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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第2部 転生少女の青春期
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呪文の謎編⑥ ルビーフォルン伯爵家の人々

 親分達の話で盛り上がるみんなの懐かしそうな顔を見てると、なんだかほっこりする。何だかんだいって、親分は慕われてる……。


 昔懐かしい話に花を咲かせていると、客間に、ダリアさんが入ってきた。最初に雇った腐死精霊使いの女性だ。なんかちょっと恰幅が良くなってる。


「リョウさん、コウキさん、お久しぶりねー! 良かったら私が造った新しいお酒、飲んでくれないかしら? いい出来なのよ」

 そう言って、すでに用意していたみたいで、後ろからお盆を持った使用人の女性達が、酒瓶とコップを持って入ってきていた。


 おやおや、昼間から酒盛りですかい?


「おお、ダリア殿、それはいいタイミングで。ちょうど昔の酒好きな友人の話しをしていたところだったよ」

 バッシュさんが、朗らかに答えて受け取ったグラスにお酒を注がれている。


「リョウちゃんは飲む?」

 コウお母さんも結構お酒好き。自分のグラスを取りながら私のほうにも聞いてきた。

 この国では、子供がお酒を飲むことを禁止してないから、私も普通に飲めるけれど、別にそんなに好きじゃないし、身体の成長に悪い気がするから苦手だ。

 他の子供もそんな感じらしく、王都でお酒を売っていても買うのは大人ばかり。それに子供の成長にも良くないし、うちの居酒屋、酒店では、18歳以上の人しかお酒を売らないことにさりげなく決めてる。


「いや、私は大丈夫です」

「そう、まだリョウちゃんには早いわよね。ふふ、お酒を作り始めたのはリョウちゃんなのに、なんだか面白いわねー。何かジュースでももらいましょうか」

 んーじゃあ、そうしようかな。でも、すでにテーブルに用意された紅茶で結構満足してるんだけれども。


「お父様にダリア様! お酒なんか出して! せっかく帰ってらっしゃったリョウさんやコーキさんを、いつまで引き止めておくの? 帰ってきてお疲れなんだから、そろそろお部屋にご案内してあげないと」


 話の途中で、女性の声が降ってきた。私は声のした方を振り向くと、きれいに身だしなみを整えている女性が立っている。

 ああ、久しぶりにみる。ていうか、最初にルビーフォルンに来て、挨拶したとき以来かな? バッシュさんの一番上の娘さんだ。

 私は久しぶりに会う貴婦人に思わず立ち上がって挨拶の言葉を口にした。


「お久しぶりです。ガラテア様」

「お久しぶり。でも、リョウさん、私のことはお姉様と呼んでくれてもいいんですよ?」


 いやー、それはちょっと。

 だって、そうすると、ルビーフォルン家の奥様のこともお母様って呼ばなくちゃいけなくなるし。私のお母さんはコウお母さんだから。まあ、いまだかつて、バッシュさんの奥さんの顔を近くで見たことないんだけどね。


 魔法使いだって話だけど、病気がちで、いっつもベッドの上にいる奥様。はじめて挨拶した時も、寝姿で恥ずかしいからって言って、仕切り越しでの会話だった。


「そ、そんな、緊張してしまいますし、うふふ」

 私が笑ってごまかすと、ガラテアさんにごまかそうとしたことがばれてしまったみたいで、つれないリョウさんと言って、笑ってくれた。


 無理強いしない感じはバッシュさんに似てる。顔はバッシュさんに似てないから、きっとお母さん似なんだろう。


「ああん、でもガラテアちゃんの言うとおりね。アタシったらつい楽しくて話しこんじゃったけど、リョウちゃん疲れちゃったでしょ? お部屋に行きましょう」

 そう言って、コウお母さんが慌てた様子でお酒の入ったコップをテーブルに置く。


「いえ、大丈夫ですよ! それに、せっかくダリアさんが用意してくれたお酒ですし! コウお母さんは楽しんでください!」

 私がそう言うと、でもーとか言いながら、一緒に部屋に戻ろうとするコウお母さんだったけど、私1人でお部屋で休ませてもらいますーとか言って、先に私だけ泊まるお部屋に行くことになった。


 成り行き上、バッシュさんの娘さんのガラテアさんにお部屋まで案内してもらうことになって、先に行くガラテアさんの背中を見ながら、しみじみと、戸籍上とはいえ、この方は義理だけど私のお姉さん、になるんだなーと不思議な気持ちになる。


 ルビーフォルンにいるときは、色々やることが多すぎて、あんまり接触したことがなかったんだけど、ていうか、若干避けられてるような気がしなくもなかったんだけど、さっきの反応を見る限りいい人そうだな。バッシュさんの奥さんもこんな感じなのかな。


 そんなことを考えながら、ガラテアさんについて歩いていたら、ガラテアさんが立ち止まって私のほうを振り返った。


「あのね、リョウさん、聞きたいことがあるのだけれど……」

「はい、なんでしょうか?」

「その、リョウさんが私のことを姉と呼んでくれないのは、私が最初リョウさんのこと、その、お父様の隠し子なんじゃないかって勘違いしてて……あまり優しく接してあげられなかったの、気にしてるからかしら?」


 え!? 私ってそんな風に思われていたの!?

