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Prologue - 2

5分ほどたっただろうか。ミュルは瞼を押し上げる。

入り込んでくるのは、目を閉じる前と変わりない冷たい冷たい石の床に自分の細い脚、引いてある茶色の少しも暖かくないボロ布。

ミュルは正座していた脚を崩すと、薄い布の上に寝転がった。これが、自分の寝床。…あるだけ、マシなのかもしれない。

ミュルは貴族だった。ミュル・フォン・アールシュトファー。兄はフェイド・フォン・アールシュトファー。

ミュルはアールシュトファー家の中…この部屋の外にだって一度も出たことがないため世間のことなど殆ど知らないが、アールシュトファー家の主である

父は、爵位は持っていないらしい。

仮にも貴族であるのにミュルが何故こんな酷い仕打ちを受けなくてはならないのか。昔から、何度も何度も考えた。

兄やジュリナから教えられた少しの言語、周りの人間達が使う言葉。それらを全て使って考えて、でも。

父が自分を、暴力をふるうほど嫌いだから、としか答えは出なかった。

たとえ兄より先に自分が生まれたとしても、自分がどんな髪色、声音、容姿だったとしても。

結果は変わったりしない。絶対に。保証はない。でも分かる。

むしろ、……名前を与えられただけで、幸せなのかもしれない……。


ミュルはこの閉鎖空間で、名前も分からぬものを求めていた。

随分と昔のことで、はっきりと覚えてはいないが…自我が芽生えてから、もうずっと。

自分を生んでから離れ離れになりこの目で見たことのない母に、ミュルは微かな期待を寄せていた。

激昂し自分を殴る父や、冷たい視線を寄越してくる使用人達に止められているだけで、本当は母も自分に会いたいと思ってくれているのでは、と。

真偽は定かではない。しかし、そう思えば明日も生きていこうと思えるのだ。

ずっととは言わない。一度だけでいい。一度だけでいいから、母の腕の中に抱かれたい。そしてその手で、頭を撫でてほしい。

ミュルはただ、母の愛と温もりを感じたいだけなのだ。何も可笑しいことはない、ごく普通の願い。それは、小さい希望。

ふと視界に、窓が―――鉄製の窓が、映った。


ミュルは起き上がる。この部屋の中で、唯一自由に開け放つことを許されている小さな窓に、手を掛ける。

錆び付きぎこちなく開いたそれの向こうには、覚めるような青が広がっていた。前から、娯楽も何もない部屋で過ごすなか、この景色だけが楽しみだった。

灰色だったり…紅かったり…青空の中雲が浮き上がっていたり…いろいろな空が大好きだった。

見ていて飽きないからだ。この空を飛んでいけたら、どんなに嬉しいことだろう。

ああ、飛んでみたい。この雲もない真っ青な空を、風を、翼を広げて自由に飛ぶあの鳥のように、感じてみたい。


がしゃん


けれども、それを無情にも窓枠に取り付けられた鉄格子に阻まれる。

飛びたいのに飛べない。自由の身にになることができない。どうしてわたしは外に出られないのだろう。兄は出られるのに。父母も、メイドも執事も出られるのに。

たまに外で遊ぶ、子供達の楽しそうな声がする。この窓から覗き見ると、男子も女子も皆仲良く手を繋いで……。

その様子を見ていると、なんとも言い表せない気持ちが自分の奥底から這い出てきそうになるのだ。怒りにも似た、この醜い感情が。


なんで……!?わたしはでられないのに、どうしてあなたたちはでることをゆるされるの!


八つ当たりだと分かっている。当たる相手を間違えていることも分かっている。

しかし、悔しくて悔しくて仕方ないのだ。ずるいとさえ思ってしまう。

自分の何がいけないのだろう。そしてそれを知れば、自分は納得するのだろうか。

昔、父に聞いたことがある。何故、こんなことをするのかと。父は言った。


『そんなこともわからないのか?やはり貴様は欠陥品……ゴミだ!』


お前は一生ここで這い蹲っていればいいのだ。

まるでそのためだけに生れ落ちてきたとでも言うように、当然のように自分を蔑み、見下す。

そんな父のことが、ミュルはただただ怖かった。怖くて怖くて仕方なかった。

嫌いでも憎いわけでもない。恐怖。怖かったのだ。


傾きかけている陽を眺め、わたしは――――――。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



それから二年後。


改めて私、ミュル・フォン・アールシュトファーは、無事あの地下牢から抜け出すことに成功。最後に兄に相見えることは出来なかったが……。

現在私はセレナーデ・フライハイトという平民としてこのグリュック学院という施設に通っている。

この施設は普通の学校と対して変わらないのだが寮があったり、何かと訳ありな生徒が集まっている。

生まれて此の方幽閉されていた私や、虐待されていた人、事件に巻き込まれてトラウマを植えつけられた人、精神的事情により顔を隠している人、etc…。

小学校や大学校までの年齢の400人ほどの大勢の生徒が集まっているため、外の人間もグリュック学院を【学校】として扱っている。

今はお昼。高校一年生になったばかりの春。―――――ここから、私の物語は始まる。


1と2の分け目を間違えた気がする。

プロローグ終わりです!誤字脱字があった場合は報告よろしくお願いします。

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