農村編⑩-実験と突然の訪問者-
そして、魔法使いが去って、数ヵ月後。
案の定というか、なんというか、畑はやっぱりだめのままだった。
なにこれー、土壌環境よくなってないんですけれども!作物育たないんですけれども!
魔法使いが急激にはやした後の植物を刈り取り、再度土を耕し、雑草をむしり、種をまいたが、今までの同じように、というかそれ以上に植物が育たない現象が発生した。
魔法使いすごいなー、魔法があれば私なんて・・・・・・とか、しんみり思ってたけれど、なにこの期待はずれ感! しんみり損です。
魔法使いさんが行なったのは、その場限りのものだったというわけで。
魔法もそこまで万能ではないということです。
所詮は魔法も人間が行なうこと。完全なものなどないのでしょう。
なんだか、ちょっと魔法使いに親近感。
あの魔法使いの二人もイケメンのお面をつりさげて涼しい顔をしてましたが、所詮は人間ということです。
ぐふふ。なんかよくわからないが胸のつっかえが取れた感。
またしても不作に悩むガリガリ村一同でしたが、村長さんはこの現象については、見越していたようで、「ああ、やっぱりかー」という風に言っていた。
以前も魔法使いが村に来たときに、同じことをしてもらったが、そのときも、その時だけよくて、その後の収穫は不作という感じだったらしい。
わかってたのなら、魔法使いにそのことを訴えればよかったのにっ! 村長っ!
作物が魔法でぐんぐん成長したのを見て、テンションあがっちゃって、何もいえなかった、的なことを話してた村長。
うん、気持ちはわかるよ。
アレ見ると、なんかなんも言えなくなるよね、わかるわかる。
しかし、村の一角にこの不作現象とは無縁のように、作物の芽が出ている畑があるのです。
そう、リョウちゃん監修のジロウ兄ちゃん畑です☆
魔法があればー、私が、ちんたら、じみじみ、農業の発展のために力をいれてるの無意味じゃない? と、若干すねまくっていた私ですが、念のため、対策を施していた甲斐があったってものです。
ジロウ兄ちゃんは15歳になって、大人として認められ、自分の畑を持つにいたったわけです。
といっても、新しい土地に畑を耕したわけではないので、お父さんの畑が少しジロウ兄ちゃんのものになっただけですが。
無言系少年のジロウ兄ちゃんは、私が何かを言うと、黙ってうなずいて、私の言うとおりにしてくれるのです。無言系少年は素直系少年でもあるようです。
私はジロウ兄ちゃんと、私の面倒をみる係りであるマル兄ちゃんと一緒に畑仕事にせいを出しました。
前世の記憶がある私がやれば、作物を育てるのも余裕だぜ! と思ったりもした時期がありましたが、農業初心者なため、まず、実験をすることにしました。
まずジロウ兄ちゃんの畑を4分割します。
①藁や雑草の燃えカスを混ぜた土に、川辺に実ってたツルマメの種と陸稲を混合した畑
②燃えカスを混ぜずにツルマメと陸稲を混合した畑
③燃えカスを混ぜた土にいつもどおり陸稲だけ埋めた畑
④なにも埋めない畑に分けました。
そして、現在一番作物が生い茂っているのは、①藁の燃えカスとツルマメの混合畑。ついで②燃えカスを混ぜずにツルマメと陸稲を混合した畑です。①と②ではほとんど大差なかったけれども。
もちろん、畑に二つの作物を育てているわけなので、育てている陸稲の数は2分の1ですが、混合しない畑だと基本的に全滅の状態なので、半分でも実っていれば上々です。
③の肥料(燃えカス)を混ぜて種をまいた畑と、何もしないでタネをまいた村民の畑とは差がありませんでした。ほぼ全滅状態です。
大事なのは豆科の植物と混合させることのようです。
みなさんわかりましたか?
という以上のあらましを、最近発足した「村民の集い」の場で発表させていただきました。
農業のことや、そのほかの連絡事項を定期的に発表する場です。
私が作りました。
木の枝で作った教鞭で地面に図解しながら(文字がかけないので絵でのみ)、農業の実験報告をする私リョウちゃん4歳。
リョウちゃん魔法使いじゃなかった事件のあと、村人たちは、魔法使いじゃないんだーと最初こそがっかり感がありましたが、でも私の優秀さが変わるわけではありませんので、
必死にできる子アピールをして、どうにか、やっぱりすごい子の立ち位置をキープしています。
「はい! 質問ですが、④はどうして何も埋めないのですか?」
はい、いい質問です。なかなかいい質問ですね、村長の息子よ。
「畑を休ませた後にタネを埋めるとどうなるか実験がしたかったからです。休耕地というやつです。今回蒔いた分の収穫が終わったら、この休耕地にもタネを埋めて、作物の生長を見守ろうと思ってます」
という感じで、講演会を開き、無事に終わらせました。
最初こそ、かわいこぶって、舌足らずな話し方をしていましたが、面倒くさくなったし、なんか村のみんなも、別に変に驚いたり気味悪がったりしないので、おとな顔負けのリョウちゃん生活です。
このまま成長すれば、私はゆくゆくはおそらく村長だな。実力的に、うん。
村長の息子よ、申し訳ないが、君は副村長になりたまえ。うむ。
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私が農作業について口出しをするようになってから1年。作物の収穫については、なかなかいい結果を得られていた。
結果的にはやはり休耕地を設けたほうが育ちがよい、ということになり、畑を3つに分けて、ひとつは休耕地にし、ローテーションで回していく流れに決まった。
ただ、肥料に関しては、要検討だ。雑草の燃えカスでは、あまりいい効果が得られない。腐葉土みたいなもののほうがいいのかな・・・・・・。
理想は水田だけども・・・・・・。
あとは、米と一緒に豆もたくさん生産できるようになったので、味噌や醤油の開発を本腰入れてはじめようか・・・・・・
そう思っていた矢先だった。
私はニタニタ顔の両親に呼び起こされて、ある男性を紹介された。
見ため的には20代後半ぐらいの黒髪の男性だ。
名前は、「クロード=レインフォレスト」というらしい。裕福そうな格好をしていた。
他の兄弟はみんなまだ寝ている。当然だ、まだ夜明け前で、外も暗い。
私は寝起きではあったけれど、頭はすごくはっきりしていた。
すごくいやな予感がしていたからだ。
そしてその男性は私のほうに手を差し出して、にっこり笑いながら、
「一緒にいこうか」といった。
お母さんとお父さんが座っているテーブルに、3枚の銀貨らしき貨幣が置かれていた。
私は状況を把握し、そして、思考がとまった。
「リョウちゃんは聞き分けがいい子だから。わかってくれるわよね?」
お母さんにそういわれている自分をまるで遠いところから眺めているような感覚のまま、私は、黒い髪の男の物であろう馬車にのって、
売られたのだった。
ああ、また、私は愛されなかった。