第1王子妃
召使い達が夕餉の準備などで忙しい時は、そちらに集中してもらえるよう、城内に限り1人でも行動させてもらっている。
ユーリはやっと城周辺に危険がない事を確認し、さらに遠方の偵察を始めた。あまりにも1日中休みなくやっているので、週1回は必ず自分の時間を作るように命じた。
1人でやる事といったら大半が図書館通いだった。
あの部屋へも、ガルに鍵を授かって自由に出入りする事が許された為、毎日のように通っている。
ガルは熱心なサラに協力してくれた。
進んで教えてくれる訳ではないが、サラが聞いた事は全て答えてくれた。
今日も図書館の帰り道。
中庭の景色を見ながら外廊を歩いていると、ふと声がかかった。
「あなたがサラちゃんね?」
いつの間にいたのだろう。
ぼうっとして歩いていたから、気づかなかったのか?
目の前には、それはそれは美しい女性が微笑みながら立っていた。
「私は第1王子アルベルトの妻、アザエラよ」
美しい漆黒のウェーブのかかった髪、切れ長な紫の瞳、雪のような白く透き通った肌、艶めく赤い唇。そして、豊満な胸、くびれ、スタイルまでもが色気を漂わせていた。
生気も、年齢をも感じさせないその姿は、まるで永遠にそのままであってもおかしくはなかった。
そもそも、第1王子は10年程前にナワルドから姿を消してから、消息不明となっている。それ以外にジュナイルに入ってきた情報はなかった。
「ご挨拶が遅れてしまい申し訳ございません」
「いいのよ。私の事を知っている者は少ないわ」
サラをじっくり舐め回すように見た後、その顎をくいと持ち上げる。
「環境も変わって大変でしょう。たまに私の部屋にお越しなさいな。力になれる事もあるでしょうし」
優しい、けれど、全てを見透かすような濃紫の瞳が、微笑んでいる。
その言葉は、サラを安堵させた。
「ええ、そうさせて頂きます」
その瞬間、艶めいた唇が吊り上がったのにサラは気づかなかった。
「アザエラ」
背後で突然声が聞こえた。振り返れば、ガルが険しい表情でこちらを見つめていた。
ガルは警戒するようにゆっくりと近づき、サラの腰に手を回して守るようにぎゅっと引き寄せた。
「サラに何かしたら、ナワルドも兄さんも決してお前を許さない。わかっているな」
2人の間に何かあったのだろうか。
「心配性だねえ、ガル。ずいぶんこの娘に惚れ込んじまったみたいだね」
見透かすように笑う義姉に、ガルは押し黙る。
「大丈夫だよ、取って食ったりしない」
それから、サラはアザエラの所で過ごす事が多くなった。
部屋を訪問すればいつだって気前よく入れてくれ、サラの好みのお茶やお菓子も揃えてくれていた。
「ガルはああ見えてシャイなの。気にする事ないわ」
アザエラは色々なアドバイスをくれた。
そして、サラの力にも気づいていた。
「あなたのような力は逸材よ。狙われてしまうわ。私が助けてあげる」
召使いにはあまり心配をかけたくない。
次第にサラにとってアザエラは、心の拠り所となっていった。




