Story4 - 2
引き続き注意!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
青々とした葉が生い茂る木々。
下を見れば土と苔、雑草しか見えない。
「そういえば、ラゼッタは薬草の外見知ってるの?」
「ええ、文献の写真で見たわ。深緑の、葉の表面につやがある薬草……」
「つや、つや……」
膝を折り生えている草を手で弄ぶ。
森なんてあちこちに草が生えてるし、そんな簡単に見つかるものではない。
五人でそれぞれ捜すとしても、一時間とか二時間やそこらで見つかるわけがない。
目印は深緑で表面につやのある植物、それだけだ。先輩達のために、絶対見つけ出してみせる。
私はそう意気込むと、目を凝らし手始めに深緑の植物を捜す事にした。
しかしふと視界の端に映った人影が、私の関心を惹きつけた。
たった一人だけアリエッタについて来てもらい叢に座り込んでいるその人影の肩を叩いてみる。
ビクリと大袈裟なほどに跳ね上がった影はどうやら女性だったようで、ぺたりと地に着いた脚を露出する私服のスカートが見えた。
こんなところで何をしているのかとか、具合が悪いのかと顔色を窺うために顔を覗き込んだのだが。
「あれっ……」
女性の顔は顔面の下半分しか見えない。というより、殆ど口しか見えていない。
草木に紛れ込みそうな黄緑の髪の毛が、わざとなのかそうでないのか目や頬を隠してしまっている。
ぶるぶると震える女性に、やはり具合が悪いのかと思った私は、彼女に声を掛けた。
「あの、すみません。大丈夫ですか?」
「ひぇあっ!?」
女性は裏返った声で跳躍すると、私達から離れてしまう。
ばさりと揺れる髪がついに顔の前面を覆い隠してしまい、どこかのホラー映画の幽霊のようだ。
隣にいたアリエッタはいつのまにか開いた距離を詰めてノートを見せていた。
「あばばばば……ななな、なんですかぁ……」
『いきなりおどろかせてしまって すみません。おなまえは なんというんですか』
怯えながらもノートを見た女性は、小さく「ぶ、ブランシュ……マドウィードですぅ」と答えた。
私服ということは先生か大学生だろう。背は、ラゼッタより少し高いくらいだ。
そこで私は、ブランシュさんが薬草について何か知っていれば教えて貰おうという案を思いついた。
知らないならそれでいいし、知っていれば万々歳だ。
「ブランシュさん。この森に薬草があるっていう噂、知ってますか?」
「やっ、薬草?そそ、それなら……あっちにあがっ!」
「大丈夫ですか!?」
向かって右の方向を指差したブランシュさんは、舌を噛んだ拍子に転んでしまった。
……何もないところで転ぶ人、初めて見た……。
舌と膝が痛いのか呻くブランシュさんにアリエッタは手を差し伸べたが当の本人は「え、え……」と困ったように
きょろきょろと辺りを見回し、最終的には自力で立ち上がって森の奥に走っていってしまった。
いくら低木だからといってもこんな時間に森の奥に入るのは危険だと引き止めようとしたが、ブランシュさんの姿は既に消えていた。
「……行っちゃった」
『やくそう さがす』
「……そう、だね。ルタス達に知らせよう」
私達は新しくブランシュさんから得た情報を少し離れたところで探索をしていた三人に知らせ、自らも薬草探しを再開した。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「あっ!!」
集中していた私の耳に、ルタスの叫び声が飛び込んでくる。
いったいなんだと探索を中止しルタスを見ると、彼は何かを手に持っていた。
近づいて彼の手の中のものを見てみるとそれは、話に聞く深緑でつやのある葉だった。
「こ、これって!」
「ラゼッタ、これか!?」
「……本当にあったのね」
目前に突き出し瞳を輝かせるルタスに苦笑するラゼッタも、どこか安堵しているようだ。
これをライラさんに頼めば、ローレルさんは……。
『はやくかえろう もう くらくなってきてる』
「うん!」
低木の多い森は、見上げれば空が見える。
暗くなり月がうっすらと光る空に、私達は急いで院長室に向かった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「副院長先生!」
院長室の扉を体当たりするように押し開ければ、目の前には今まさに助けを求めている人物がいた。
ライラさんは首だけをこちらに向け目を見開いている。いきなり押しかけてきたのだ、当然だと思う。
しかし今はそんなことを気にしてはいられない。
事情を話し薬草を渡せば、ライラさんは力強く頷き「任せてちょうだい」と答えた。
数分か、はたまた数十分か。
乾燥機で乾燥させた薬草は、他の生薬と調合されローレルの部屋で見たような小さな紙袋に入れられた状態で、セレナーデ達に渡された。
そのまま急いで寮に走ったセレナーデ達は、128号室に駆け込んだ。けれどそこで見た衝撃の光景に、一行は足を止め固まってしまう。
ドロッセルのすすり泣く声。彼女の傍らで横たわっているローレルは、目を固く閉じたままぴくりとも動かない。
力の入れられていないローレルの手を握って祈るような体勢で肩を震わせるドロッセルに、誰かが「うそ」と呟いた。
手渡された紙袋はセレナーデの手の中から滑り落ち、中身が床にばら撒かれた。
ローレルは、永遠の眠りに就いたのだ。
□ ■ □ ■ □ ■
葬儀を済ませた後も、ドロッセルは目の下を赤くさせ気落ちした様子であった。
それも当然だ。たった一人だけの親友を亡くしたのだから。
セレナーデはそんなドロッセルを慰めようとしたが、ラゼッタやアリエッタに制止されてしまう。
いつもは騒がしいルタスも今回ばかりは空気を読んで沈黙していた。ジルトは言わずもがなだ。
ジョープやライラは、本人の意思を尊重したがやはり引き摺ってでも病院に連れて行くべきだったと悔やんでいる。
ローレルと部屋のパートナーであった白髪の女性も、泣きはしないが一度も喋ったりはしなかった。
セレナーデは自分の心を巣食う感情が分からなかった。周りにいる人間の死を、彼女は一度も経験したことなどなかったからだ。
ローレルは、きっととても苦しくて辛かったはず。でも未だに『ローレル・カザノヴァは死んだ』ということを受け入れることなどできない。
しかし彼女はもういない。『亡くなった』からだ。どんなに否定しても、それは間違いのない事実なのだから。
セレナーデは一人取り残されたまま、ローレルの死を悼んだ。
第四章 了
おい誰だプロローグ以外重くないとか言ったの
あ、ブランシュさん最初書き忘れてごめんね。慌てて付け足したの秘密だよ。
黄緑の貞子=ブランシュ




