出発の日
婚約発表から1週間が経った。
ついにサラがナワルドへ出発する日。
今日、サラは初めて城の外へ出る。
朝から召し使いたちはバタバタしている。
サラはいつも専属の3人の召使い達に、身の回りの世話をしてもらっている。
「……もう無理」
ひょろ長くて顔面蒼白、見るからに具合の悪そうな格好だけ執事のルチがぼそっとつぶやけば、
「エミリー聞いた?! ルチが口を開いたでし!これはやばいでし!」
子供のような背格好でピーチクパーチク鳥のようにうるさいプトが喚き散らし、
「うるっさいわよルチ! あんたたまにはやる気見せてみなさいよ!」
可愛らしいメイドのコスチュームとラブリーな三つ編みのピンクヘアーが台無し、鬼のような形相のエミリーが怒鳴り、その拍子にお気に入りの丸眼鏡がズレる。
「……プ」
「笑ったわねえええ?!」
お決まりのトリオは相変わらずうるさく仲良しだ。
いつも通りの3人をみて、サラは穏やかに微笑む。
「ここにいられるのも、あと少しね……」
たった今まで、父含め、たくさんの人々がサラの部屋にやってきては、別れを惜しんで涙を流した。
「大丈夫。離れていたって、絶対にジュナイルを守ってみせるわ!」
故郷を離れるのは、確かに、受け入れるのに時間を要した。
だが、父や周りの家族同然の人達も、断腸の想いで決断したのだ。その言葉に偽りはない。
ナワルドへは、召使いトリオと、ユーリが着いてきてくれることになった。
これはサラにとって、とても心強かった。
隣の国とはいえ、どんなに俊足の馬を使っても、着くまでに最低1週間はかかると言われている。
道中、整備されていない山の中を通ったり、宿がない場合、野宿もする事となる。
「痴漢やゴロツキにはくれぐれも気をつけてくださいね!」
心配そうな顔つきの侍女がサラに声をかける。
「そのような者には私が容赦致しません」
「あ、ユーリ様がいらっしゃれば…」
すかさずユーリが前に出て答えると、侍女はポッと顔を赤らめ、後ろに引いた。
ユーリは護身用の武術も桁外れのレベルで、武官たちから密かに畏れられている。
それに加え、その端正な顔立ちは、数多くの女性を虜にしていることに彼は気づいていない。
今回ユーリは、その身体能力の高さから、教育係も少し、主に護身という役割でサラ付きに任命されたのだ。
たくさんの惜別の言葉を受けながら、5人は城を後にした。、