ドラゴンと人間 3
ここは、アルヴェルの森の中心に位置するクーゴ広場。
いつも大勢の動物が集い、コミュニケーションを取り合っている。
今日に限ってはそんな賑やかさは一切なく、静まり返ったその場には重たい空気が流れていた。
まるで示し合わせたように空もどんよりと曇り、明かりの差し込まない広場は一層暗く重い。
中心には大きな石の祭壇があり、そこに"彼女"は横たえられ眠っていた。
『あの人間の娘がいなくなれば、長も目がさめるだろう』
リフィルが人間の娘と親しくしている事に、不安を感じる者はかなり多かった。
何とかして、またリフィルに威厳ある統治者になって欲しかった。
祭壇に続く石段の下で、動物達は不安そうに空を見上げる。
正直なところ、娘の命まで奪うつもりはなかった。
誰もがそう思っていた。
『さあ、憎き人間の娘エルを殺してしまえ』
しかし、事態は一変、
突然目の前に姿を現した若く、美しい女。
女が声を発した途端、その場にいる全ての動物の目が赤く光った。
『さあ!』
さらに女が促すと、一頭のドラゴンが石段を登り始める。
エルまであと100メートル。
それはほんの数十分前のこと。
『おやおや、そんなに塞ぎ込んで。恋煩いかい?』
上を見上げれば、いつの間に来たのか、ローブを被った女が枝に座ってこちらを見下ろしていた。
状況を知っているのか、ニヤニヤとこっちを見ている。
魔女。
弱った心につけ込む悪魔だ。
『貴様か、エルを攫ったのは』
まず第一に思いつく容疑者だった。
魔女はヒヒヒ、と嗤った後、
『森の統率が人間にご執心だと聞いてね、面白そうだから見に来てやったのさ』
『だが残念。娘さんを攫ったのはあたしじゃないよ』
リフィルは訝しげに見上げる。
『確かにスープにしたら美味しそうだけどねえ!ヒッヒッヒ』
本来なら切り刻んでやりたいところだったが、ここは魔女の挑発に乗っている場合ではない。唯一の手がかりなのだ。
『右眼をくれてやる。場所を教えろ』
『おや、お安い御用だよ』
魔女に頼み事をする時は、体の一部を差し出さなければならない。
リフィルは、迷う事なく、右眼をやった。
とにかく、エルが大切だ。
自分の事など、二の次でいい。
そして、広場を目指して飛び立った。
『そう、あたしは応援してやっただけさ』
そんなつぶやきも聞かずに。




