一歩
しばらく見つめ合っていると、ガルの顔が近づいてきた。
これが口付けであることはわかっているし、ガルは夫であるため、拒む理由などない。
(いや、、、)
その瞬間、アルスの顔が頭を過ぎ、ぎゅっと目を瞑る。
口付けが落とされたのは唇ではなく、おでこの上だった。
「……?」
「大切にしたいんだ」
そう一言告げて、ガルは去っていった。
最近よく、胸の宝玉が光る。
特に夜、それは鮮明に。
「何か嫌な予感がするのは、気のせいかしら」
"黒い稲妻の下で、彼は待っている"
そう、彼は言った。
危険が伴いそうな事は大いに予想できる為、巻き込まないように、ガルにも、誰にもこの事は言っていない。
言ったら必ず反対され、サラの疑問は永久に未解決のままになってしまう。
そもそも、外出は禁止されている。
どうしたものか。
その日の夜。
また宝玉が光り出した。
"サラーシャ"
声が聞こえてくる。
"時はきた"
その瞬間、サラはなぜか中庭に向かって走っていた。
"来たか、巫女よ"
やはり、彼はいた。
"さあ、行こう"
差し出された手の平の上に、飛び乗った。
夜の森は不気味で、闇そのものだった。
次の瞬間、
「……っ」
目の前が真っ暗になるくらい大きな影が現れた。
魔獣だ。
あの馬車の時よりも大きい。
もう、駄目だ。
ぎゅっと目をつぶった時だった。
ぐいっ
「……!?」
凄い力で体が引き寄せられ、気づけば地面の上に下ろされていた。
彼は、黒騎士だった。
この前忠告を受けたばかりなのに。
「二度と来るなと言ったはずだ」
とても怒りを含んだ声色。
握る腕がぎりぎりと軋み、怒りが伝わってくる。
「ごめんなさい!でも、ドラゴンを助けたいの!」
殺されるかもしれない、そんな恐怖の中、出てきたのはそんな言葉だった。
「サラ……」
「え…….?」
なぜ私の名前を知っているのだろう。
「もうこれ以上俺の心を切り裂かないでくれ……」
トクン
とても熱を孕んだその声色、その言葉に、胸が高鳴る。




