接触
ユーリは相変わらず城外の視察を行なっていた。
歩みを進めるにつれ、どんどんと周辺の空気が重くなり、呼吸が苦しくなり、吐き気がしてくる。
アルヴェルの森とは、そういう所なのだ。
といっても、森はまだまだであるというのに。
『呪われている』
そう、マク様は仰っていた。
自分はドラゴンとか魔法の類の力はない。
しかし、確かにこのどんよりとした重圧を感じるのだ。
こんな、危険なものに、サラにも近づいて欲しくはない。好奇心旺盛で正義感の強いサラなら、きっと国を守ろうとして、自ら接触しに行ってしまうだろう。
それを見越した王は、そもそもの存在を否定したのだ。そして、サラを現在まで守ってきたのだ。
自分もサラを守る存在として、マク様の秘密を貫いてきた。
アルヴェルの森へは絶対に近づけないし、森からやってくる危険も迫らせない。
再び強く決心したその時、
大きな風の畝り音と共に、刃がユーリ向けて振り下ろされた。
!!
ガキィン!と瞬時に反応して自らの剣で受け止めたが、あと0.1秒でも遅かったら、完全にアウトだった。
「貴様は…っ」
黒いマントに、黒い仮面。
ー黒騎士
噂では聞いていたが、こんなにも腕の立つ人物だったとは。
何度も剣を振り下ろされ、必死で受け身をとるので精一杯だ。
力は互角どころではない。
ユーリよりも遥かに剣術に長け、俊敏かつ剛腕だ。
一瞬たりとも無駄な動きはなく、全てユーリの隙をついている。
完全に圧倒されている。
「くっ…!」
足を取られ、体勢が崩れ、即座に切先を喉に向けられ、そして、止まった。
「興味本位でこの森へ近づくな。死ぬぞ」
想像していたより若い男の声だった。
しかし、その鋭い眼光は、本当に一歩でも動くものなら喉を切り裂く、と言っていた。
「ああ、わかった」
その言葉を聞くと、黒騎士は剣を戻した。
「ナワルドは近々災いが起こる」
どんよりと曇った空を見上げ、黒騎士は眉を顰める。
災い?何を言っているのか。
「守るべきものを守れ」
そう言い残すと、彼は去っていった。
取り残されたユーリは、しばらく黒騎士の去っていった方角を見つめたまま考えていた。
森にはあのような強靭な者達が集まっているのかもしれない。
あの黒騎士は、呼吸1つ崩れていなかった。
森は、氷山の一角を見せただけだ。
「サラ様…」
なぜかサラに危険が迫っているような気がして、すぐに立ち上がり、城へ走り出した。