 最初会った時、なんかドライだなーとは思ったけれども。

 けど確かに、突然養女にするって知らない子供つれてきたら、そういう疑惑が生まれるのも致し方ない。私としては、ただ名前を借りるだけっていう感じでお気軽に養女になっちゃったから、そういうのあんまり考えてなかったし……。

 確かに、ガラテアさんも奥様も私に対して接触してこなかった。ナチュラルに結構スルーされがちだから、私ったらてっきり貴族っていうのはそういうものなんかと思ってしまった。


 今思うと、奥様が仕切り越しでの挨拶だったのは、隠し子疑惑があったからかな。そうなると、なんか申し訳ない。


「あ、いえ、全然、そういうのじゃないです! 私は、もともと学校に行かせてくれるために名前だけ借りたって感じで、その、家族になるって感じで養女に入ったわけじゃなくて、だからお姉さまとか呼ぶのは違うかなって、そう思ってるだけで……! 深い意味はなくて!」

 私が必死に弁明していると、ガラテアさんはクスクスと笑ってくれた。


「それなら良かった。勘違いしてしまってごめんなさい。ある人に、リョウさんはそんなんじゃないって教えてもらって、ようやく最近になって納得したところなの。実際今までのリョウさんの行いを振り返ってみても、隠し子って感じでもないし、それに領地を安定させてくれたことをむしろ感謝してる。あなたのお陰で、このルビーフォルンの地も少し穏やかになって、お母様の発作も落ち着いてきたもの」


 ある人って誰だろ……タゴサクさんかな。まさかガラテアさんがタゴサク教徒ってわけじゃないよ……ね? それにお母様の発作と言うのも気になる。病気がちとか聞いていたけれど、結構深刻なのかな。


「その、奥様は、結構重いご病気なんですか?」

「病気というか……いえ、病気ね。私もお父様も見張っているのに、暇があれば魔法を使おうとするのよ。ほぼ寝たきりの状態なのに、それでまた魔法を使って身体を壊してしまうの。でも、リョウさんのお陰で領地が穏やかになってきたから、お母様が無理をして魔法を使う発作を起こさなくなったのよ。セキ様やリュウキ様がルビーフォルンにくるまでは、母の負担がすごくて、一時は命も危ない状態だったのに……もうすぐ体力も回復して、立ったり歩いたりもできそうなんですって」


 そっか、良かった。快方に向かってるなら良かったけれども。いやー、そんな弱った状態で、隠し子疑惑の私なんかが養女としてやってきちゃって、ホント申し訳ない。


「あの、奥様は、その私のことをバッシュさんの隠し子だとか思ってたりするんでしょうか? 私、全然違いますからね! 隠し子とかじゃないです。ガリガリ村っていうところの農民の子ですから!」

 そして今はコウお母さんの子! あえてお父さんとして名を出せと言うならば、アレク親分を推薦したい所存。


「大丈夫よ、お母様は最初はびっくりしていたけれど、私なんかよりも先にあなたのことを受け入れていたわ。……私ね、お父様とお母様の仲がいいことが何よりも自慢だったの。だから、あなたが来たとき、本当に辛くて……あなたに冷たく当たってしまったわ。勘違いだったのに、ごめんなさいね」


 いえ、こちらこそ紛らわしいことをしてしまってすみません。

 あ、あと、私に冷たく当たって、とかおっしゃっておりますが、その当の本人はまったくそんなことをされた覚えがないようなので、問題ありません。


「いえ、私のほうこそ紛らわしくてすみません。あと、ちょっと聞きたいことがあるんですが、そのガラテア様に、私のことを隠し子とかじゃないと、お話してくださったのはどなたですか? ……タゴサクさんですか?」


「え? いいえ、タゴサクさんじゃないわ」

 なんだ、よかった。一瞬ガラテアさんが、タゴサクの魔の手に引っかかってしまったんじゃないかと思って恐れていたけれど、そうじゃないならいいや。


「私に、リョウさんのことをお話してくれたのは、セキ様よ」

 そう言って、ガラテアさんは、頬を赤く染めた。

 お、おや? な、なんで頬を赤く染めておられるのだろうか……。


 た、確か、結構前にバッシュさんから、ガラテア様にはゆくゆくは魔術師であるリュウキさんと結婚してもらって、伯爵位を継いで欲しいみたいな話を聞いた覚えがあるんだけれども……。


 これは昼ドラの予感が……。

 

 私は波乱の予感に震えながら、ガラテアさんに案内されるまま大人しく自室にたどり着いた。

 ……よし、何もみなかったことにしよう。



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