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Story1 - 2

□ ■ □ ■ □ ■


日誌を提出し、職員室から寮への道程。先頭を歩くいつも元気いっぱいのルタスが、珍しく思い悩むように俯いている。

そんなルタスをラゼッタやアリエッタは……勿論私も気になっていた。

いつ話を切り出そうか考えているとルタスは唐突に顔を上げ、真正面を見据える。

彼は迷うような素振りを見せた後、歩みを止めた。


「あの……さ、」

「どうしたの?」


「オレの同室のヤツがなんていうか……」

「……何かあった?重い子?」


何か事情があることを察した私は口下手のルタスに助け舟を出す。

ルタスは私をちらりと見ると、頷いた。二人は黙って彼の話を待っている。


「休みが明けたらすぐにレクリエーションがあるだろ?せっかく高校生になったんだし、楽しく過ごしたいじゃんか」

「同室の子にレクリエーションに出てほしいのね」

「うん。……でもそいつ、光がトラウマみたいで……」

『そとにでれないの?』

「そうみたいなんだ……一人になるのも苦手みたいで、オレが学院に行くときはいつも引き止めてくるし。

 でも、悪い奴じゃないんだ。無口だけど、話しかければちゃんと答えてくれる。」


ルタスは一つ一つ言葉を選びながら淡々と話す。

彼の同室の生徒は私達と同じ一年Ⅲ組……だった気がする。高校生になって同じクラスになっても一度も会ったことがなかった。

先生も何も言わないし、そういうものだと思ってあまり気にしないことにしていたのだけれど今の今まで忘れていた。ちなみに、使われていない机も彼のだ。

話に聞くかぎり、光線過敏症……ではなさそう。【トラウマ】だって言ってたし。トラウマになるくらいの光って相当だよね。

【一人になるのも苦手】?過去に一人の時に何かがあった?それとも一人の時に例の【トラウマ】を植えつけられた?

ああっもう、思考が纏まらない!夜に考えることにしよう。とりあえずルタスが何を言いたいのかは分かった。


「オレ、そいつに学校に来てほしいんだ!だから……」

「協力してほしいんでしょ?承りました!」

「あんたがそう言うんだったら、悪い奴じゃないのね。」

『わたしもきょうりょく する』


うまく伝えられない自分にやきもきしたのか、半ば叫ぶように言う。

私達はそんなルタスに向けて微笑む。泣きじゃくる幼子に安心していいよ、とでも言うように。

暗い顔から一転、お菓子を与えられたときのようにパッと笑顔になった彼は、気分が上昇しているのかたたた、と数m先に走るとこちらを振り向いた。


「じゃあ明日、昼にオレの部屋な!」


そう言い捨てると、寮のほうに向き直り入り口のほうへと駆けて行ってしまった。

ラゼッタは呆れたように溜息を吐くと、少年の後を追うように歩き出す。

それに倣い、アリエッタも歩き出した。


「…………。」


しかし、私は暫くその場を動けなかった。

背後からの絡みつくような視線……がしたのだと思ったのだが、周りには先行してしまった二人しかいない。

気味の悪さに身震いしたが杞憂だと思うことにして、二人に向かって走り出した。


□ ■ □ ■ □ ■


かちゃり


「ただいまー」


【111号室】と表記されたナンバープレートの真横のドアを鍵を開けて入る。

……それにしても、本当にこの学院はお金持ちだなぁ、と思う。

だって、自分の部屋やパートナーとして配属された同性の人物の部屋、更にリビング。この三部屋で【一室】なのである。

その広い【一室】が、この寮に約160室ほど……。だから、この寮は学院を抜いた周りの学校より大きい。学院も相当の大きさだしね。

私の言いたいこと、これで分かって頂けたかな?まぁつまり、そういうこと。

話はさておき、靴を脱いで自由時間を過ごす部屋のリビングに入ると、もう既にパートナーは帰宅していた。


「お帰りなさい。」

「うん、ただいま。」


彼女は膝の上に広げていた雑誌に視線を戻すと、傍らに置いてあった湯気のたつカップを呷った。

カシャンと音をたててテーブルのソーサーにカップを戻すと、雑誌を閉じた。彼女の薄紫色の三つ編みと、チャームポイントともいえる眼鏡が部屋の電気の光に反射する。

この人は、一年Ⅲ組のクラス委員長を務める ヴィオラ・ニッカ。過去に何かがあったりとかトラウマとかはないが、動物が苦手らしい。

―――――そしてこのグリュック学院の院長、ジョープ・ニッカと、副院長ライラ・ニッカの娘。……ジュリナの、孫。


「あなたのぶんの食事も持って来ましたので、食べましょう。」

「本当?ありがとう!助かるよー」


よく見ると、テーブルの上に食事が二膳乗っている。どうやら、朝昼晩配布される食事を食堂から持って来てくれたらしい。

私がヴィオラの真正面に座って食事を食べ始めると、彼女はこちらをじっと見つめてきた。

観察するようなねちっこい視線に、食べ物がまともに喉を通らない。

顔面に視線がビシバシ当たる。そんなに見られると食べられないんだけど……。

意を決して、尋ねてみる。

「さっきから、どうしたの?」

「っいえ、なんでも。ただ、……」


この部屋に、身を切るような緊張感が漂う。気まずい雰囲気に表情が固まり顔が強張る。

 (ちょっと待ってなにこの威圧感。飯不味くなるって!誰かこの空気なんとかして……。)

ヴィオラは食事に手をつけておらず、俯きがちになって視線を頻りに右往左往させている。頬から顎に向けて汗が滴り落ちている。

いつも冷静な彼女が理由は分からないがこうも焦るとは珍しい……。今も頭の中で必死に考えを巡らせているのかもしれない。

別に焦るようなことは私が見る限り何もしていないと思うのだが。ていうかご飯冷めるよ。

沈黙し続ける目の前の女生徒を放って、自分は煮物にフォークをぶっ刺して口の中に入れた。濃っ!なにこれ濃っ!!味付け失敗したのかな?あ、でも美味しい。

舌を突くような塩辛さと溶けるような柔らかさ。しょっぱいけれど、なるほど、これはなかなか……。


「セレナーデ、あなたは……知っていますか?」


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