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転生少女の履歴書  作者: 唐澤和希/鳥好きのピスタチオ
第2部 転生少女の青春期
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呪文の謎編⑤ 大雨注意報

 荷物を抱えたアランを置いて、私はルビーフォルンへと出発し、幾日かの旅を終えて何事もなくルビーフォルンへつくと、例年通りのタゴサク教徒による盛大すぎるお出迎えで屋敷の方たちが迎えてくれた。


 もう、慣れたから突っ込まないよ! それに、クロードさんも言ってたけど、ウヨーリ教という妖しげな団体はなりをひそめてくれてるみたいだし、このぐらいは大目に見ようという温かい気持ちである。


 ルビーフォルンで、いつもどおりバッシュさんのところに挨拶に行くと、タゴサクさんと、あと、珍しい人達がいた。


「あ、セキ様、それに、リュウキ様も。お屋敷にいらっしゃるなんて珍しいですね」

 数少ないルビーフォルンの魔法使いのお二人がいらっしゃった。

 いつも大体、領地内を駆けずり回っているお二人なので、鉢合わせするのはものすごく珍しい。


「久しぶりだね、リョウ君。それに兄さんも。元気そうでよかった」

 セキさんが、そう言って、挨拶をすると、すかさず私の隣にいたコウお母さんが、「兄さんと呼ばないでって言ってるでしょ!?」と鋭い眼光を放った。

 赤髪で、眉毛がりりしく気の強そうな顔をしているセキさんは、意外と粗忽者だ。口が良くすべる。


「あ、すまない。えっと……ね、ねえさん、でいいのだろうか?」

「コウちゃんでいいわよ」

「コ、コウちゃん……」

 青ざめるセキ弟を私は温かい眼差しで見つめる。

 コ、コウお母さん、まだ、ほら、兄がオネエという事実を受け止められてない弟にもう少し優しい呼び方を提供してあげて。


 青い顔で固まっている弟を見かねて、コウお母さんはフンと鼻を鳴らすと、「呼びづらいなら、コーキでいいわよ」とお慈悲を見せてくれた。

 さすがコウお母さん、慈愛に満ち溢れていらっしゃる。

 コーキ呼びならば何とか抵抗感がないみたいで、少し顔色を取り戻したセキさんに私は声を掛けた。

「本当にお久しぶりですね。私が学園に通い始めてからは、長期休みで帰ってきても、いらっしゃらなかったですもんね」


「ああ。今までは、領地を回って、何か問題があれば解決していくということを続けていたのだが、最近は大きな村に一人は、騎士職の者がいてくれるから、問題があればその者が、知らせに来てくれるようになったんだ。なので、今後はしばらくこの屋敷を中心として勤めていくことになると思う」

 ……騎士職? 

 あ! ああ、そういえば、一昨年、獣害問題の解決策として、騎士職の人を派遣させてた。出来れば、獣害の対策が終わっても、村にそのままとどまってもらいたいなーとは思っていたけれど、本当にそのまま留まってくれたのか。


「そうだったんですか。なら少しセキ様方も余裕が出てきそうですね。ものすごく大変だろうと心配してました」


 マジ大変だと思う、マジ。私が、ちょっと伯爵令嬢ぶって、淑女っぽくねぎらいの言葉を掛けると、セキさんの隣にいた魔術師のリュウキの体がピン! と言う感じではねた。


「いいえ! そ、そのようなご心配、もったいなく! 恐れ多いことだと思います! リョウ様の尊きお知恵、お恵みのお陰で領民は慎ましくも幸福な生活を……」

 と、リュウキさんがどこかのウヨーリ教徒みたいなことを口走った。そういえば、リュウキさんて魔法使いの癖になぜかタゴサク信者だった。


 私が、そっと部屋の端で待機しているタゴサクに視線を送ると、ハッとしたような顔をした彼が、前に出た。


「リュウキ様! リョウ様のお話を軽々しく口に出してはなりませぬ! 尊きお話は文字にて広めよとのお考えですぞ!」

「あっ、失礼しました!」

 そう言って、リュウキさんが、額を床に擦り付けそうだったので、「リ、リュウキ様! 領民のために必死で動いてくださる魔法使い様に頭を下げられますと、私が困ってしまいます! 大丈夫ですから!」と言いながら、それを全力でとめて、落ち着かせる。


