ヤックとの出会い
その少年は、クールな瞳の中に、誰も寄せ付けない、忌避の色を浮かべていた。
そして、とても懐かしい匂いがした。
ヤックはドラゴンだ。
100年ほど前からここアルヴェルの森に住んでいる。
外は滅多に出歩かない。
長い間、魔獣の巣窟となっているのだ。
ナワルドは呪われている。
1000年前に魔女が呪いをかけ、それ以降季節はずっと冬のままだ。唯一、アルヴェルだけが狂ったように生い茂っている。
1000年前の禍は、ナワルドの大きな転換期として、その後ずっと語り継がれてきた。
“彼”はもういない。
森を統べる者がいなくなり、無法地帯となったアルヴェル。
魔女というものは、人々の荒んだ心の化身なのか、弱った心の前に必ず現れた。
魔女の手によって作り出された魔獣は、次々に人を喰らって巨大化していった。
魔女の手口は巧妙だった。人に化けては、甘い言葉で心を揺るがし、闇に落とす。美しい女の姿になってしまえば、多くの男はすぐに操り人形にされた。
“娘の心臓を奪ってこい”
そのように命令すれば、獲ってきた。そして、魔女は若い心臓を喰らっては己の美貌を保つのだった。
魔獣の巣窟となったナワルド。
外へ出る者はほとんどおらず、外は年中雪。
町はしん、と静まりかえっていた。
そして、人々は笑わなくなった。
そんな中、アルスは国から魔獣討伐を依頼されていた。
「すっげえ退治屋がいるってんで会いに来てみたら」
全く気配を感じなかった。
驚いて振り返ると、巨大なドラゴンが見下ろしていた。
「まだ若い兄ちゃんじゃねえか」
気さくな彼とはすぐに打ち解けた。
「その話せる奴がいるってのは、俺も聞いたことがある。だが、何百年に一度の逸材だぜ?」
アルスはその逸材だった。誰も教えてくれなかったので、今まで心の内に秘めていたものを洗いざらいぶつける事ができた。
「怖いんだ、人でなくなっていく自分が」
一緒にいて5年。やっと吐き出してくれた。
「大切な人に忘れられるのが」
大切な人がいてよかった、とヤックは思った。
感情がなくなってしまったら、人でなくなったも同然だ。だが、アルスにはまだそれがある。




