呪文の謎編⑦ 絶対
重大報告!なんと書籍化しました!
ヒーロー文庫さんにて1月30日発売予定です。
詳細は活動報告にて。
またそれに伴い、タイトル変更してます。
「ハイスペック女子高生の異世界転生」→「転生少女の履歴書」へ変更です。
いきなり知らないタイトルがブクマに入っとる!とビックリしてしまった方、安心してください。
ハイ(スペック女子校生の異世界転生であっ)てますよ!
・・・
それでは、WEB版の更新も続けてまいりますので、どうぞこれからもよろしくお願いします。
ガラテアさんに案内された客間に入って、一つ息を吐きだした。うん、私、何も見てない。
とりあえず、ソファで寛ぎながらお茶でも飲もうかなーと思って改めて部屋の中を見渡す。
すっごく広い部屋でベッドが二つにソファ、テーブルがあっても、まだまだ余裕の広さ。最初ルビーフォルンに来たとき、1人部屋としてこの部屋を案内されたけど、山暮らしではアレク親分みんなで雑魚寝だったから、広い部屋に大きいベッドで眠るというのが寂しすぎて、いつもこっそりコウお母さんのところに忍び込んでいたら、それなら同じ部屋にしたほうがいいんじゃない? ってことになって、今は二人で同じ部屋。
ん? 毎年使ってるお部屋だけども、なんか今年はちょっとちがうぞ? 広さとか間取りとか変わりないけれど、今年の部屋は装飾がちょっと変わってる。カーテン新しいのに変えたっぽい?
部屋に入るなり、ちょこっと様相が変わった部屋を見ながらベッドの方に歩いていって、そのままベッドにダイブ。意外と疲れていたみたい。ガラテアさんの気遣いに感謝!
あ、ベッドシーツの肌触りが去年と違う! さり気なく高級になってる気がする。お酒の販売でそれとなく領地が潤ってきておるのかな。
へへ、コレはいい塩梅ですな。そんなことを思ってうとうとしていたら、ガチャと扉が開く音で目を覚ます。
扉のところにはコウお母さんがいた。
「あら、ごめん起こしちゃった? まだゆっくりしていていいのよ」
「いえ、大丈夫です。少しうとうとしただけで寝てはいなかったので」
そう言って、ベッドの上に座りなおすと、ちょっと顔を赤らめたほろ酔いコウお母さんが、ソファに腰掛けてテーブルにある水差しからコップに水を注いで、一口飲むと、ふうと一息入れていた。
「ごめんね、リョウちゃん。疲れてたのに、アタシ達、アレクの話題に盛り上がっちゃってて、気が回らなかったわ」
「いえ、私も親分の話、聞いていて楽しかったです」
「ふふ、そう言ってもらえると嬉しいわぁ。ありがとね。やっぱりここに戻ると、アレクのこと考えちゃうし、バッシュもいるとどうしても、ね」
コウお母さんも同じだったんだね。私もだよ。ルビーフォルンに戻ると親分達のことばかり思い出す。
一緒に過ごした山暮らしの日々。朝日と共に皆で起きて、朝から栄養満点のイノシシ鍋をみんなでつついて、一緒に狩に出かけたり、クワマルのアニキの自慢の短剣の話を聞きながら革をなめしたり、コウお母さんと一緒に山菜採ったり、筋肉男ガイさんの筋トレのためにダンベルの代わりに私が重りになってあげたり、たまに傷なんかつくる親分達に薬を作ってあげて、意味もなく歌って、笛を吹いてルーディルさんが、私の笛を熱心に聞いて……。
学園での生活は楽しい。コウお母さんだっていてくれるし、友達もできた。すごく楽しい。でも、やっぱりたまに無性に山に戻りたくなる時がある。あの時みたいに皆で過ごせたら……って。
だって、私は気づいてしまったんだ。ルビーフォルンの領地経営のお手伝いをしていくうちに、もしかしたらって、希望をみつけてしまった。
親分が、戻ってくるかもしれない可能性。もしかしたら、私達のところに帰ってくるかもしれない可能性だ。
「コウお母さん、私、気づいたんです。もしこのまま、領地経営がうまく行って、農民の皆さんの生活が安定してきたら、親分達は、戦う意義を失うと思うんです。そしたら、親分は帰ってくるんじゃないかって思うんです」