 リュウキさん、怖い。魔法使いなのに、リュウキさんもすっかりタゴサク信者。タゴサクさんのお力ホントすごいな……。よくよく考えたら、他領にまでウヨーリの教えなんていうものが広まったのって、リュウキさんのせいなんじゃ……。だって、タゴサクさん基本、屋敷にいるし。リュウキさんは外で回ってるわけだし……。


「えーっと、とりあえず座ろうか。色々話し合いたいことがあるんだ。帰って早々で悪いけどね」

 そう切り出したのはバッシュさん。いい感じで話しをそらしてくれて助かった。

 私はお言葉に甘えて、みんなと一緒にソファに座る。


「話し合いたいこと、ですか? 酒造りのことですか?」

「お酒造りのことは順調だ。腐死精霊使いを領地に招いて、人数も増えてきているし、生産には問題ない。それよりも相談したいのは畑の雨対策のことなんだ……」


 そうバッシュさんは切り出してから、最近よく雨が降るようになったという話を聞いた。今はほとんど被害といえるほどのものはないけれど、これからたくさん雨が降っても、畑に被害がでないようにしたいらしい。


「雨対策…ですか。ありがたいことにここは穏やかな気候という印象だったので、あまり今まで気にしてなかったんですが、最近雨がよく降るんですか?」


「ああ、最近雨が良く降るんだ。気にしすぎかもしれないが、私が学生だった頃、図書館で、百数十年前ぐらいに大雨に見舞われた年があるという文献を読んだことがあってね。それで畑が駄目になると言うことがかかれていた。と言っても、その頃は魔法使い様がたくさんいらっしゃる時代だから、それほど被害と言えるようなものはなかったみたいだけど。今、この領地に大雨が降られたらどうにも出来ないから、対策をしたいんだ」


「私も図書館で、その本を読みました。最近雨が良く降るんですか……。大雨の年の予兆なのかもしれませんね。その本でも、少しずつ雨が降り始めていたなんて書いていたような気もしますし。分かりました。完全に被害を防げるかは分かりませんが……私、前からやってみたいことがあったんです。今日はセキさまもリュウキ様もいらっしゃるし、丁度いいかもしれません。やるにはお二人の力が必要なので」


 私はそう切り出して、畑で育てる陸稲ではなく、水田に切り替えるべく話を続けた。


 地質によって難しい地域もあるかもしれないけれど、できるところは水田に切り替えて稲を育てたいこと。その際に必要になる治水工事は、セキさんやリュウキさんの巡礼が落ち着いて、屋敷に長居出来そうというタイミングで大変申し訳ないけれども、魔法使いのお二人にやってもらうのが手っ取り早いということ。

 畑に直接種を撒く陸稲とは違って、水田栽培は苗を埋めて育てるから、栽培方法も違うこと。

 また、ルビーフォルンで育てている作物は、お米だけじゃないので、もちろん他の作物を育てる畑があるわけだから、畑の雨対策として、水はけを良くするために、傾斜を作ったり、うねを高くしたり、籾殻を混ぜて対応してもらうようにと付け加えた。


「水田については、急ぎで育て方等、注意点を書きますので、それを書き写す人を何人か貸してください」

 私はある程度の今後の流れを説明してから、バッシュさんにそう告げた。栽培方法が陸稲とは違うため、それについては、農民の皆さんが混乱しないように私が紙に書くのが一番だと思ったからだ。村には先ほども聞いたけど、騎士職の人が近くに待機してるらしいので、何かあればその人達が私が書いた説明書を元に対応できるはず。


