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閑話:ユリア・ヴィルヘルムの場合


あの女に出会って、アタシは変わった……のかもしれない。


アタシは小さい頃……といっても大差ないが、十歳のときに火事で両親を亡くした。……まだ三年しか経っていない。

周りから「呪いの子」と蔑まれ、アタシが何か反応すれば「親無しのくせに」やら「みなしご」と嘲られる。

小学生の頃はそんな親子達に囲まれ過ごしたせいか、……グレたというのだろうか。とにかくアタシは反抗的な性格になってしまった。

もうアタシには優しくしてくれた親も、友達もいない。皆、掌を返すように離れていってしまった。

唯一の歌手という夢も、粉々に砕けてしまった。―――けれど、歌うのをやめたわけではない。

今でも歌うのは好きだ。聞いてもらえなくてもいい。ただ歌えさえすれば、楽しかったから。


親がいなくなり一人となったアタシには、金もない。家も焼けてしまったし、当然人間だから腹も減る。

生活のできなくなったアタシは、元々家があった近くの路地裏に寝そべっていた。

臭いゴミや黒いナイロン袋、猫や犬の死骸がごろごろ転がっている、汚い路地裏。そんなところに寝そべっていたらアタシも汚れちまう。

けど、もう動く力もない。腹の虫が大合唱している。このまま、自分も猫や犬の死骸と同じになるのか。

大好きな父さんも母さんももう逝っちまった。歌ってもまだ未熟で、金なんて貰えない。

諦めの気持ちが強くなる。そのまま目を閉じようとしたときだった。


「君、大丈夫かい?」


低い男の声がした。そっちを向くと、一人の男とその手には小さい手が握られている。子供、か?

男は倒れているアタシを抱き起こすと、持っていた水を差し出した。

喉がからからだったアタシはすぐさま冷たいそれを受け取ると、一気飲みしてペットボトルを空にしてしまった。

しかし男は子供に向ける様な笑顔で空になったペットボトルを鞄の中にしまうと、アタシをゆっくり立たせて手を握った。

男の両手はもう一人の……眼鏡をかけた三つ編みの女の子と、アタシで埋まっている。

男はそのまま、老人の散歩くらいのスピードで歩き出した。


(……こいつ、ロリコンか?)


あのとき十歳だったあたしは、そう思った。もしロリコンだったら危ないし股間でも蹴ってやろうと思ったけど、連れて行かれたのは大きな建物だった。

数年前に両親に連れて行ってもらった遊園地くらいの広さ。花壇には青や白、赤などの様々な色の花が植えてある。

家の近くでは見たことのなかったものが溢れている。自分にとっては珍しいものばかりで、始終落ち着きなくきょろきょろしていた。


「ヴィオラ、この子を院長室に連れて行ってくれないか」

「分かりました、父さん」


建物入ると男はにこりと女の子に向かって微笑むが、それに対し女の子はさらりと冷たく返す。

なんだ、やっぱり娘だったのか。

後ろから「最近ヴィオラは冷たいなぁ……」と悲しみに染まった呟きが聞こえた。……頭の中から自然にお疲れ様、なんて言葉が浮かんできた。


ヴィオラと呼ばれた少女がアタシの手を引き、階段を上って装飾のされた扉を躊躇なく開ける。

部屋の中には、薄紫色の髪の毛の女性がソファに座って湯気のたつカップを持っていた。

ヴィオラは「母さん」と女性に近寄る。女性は「あら……」とヴィオラとアタシを交互に見た。


「ヴィオラ、その子は?」

「さあ。父さんが拾いました」


拾うって……犬猫と一緒にすんじゃねーよ。そう思ったが、ヴィオラの母がいきなりアタシの頬をハンカチで拭ったので、驚いて喉の奥に引っ込んでしまった。


「この子は人間よ。『拾う』なんて言い方はしないで、ね」

「はい」

「こんなに汚れて……辛かったでしょうに」


ヴィオラの母と思われる女性は少し強めの力でアタシの体の汚れを粗方落としてくれた。

すると、後ろで扉の開く音がした。さきほどの男だ。

男はアタシの目の前に立ち屈んで目線を合わせると、路地裏のときと同じようにふわりと微笑む。


「君は、今からここの生徒だ。そして、僕達の家族。よろしくね」


口から情けない声が漏れ出る。生徒って……家族って、どういうことだ。

そんな表情が読み取れたのか、男は「自己紹介が遅くなったね」と言い、


「僕は、ジョープ・ニッカ。この学院の院長。あっちが僕の妻のライラで、副院長。そしてあの子が娘のヴィオラ。」


わざわざ手で指し示し説明してみせるジョープという男に、こいつは妻と子供が大好きなんだな、と感じた。

それにしても、【学院】とか【院長】とか【副院長】とか、どういうことだ?ここは病院か?……でも病院に遊具はない、よな。

院長(?)の顔をじっと見ていると、副院長(?)がくすくすと笑った。


「もう、あなたは本当に……ほら、ぽかんとしちゃってるわ」

「いやぁ、はは……ごめん」

「まずここの説明からしなくちゃ。……その前に、名前はなんて言うの?」

「……ユリア・ヴィルヘルム」


姓まで言うと、副院長(?)は はっとしたような顔で、「そう……」と呟く。

大人二人は身を寄せ合って少しの間こそこそと話をすると、アタシのほうに振り返り、頭を撫でてきた。


「ここの説明をするわね。この建物は―――」


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


説明を聞き分かったことは、ここは所謂学校だということ。

そしていろいろな『事情』を抱え込んだ子供が多く通っていること、勿論普通の子供も通っていること。

寮生活で、一人一人が自立して社会に出て行けるように教育しているということだった。

正直そんな説明されても全然分からないが、とにかくここが『学校のような施設』だということは分かった。院長や副院長のことも納得できる。

流れで学院に通うことになってしまったが、アタシはあまり乗り気ではない。通いたいと言った覚えもない。というか言ってない。

院長達は『一週間に一回必ず行ってテスト受けてくれればいい』と言ってはいたが、前の学校で陰口を言われながら過ごしたアタシには、もううんざりだった。


ちょっと長くなったので分割。

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