私がそう言うと、驚いた顔をしたコウお母さんと目があった。
「そうね……そうなってくれたらアタシも嬉しいけど、アレクは頑固だから、どうかしら」
そう言って、困ったようにコウお母さんは笑う。
もしかしたら、アレク親分には、ただ農民達の生活を救いたいという気持ちでの反乱と言うよりも、何か個人的な私情もあって、王政に反対しているのかもしれない。
でも……。
「たとえ、親分が頑固でも、親分に味方するはずの農民からの支援がなければ親分は動けない。確かに、王政には疑問があります。魔法使いを特別視する政策とか、魔法が使えない一部の平民を、何も知らないことをいいことに開拓村と称して切り捨てたこと……。でも、この国は戦争がなくて、平和です。その理由が、魔法使いが武器を管理しているからだとしても、平和なんです。そう、このまま暮らしが豊かになれば、魔法使いだって、きっと何もひどいことなんかしないし、きっと農民達だって、不満はなくなるんじゃないかって……! そしたらきっと親分も分かってくれる!」
正直、必ずそれがうまくいくって言う根拠はない。それは分かってる。ゲスリーみたいな、魔法を使えない人を家畜呼ばわりするような王族だっているし……でも、魔法使いは、人間だった。学校で、魔法使いの生徒達と過ごして、魔法使いだから特別なんだって言うわけじゃなくて、やっぱりただの人間だって、分かった。
私が、想像したとおりにうまくいく保証なんてない。でも、きっと、うまくいく。私が、そうする。私がコウお母さんのもとにアレク親分を連れて来てみせる。
気づくと、コウお母さんは私のことを眩しそうな目で見ていた。
「本当に、リョウちゃんはすごいわね。アタシでは、アレクを止められないって諦めていたことも、リョウちゃんなら出来そうな気がするわ」
へへ、うん、私頑張るよ。私ね、結構頑張るタイプなんだ。
なんかちょっと褒められて、体がムズムズしたから、私はベッドから降りてコウお母さんが座っているソファの隣にさり気なく移動して、座った。
コウお母さんは、いそいそとやってきた私の頭を撫でてくれる。
「アレク親分が帰ってきやすいように、美味しいお酒を用意しようと思います! そして、また皆で楽しく酒盛りするんです。私が笛を吹いて、ルーディルさんももしかしたら、笛が上達して一緒に吹いてくれるかもしれない。それでクワマルさんとガイさんが踊ってくれて、それで、アレク親分はいつもの怖い顔で豪快に笑うんです……! すっごく、すっごく楽しそうですよね!」
そう言って、コウお母さんを見上げると、なぜかコウお母さんは涙目になっていた。
そして、まるで顔を隠すように私を抱きしめると、「……ありがとう。リョウちゃんの気持ちがうれしい。でもあんまり無理しないでいいのよ」と言った。
コウお母さん、私、全然むりなんかしてない。してないんだよ。
前世の時は、両親に自分のことを見てもらいたくて、ずいぶんと無理をした。いろんなことで一位をとるために、寝る間を惜しんで勉強して、音楽のコンクールで賞を貰うために練習しすぎて怪我した指の痛みを我慢した。でも、そうやって頑張っても報われなくて、心も身体も疲労して、それでも私は無理をし続けてた。
でも、今、私がコウお母さんやアレク親分のためにやることは、全然無理なんかじゃないんだよ。だって、コウお母さんは、私が頑張れば、ちゃんと応えてくれる。それが私にとってどんなにうれしいか知ってる? 私が笑えば、笑い返してくれる人がいることで、私がどんなに安心して、幸せでいられるか知ってる?
私が、コウお母さんのために頑張ることは、無理なんかじゃなくて、全部私がやりたいことなんだよ。
私、絶対に、絶対にアレク親分を、コウお母さんのところに帰してみせるから。絶対に。