 私は、治水工事事業にかなりノリノリだったけれども、領主のバッシュさんの顔は少し渋い。

「文字を書ける者を貸し出すのはもちろん、構わない。屋敷の使用人の中にもいるし、いざとなったら商会から借り出せる。しかし、水の中で稲を育てるというのがうまく想像できないんだが……大丈夫なんだろうか?」


 ああ、そうか。今まで陸稲しか知らない人からすれば水田なんて想像すら出来ないよね。しかもそれを提案するのが私みたいな女の子なんだから、余計だ。


 バッシュさんが心配するのも当然だなと思っている私のその横で、『バッシュ様、何を心配されることがありましょう! リョウ様のおっしゃることなのですから、確かなことでございますぞ! リョウ様は、天より遣わされたお方!』とおっしゃるタゴサクさんと大きく頷いているリュウキさんのエキサイトした様子のほうが、私心配でならないよ。

 12歳の女の子の言うことをほいほいと聞くのはどうかと思う!


「バッシュ様、大丈夫です。むしろ、水田栽培の方が病気にもなりにくいですし、大きく作物が実るはずです。それに、水の中で育てられることは、えーっと、ガリガリ村の時に確認済みなんです。ただ、その時はおおがかりな治水工事が出来なかったので、今までお話したことはなかったんですけれど」

 私は腕を組んで迷っているようなバッシュさんを見つめる。どうだろう。今の説明でどうにか納得してくれないだろうか。


 私が固唾をのんで見守っていると、バッシュさんは大きく頷いた。

「そうか……うん、そうだな。今までリョウには、助けてもらっている。分かった。やってみよう」

 そう言って、バッシュさんは笑顔を見せてくれた。

 よっし!


「ありがとうございます! あ、それとセキさんや、リュウキさんも、治水工事の仕方は大丈夫そうですか? 一度近くの村で試しにやってみましょうか?」

 決断してくれたバッシュさんに最大の感謝を述べると、セキさんに話題をふった。この事業を成し遂げるために一番重要なのは魔法使いのお二人の力だ。

「そうだな。一度そうしたほうがいいかもしれない」

 セキさんがそう言って頷くと、早速明日から、治水工事のために農村に降り立つことに決まった。


「リョウ、すまないね。帰って早々相談ばかりで。いつも感謝しているよ。……リョウをルビーフォルンに招いてくれたアレクにも感謝しないとだね」

 バッシュさんはそうしみじみとした様子でおっしゃった。アレク親分の名前がいきなり出てきてびっくりする。


「あ、あの、アレク親分て、その後何か連絡とかきてたりしますか?」

「いや。連絡はない、アレクのことだから死んでるなんてことはないとは思うが、不気味なくらい何の噂も聞かない。……反乱なんか起こさず、このまま大人しくしてくれるとありがたいんだがね」

 そう言って、ちょっと笑うバッシュさんにセキさんもコウお母さんも少し笑って応える。

「アレクさんのことだから、そうそう大人しくしてる様子が思い浮かばないな」

「ふふ、案外、最近美味しいお酒が安く手に入るようになったから、飲んだくれてるのかもしれないわね」

  そう言って、なんだか懐かしむような様子の3人をみて、ちょっと切なくなる。私は、学生の頃とかの親分をしらない。知ってるのは一緒に山暮らしをした2,3年ぐらい。

 親分と過ごした時間はコウお母さんたちと比べて少ないし、彼の顔は怖いし、声も怖いけど、私は親分のことが大好きだ。でも、コウお母さんやバッシュさん、セキさんの輪にはなんだか入れない雰囲気でちょっと悔しい。


 それから、アレク親分のことだけじゃなくて、ルーディルさんやクワマルさん、ガイさんという山賊メンバーの面々のお話にまで膨らんだ。

 懐かしそうな皆の顔が、やっぱりちょっと切ない。


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