だったら、こんな、親分系ヒロインはごめんなんだけど……。もし、万が一だけど、そんな親分系ヒロインな私のことをアランが好きだとしたら、アランが幼いながらにマゾ的な気質に目覚めていることになるのでは……。
だいたい、この前のセリフにしろ、傷ついてもいいって……え、まさか、そんな、M的な意味で……?
いや、それは流石に……。
それになにより、だいたい、アランの癖に、好きとか恋とか……生意気なんじゃなかろうか! 大体私だって、ソッチ方面の情緒がまだ育ってないみたいで、こう、初恋もまだなのに! 前世含めて! 前世含めてだよ!
それなのに、あのクソガキアラン子分が恋とか好きとか世界の中心で愛を叫ぶ的なそんなの……そんなの親分許さないんだけど。親分である私が子分に情緒面の成長で劣っているといいたいの? そんなわけないし、うん、冷静に考えるとありえない。
となると、やっぱり先日の一件でのアランの発言は、あれだな、傷心の親分を慰めるために、渾身の力で最高に気の利いたことを言ってくれたのだろう。
私のためなら傷ついてもいいだなんて、なんて熱い義侠心。わたし感動しちゃった。
というか、そうか、アランって、私のためなら、傷ついても、いいんだ……。そっか……。
なるほど。